第5話 背中を押した人
再会は、偶然のようでいて、
どこかで必ず繋がっている。
あの日、焼け跡に立ち尽くしていた彼らに
「どした?」と声をかけた男。
その一言がなければ、
蒼月亭の灯りは、まだ灯っていなかったかもしれない。
ヴァルディアの中央通り。
香辛料と海風が混じる中、四人が荷物をまとめていた時だった。
「……久しぶりだな」
低く、落ち着いた声。
振り向いた瞬間、レオンは思わず笑った。
「ダリウス!」
鎧姿の男が立っている。
以前と変わらぬ堂々とした立ち姿。
年上の余裕と、戦場を知る目。
レンが小さく息を吐く。
「巡回?」
「ああ」
ダリウスは頷く。
「王都からの警備だ。港町は人も物も多い」
フィオが肩をすくめる。
「相変わらず忙しそう」
「お前たちもな」
視線が四人を順に見渡す。
「……ちゃんと揃っているな」
その言葉に、レオンは少し照れくさく笑う。
「おかげさまで」
ダリウスの目がわずかに和らぐ。
「焼け跡で立ち尽くしてた時とは違う顔だ」
あの日。
ルミナの霊木を持ち帰った彼らは、焼き討ち後の蒼月亭跡に立っていた。
行き場を失い、途方に暮れ。
その時――
『どした?』
そう声をかけてきたのが、ダリウスだった。
そして彼が言った。
『修理屋のカイなら、廃村にいるらしい』
その一言が、すべての始まりだった。
セラが静かに言う。
「……あの時、教えてくれてありがとう」
ダリウスは軽く首を振る。
「俺は場所を伝えただけだ」
「それがなかったら、今はない」
レンの声は短いが、真剣だった。
レオンが続ける。
「カイさんに会えた。杖も直った」
セラは杖を少し掲げる。
「ちゃんと、本修理してもらった」
ダリウスの視線が杖に向く。
「……良い仕上がりだな」
「霊木、無駄にならなかった」
フィオが笑う。
「むしろ、あそこに住むことになった」
「住む?」
ダリウスが眉を上げる。
「廃村に」
レオンが言う。
「蒼月亭、再出発した」
短い沈黙。
やがてダリウスは、静かに頷いた。
「そうか」
それだけだが、そこには安堵があった。
レンが続ける。
「エルフとも繋がった」
「村を助けた」
セラが補足する。
ダリウスの目が鋭くなる。
「……大きなことをしているな」
「成り行きだよ」
レオンが笑う。
「でも、悪くない」
ダリウスは四人を見つめる。
焼け跡で立ち尽くしていた若者たちが、
今は拠点を持ち、仲間を増やしている。
「何かあれば言え」
低い声。
「俺は王都の王直属、近衛隊長だ。普段は王都にいる」
その立場は重い。
「だが、巡回で港や境界にも来る」
視線が一人ずつを捉える。
「困ったら、遠慮するな」
レオンはまっすぐに見返す。
「頼るときは頼る」
「それでいい」
ダリウスは少しだけ口元を緩める。
「カイ達を頼むぞ」
その言葉に、レオンの顔が引き締まる。
「ああ」
フィオも頷く。
「蒼月亭は、もう俺たちの場所だ」
レンが短く言う。
「守る」
セラは小さく続ける。
「一緒に」
ダリウスは満足そうに頷いた。
「なら、安心だ」
遠くで港の鐘が鳴る。
巡回の時間らしい。
去り際、ダリウスは振り返らずに言った。
「強くなったな」
それは命令ではない。
ただの実感だった。
四人はしばらく立ち尽くす。
フィオが小さく笑う。
「兄貴分、だね」
レオンが肩を回す。
「焼け跡で声かけてくれた人だ。忘れねえよ」
レンが静かに言う。
「私たちの背中を、押した人」
セラは杖を抱きしめる。
「……帰ろう」
ヴァルディアは賑やかだ。
だが彼らの足は、迷いなく帰路を向いていた。
大きな転機は、案外さりげない一言から始まる。
『どした?』
その声がなければ、蒼月亭の灯りはまだ灯っていなかったかもしれない。
ダリウスは王都の人間。
彼らは境界の宿の人間。
だが縁は、確かに繋がっている。
背中を押してくれた人がいる。
だから今度は、自分たちが守る番だ。
物語は、静かに広がっていく。




