第4話 選ぶのは装備か、それとも帰る理由か
港町ヴァルディアは豊かだ。
良質な鋼も、堅牢な鎧も、遠方の珍品も手に入る。
金さえあれば、強くなれる街。
けれど――
強さとは、武具だけで決まるものだろうか。
彼らの選択は、少しだけ変わり始めていた。
港通りの喧騒を抜け、石畳の広い通りへ出る。
両側には武器屋、防具屋が並び、看板が誇らしげに掲げられている。
「まずは装備、だな」
レオンが店の扉を押す。
中は広い。
壁一面に剣や槍が掛けられ、中央には新作らしい鎧が並ぶ。
「北方鋼使用だ! 軽量で丈夫!」
店主の声が響く。
レオンは一本、長剣を手に取る。
重さ、重心、刃の通り。
悪くない。
「どう?」
フィオが覗き込む。
「悪くないけど……」
レオンは首を傾げる。
「今のでも十分、だな」
レンも短剣を確認するが、表情は変わらない。
「切れ味はいい。けど、必要ない」
セラは杖の装飾品を見ていたが、静かに戻す。
「今の、好き」
防具屋も同様だった。
新しい革鎧。
金属補強の肩当て。
だがどれも“今すぐ必要”ではない。
店を出ると、フィオが小さく笑う。
「前なら、買ってたかもね」
「だな」
以前は、少しでも良い装備を求めていた。
強くなるために。
だが今は違う。
「……あれ」
レンが路地の奥を指す。
武具店の裏手、半ば投げ置かれたような棚。
錆びた剣、割れた盾、曲がった金属片。
いわば、ジャンク品。
レオンが一本の短剣を拾う。
「これ……芯は悪くないな」
刃は欠け、柄は傷んでいる。
だが素材は上質だ。
フィオも古びた軽盾を手に取る。
「表面はボロボロだけど、骨組みしっかりしてる」
セラは装飾の取れた小型の杖頭部品を見つめる。
「……魔力、残ってる」
レンが言う。
「持って帰って、カイさんに直してもらう?」
一瞬、全員の目が合う。
レオンが笑う。
「いいね」
フィオも頷く。
「新品より、そっちの方が面白い」
店主に声をかけると、値段は驚くほど安かった。
「どうせ売れ残りだ」
そう言って肩をすくめる。
だが彼らには違って見える。
壊れているだけ。
直せば、まだ戦える。
蒼月亭の庭で、カイが渋い顔をしながら手を動かす姿が浮かぶ。
「文句言いながら、ちゃんとやってくれるよな」
レオンが言う。
「絶対やる」
レンが断言する。
武具を包み、今度は商人街へ向かう。
香辛料の匂いが漂う。
「これ、買って帰ろうよ」
フィオが小瓶を手に取る。
「ミレーヌさん、絶対喜ぶ」
乾燥ハーブ、珍しい塩、甘い果実の干物。
セラは小さな銀細工の髪飾りを見つける。
葉を模した繊細な作り。
「……アリアに」
「似合うな」
レオンが言う。
セラは少し照れながら包んでもらう。
荷物は増えるが、足取りは軽い。
最後に向かったのは冒険者ギルド。
石造りの建物は以前と変わらない。
中には依頼掲示板と、受付の列。
受付嬢が顔を上げる。
「あら、久しぶりですね」
「少し拠点を変えた」
レオンが言う。
「今後はオルフェンのギルドで依頼を受ける」
「そうですか。登録変更しておきます」
手続きはあっさりと終わる。
以前なら、この街が中心だった。
だが今は違う。
「また戻ることもあるだろう」
レンが言う。
「でも、拠点はあっち」
フィオが頷く。
ギルドを出ると、港の鐘が鳴っていた。
船が出港するらしい。
帆が風を受けて膨らむ。
レオンは一瞬だけ海を見つめ、それから言う。
「帰ろうぜ」
その言葉に、誰も迷いはなかった。
ヴァルディアは大きく、便利で、可能性に満ちている。
だが彼らの選んだ未来は、
廃村に灯った小さな宿にある。
新品の装備は輝いている。
だが彼らが選んだのは、壊れかけた武具だった。
直せば使える。
手をかければ、強くなる。
それは武器の話であり、
そして――蒼月亭そのものの話でもある。
ヴァルディアは舞台だ。
だが帰る場所は、もう別にある。
彼らはそれを、はっきりと選び取った。




