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趣味で作ったコスプレ衣装が、なぜか全部S級装備だった件  作者: あどん


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第8話 そのメイド、凶器につき(イーノ・ミナセリスの場合)

俺は店の前に仁王立ちになっていた。


目の前には、派手な装飾の上着を羽織り、無駄な自信に満ち溢れた態度。絵に描いたような横暴貴族が、不遜な笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。


どうやら俺の装備――それも、例の“特別製”が欲しくてたまらないらしい。


「だから申し上げているのです。私自身も狙って作り出せるようなものではないのだと」

「わかった上で言っているのだ!だからこそ、この私が直接足を運んでいるのではないか!」


苛立ちを隠さない声が返ってくる。

金も権力もあるこの男は、それら全てが万能の解決策になると信じ込んでいるらしい。

だが、いくら金を積まれようと、誠意を尽くされようと――できないものはできない。


天啓による製作は、俺の意志すら超えた予測不可能な現象なのだ。


この世界の貴族は往々にして傲慢だ。

ただし、法律と世間体はそれなりに気にする。欲しいからといって職人を拉致するなんて真似はできない――普通は。


だが、目の前のこいつはその中でも特級の「当たり」らしい。


以前はこうした手合いも多かったが、最近は俺の「変態的なこだわり」が知れ渡ったせいか、厄介払いを含めてめっきり減っていたのだが。


さらに何を思ったか、この貴族は自分の「身の回りの世話役」を総動員して連れてきていた。

護衛に執事、侍女にメイド、さらにはお抱えのコックまで。まるで引っ越しでもするかのような大所帯だ。人数を連ねれば、俺を威圧できるとでも思っているのだろうか。


「いや、ですから……」


何度目かの説明をしようと、呆れ混じりに視線を逸らした、その時だった。


ふと、熱い視線を感じた。貴族を取り囲む使用人たちの列。その中に、一人の若いメイドがいた。


片目だけを隠すように切り揃えられた、特徴的な水色の髪。深みのある紫水晶アメジストのような瞳。小さく引き結ばれた、淡い桜色の唇。


その姿が俺の網膜に焼き付いた瞬間、背筋を電流のような衝撃が貫いた。


――純白のフリル。

――絶対的な献身。

――そして、すべてを粉砕する無慈悲な鉄球。


(……これは)


天啓。


「……明日、来てください」

「は?」


貴族が呆気に取られて目を見開く。


「明日だ!明日、必ずもう一度ここに来てください!」


驚いた貴族が何かわめいているが、今の俺にはもう関係ない。最高の布切れを探し出すために、俺は弾かれたように工房の奥へと駆け出した。


ーーー


工房の中、俺は狂ったように針を動かした。今回縫い上げるのは、この世界の「地味で実用本位」なメイド服とは一線を画す、概念そのものを塗り替える一着だ。


まずは生地だ。純白の部分には清潔感と清楚さを象徴する上質な綿を厳選し、黒の部分には動きやすさとシルエットを引き締める最高級の羊毛を配合。

白と黒の絶妙なコントラストが、単なる勤勉な従属の象徴にすぎなかったメイド服に、「可愛らしさ」という爆発的な新たな価値を与える。


ヘッドドレスはメイド服の魂。襟や袖、スカートの裾には、夜の帳のような黒色のフリルをふんだんにあしらう。これにより、無骨な実用服に「乙女の愛らしさ」を注入する。

わずかに膨らませたショルダーラインや、手首までを覆う袖のシルエットは、「汚れ仕事」という負のイメージを払拭し、知性と教養を感じさせるものへと昇華させる。


最大の特徴は、胸元と腰回りだ。ぴっちりと身体にフィットするタイトなカッティングは、健康的な肉体美を際立たせるのみならず、彼女の内側に眠る「力」を最大限に解放するための設計でもある。

キュッと締まったウエストラインと、そこから対照的に大胆に広がるスカートは、動作範囲を拡張し、どんな激しい機動にも対応できる余裕を生む。


もちろん、このままではただの「可愛い服」だ。


装備としての機能を備えねばならない。スカートの裏地には、身体能力を向上させる魔導回路を多重に刻印。激しい格闘戦でも衣服が乱れることはない。裾部分には隠しポケットを設け、緊急時の小物――たとえば、致命的な一撃を補助する毒針などを収納可能にする。


両腕には肘までを覆うロンググローブ。違和感がないように自然な伸縮性を確保しつつも、ガントレットとしての防御性能と、攻撃時の命中精度向上効果を付与する。


だが、何よりも重要なのは「ステータス」の強制的な書き換えだ。


基本ステータスとして、「家事熟練度」「清掃能力」「炊事技能」などを「極限」まで引き上げる。これにより彼女は、どんな難解な宮廷料理も華麗にこなし、どんな頑固な汚れも一瞬で洗浄できるスーパーメイドと化す。


そして、肝心要の「怪力」だ。腕力に関わる物理パラメータを、暴力的なまでに上昇させる。この世界の一般的な成人男性数十人分のパワーを、その細い腕から発揮できるように。


そして――武器だ。巨大な刺付き鉄球に、漆黒の鎖を繋いだ重質量兵器。いわゆるモーニングスター(フレイル型)である。通常の鈍器としての破壊力はもちろん、鎖を活かした「投擲」や「乱舞」による広範囲滅砕が真骨頂だ。威力は絶大だが、扱いを誤れば使用者自身をも傷つける危険性を孕む。

だが、それを完璧に補完するのが、彼女に付与した「怪力」と、精密な動作制御コントロールなのだ。


「メイドは、掃除も料理も……そして、主の敵を排除する力も完璧でなければならない」


針を通すたびに、俺の意識は加速する。ただ一人の少女のために、俺は最強の「鬼」の装束を紡ぎ続けた。


ーーー


翌日。再び店の前に現れた横暴貴族は、なぜか昨日にも増して上機嫌だった。


「ははは!やはり私の誠意が通じたか。一晩で用意させるとは、貴様もなかなか物分かりが良いではないか!」


勘違いして鼻高々に現れた横暴貴族を無視し、俺はその横をすり抜けるようにして、後ろに控えていた少女の手を取った。


「お名前を……改めて、教えていただいても?」

「は、はい。イーノ・ミナセリスと申します……っ」

「イーノさん、ぜひこちらへ。君のために作った最高の一着だ。着てみてほしい」


呆気にとられる貴族を置き去りに、彼女を強引に店内に招き入れる。数分後。着替えを終えて出てきた彼女の姿に、俺は思わずその場に跪き、拝むように手を合わせた。


黒と白を基調とした、清楚かつ扇情的なメイド服。動きやすさを追求しつつも、大胆に露出した肩と鎖骨のラインが目を引く。短めのスカートから伸びる健康的な脚と、白と黒のコントラスト。淡い水色の髪に揺れるフリルとリボンが、彼女のどこか儚げな雰囲気と奇跡的な調和を果たしていた。


「いいっ!『◯ム』はここにいるぞ!!スバ◯!」

「え?えっと……凄く、可愛いとは思うんですが……その、少し恥ずかしいです」


羞恥に顔を赤らめるイーノ。前世の知識通り、絶妙なラインで強調された胸元。彼女は顔を赤くしながら、不慣れなフリルを指先で弄っている。


「おっと、忘れてはいけない」


俺は、ずしりと重い漆黒のモーニングスターを彼女に手渡した。


「え?こ、こんな重いもの……えっ!?か、軽い!?」


掴んだ瞬間――彼女の瞳に、僅かに鋭い光が宿った。恐る恐る鉄球を振ると、ヒュンと鋭く風が鳴った。


「ステータスを大幅に向上させてある。特に君の中に眠る『怪力』を再現するために、力のステータスは限界突破リミットブレイクだ。さらに、屋敷の雑務の九割を一人でこなせるほど家事能力も最大化してある。おまけに、癒やしの水魔法まで使えるぞ」


「は、はぁ……でも、私、こんな凄いものを買えるお金なんてありません」

「いや、これは俺が君に使って欲しくて作ったんだ。プレゼントさせてくれ」


その言葉を聞いた瞬間、背後で見ていた横暴貴族が激昂した。


「なぜだ!なぜ私ではなく、そんな端女に与える!ええい、もういい、その装備をよこせ!」


怒りに任せてイーノから装備を剥ぎ取ろうと、汚い手で掴みかかる貴族。


「きゃっ!」


突然のことに身をよじるイーノ。彼女が咄嗟に伸ばした左手が、貴族の胸に軽く触れた――その瞬間。


ドゴォォォォン!


貴族の体は冗談のように水平に吹き飛び、大通りを挟んだ向かいの壁に激突してめり込んだ。ピクリとも動かないその姿は、まるで壁画の土偶か何かのようだ。


「な……なんですか今のは……!?私はただ、少し押し退けようとしただけなのに……!」


取り巻きたちも、野次馬たちも、誰一人として横暴貴族を助けようともしない。

むしろ「自業自得」「ザマアミロ」とでも言いたげな冷ややかな視線が突き刺さっていた。

明らかに日頃の行いの報いだった。


「そこまでですね」


凛とした声が響き、野次馬たちが道を開ける。


颯爽と現れたのは、鮮やかな青い騎士服に身を包んだ女性――アリスティア・カワスミス。以前、俺が「騎士王」の衣装を贈った王国第一王女殿下その人である。


俺が思わず跪こうとすると、彼女は軽く手を挙げてそれを制した。


「今日は『アリス』として来ていますから、その必要はありませんよ、イオリさん」


彼女は壁に埋まった貴族を一瞥し、イーノに優しく手を差し伸べた。


「イーノさんと言いましたか。心配ありません。あの方には、追って厳重な『天罰』が下ることでしょう。……さて、主がああなっては、あなたもあそこには戻りづらいでしょう?もしよろしければ、私の元へ来ませんか?」


優雅な笑みの中には有無を言わせぬ王者の圧力があったが、そこに悪意はない。

イーノが不安そうに俺の方を見る。俺は全力で首を縦に振った。

王女直属のメイド。待遇も安全性も、あの馬鹿貴族の下にいるより一億倍マシだ。


「は……はい!よろしくお願いいたします!」


こうして城に雇われることになったイーノは、その日から王城の常識を次々と塗り替えていくことになる。


ーーー


後日談。


アリスの話によれば、イーノはそのメイドとしての能力を遺憾なく発揮し、王宮の厨房から庭園の隅々まで一人で整えてしまうほどのスーパーメイドぶりを発揮しているらしい。


朝は誰よりも早く起き、広大な王城の清掃を一人で完了させる。洗濯、調理、書類整理、来客対応――それらを流れるような動作でこなし、昼前にはすでに「本日の業務完了」とでも言いたげな涼しい顔で茶を淹れている。


「……え?騎士団の兵舎まで全部終わったの?」

「はい。次は何をすればよろしいでしょうか、アリスティア様?」


唖然とする他の使用人たちをよそに、彼女は淡々と仕事をこなしていく。その効率はもはや人の域を超えており、いつしか城内ではこんな噂が囁かれるようになった。


『王城の仕事の九割は、あの水色のメイドが支えている』

『むしろ、彼女が有給を取る日のほうが、国家的な混乱が起きる』


だが、イーノの真価はそれだけではない。


夜間警備中に侵入した盗賊団。王女を狙った暗殺者。あるいは、己の立場を弁えぬ愚かな貴族の差し向けた刺客。


そうした“厄介事”が発生したとき、必ず目撃される光景があった。


メイド服の裾を翻し、身の丈ほどもある棘付きの鉄球を軽々と振るう少女。一撃で敵を壁ごと粉砕し、何事もなかったかのようにエプロンの埃を払う。


「業務の妨げになりますので――これにて、失礼」


そう静かに告げた直後、敵は完全に沈黙するのだ。


その姿はいつしか畏怖を込めてこう呼ばれた。


「王城の鉄球死神」

「もっとも怒らせてはいけない、城の守護鬼」


なお、本人は至って無自覚であり、「え?私はただ、今日中に終わらせるべき仕事を片付けているだけですが……?」と不思議そうに首を傾げているという。


今日も王城は平和だ。それは、王女の威光ゆえか、騎士たちの奮闘ゆえか――。あるいは、メイド服を着た一人の少女が、鉄球を片手に完璧な「お掃除」を完遂しているからなのかもしれない。


いずれにせよ、「この城で一番怒らせてはいけない存在」の座だけは、すでに揺るぎないものとなっていった。


ーーー


【アイテムデータ】

【S級】純白の献身・聖メイド装(イーノ・ミナセリス専用装備)

素材:魔法絹×妖艶蜘蛛の糸×鬼神の魔角(芯材)

特徴:

万能家事補正:掃除・料理・洗濯の効率が800%向上。

怪力発動:筋力ステータスを一時的に限界突破させる。

特殊武器:【氷結の鉄球】破壊不可能な棘付き鉄球。氷属性の追加ダメージ。

備考:普段は清楚なメイドだが、主が危機に陥ると「角」が生えたかのような形相で敵を殲滅する。

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