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第3話 慣れと諦めの日々

翌日から、次々とカップルが訪れた。

そして私は、毎回同じように彼ら彼女らの営みを「感じて」しまう。


最初の一週間は、毎回顔を真っ赤に (できないけど)していた。


303号室では、三十代のカップルが。

「久しぶりだね、こういうの」

「うん……子供が生まれてから、なかなか」

夫婦のようだった。お互いの身体を知り尽くした、安心感のある愛し合い方。


『既婚者も来るんだ……』


204号室では、情熱的なカップルが。

ドアを開けた瞬間から、激しくキスをしながら入ってくる。

服を脱ぐのももどかしそうに、ベッドに倒れ込む。


『若いなあ……』



一週間で、私は三十組以上のカップルを見守った (感じた)。

最初は毎回ドキドキして恥ずかしかったけれど、だんだん慣れていった。


二週間目には、もう動揺しなくなっていた。

『はいはい、また始まったー』

完全にヤサグレの境地である。


情熱的なカップルが壁に押し付けられて激しく求め合っていても、

『壁に傷つけないでよね』と冷めた目 (ないけど)で見守る。


初々しいカップルが不器用に触れ合っていても、

『もうちょっとリラックスしたら?』と心の中でアドバイスするだけ。


熟年カップルがゆっくりと愛し合っていても、

『そろそろチェックアウト時間だからね』とさらっと流す。


三週間目には、完全に感覚が麻痺していた。


『あー、もう一生分のセックス見たわー。いや、見てないけど、感じたわ。感じ取ったわ。』


ある土曜日なんて、何組ものカップルが入れ替わり立ち替わり来て、私は完全にキャパオーバーだった。


202号室では同窓会で盛り上がったっぽい二人が……


301号室では……


304号室では……


『もういいわ!全部同時進行で感じたくない!』


私の心は完全にヤサグレていた。


でも、それも仕方ない。

だって、私は建物。ラブホテル。

働かなくてもいいし、食べなくてもお腹も空かない。


なんなら生理もないので、生理前で情緒不安定になることもないし、もちろん生理痛だってない。


案外いいことも多い。


ただ、


『……誰かと話したいな』


ふと、そんなことを思った。

友達と。親友のあやと。くだらない話をして笑いたい。


『……もう、できないんだけどね』


カップルたちが愛し合うのを見守る (感じとる)のが、私の存在意義なのだから。


そんなある日のこと。

女性が一人で来た。


フロントでの会話が聞こえてくる。


「すみません、一人なんですけど……休ませてもらえますか?」


二十代後半くらい。スーツ姿で、疲れた様子。

「……はい、大丈夫ですよ。どうぞごゆっくり」

佐藤さんは鍵を渡した。


『へー、ラブホテルって一人でもOKなんだ……そういうものなのかな?』


女性は203号室に入って、すぐにベッドに倒れ込んだ。

ただ、いつもと違って、モヤがかかったみたいにあまり室内の様子が感じ取れない。


『あれ?一人のお客さんだから見えないのかな?』


この日、どうやらその女性はどうやら朝まで爆睡していたようだ。


『……何しに来たの?まあ、疲れてたんだろうけど』


その疑問は、この時の私にはまだ分からなかった。

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