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お手伝い部の天才神美少女とその付き添い  作者: 餡団子
一章:お手伝い部の始まり
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第3話『お手伝い部の活動第一回目』

「……ところでなんだが天才、お手伝い部は何をする部活なんだ?」


 僕は小さな頃から何をやってもうまくいかなかった。うまくいかなかった、というよりは上手くはなかったの方が正しいか。勉強も普通だし、対人関係だって普通、秀でた才能はないし、人の役にも立たない凡人。中学のときだってそうだった。


 だからあまり最神美知を天才と認めたくなかった。だって自分が持っていない物を持っている人間が目の前にいると、自分の存在が、目の前の人間の下位互換のように感じてしまうから。


 でも、もう認めざるを得ない。最神美知は天才で、神なのだ。そして、今の僕の手には負えない相手なのだろう。だから、それはもう分かったから置いておくことにした。この場において、僕は最神のことをこれ以上知りたくなかった。


 最神は黒いのにもかかわらず、透き通っているかのようにも見えるその不思議な瞳を大きく開いて言った。


「お手伝いをするんですよ! あ、もちろん無料でですよ! あと天才と他の人に言われるのは、なんだか恥ずかしいのでやめてください」


 そんなことは分かっている。逆に『お手伝い部』という名前で手伝いをしなかったらそれは詐欺だろうに。そして他人から天才と呼ばれるよりも、天才を自称するほうがよっぽど恥ずかしいと思うのだが、僕がおかしいのだろうか。


「手伝いは手伝いでも、具体的に何をするんだ? 例えば勉強とか、委員会の仕事とか、色々あるだろ? あーでも、手伝いとか僕はあんまり得意じゃないから役不足かもしれないな」


 僕は親に頼まれて皿洗いや洗濯物を畳むなどの手伝いをすることがあるが、どうしてもうまくすることができない。不器用なんだ。


「全部です、どんな依頼でも、基本的に私たちのできる範囲でお手伝いをする。それがお手伝い部です、民野くん。そして役不足の使い方を間違えてますよ、役不足というのはその役目がその人の実力に対して軽いということです」


 へぇ、役不足とはそう言う意味なのか、知らなかった。流石は天才と言ったところか。


 まあ、それはおいておいて、お手伝い部については若干抽象的だし、お手伝い部で活動する自分の姿は想像できない。だが、面白そうじゃないか。普通の学校ではできない部活、普通からかけ離れた部長、面白くないはずがない。


「……楽しくなるな、最神」


 もしかしたら僕は、お手伝い部でなら青春を謳歌できるかもしれない。


「そうですね、民野くん」


 まあ、まずは部員を増やして仮部活から部活動にしないといけないのだがな。だが猶予は一ヶ月ある。ならまだ焦る必要はないだろう。


「……最神さんっ! ちょっと来てくれない……っ!」


 小柄な体格と内巻きの茶髪が印象的な女子生徒が勢いよく特別授業教室前方の扉を開いた。その女子生徒は何やら切羽詰まった様子で、息を切らしていた。


「民野くん、どうやら早速お手伝い部の出番のようですね」


「入部して数分で駆り出されるのか、大変な部活だ」


 まあまだ『仮』部活なんだけれどな。


※※※


 僕らは女子生徒(小月オヅキという名前らしい。最神と同じクラスでかなり仲が良いんだそうだ)の案内で五階の階段を降り、四階に着いた。四階は自分たちの足音が聞こえるほど物静かだったが、とある教室からは数人の男の声が聞こえてきた。何かを話し合っているらしい。


「ここ、私と小月さんのクラスじゃないですか」


 小月が一年四組の教室の前で止まると、最神が不思議そうに言った。小月は「そうなんだよ。ちょっと、というかかなり困ったことがあってね」と言って教室前方の扉を勢いよく開いた。


「結局、誰がその鉢を割ったか分かった?」


 教室の左前方で、ベランダ近くの地面には割れてバラバラになった鉢、そこから流れる水、死体のようにぐったりとしている白い花があり、それらを囲むようにして男子生徒が三人居た。そして、教室とベランダを繋ぐ窓は全開になっており、春の暖かな風が教室の中を駆け巡っていた。


「いや、全然わからねぇ」と身長が三人の男子の中で一番高い男子が言った。あと髪の長い男子、眼鏡の男子もそれに同調するように頷き、僕と最神の方を見る。


 僕が状況をうまく把握できずにいると、小月が僕と最神に説明を始めた。


「放課後、大体みんなが帰った後くらいかな、私はお腹が痛くてトイレに篭ってたんだけど、教室の方から男子たちの驚くような声が聞こえてきて、何事だろう、って思って教室に来てみたらいつもそこに置いてあった鉢が割れてたの」


 小月は割れた鉢のすぐそばにある机を指差した。


 だからね、と言って小月は深呼吸をして息を整えた。


「最神さんと、民野……くん? には犯人探しを手伝って欲しいの。最神さんはお手伝い部を作るって自己紹介で言っていたから適役でしょ?」


 僕は最神の方を見た。お手伝い部がどのくらいの範囲でお手伝いを実行するのか僕は知らないし、部長は最神だ。僕に決定権はないから、全ては最神の決断で今回の案件を受けるか決まる。


 すると、最神は小月に弾けるような笑顔でこう言った。


「もちろんです、今回の犯人探しお手伝いさせていただきます!」


※※※


 髪が長い容疑者、日直の丸尾マルオの証言。


「……えっと、僕は放課後になってすぐ、日直の仕事に取り組みました。……あぁ、はい。黒板を消したり、掃除をしたり、教室後方にあるゴミ箱をゴミ捨て場に持っていく仕事です。僕はまず初めに黒板を消して、その後に掃除、ゴミ捨てをしました。掃除を終えたときにはまだ鉢はあの机の上に置いてあって、地面に落ちていませんでした。……はい、左前方の黒板消しクリーナーがある机です。……だけど、僕が一階のゴミ捨て場から無人の教室に戻ってくると、鉢が地面に落ちて、割れていました、……もちろんっ! 僕はやっていません! 多分、窓が全開だったので風で鉢が落ちたんだと思います。……今日は、風が強いですし」


※※※


 身長が高い容疑者、忘れ物の門司ドジの証言。


「……俺は、ホームルームが終わってすぐに教室を出た、友達を待たせてたからな。……あぁ、本当にすぐだ。教室を先生よりも早く出たくらいな。だけど家に帰る途中で今日配られた大事なプリントを机の中に忘れたことを思い出して、急いで学校に戻って、この教室に来たんだ。……そうだ、俺の席はそこのゴミ箱の目の前の席だ。そのときは教室は無人だったし、鉢も割れてなんかいなかった。……その後、また帰ったんだが、今度は弁当箱を学校に置いて来たことに気がついて学校に戻ったんだ。そうしたら、教室で丸尾が割れた鉢の前で立ち尽くしてたんだ。……多分、丸尾が日直の仕事をしているうちに身体をぶつけて鉢を割っちゃったんだろ。……ていうか、友達すげぇ待たせてるから、もう帰ってもいいか?」


※※※


 眼鏡をかけた容疑者、勉強の学屋マナビヤの証言。


「……私は初め、文化棟にある図書室で勉強をしていました。……この教室棟の三階から行ける棟です。ですが、うるさい人たちが大勢図書室に入ってきたので私は集中して勉強をするために教室に場所を移しました。……教室は無人でしたので、これは集中できるな、そう思いました。さらにやる気が出たため、難しい参考書を図書室から借りてこよう、そう思い、リュックを背負ったまま図書室に向かいました。……ええ、今日持ってきた参考書と他の参考書を見比べるためです。図書室に向かう最中に廊下を走る門司を見かけました、私は門司のことが嫌いなので隠れましたがね。……そういえば、一回転んでいましたね、門司は。そして教室に向かっているようでした。私が図書室から教室に戻ると丸尾くんと門司が割れた鉢の前で立ち尽くしていました。……丸尾くんは真面目でちゃんとしている人です。彼が鉢を割って、それを隠そうとしているのはありえません。そんな非人道的な行為をできる人ではなさそうですからね。……門司は新入生研修やホームルームでも態度は良くないですし、転んでしまった腹いせで鉢を割ったのでしょう。いや、そうに違いないでしょうね。」


※※※


「……私は学屋が怪しいと思うよ、最神さん、民野くん」


「だって、話しかたが嫌味ったらしいし、やけに門司のせいにしようとしてるし、口数がすごい多いからね」と、僕と最神、そして小月しかいない廊下で小月が言った。その声色は震えていて、少し怒っているようだった。


「……どうだ天才、誰が犯人か分かったか?」


 三人の証言を聞く限り、全員平等に怪しい。全員が全員、今回の犯行は可能だったし、実際に僕には全員が犯人に見える。防犯カメラも目撃者もいない今回の事件の犯人なんて、誰も分かるはずがない、それは天才だとしてもだ。


「私は分かりましたよ、民野くん」


「……は?」


「というか私からすると、この犯人探しは簡単過ぎます。簡単を通り越してイージーです」


「……それは通り越せていないんじゃないか」


「些細なことはスルーしてくださいよ」


 誰が上手いことを言えと言った。


 すると、最神は嬉しそうに、うっとりと笑った。


「今回は、ちゃんと依頼を全うできそうで何よりです」


 最神のことだ、犯人が分かった、というのは見栄を張るための嘘なんかではないだろう。だが、僕には全く分からない。どうして最神は三人の容疑者の中から犯人を特定することができたのか。


「……最神、教えてくれ。誰が犯人なのか」


「……私にも、教えて欲しい。……最神さん、お願い」


 僕に続いて小月も最神にそう言った。小月は最神に頭を下げて言ったが「頭を上げてください、小月さん」と最神は小月に言った。


「まあ、そんなに焦らないでくださいよ。民野くん、小月さん。今から教室で、全員の前で順を追って説明しますから」


 最神は話の腰を折ってしまった僕と小月にそう言って教室の扉を開いた。


 答え合わせの時間が、始まろうとしていた。

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