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お手伝い部の天才神美少女とその付き添い  作者: 餡団子
一章:お手伝い部の始まり
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第2話『お手伝い部と天才の実態』

 放課後、教室から出た僕はあまり乗り気ではなかったが、約束は約束のため、特別授業教室に向かった。特別授業教室は五階にあり、階段を登ってすぐ目の前のところにあるため、四階にある一年一組からは近かった。


 特別授業教室はかなりの広さがあった。まあ、クラスの全員でここで授業を受けることもあるそうなので、広いのは当たり前だが。特別授業教室と言っても、内装は黒板がなく、教室の前方に大きなプロジェクターがあるだけで、それ以外ほとんど普通の教室と変わらなかった。


 そんな特別授業教室の真ん中の席に、背筋をピンと伸ばして座っている整った顔立ちの女子生徒が居た。僕はその女子生徒の目の前に行き、紙を突きつける。


「……これ、今日配られた入部届です。お手伝い部に入部します」


 女子生徒は驚いたような顔をし、しばらく硬直した。そして「マジですか、少年」と言いゆっくりと入部届を受け取った。


「……少年は納得がいかずに、特別授業教室にも行かないと思っていたのですが、ちゃんと来ましたね」


「……約束は約束なので」


 正直、朝のことは忘れて家に帰ってしまいたかった。だが僕は今までの人生で約束を破ったことがない。だから、こんなことで約束を破るのは嫌だったし、お手伝い部でも青春を楽しめる可能性がないわけでもなかったため、僕はきちんと特別授業教室に来たのだ。


「あの方法は少し強引でしたし、もっとマシな理由をでっちあげて入部させようと思考を凝らしていたのですが、徒労に終わりましたね」

 

「やっぱり強引でしたよね! って、またなんか理由をでっちあげようとしてたんですか! 先輩!」


 すると女子生徒は再び硬直した、今度は口をポカンと開いたまま。どうしたのだろうか。


「僕、何かおかしいことを言いましたか?」


「うん、うん、おかしいですよ少年」


 静かな教室に女子生徒の可愛らしいふふっという感じの笑い声が響いた。


「私の上履きの色を見てください」


 上履きの色は、青色だった。確か、今年の十野高校は三年生が緑色の上履き、二年生が赤色の上履き、一年生が青色の上履きだ。つまり、


「えっ、一年生なのか!?」


「そうですよ、ずっと敬語だったのでちょっとおかしいなとは思っていたのですが、少年はずっと私を先輩だと勘違いしていたのですね」


 また女子生徒は笑った。よく笑うやつだ、僕とは正反対だな。って、そんなことはどうでもいい。


「一年生なのに部活の勧誘をやってたのか……!」


「そうですよ、一年生は部活の勧誘をしてはダメなんて言われてませんからね」


 規格外すぎる。聞いたことがないぞ、入学して数日で部活の勧誘を始める一年生なんて。一年生は勧誘を受ける側だろうが。


「じゃあ部長じゃないんだな、あなた……そういえば名前は?」

 

最神美知モガミミチです。神は上座の上ではなく全知全能、全ての存在の頂点に立つ神様の神ですからね。気をつけてくださいよ」


最神は胸を張って、したり顔でそう言った。


 余計な言葉が多かったような気がするが、気のせいだろうか。


「僕は民野三郎。野は祝詞の祝じゃなくて全知全能、全ての存在の頂点に立つ野球の神様の野だからな。気をつけろよ」


「何を言っているのですか?」


 突然梯子を外された。確かに的外れなことを言ったかもしれないが、そんな反応をすることないじゃないか。


「冗談ですよ、少年……じゃない、民野くん、さっき部長じゃないんだな、と言いましたよね。それは見当外れですよ。私は今のところ部長です」


 今のところ、というのはよくわからないが、どうやら最神は部長らしい。入学したばかりの一年生が部長でも最神ならおかしくない、彼女は自称だが天才で尚且つ神だからな。納得納得。


「では、私も含めて民野くんで部員は二人目です。部活にするには四人必要なので、あと二人は集めましょう」


 納得がいかない。なんだ、まだお手伝い部は部活じゃなかったのか?


「うちの高校では、自由に部活を作ることができますが、部員が四人以上いないと仮部活という名目で活動することになり、部活にならないんです。そして、仮部活は一ヶ月以内に部員を四人集めなければ廃部となります」


「それ、早く言ってくれよ!この学校は兼部を許してないから、僕は他の部活には入れないんだぞ!」


 もし、お手伝い部が廃部になったら僕は他の部活に入ろうとするだろう。だがお手伝い部が廃部する一ヶ月後には既にほとんどの部活は入部者を募集していないだろう。つまり、僕は帰宅部になる。


「僕は青春を謳歌したいんだ、楽しい三年間を送りたいんだ。だから部活に入れないのは困る!」


「別に、無理にお手伝い部かっこ仮に入る必要はありませんよ。民野くんは喉から手が出るほど欲しい人材なので、私はあの手この手で無理やり民野くんをお手伝い部に入れますがね」


「結局僕は入らされるのか!」


 ふざけているのか、と思ったが直後最神から笑顔が一瞬で消えて、凛々しい顔になった。


「……私は、お手伝い部かっこ仮をきちんと部活にするつもりです。その気持ちに嘘偽りはありません、私は嘘をつきませんから。だから、民野くんも私に協力して欲しいんです。わがままな話かもしれませんが、どうか、お手伝い部に入ってくれませんか」


 最神は椅子から立ち上がって僕に頭を下げた。九十度、いやそれ以上深くお辞儀をしている。


「頭を上げろ最神。僕は別にお手伝い部に入らないなんて言ってない。もとより、お手伝い部に入る予定だった」


 僕の言葉を聞いて、最神はゆっくりと頭を上げた。

 

「本当……ですか、民野くん」


「ああ、僕だって嘘をつかないさ……基本的に」


 緊張がほぐれたようで最神はふふっ、と笑った。その笑顔は、今まで見てきた最神の笑顔の中で、一番輝いているように見えた気がする。


「それは嘘をつかないとは言いませんよ」


 言われてみれば、確かにそうかもしれない。嘘をつかない、ということは今までの人生で一度たりとも嘘をついていない、ということになるが、僕は時々嘘を言う。


「でも、それは最神にも言えることだろ?」


「……はい?」


「朝、最神は紙を配ってるときに言ってたじゃないか、天才です、神です、みたいな。あれは嘘なんじゃないか?」


 揚げ足取りのようにはなるが、なんだかこのままでは最神に言い負かされたような気がするから、なんとかして僕は最神を嘘つきにでっちあげようとした。


「そういうことですか、嘘ではありませんよ。私は天才ですし、神です」


「じゃあ、それを証明してくれ」


 僕がそう言うと、最神は「そうですね……」と言い、俯いて考え込んだ。そして五秒後「わかりました、証明しましょう」と言って僕に笑いかけた。余裕のある表情だった。


「まず、簡単なのは神の証明ですかね。これは単純です、私は最『神』なので、神です」


 うん、そうくるとは思った。それは想定範囲内だ。それはいい。問題は神なんかではない。天才の方だ。天才なんて、こんな一瞬で証明する方法などあるわけないのだ。


 まだ十野高校ではテストは何一つ行われていない。まともな授業すらしていないのだ。もし最神が学年で一番頭が良かったとしても、まだそれを証明することはできない。中学の頃の成績だって口だけならなんとでも言える。もしかしたら天才の証拠となるような写真を撮っているかもしれないが、十野高校ではスマートフォンの使用は禁止だ。今この場では証明できない。


 今日は最上美知に振り回され続けたが、最後はその最上美知を言い負かして、気持ちよく下校することができそうだ。


「すみません、何か用ですか。ないです。何も書いてないですけど。もういいですか、教室に行きたいんですけど。いや僕は渡されただけ。いやいやいや、おかしいですよ! 僕は何も盗んでないですし、先生のところに行くのも嫌です! わかりました。どうしてあなたがここで部活動の勧誘をしているのか。あなたは、いや、お手伝い部は先生から特別な許可を得たんでしょう。何かしらの理由、たとえば部長であるあなたが部活の勧誘日に特別な理由があって学校にこれないとかで、今日部活の勧誘を許されたんじゃないですか? じゃあ、どうしてですか」


「え」


 言葉が理解を追い越した瞬間だった。


 だってそれはしょうがないだろう。今の最神のセリフは全て朝、僕が最神に対して言ったことだったからだ。多分、一語一句同じだっただろう。もう言った本人である僕ですら覚えていないのに、最神は全て覚えていたのだ。


 それは、確かに天才の証明と言えるだろう。

 

「言ったでしょう、民野くん。私は嘘をつかないって」

 

 最神美知は、天才だった。

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