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第16話『謎のストーリー』

 最神とくだらないことを話しながら歩き続け、遂に駅前の新しくできたというカフェに着いた。


 カフェは外から見ると、あまり大きくないカフェのように見えたが、中に入ってみると、奥行きが深く、かなり広いカフェだった。内装は白を基調としていて、机や椅子なども白かった。印象としては、コーヒーをどこかに溢したら大変そう、という感じだ。


 僕と最神は店員に案内され、横に長い机の席に案内された。机が長いため、ドラマなどで見る居酒屋のカウンター席のように、一つの机に何席もあった。カフェの中はあまり混んでいないため、最神の隣に一人、黒髪でボブの女が座っているくらいで、他の人間はいなかった。よく見てみると、いやよく見たわけじゃなくて、ちょっと目に入っただけなのだが、最神の隣の女は最神と同じ衣装を身に纏っていた。つまり同じ制服で、同じ高校の生徒ということだ。


 若い女子はこういうカフェが好きなんだな、と思いつつ、何だか自分がこの場にふさわしくないような気がして少し気が滅入った。


「わぁ、色々なメニューがありますよ、民野くん。美味しそうです」


 最神が席に座り、机に置いてあったメニューを開いて言った。僕も目の前に置いてあるメニューを開き、中を確認する。


「おお、カフェってこんな感じなのか」


 メニュー表には写真などはほとんど載っておらず、メニュー名の横に値段が書いてあり、それがメニュー表にびっしり書いてあった。値段は思ったより高くない。全てのメニューが1000円以下で学生にも優しい値段だ。


「私はショートケーキと、カプチーノにしましょうかね」


 最神がメニューを閉じて言った。


 最神がすぐに何を注文するか決めてしまったので、僕は焦って早く注文の内容を決めようとしたが、最神が「そんなに急がなくてもいいですよ、カフェではゆっくりするものです」と気を遣ってくれたため、ゆっくりメニュー表を見た。


「じゃあ僕は、チーズタルトとアイスコーヒーにしよう」


 僕らは店員を呼んで、それぞれが選んだものを注文した。店員は僕らの注文を復唱し、笑顔で自分の持ち場へ帰った。


「民野くん、ブラックコーヒーって、無理に大人ぶらなくていいんですよ?」


 僕がアイスコーヒーをブラックで注文したのを聞いた最神がそう言った。


「大人ぶってるわけじゃない、コーヒーは苦い方が好きなんだ」


 僕は甘党だが、コーヒーは苦い方が好きだ。小さいときに父親が飲むブラックコーヒーに憧れてから、ブラックコーヒーを飲み続けた影響か、逆に甘いコーヒーを飲めなくなってしまったのだ。


 最神は僕の言葉に「ふーん」と僕の言葉を信じていなそうな目で返し、ぼーっと前を向いた。


「注文した物が来るまで暇ですね、ゲームをしましょう」


「急だな」


「休憩時間なので。探究心のない会話では、きゅう屈かと思いまして」


「それはきゅうなんかじゃなくて、杞憂だ。僕は暇な時間も嫌いじゃない」


「では、ルールを説明しましょうか」


 僕の話を何も聞いていない。仕方ないので僕は最神のルール説明を真面目に聞くことにした。


「どちらかが一つのストーリーを話して、謎を提示します。謎を提示された人がその謎を解けたら一ポイント、解けなかったら謎を提示した側に一ポイント。そうしたら攻守を切り替えてもう一度。引き分けになる可能性もありますが、それはそれでいいでしょう」


 どうですか、と最神が僕の顔を見る。


「どうですかも何も、やるしかない流れだろ?やるよ」


 最神は嬉しそうに微笑んだ。


「……じゃあ僕からいこう」


 無茶振りをされたが、全然大丈夫だ。この前スマートフォンで適当にサイトを見ていたら面白そうな推理クイズを見つけた。それをちょっとだけ変えたものを話せばいいだけ。これは単なるクイズで、実のある話をしなければいけないわけではない。実に簡単だ。


 僕はコホン、と咳払いをして、喉の調子を確かめた後、ストーリーを語り始めた。


「……二人の男女が共に暮らしている家でディナーを食べていた。男性は机に置いてあるピッチャーから水を二つの冷たいコップに注いで、一つを女性に渡して、一つを自分が使った。女性は大皿に乗っている料理を少量取り、すぐに食べてディナーを終えた。だが男性は食べるのが遅く、女性と同じ料理を時間をかけて食べた。するとその後、男性は急に倒れてしまい、数時間後女性の家で男性の死亡が確認された。……どうして男性は死んでしまった?」


 僕が話したストーリーを聞いた最神は「ふむふむ」と言って数回頷いた。そんな簡単な問題ではないはずだが、最神の顔からは焦りは見えず、余裕があるように見えた。いつもそうだ。最神はどんなときも余裕で、焦っているような表情を見せない。年齢は僕と同じはずなのに、所作や表情、気持ちの面、全てにおいて僕よりも、いや、一般的な大人よりも大人びている。一体、どんな経験を積めばこうなるのだろう。


「私には解けましたよ、この謎が」


 やはり、最神美知にはこの問題は簡単か。


「じゃあ、説明してくれ」


 どうせ最神のことだからちゃんと謎は解けている、そう思ったが万が一ということも、ないか。まあとりあえずまだ店員が品物を持ってくるまで時間がありそうだから、僕は最神に説明を求めた。


「このストーリーのポイントは、女性が素早くディナーを終え、男性がゆっくりとディナーを食べたこと。そして男性の死亡が女性の家で確認されたことです」


 最神は「ディナーって食べる、という表現であってますかね」と言って苦笑した。最神は続けて言った。


「女性の家で男性が死亡したことを確認された、ということは女性は救急車を呼んで、男性を助けようとしなかった。つまり、女性は男性を殺そうとしていたのです」


 僕は無言でうんうん、と頷く。


「では、女性はどうやって男性を殺した、という疑問が出てきますね。女性は男性を毒で殺しました。急に倒れる、といったら病気か毒ですよね。ですが女性は救急車を呼んでいないため、明確な殺意があった。なので、女性が毒を使ったのです」


「……毒を使ったと言っても、女性と男性は同じ料理を食べていた。料理に毒が含まれているとしたら、女性も死ぬんじゃないか?」


 どうせ最神ならその説明もできるだろうが、ここは一番重要なところで、きちんと理解しているか確かめたかったため、一応そう問いた。


「ここで、先ほどのポイント。女性と男性のディナーにかけた時間、が重要になってくるのです。女性と男性は同じ料理を食べた。でもディナーの内容は料理だけじゃなかった。ストーリーにもありましたが、水があったのです。水も共有ですが、水を飲むために使用したコップは冷たかった。なので氷が入っていたのではないでしょうか。……毒は、氷に入っていたのです。氷は時間をかけてしまうと溶けてしまいます。なのですぐにディナーを終えた女性は無事でしたが、ディナーに時間をかけた男性は毒入りの氷が溶け、それを飲んで、死んでしまった」


 最神は「合ってますか?」と僕に笑いかけた。


「……合ってる。最神ならすぐに解くと思ってたが、ここまでとはな」


 最神の回答は完璧だった。何一つ文句のつけどころがなく、思わず笑ってしまいそうだったくらい。


「私はすぐに問題を解きましたが、氷はすぐには溶けませんでしたね。だから女性は死ななかった」


 そのギャグは笑えそうにないな。


「まずは私が一ポイントです」


 失礼します、と僕たちの後ろから声がした。振り返るとそこにはアイスコーヒーとカプチーノをトレンチ(トレイのこと)に乗せた店員が立っていた。僕たちはそれぞれ飲み物を受け取り、店員はその場を去った。


 最神はカプチーノを一口飲んで「まだケーキは来なそうですし、次は私の番ですね」と言った。そして最神は楽しそうに笑顔で語り始める。


「凶悪殺人鬼、Aさんがいました……」

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