第1話『未知の天才神美少女との遭遇』
「天才でーす! 神でーす! 誰か、お手伝い部に入ってくれる人はいますかー!」
校門をくぐると、天才で尚且つ神を謳う女子生徒がそう言って紙の束を配っていた。いや、実際には誰も受け取らないから配れていないのだが。
女子生徒の見た目は腰くらいまで伸びた綺麗な黒髪、左右対称で整っている顔、小柄だが足が長くまるでモデルのようなスタイル、と有り体に言えば美少女だった。
彼女はどうやら部活の勧誘をしているらしい。だが、ちょっとおかしい。
誰も美少女である彼女が配る紙を受け取らないから?
それはあまりおかしくない。見た目が美少女だったところで天才とか神とかを自分で言っている奴には皆、近寄りたくないのだろう。
では、『お手伝い部』なんて変な部活が存在しているから?
それもまた、おかしくない。僕、民野三郎が一昨日入学したこの学校、十野高校は総生徒数、五百くらいで部活動も盛んらしい。この高校にはたくさんの部活があり、中にはあまり聞いたことのないような部活があるため、『お手伝い部』があるのはおかしくない。
おかしいのは、部活の勧誘を『今日』していることだ。部活の勧誘が始まるのは『明後日』からと昨日の新入生研修で学年主任が話していた。なのにどうして天才で神、そして美少女である彼女が校門をくぐってすぐのところで勧誘をしているのだろうか。
かなり気になったけれど、僕は『お手伝い部』よりはもっとメジャーな部活に入って青春を謳歌したいため、変なことを謳うその女子生徒を見ないようにして横を通りすぎた。
「ちょっと、そこの少年、止まってください!」
話しかけられた。話の流れからわかると思うが、もちろん例の女子生徒だ。
「……すみません、何か用ですか」
僕が後ろを振り返って訊くと、女子生徒は先ほどまでの張り上げた声ではなく、普通に友達と話すような声で淡々と言う。
「少年、お手伝い部に興味がありますよね?」
「ないです」
なんの根拠があって僕にそう言うのかはわからないが、根も葉もない言いがかりをつけるのはやめてほしいものだ。女子生徒は僕の即答に怯むことなく話を続ける。
「いや、少年は興味があるって顔をしていましたよ。顔に書いてありました」
そう言って女子生徒は地面に置いてあった鞄から手鏡を取り出して僕に手渡した。一応、鏡を使って自分の顔を見てみたが、当たり前だがそこには何も書いておらず、どこにでもいるような普通の顔が映っているだけだった。
「何も書いてないですけど。もういいですか、教室に行きたいんですけど」
手鏡を女子生徒に差し出すと、女子生徒はそれを受け取らずに微笑んだ。
「盗りましたね、私の私物を」
は? 意味がわからない。僕は渡されたから受け取っただけなのに何故盗人扱いを受けるのか。
「いや僕は渡されただけ……」
「言い訳はいいです。泥棒さん、先生のところに行きましょう」
「いやいやいや、おかしいですよ!僕は何も盗んでないですし、教師のところに行くのも嫌です!」
僕がそう言うと、女子生徒はニヤリ、と笑った。それはまるで何か悪いことを企んでいるような顔だった。
「では、こういうことにしましょう。どうして、私がここで部活動の勧誘をしているのか当てることができたら、少年はこのまま教室へ行っていいです。しかし、外したらお手伝い部に入部してください」
無理です、そう何度も言った。けれど女子生徒はその度「じゃあ先生のところへ行きましょう」と返事をし、埒が明かないため僕は渋々彼女の提案を受け入れることにした。
何故、僕の目の前で楽しそうに微笑むこの女子生徒は『今日』部活の勧誘をしているのか。
部活の勧誘日が変わった、ということはないだろう。もしそうだとしたら他の部活の生徒もこの場所で勧誘をしているはずだ。だが周りを見渡しても、それらしき生徒は見当たらない。
特定の部活だけ今日から勧誘することが許されている、というのはまあ、ありえない。普通に考えて不公平だし、そもそも学年主任はそんな話をしていなかった。
ならば、
「わかりました。どうしてあなたがここで部活動の勧誘をしているのか」
僕がそう言うと、「おお、では聞かせてください、少年」と女子生徒は余裕の笑みを浮かべて言った。まるで僕が彼女が部活の勧誘をしている理由を当てれないと確信しているかのような笑みだった。だがそんなこと気にせず、僕は口を開いた。
「あなたは、いや、お手伝い部は先生から特別な許可を得たんでしょう」
女子生徒は何も言わず、黙って僕のことを見ている。話を続けろ、ということだろう。
「何かしらの理由、たとえば部長であるあなたが部活の勧誘日に特別な理由があって学校に来れないとかで、今日部活の勧誘を許されたんじゃないですか?」
小説に出てくる探偵のような喋りになってしまったが、わりと的を射た推理だったと思う。無理矢理な理論でも、屁理屈でもない。完全に理を尽くしている。僕はどんな回答が返ってくるのか緊張しながら女子生徒を見つめた。
すると、女子生徒は吹き出した。
「全然違いますよ、やっぱり少年は見立て通り真面目ですね」
大笑いしながらそう言うので、僕は腹が立って「じゃあ、どうしてですか」と少し語気を強めて言った。
「……そろそろタイムアップですかね」
「……?」
女子生徒がそう言うと、遠くから「コラァー!!」という男性教師の怒号が聞こえてきた。かなり、というか相当怒っているらしい。誰かが何かやってしまったのだろうか。
その怒号の発信源であろう男性教師が僕らの元までやってきた。初めて会ったが典型的な怖い顔をしている教師だった。その教師は呆気にとられている僕を見向きもせず、天才で尚且つ神を自称する女子生徒を怒鳴りつけ、「こっちに来なさい!」と言った。
「私は許可なんて得ずに部活の勧誘をやっている。ただそれだけですよ、少年」
女子生徒はそう言うと男性教師に首根っこを掴まれて連れて行かれた。去り際に「では放課後、特別授業教室に来てください少年」というセリフを残して。
それが、未知の天才神美少女との初めての出会いだった。
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