第7話 手紙
朝は相変わらず暗かった。
昨日は早く寝たはずなのに、頭の奥に重たいものが残っている。
身支度を終えて家を出ると、通りにはもう人がちらほら歩いていた。
仕事に向かう大人、学校へ行く子ども。
いつもと同じ光景だ。
だが、私は無意識に上を見ていた。
雲の隙間から、葉の影が重なって見える。
あの葉っぱの上に、何かがある。
それだけは、なぜか確信に近い感覚として残っていた。
学校へ向かう途中、風が強く吹いた。
葉がざわめき、どこか遠くで、何かが擦れるような音がした。
「……?」
立ち止まって耳を澄ましたが、すぐにいつもの静けさに戻る。
気のせいか、と歩き出そうとしたとき、足元に何か落ちているのが見えた。
小さな紙切れだった。
汚れていて、端は破れている。
誰かが捨てたものだと思った。
だが、紙を拾い上げた瞬間、胸の奥がざわついた。
文字が書いてあった。
今使われている字よりも、少し古い形だ。
読みづらいが、意味は分かる。
――「葉の上は、空に近い」
短い一文だけだった。
誰が、いつ、どこで書いたのか。
まったく分からない。
周囲を見回したが、誰もいない。
風に飛ばされてきたとも考えにくかった。
私は紙を畳み、鞄に入れた。
学校に着いても、その言葉が頭から離れなかった。
授業中、先生の声は遠く、ノートの文字が滲んで見えた。
休み時間、校舎の裏に出て、再び上を見上げた。
葉が重なり、空はほとんど見えない。
けれど、確かに“上”がある。
今まで、ただの天井のように思っていた葉っぱ。
その向こうに、誰かが暮らしているかもしれない。
そんな考えが浮かんだ瞬間、
「考えるな」と言われている気がした。
なぜだろう。
誰に、言われているんだろう。
その答えは分からないまま、
チャイムの音だけが、現実に引き戻した。




