3.前向きポンコツ
その後、魔法省を出てすぐに王都も出た。
最初は配置換えの挨拶をして周ろうかとも考えた。
魔法省で一緒に仕事をした仲間、家の近くの知り合い。この二十年の間でそれなりに知り合った人たちはいた。
でもきっと知り合いに会えば離れがたくなってしまうんじゃないかと思った。
せっかく拳を突き上げて西の森へ向かう気分になったというのに、またあれをしてやる気を出さないといけないとなると少し恥ずかしい。
それに今の家には大したものを置いていない。
知り合いから貰い受けたような家だったが、魔法使いは場所を転々とするものと聞いていたため、いつ何時不測の事態が起きても対応できるようにと必要なものは収納魔道具に入れて肌に離さず持ち歩いていた。
だから家に寄らずとも西の森を目指すことはできる。
という結論の元、どこに寄ることもなく王都を後にした。
後に私の心のオアシスである愛読書【お嬢様シリーズ】の最新巻を家に置いてきたことを激しく後悔することになるが。
こうして私の旅は幕を開けた。
整備された道は歩きやすくて安全だったが、地図はそれ以外の道も突き進めと記されていた。
足を踏み外せば死確定の崖の細い道を歩かされることもあったし、明らかにさっき熊が通りましたよね? と思える動物の爪痕の残った道も歩かされた。
割と雑な地図だったので正しい道であるか定かではないが、もうこの地図を信じて進む以外私には選択肢がない。
そして当然だが、そんな獣道を歩いていれば魔物にも出くわすもので。
ほとんど害のない低級魔物に何度か遭遇した。
彼らは自分より大きい生物が近づいてくると大抵の場合は逃げ出す。なので特に何事もなく歩みを進めていたのだが、そうもいかない奴もいた。
「シャーーッッ」
体長は一メートルくらいだろうか。程よく肉がついた真っ黒い蛇……のような魔物が私の目の前に現れた。
黒い瘴気を漂わせ赤い目で鋭く私を睨むと、激しく左右に揺れながら威嚇し始める。怖い。一歩でも動けば目にも止まらぬ速さで噛みつかれそうだ。
この絶体絶命のピンチをどう切り抜けるか、混乱しながら頭をフル回転させる。
私と蛇の魔物はしばらくの間、互いに見つめ合い、ピキンと閃く。
「極限まで温めて火傷させればいいかも!」
そう言って得意の……というか、唯一使える『温める』魔法を使った結果。
先ほどまで左右に激しく揺れていた蛇の魔物が動きを止めた。
「やった! 成功し……」
成功を喜んだのも束の間、蛇の魔物はなんと脱皮し始めたのだ。
脱皮するイコール一回り体が大きくなり、強くなる。
そんな言葉が頭をよぎり、魔物の力を強くしてどうする! と自分自身にツッコミを入れた後、脱皮している間に全力で逃げた。
そんな感じでポンコツを発揮させながら、どうにかこうにか一ヶ月間歩き続け、目的の西の森から一番近い町へと着いたのだった。
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