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31.三人の兵士たち

 その後、定期報告会は滞りなく終わりを迎えた。

 途中、私の報告に兵たちがどよめいていたが、正直それだけだった。


「カルラさん、お疲れ様です」

 

 前回も報告会に参加していた三人の兵士たちが私の元へと近寄ってきた。

 

「お疲れ様です。どうかされましたか?」

 

 前回私の恥ずかしい映像を見せて以来なので、妙にソワソワしてしまう。


「前の報告会の時にいただいた、ヨクトレールの件で」

「え、何か不備などがありましたか……?」


 恐る恐る様子を伺うと三人ともにこやかに笑顔を向けてきた。

 そして。

 

「あの魔道具素晴らしいですね!」

「映像は綺麗ですし、長時間使っても全く問題なさそうで」

「我々が見落としていた情報もしっかりと映っておりましたし、よく撮れる魔道具だと皆で感心してたんです」

 

 ヨクトレールはその名の通り本当によく撮れるのだ。

 どういう原理か全くわからないが、聞いたところによると一ヶ月撮りっぱなしでも問題ないくらいにはいろんな機能が備わっているらしい。

 あの小ささのどこにそんな精密な機能が入るのか全く不明だが、私が持っている収納魔道具もある意味似たような物なので、そういう物だと認識している。

 魔道具を作る魔族の頭の中は、私が理解できない構造になっているのだろう。

 

 私にとっては身近にある魔道具たちが彼らにとってはとても珍しい物だったらしく、実際にヨクトレールを使った兵の方々はそれぞれ感心したような反応をするので、見ていてなんだか新鮮だった。

 

「途中から無意識の記憶がなくなるように、みんなでくまなくあたりを確認したりして洞察力が身について気がする!」

「ははっ。それは大袈裟すぎるだろう」

「でも実際そうじゃないですか〜!」

「とまあ、こんな感じで皆のやる気にも繋がったみたいで本当感謝しております」


 三人の中で一番位の高い兵のリカルドさんが、私に深々とお辞儀をする。

 そんな大層なことはしたつもりがなかった私は手を振って、お辞儀をするリカルドさんの頭を上げさせた。


「一応撮った映像を確認したのですが、これといったものは映っておらず。この後も引き続きお借りし、何か気になる映像があればカルラさんに――」

「あの、もし宜しければヨクトレールを少しの間だけお預かりすることは可能でしょうか?」


 私は更に言葉を続けた。

 

「一週間程度で構いません。皆さんの撮った記録を一度全て拝見したいなと思いまして」


 すると三人は眉間に皺を寄せ、若干引いていた。

 記録を見たいと言っただけでこのような反応が返ってくるとは思っていなかったため、何か失言をしてしまったのかと自分の言葉を振り返るが、何も思い当たらない。


「あの、ダメでしたか? あ、もしかしてまたすぐに森に入る予定があるとかでしょうか」

「いえ、次に入るのは二週間後ですが……」

「! その二週間以内にはお返しできると思いますので」

「いやでも、カルラさんも忙しいんじゃ……」

 

 中々縦に頷いてくれないため、どう交渉しようか考えていた時だった。


「どうした」


 まだ部屋に残っていた辺境伯様が物々しい様子に気づいて、私たちに声をかけてきた。

 すでに他の兵たちは出払い、部屋に私たちと辺境伯様しか残っていなかった。

 

「いえ、私がお渡しした魔道具を皆さんに使っていただけたようでして。せっかくなので私も中身を見たいなと交渉しておりました!」

「……なるほど。何か渡せない事情でもあるのか?」


 そういうと辺境伯様はチラリと兵たちを一瞥する。

 

「いえ、そんなことは全く! ただ、我々も一度確認しましたし、カルラさんに再度確認していただくのもお手間かと思いまして」


「なんせ、二週間×三人分ありますから」と小さな声で付け加えられたその言葉に合点がいった。

 確認にそれなりの時間が必要なのにも関わらず、私が一週間で全て拝見すると言ったため渋っていたのだろう。

 普通に考えればかなりの時間を要するし、気軽に確認してと渡せないかもしれない。

 だが、それについては問題ないと説明しなくては。

 

「確認に時間がかかることを懸念されているのであれば大丈夫ですよ。魔道具を使って複数同時確認できる方法があるので」

「え、そんなことが!?」

「はい。魔法使い視点から何か発見できるかもしれないですし、少しの間だけお預かりできないでしょうか」

「それでしたら……」


 ホッと安心した様子で三人がピンバッチとピアスのヨクトレールを私に手渡す。

 私にとっての普通が人族にとっては普通ではないことなのかもしれない。余計な気を使わせてしまったと少し反省しながら、今後何かあったら都度詳細な説明を挟んだほうがいいかもしれないと思い至った。


 

 リカルドさんたち兵と別れて、辺境伯様と彼の執務室へ戻る。

 部屋に着いて早々、辺境伯様はソファーに腰掛けながら例の件の話題を私に振った。

 

「特に誰もいなさそうだったな」

「はい、私が見た限りですと動揺しているか、あるいは納得しているような反応が大半でした」

「まあしばらくは様子見だな。今回カルラが報告してくれたことで定期報告会に参加していない他の兵にも伝わっていくだろうし、何か不審なことがあれば都度報告してくれ。それと――」


 辺境伯様の向いのソファーに腰掛けると、彼はじっと私を見つめ、はあとため息をついた。


「今日はもう休め。顔色が悪い」

「え?」

「この三週間、定期報告会に間に合わせるため、連日遅くまで調べ物をしていたのだろう? クーナから報告が上がっている」


 そんなに顔色が悪いのだろうか。

 サッと立ち上がって窓際まで行き、自身の顔色を確認してみるが、そんなに悪い色になってないような気がする。

 

「リカルドたちから渡された魔道具の映像確認も今日はやめておきなさい」

「で、でも」


 早めに確認して早めに返してあげなければ。

 そんな気持ちで辺境伯様に抗議しようとすれば、彼はものすごい形相でツカツカと私のそばまでやってきて、壁に手をついた。


「い・い・か・ら。人の体は心配するのに自分の体は雑に扱う、なんてことは許さん」

「わ、わかりました。今日はもう休みます……」


 結局辺境伯様の気迫押され、今日はもう休むことにした。

 自分の部屋に戻って改めて顔色を確認してみたが、やっぱりいうほど悪くないように思えた。

 だが、いつも突然現れるクーナが辺境伯様に報告するかもしれないと考えると、素直に従ったほうがいい気がした。

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