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28.治癒魔法士


 ◇◇◇


 王都、治癒魔法士専用の執務室。

 そこにいたのは優雅に紅茶を飲みながら休憩をするオリヴィエ・リノンだった。

 

「失礼します。オリヴィエ様、こちら王族より」

「うげっ」


 オリヴィエは部下が持ってきた手紙に顔をしかめ、思わず声が出る。不敬とも取られかねないその反応は部下にとっては見なれた光景だった。


「毎度毎度不敬ですよ全く」

「いやだって、絶対ろくでもねえじゃん?」

「……それ、ほんと不敬ですよ。そしてその言葉使い。銀狼の魔法使いの名が廃れますよ」

「髪色と髪型で付けられた名前になんの思い入れもねえから別にいいし」


 襟足長めの銀色の髪。ややつり目の琥珀色が彼を銀狼と呼ばせる。だがそれだけでは無い。彼は魔族……魔法使いの間では魔力の高さから少々有名なのである。


「とりあえず受けとって確認をしてください」

「ったく……しゃーねーなぁ」


 ブツブツと文句を言いながらオリヴィエは部下が持ってきた手紙を受け取る。シンプルな真っ白な封筒は丁寧に王族の紋章の蝋で封をされていた。べーパーナイフで丁寧に開け、中に入っていた一枚の紙を確認する。


「オリヴィエ・リノン様。貴方には…………は? なんで俺が王族のために……あーーほら、ろくでもない呼び出しだった。しかも魔力防壁の中じゃん。だっる!」


 魔力防壁の中は全ての魔法を無効化にする空間。魔法を使う魔族としては最も入りたくない場所だ。

 人族が対等に話し合いを行うために作ったと言われる場所。防壁の中は武器の持ち込み一切禁止で魔法が使えない魔族、武器を持ち込めない人族。それぞれが争わないようにそう決められている。

 誰がどうやって作ったのかは分からない。

 だが争わないためにと言うのは人族も魔族も分からなくはなかった。

 とはいえ生まれてからずっと身に着けているものが使えなくなる感覚は何度経験しても気持ちが悪いとオリヴィエは思う。


「早急との事です」

「代わりに行ってよ〜」

「嫌です。ほら、行ってください」

「本っ当に嫌すぎる。呼び出した王族に文句の一言二言言ってやらんと」


 オリヴィエはいくつかの仕事を部下に頼み、重い腰を上げて執務室を後にした。


「おやおや〜? オリヴィエじゃないの」

「……はあーーっ」


 執務室を出て早々にあまり聞きたくない声と遭遇する。わざと盛大なため息をついて会いたくなかった意志を伝えたが、声の主ステラ・クレマはオリヴィエのそばに近寄ってきた。

 魔法で派手な緑色に変えられた腰まである長い髪。ローブの意味をなさないほど、ほぼ脱がれた濃いめの紫ローブ。そして一番特徴的なのその虹色の瞳。

 色に統一感のないステラを見るたび目が痛いとオリヴィエは毎度嫌になっていた。


「ちょっと失礼じゃない?」

「会いたくねー奴に会ったんだからため息も出る」


 素直にそう言うと、ステラはニヤニヤと笑いながら更にオリヴィエとの距離を詰めてきた。


「そんなこと言わないでよぉう」


 猫撫で声を出しながらぬるりとオリヴィエの腕に手を回してくる。瞬間、ゾワっと鳥肌が立ち憎悪に似た感情を湧き上がってきたが、そんな気も知って知らぬかステラは更に胸まで押しつけてきた。

 一見、男女の色恋に誘っているようにも見えるが、彼女がそういう目的でやっていないことをオリヴィエは知っている。

 そう、これはただの嫌がらせだ。


「距離詰めてくんな。無理」

「ははっ。本当オリヴィエって面白いよね」


 腕に回された手を無理やり剥がし目を細めて彼女を見ると、ステラは頬に手を当てながら更に苛立たせることを言った。


「あ、もしかして殿下たちへ会いに行こうとしている? ノワール殿下は私のせいで超機嫌悪いよ。ごめんね?」

「おいふざけんな。まあいいや、じゃ」

「ねえ、もう少し興味持ってくれても良くない?」

「興味無い」


 こんな奴に構っている時間があればさっさと目的地へ行くに越したことない。

 速度を上げてそのままステラとの距離を開けようと急足になったところで、彼女はニヤリとほくそ笑みながら声を上げた。

 

「私、これから北の高山に行ってくるんだけど」

「だから聞いて………………何、例の西の森関連?」


 思わずぴたりと足を止める。

 この王都にいる上位の魔法使いであれば誰でも知っている西の森で起きた出来事。

 ステラはそれに関して話しているのだと文脈から察する。

 

「そ! 北の高山にいる氷龍と関係あるか調べて来いってさ〜」

「王族は動き遅ーんだよ。大体魔法陣狂のお前に命令が下ったんなら、明らかに誰かの介入があったってバレバレ」

「偉い方々は隠し事が多いようで。例えば第二王子殿下の行方、とかね?」

「お前、それ……」

「ふふふっ」

 

 全て見透かしているかのように微笑むステラは()()()を知らないはずで。

 オリヴィエは結局大したあしらいもできず、魔力防壁の入り口まで付いてこられることとなった。

 

「じゃあ地獄の防壁、頑張って〜」

「てめーはさっさと北に行け!」


 中に入りかけているオリヴィエに向かってステラはポツリと口にする。


 「最後になったらごめんね」

 

 そこから約一ヶ月、オリヴィエは魔力防壁の外に出してもらうことができなくなる。

 そして、魔力防壁の入口前でカサカサと鳥型になっているカルラの手紙が待っていたことを今のオリヴィエには知る由もなかった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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