2.君の魔法は使えない
成人し、魔法使いとなって早二十年。
魔族出身の私、カルラ・ヴァーベナは長い寿命のほんの駆け出し部分の年齢にいる。まだピチピチの成人した赤子みたいなものだ。
魔族の誇りで偉大なるお祖母様の足元にも及ばない私は、今まで王都で小さな仕事ばかりをこなしていた。
いやもはや魔法が使えなくてもできるような小さな仕事ともいえない雑用ばかりをしていた。
周りからはよく『無駄に前向きなポンコツ魔法使い』『君の魔法は使えない』と散々なことを言われてきたが、そんなことを言われる度に二十年前の自分の功績を思い出していた。
『さすがあのマリア様のお孫さんだ』と言われた日が懐かしい。
だから、今日の呼び出しはきっとそれに優るものだと思っていたのに。
「行きたくない気持ちは分かったが諦めろ。王族の命令だ。配置換えは覆らん」
「ううっ。そんなこと言われたら頷くしかないじゃないですか……」
王族の命令なら逆らうことはできない。
私には最初から西の森に行くという選択肢一つしかなかった。
「分かりたくないけど分かりました……。ちなみに私の担当する任務はどういった内容なのですか?」
西の森に行くことは分かったことにした。
移動は……二ヶ月かかるが行くしかない。配置換えだ。仕方ない。
でもそこで私は何に対して魔法を使えばいいのか知る必要があった。
説明してもらおうと半泣きのうるうる瞳で上司をじっと見つめるとあからさまに視線をそらされた。
眉を八の字にしていた半泣き顔がスンと真顔になる。
怪しい。何か隠していそうだ。
「任務で必要になる魔道具はそこに入れてある」
「あの、私質問をしているのですが」
「地図と生活費も一緒にあるぞ」
「いや、だから。私の担当する任務について」
「さ、行ってこい!」
質問に全く答える気のない上司は机に置いてあった小さなカバンを私に押し付けるなり、部屋から追い出した。
とりあえず用意しましたと言わんばかりの最低限の魔道具に地図に生活費が入ったカバン。
任務について書かれた紙は……ない。
一体何に対して魔法を使えばいいのだろうか。
カバンを隅々まで漁ってみるが大したものは何一つとして出てこなかった。
トボトボと魔法省の出口に向かって歩きながら、私の中で一つの説が浮上していた。
突然の配置換え。上司のあの態度。最低限の魔道具に地図に生活費。任務についても何も聞かされない。
そして私の力が発揮される任務という話自体も本当かどうか怪しい。
だって西の森は魔物の巣窟。温めることしかできない私が魔物を一掃するなんて、絶対的に無理な話。瞬殺されるだろう。
運良く一回生き延びたとしても、脅威は次から次へとやってくる。
人族より寿命が長い魔族とはいえ、傷付けられれば怪我を負うし、普通に死ぬ。
「何がそんなことない、よ。絶対即死じゃん……」
大した仕事ができない王都に住む邪魔な魔法使いを、体よく国の端に追いやった説が浮上してきていた。
でも、もしも本当に私の力が発揮される任務だとすれば。
そしてその任務はおいそれと人前で言えるようなものじゃなかったとすれば。
上司があの場で言葉を濁した理由もそれとなく説明がつく。紙にも残せない極秘任務なのかもしれない。
「現地で直接内容を聞いて行動せよ」
そう、目で訴えていた……のかもしれない。そらされていたけど。
結局のところどちらが事実なのかは分からないが、いつまでも落ち込んではいられない。ならば中々できない長い旅を楽しもうと考える方がよっぽどいい気がする。
拳を突き上げて天に誓う。
「ポンコツ魔法使い上等!」
この無駄に前向きな性格で今まで生きてきたんだから。
まあただ、拳を突き上げて叫んでいる場面を割と大勢の人に見られていたことは恥ずかしかった。