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27.もう一度出現地点へ

 次の日、私たちは昨日と同じ場所へと訪れていた。


「帰る日数も考えて、探索は今日までとなるが行きたい場所はあるか?」


 そう尋ねられて私はすぐさま「もう一度、氷龍の出現地点へ行きたい」と答えた。

 昨日は使わなかった魔道具があったからだ。

 辺境伯様以外には誰かが意図的に仕組んだかもしれないということは伝えていない。あれはあくまで私と辺境伯様の予想に過ぎず、氷龍が自らの意思で来た可能性も捨てきれなかったからだ。

 だがそれもこれから使う魔道具で誰かの手が介入したと確定すれば周知することになっている。


 今日は私の近くでロザリオさんが護衛をしてくれることになった。

 辺境伯様は兵に指示を出し、範囲を広げて周囲の警戒にあたっている。


「魔道具を使うのですか?」

「はい。昨日使わなかった魔道具を使って別視点から調査しようと思いまして」

「へぇ〜」


 ロザリオさんは興味津々に私が手に持つ収納魔道具を見つめていた。

 これからどんなことが起こるんだろう、と期待に満ちた眼差しを向けられると何だか妙に緊張してくる。

 王都勤めとはいえ剣を扱う騎士様だから普段は魔法や魔道具などそういうものに無縁なのかもしれない。


 そんな彼の視線を受けつつ、私は収納魔道具から一つの魔道具を取り出す。

 誰かが介入した可能性を考え、今日使うのは魔法陣や魔法痕を拾うための魔道具だ。

 ランタン型の魔道具の横についているネジを回し発動させようとしたまさにその時だった。


「っ!?」

 

 自分の体が小刻みに揺れ動く。地震に似たその揺れは次第に大きくなっていき、立っていられず思わず膝をつく。

 近くにいたロザリオさんも同じように膝をつき、周囲を警戒しているようだ。

 そしてすぐそこから周りの木諸共吹き飛ばすような爆発に似た音が響き渡った。


 バッと振り返るとそこには土の中から這い出てきたのか、土煙とともに体長三メートルのムカデのような見た目の中級魔物がいた。

 興奮状態のそいつはうねうねと体を捻じ曲げながら千の足を落ち着かない様子で動かしている。だがそれだけではない。もがくように次々と土の中から同種の中級魔物が姿を現した。

 数は二十をゆうに超えている。


「全員剣を持て!」


 辺境伯様の指示の元、兵たちが次々と剣を構える。


「カルラさんは俺の後ろにいてくださいね」

「はい……」


 ロザリオさんが私を庇うように前に出て臨戦態勢をとる。

 私自身も何かあった時に対応できるよう携帯していた短剣を手に取るが、カタカタと震えが止まらなかった。

 今までいくつもの魔物に出くわしてきた。低級だけではなくもちろん中級魔物にも会ったことはある。

 本を読んだり、色んな人の話を聞いたり、それなりに魔物への耐性はあるはずだった。

 

 私の目の前にいるこの魔物は縄張り争いが激しく基本群れることはない。そんなありえない状況で集団になって襲いかかってくる光景は、見えない何かがそこにいるような気がして恐怖だった。


 ロザリオさんを始めとする腕の立つ兵の方々がいたおかげで中級魔物の対処はとても早かった。

 広範囲に出現したにも関わらず、辺境伯様の的確な指示のもと、一匹も取り逃すことなく殲滅させていた。

 

「カルラさん、大丈夫ですか?」


 一番近くにいたロザリオさんからそう問われ、複数回頷いて返す。

 実に頼もしい後ろ姿で、私が念のためにと手にしていた短剣をしまうのも早かった。

 剣に関しての知識がほとんどない私でさえ、レベルが違うと感じるほどに鮮やかで美しい剣捌きだった。

 すごいなあと子供じみた感想しか出てこない中、向こうの方から辺境伯様が近づいてくるのが見えた。


「カルラ、ロザリオ。二人とも怪我はないか」

「はい、俺たちは大丈夫です」

「探索を中断させてすまない。落ち着いてからでいい、ゆっくり再開してくれ」


 フッと私に向かって少しだけ口角を上げて微笑んだ辺境伯様は再び他の兵たちの元へと向かっていった。


「言葉数は少ないのに、いい辺境伯様ですよね」


 羨望の眼差しを送る彼の瞳は髪の毛と同じく真っ赤にキラキラと輝いていた。

 ジッと辺境伯様の去っていく後ろ姿を見つめながらロザリオさんはボソリと口にする。


「俺がここにくる時も何度か連絡をいただきました。少しでも俺の人となりを知りたいからと言って」

「そうだったのですね」

「俺が見てきた貴族はどちらかといえば上から目線の傲慢な方々ばかりだったので正直驚きました。うちもどちらかといえばそっち寄りだったので」

「私が見てきたお貴族様もそういった方々は多かったです。種族が違うだけで態度を変えられるなんてこともありましたし」

「ああ、そういえばそうでしたね」


 まるで今気づいたかのように、ロザリオさんは私の尖った耳に注目する。

 髪を結っていることもあって、特徴的な耳は目につくはずなのだが彼はあまり気にしていなかったのだろう。

 

「辺境伯様との付き合いは長いんですか?」

「いいえ。まだ一ヶ月もいかないと思いますよ」

「! そうなんですね。お互いを信頼しあっているよう見えたのでてっきり長いのかと」

「まあ出会い頭に色々やらかしてますから、私が」

「カルラさん一体何をやらかしたんですか」

「あれには深い深いわけが……」

 

 それから少しの間、互いにくすくすと笑いを挟みながら他愛のない話をした。

 ロザリオさんは思いの外とても話しやすい人で、いつの間にかだいぶ落ち着いてきたように思える。

 話が途切れたタイミングでそろそろ探索を再開すると告げると、彼はすぐに私の近くで気持ちを切り替えて護衛に当たってくれている様子だった。


 落ち着いた状態でランタン型の魔道具を取りだし発動のためのネジを回す。

 ランタンの中が光り輝くと、魔法陣や魔法痕を追うかのようにパンッと光が飛散した。

 そこから目には見えなかった痕跡がいくつか浮かび上がってくる。

 果たしてそれが今回の氷龍の件に関係あるものなのか、それとも全く関係のないものなのか一つずつ確認をしていく。


 だが結果はほとんど得られなかった。


 理由は先ほどの中級魔物の体液によって痕跡がほとんど失われていたからだ。

 一部確認できたものがあっても、今回の件と全く関係のない痕跡だった。


 まるで何かを隠すためだけに中級魔物を呼び寄せたように見える。

 

 誰かが介入していることは明らかだった。

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