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26.点と点を繋ぎ合わせて

 残りの調査を明日に持ち越し、私たちは野営ポイントへやってきた。

 何かあった時のためにすぐに森から脱出できるよう、比較的森の外側に近い場所で野営をすることになっているが、一週間も同じことをしていたら体が覚えるもので。


 みんなの手伝いをしながらテントを張ったり、食事を用意したりと頭を使わずただひたすら体を動かしていた。


 そして食事を取り落ち着いてきた頃、私はテントから少し離れた場所で夜風にあたりながら考え事をすることにした。

 今日できなかった探索や新たに湧いて出た疑問点などを整理するためだ。


 ふと上を見上げる。

 分厚い木々の天井が覆っているため顔を上げてもみえるのは木だけで相変わらず空は見えない。

 それならばと空を見るのを諦めて、ゆっくりと目を閉じ耳を澄ませる。

 サアッと葉っぱの揺れる音が耳に届き、その音に混じって誰かが近づく足音が聞こえてきた。

 

「カルラ」


 心地よい深みのある落ち着いた声に目を開く。視界に飛び込んできたのは予想通り辺境伯様だった。


「こんな所でどうしたんだ。何かあったのか?」

「あ……いえ。そういうわけではありません。少し考え事をしたくて」

「そうか」

「あの!」


 あまり遅くなるなよ、そんな言葉と共にこの場から立ち去っていきそうな気配を感じ、私は思わず辺境伯様を止めていた。

 

「もし時間があるようであれば少し付き合ってくれませんか?」


 私がそう言うと、辺境伯様は同意したかのように隣に座った。

 一人だと煮詰まる頭を誰かと話して少しだけスッキリさせたかった思いがあった。

 それに西の森の管理人である辺境伯様だけには私の仮定を話しておきたかった。


「今回の氷龍出現ですが、私は誰かが意図的に仕組んだんじゃないかと思っております」


 森の奥に進むにつれて引っ掛かる点が多いとは感じていた。

 最初に引っ掛かったのは四日目に見た中級魔物の死骸。それも低級魔物に襲われた中級魔物の痕跡だ。

 それだけだったら別の仮説を立てていたかもしれないが、今日見た氷龍の侵入経路、町ではなくこの森に出現したこと、そしてなくなった氷龍の亡骸。

 誰かが意図的に仕組んだものだと仮定すれば、全ての出来事に納得ができる。


「私も町に現れなかったとドミニクが言った時にその可能性を考えたよ」


 どうやら辺境伯様も同じことを考えていたらしい。


「高級魔物が現れたのは意図的に仕組まれていて、私に怪我をさせる、最悪は殺す目的もあったんじゃないかと、そう思ったよ」

「辺境伯様がいなくなることで何かしらメリットが生まれるのであれば、その可能性はあるかもしれません」


 辺境伯としての地位を欲しがった。

 西の森の管理人の権限が欲しかった。

 彼の立場からするとそういった部分で命を狙われることが有り得なくないことだ。

 

「メリット、か。確かに地位や権限を欲しがる者もいるかもしれないな。だが、所詮は国境沿いの魔物が多くいる森を治めるだけのものでしかない。欲しいと思えるようなものではないと思うが」

「となると私恨や見せかけ……カモフラージュの線もありえますね」


 辺境伯様が標的であるならば、その周りの人族や魔族を徹底的に洗えば()()見つかるかもしれない。だが見せかけ、カモフラージュにされているのであれば、ここでわざと大きな事件を起こして、別の場所で別の目的を遂行させるために使われていたことになる。

 考えられる可能性がいくつもあるこの状況では、正しい答えは導けそうにない。

 少しずつ証拠を集め、状況を見極めて判断するしかない。


「このことは殿下たちに報告をするが、おおごとになるかもしれない。長期戦を覚悟しておいてくれ」

「はい、そのつもりです」


 元々すぐには解決する問題ではないと思っていた。

 魔物を減少させるのであれば私の代では遂行できない可能性もあると思っていたくらいだ。

 それに私は西の森配置となった。必要とあらばずっとここで任務を全うするつもりでいる。

 私が即答すると意外だと言わんばかりに辺境伯様は大きく目を見開いた。


「あの、何か?」

「しばらくは王都に行くことはできない」

「はい、西の森を徹底的に調べるんですよね? 承知しております」


 王都に行くことができないことは重々承知、というよりは今のところ行く用事はないと思っていたのだが、辺境伯様は一体何を懸念しているのだろうか。

 彼の言葉の意図が分からず首を傾げると、恐る恐ると言った様子で意図を話した。


「慣れ親しんだ王都から一人でここに来たんだ。君のことだから家族や仲のいい友達もいたのだろう?」

「ああ……」


 そういうことか、と心の中で思う。

 確かに滞在歴でいえば王都で過ごした時間は長いし、それなり愛着があることはいがめない。

 でもその場所にこだわりがあったわけではなく、どちらかといえば誰かとの繋がりが重要だった。


「全然大丈夫ですよ! 魔法使いは一箇所に留まらず点々とすると聞いてましたし」

「……」


 だから別に心配しなくてもいいよ、とそう口にするつもりだったのだが、辺境伯様にじっと見つめられて言葉が続かなかった。

 思わず視線を逸らすと辺境伯様はぼそりと呟く。


「匂い袋。たくさん買ったけど急いでここに来たからほとんど渡せなかったのかと思ったが……」

「えっ?」


 確かに私は三桁ほど匂い袋を買ったと話した。だが、渡したい相手には全員渡した後だった。


「仲のいい友達には渡していますし、実は家族には長らく会ってないんです」


 別に話すつもりはなかったことだったのにほんの一欠片の思い出がポロリとこぼれる。

 匂い袋の件を気にしてもらえたからかもしれない。


「あ、で、でもお祖母様が言うには、魔族は身内でも数十年会わないことが普通らしいです。私たちって平気で三百年から五百年は生きるらしいんですよ!」


 慌てて取り繕おうとしてまくし立てるように話し、息を吸うときにハッと気づく。

 これでは明らかに家族と何かありますと言っているようなものだ。


「なるほど。合点がいった」

「……え?」


『そっか。お友達と会えなくて寂しいね』

『せっかくの家族じゃないか、どうして会わないの?』


 そんな歯が浮くような軽薄な台詞を想像する。

 数日彼と接して、そういったことを言わない人だと分かっているつもりだけど、今までの経験上同情めいた言葉をかけられることは多かった。

 自分からこの話題を引っ張り出したというのに軽率に触れられたくない。

 矛盾の気持ちを抱えながら合点がいったと言う辺境伯様の次の言葉を待った。


「前にカルラが自分は赤子のようなものと言っていただろう? その理由は魔族の寿命が長いからなんだなと思って」

「そっ…………んな話しましたね」


 一瞬、何を言われたのか分からず返答に詰まってしまった。

 慌ててそれっぽいことを口にしたが、辺境伯様は自分が想像していたどのセリフも言わなかった。

 詰め寄ってくるわけでもない、だからといって必要以上の距離を取るわけでもない。

 天然なのか意図的なのかは表情から読み取れないが、静かにほっと一息をつく。


「どうかしたのか?」

「いいえ! 本当私まだまだ赤子なもんで」

「…………少し待っていてくれ」

「はい?」


 辺境伯様は私に少し待つように言うとスッと立ちあがり、テントの方へと歩いていった。

 テントの近くでは焚き火をしている兵たちがおり、彼らに何かを話している様子が遠くからでも窺えた。


「まさか私のことを……なわけないか」


 今の今で言いふらすはずもないか。

 気にしても仕方ないかと思った私は辺境伯様から視線を逸らし、頭上に広がる夜空を眺めることにしたのだが。


「そうだ、またやってしまった。ここから空は見えないんだった」


 森の外側とはいえ天井は木々に覆われ、隙間から空が見えず、星が出ているかなんて判断は付かない。

 上に向いていた視線を地面に落とす。

 

「家族の話を持ち出すなんて、いつ以来だろう」

 

 うだうだと言い訳をするくらいなら、家族の話なんてしなければいいのに。

 それでも家族の話が口から出てきてしまったのは、優しい言葉をかけてくれるこの人になら、という気持ちが少しはあったからかもしれない。

 自分でも自覚があるほどに人からもらう優しさに敏感だから、私が困っていたら辺境伯様は手を差し伸べてくれる人だということに気づいている。何度かフォローしてもらったし、その度に優しい人だなと感じていた。

 だからいつかうっかりと話してしまうかもしれない。でももしその時に。


「失望させてしまったら……」

 

 頭を横に振って、一旦考えを放棄する。

 起きてもない未来を想像して何ナイーブな気持ちになっているのよ、カルラ!

 変なことを想像した自分を叱咤し、テントの方へと行った辺境伯様の帰りを待った。

 しばらくすると何かを持って再び私のところへと戻ってきた。

 

「ホットミルクだ。少しは温まる」


 そういって差し出されたのは湯気の立つ温かいミルクが入った木のカップだった。


「……もしかして赤子だからですか?」

「ははっ、そうかもしれないな」

「ありがとう、ございます」


 ホットミルクを一口飲むとほんのりと甘い味がした。

 私たちはそのまま無言でホットミルクを飲み続けた。その空気感がとても居心地のよいものだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

評価、ブクマなどをしていただける泣いて喜びます!!

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