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18.盛大な跳ね返り?

 辺境伯様と町へ行くと辺りは騒然としていた。

 いつもなら屋台が立ち並び賑わいを見せているというのに、今日は忙しなく人々が行き交っている。時折「足りない。もっと持ってこい!」と怒号も聞こえる。


「何かあったんでしょうか」

「ここからじゃ状況が掴めないな」

「あ、あそこ! 人だかりがあります。行ってみ…………え」


 少し離れた位置に人だかりが見え、大勢の人が同じ方向の何かを見ている様子だった。その視線を追うように顔を少し上げれば、黒い煙が立ち上っているのが見えた。


「カルラ!」


 あっけに取られていると、人だかりから見覚えのある人が私の名前を呼ぶ。人混みを掻き分けて駆けつけてきたのはマノンさんだった。


「カルラ! 良かった、無事だったんだね」

「マ、マノンさん? 一体どうし……うおっ」


 両肩をがっしりと掴まれ、上から下まで私に何もないことを確認すると安心したかのように深いため息をついた。


「ご夫人。我々はまだここに着いたばかりでして。一体何が?」

「へ、辺境伯様⁉︎ これは失礼しました」

「構わない。この煙、もしかして」


 辺境伯様に向かってお辞儀をするマノンさんを手で制する。マノンさんは息をのむと状況を説明し始めた。


「火事だよ、火事! カルラが今日から住む予定の家が燃えているんだよ!」

「……え、ええっーー⁉︎」


 まさか自分が住む予定だった新居が燃えているという情報に、立ちくらみがしそうだった。そんな私を引っ張ってマノンさんは火事の現場へと急ぐのだった。



 現場に着くと私の住む予定だった家とその隣の家が轟々と燃えていた。

 時折何かが崩れるような音が聞こえ、炎の勢いは増していくばかりだ。


「……っ」


 あまりにも衝撃的なことに圧倒され、私は言葉を失った。

 家の周りには消火活動を行っている人が何人かいるが、炎の勢いと酷い熱風に消火が全く追いついていない様子だった。

 少し離れたところには、全身埃まみれで所々怪我をしている人たちがおり、すぐに隣の家のクレモンさん一家だと気づく。彼らはは命かながら逃げてきたようで、その場に座り込んだりボーッと燃える家を眺めていたりと放心状態だった。


「避難は全員できているのか?」


 彼らに気づいた辺境伯様がクレモンさん一家に声をかける。まさか辺境伯様がこの場にいるとは思っていなかったようで、疲れているのにも関わらず全員動揺と緊張の様子だった。

 家の主である主人がスっと立ち上がり辺境伯様に状況を説明する。


「私たちは大丈夫です。爆発が起きた後すぐに避難できましたので……それよりも隣の家の……」

「私なら大丈夫です」

「!」

「ちょうど不在にしておりましたので」

「今日からと聞いていたので、よ、よかった……」


 私の無事を確認できたご主人はその場にへたりこんだ。隣人が逃げ遅れているかもしれないと心配してくれてのだろう。優しい人だ。


「爆発と言ったな。落ち着いてからでいいから状況を説明してほしい」

「大丈夫です、今お話しします」


 そう言って隣の家の主人は話を切り出した。


「我々家族は全員リビングで朝食をとっていました。最初に異変に気づいたのは妻です。カチカチ音がすると言って辺りを見回していました」

「カチカチ? 機械の音か?」

「はい。一定の速度で機械的な音がしたんです。そしてそれが子供部屋の方向から聞こえて、時計か何かの音じゃないかとその場にいる全員で話していた時に、爆発したんです……。子供部屋は隣の家と隣接していたので、すぐに被害がそちらまでいって」


 ご主人は隣の家に住む予定だった私を見ると、本当によかったと心底安心したかのように目を伏せた。


「状況は理解した。鎮火したら爆発の原因を調べよう。それまでは決して近づかないように」

「分かりました」


 そういうと辺境伯様はクルリと隣にいた私へと視線を向ける。


「私は少しあちらで状況を確認してくる。彼らの手当を頼めるか?」

「任せてください」


 そういうや否や、早々と消火活動をしている人々の元へとかけていった。

 辺境伯様を見送った後、私はクレモン一家の人々に視線を向ける。

 その場にいる全員意識はあり、ちゃんと言葉を話せており、多少怪我をしているものの、命に関わるような重体の人はいなかった。

 これだけの被害のある火事、爆発でよくこれだけで済んだものだ。


「傷の手当てをさせていただきますね」


 カバンから黄色の取っ手の収納魔道具を取り出す。

 蓋を開け、中から包帯やら消毒液やら必要なものを取り出していると。


「それは……?」

「これは収納魔道具と言いまして、日用品を入れているんです」


 興味津々といった表情で一家は私の手にある収納魔道具を見つめる。私にとっては当たり前のものでも、知らない人からすれば物珍しいものであろう。

 この暗い空気が少しでも明るくなれば。

 そんな思いで、収納魔道具の中身を見せ「沼に手を突っ込んだような感覚なんですよ」とクレモン一家の人たちに手を突っ込ませた。



 その後、辺境伯様が戻ってきたところで謎の沼を体験しよう! の会は終わりを迎えた。

 ある程度鎮火したものの、燃えた家は熱を持っている。気持ちも少し落ち着いた状態で家の中を確認した方がいいだろうということで、明日のに朝集まることとなった。


「本当は今すぐにでも原因を調査したいところだが、視界が悪い中探すとなると二次災害を引き起こしかねない」


 そう、気づけば日は沈みかけており、辺りは夜を迎えようとしていた。

 一時的に住む家を手配すると言ったが、クレモンさん一家は知り合いの家に泊まるそうだ。私はというと今日出ていったというのに再び辺境伯様の家に戻ることになった。


 戻る前に一度だけ焼け焦げた自分が住む予定だった家を眺める。こじんまりとして結構住み心地が良さそうだなと思っていただけに残念だったが、もう少し早い時間に到着していたら確実に巻き込まれていた。そう思うとゾッとした。



◇◇◇



 夜も更けてきた頃。静まり返った焼け跡に一つの影があった。

 影は月明かりを頼りに黒焦げになった家屋をゆっくりと進んでゆく。そして一つの小さな箱を見つけると、かけていた眼鏡をクイッと上に揺らした。


「あーー……これは確実に見える。やっぱり回収にきて正解だった」


 影の目にはその箱から発せられている靄が見えていた。

 黒焦げになってしまった箱を手に取り、更に細かく状態を確認する。

 上下左右くまなくチェックしたところで再びボソリと声を発した。


「これさえ見られなければ問題は無いな」


 持ってきていた袋にその小さな箱を入れ、再度辺りを見渡す。もう回収するものは無いが、自分に繋がる異分子がないかチェックをする。


「結局排除できなかったし、失敗したな」


 悟られないように少々回りくどいことをした上にタイミングを見誤ってしまった。だからといってお咎めを受けるようなことはないだろうけど。


「まあ仕込んだアレが今度こそうまくやってくれるだろうし、大丈夫か」


 そう言った影はまるで煙のように夜の闇に溶けて消えていった。



◇◇◇



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