10.第一王子と第三王子と
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『登城せよ』
二ヶ月ほど前、手元に届いた国印付きの一通の手紙。
管理者として定期的に西の森の異常確認を行なってきたが、ここ最近魔物の増加が目に付くようになった。
それを王族へ報告し、一ヶ月後にもう一通緊急の報告をしてからすぐのことだった。
事情により二ヶ月登城を遅らせ、本日私、フレデリック・ハイドは王都入りを果たした。
何か用がない限り訪れることのない煌びやかな都は、貴族だけではなく西では見ることのない魔族も多く目にした。
特徴的な尖った耳以外は自分とほとんど変わらない容姿。
だがそれ以外で圧倒的に異なる魔族が持つ魔力。ささやかなものから国を支配できるほどの力を持つ魔族もいると聞く。
人族にはない特殊な力。純粋な魔族、あるいは人族とのハーフが持つ魔力というもの。
現在、王族にハーフがいるため、どちらの存在も認められているが、一昔前は魔族の存在は畏怖の対象だったという。
純粋な人族である自分にとっては未知の種族。
ほとんど関わったこともなく、これからも関わることはないだろう。
何故なら何度打診しても西の森はもう百五十年も魔法使いの配置がないのだから。
登城し通された豪華な部屋には既に第一王子と第三王子がいた。
挨拶を済ませ、彼らの前のソファーに腰掛けると、人懐っこい第三王子のブランがニコニコと嬉しそうな表情を見せた。
「よくきてくれた。フレッド」
そうして笑顔でフレデリックを愛称で呼ぶ。
小さい頃から仲の良い第三王子のブラン。プラチナブロンドのフワフワとした髪に愛嬌のあるクリっとした大きな二重目。瞳の色がピンクブラウンなのも親しみの一役を担っている気がする。意外にも高い身長の彼とは何かと関わることが多かったため親しくさせていただいている。そんな彼が親しみを込めて自分のことをそう呼んだのは分かっているが。
「殿下、ここは王城です。流石に愛称で呼ぶのは」
「王城と言ってもここにいるのは私と兄上だけなのだ。問題はない」
な、兄上。と第一王子のノアール殿下に同意を求める。
「堅苦しい手紙を送ったが我々しかいない。いつも通りにしてくれて構わない」
ほんの少し口角をあげたノアール殿下のその言葉に、少しだけ肩の力を抜いた。
ブランに比べてノアール殿下は少し近寄りがたい印象がある。長い黒の髪とブラン同様すらっとした高い身長。それに切長の青い瞳を真正面から受けると鋭く睨んでいるようにも見えるのだ。実際は睨んでいるわけではないらしいが、第一王子という立場から自分にも他人にも厳しい彼の性格が故なのだという。
「それでフレデリックよ。魔物増加の件、詳しく聞かせてくれ」
「はい、殿下」
そしてこの三ヶ月の報告を二人の王子にするのだった。
「そうか。ここ三ヶ月で急激な増加か……」
持ってきた資料と実際の報告を聞いたノアール殿下が眉間に皺を寄せながら鋭い表情を見せる。
「それだけではありませんよ兄上。高級魔物も出ています」
「ふむ。西の森に高級魔物はいない認識だったが、何かあるかもしれないな」
「魔物たちの間で何かあったのか。それとも誰かが意図的に仕組んだものか……」
各々思ったことを口にしながらいくつか想定される事案を並べていく。
今までにないイレギュラーなことが起きていることはその場の全員の認識だった。
何か策を打たねばと思うも、現状維持が妥当なところかもしれない。兵を増やしたところで、出来るのはせいぜい西の森から魔物が出ないよう食い止めること。根本的なところをどうにかしなくては何も変わらない。
そのためには、根本的な調査する調査力に長けた人、大型魔物に対抗できる腕の立つ人、西の森に迷わない地理に詳しい人。三種の人が必要だった。
地理に詳しい人は自分が担えばいいが、調査力の長けた人、腕の立つ人は今自分が持つ兵の中にはいない。最低でも調査力に長けた人だけでも欲しかった。
「フレデリックよ。三ヶ月前にあった定期報告から我々も熟考を重ねた。中々縦に頭を振らない王の説得には骨が折れたが、約二ヶ月前の出来事をきっかけにようやく許可が降りたのだ」
「許可とは?」
「魔法使いの配置だ」
ノアール殿下の言葉に思わず目を見開く。自分は今後も関わることのないものだと思っていた魔法使い。西の森に配置されるとなると実に百五十年ぶりの配置となる。
この状況で配置されるとのだからかなりの実力者であると伺える。
「その者は一ヶ月ほど前にこちらから西へと送った。先触れも出したが、君が魔法使いの存在を知らなかったということはすれ違ったのかもしれないな」
確かにあそこを出る前に先触れは受け取っていないし、魔法使いにも会っていない。タイミングが少し悪かったようだ。
「まさかあの子が配置されるとは思いませんでしたよ」
「探索に長けていると聞いていたからな。根本的な原因を調査するには良い人材だろう」
「まあ魔道具の扱いは随一ですし、マリア様のお孫さんですからね」
「あの人はすごいからな。彼女が現役であれば真っ先に声をかけたのだが」
「無理ですよ。今は北に定住しているとあの子が言っていましたし」
王族である二人からマリア様と敬称で呼ばれる魔族。その孫で探索に長けた魔法使い。現状維持になるだろうと期待していなかったが少しだけ光が見えた気がした。
「とはいえ、あの者だけでは魔物討伐が心許ないだろう。君も腕が立つとはいえあの魔物であれほどの苦戦を敷いたのだ」
「はい、可能であれば腕の立つ人を所望します」
「こちらで探しておこう」
「ご温情感謝します」
ノアール殿下の温かい心遣いに感謝し、深くお辞儀をする。王族がこの問題に真摯に向き合ってくれていることが嬉しくもあり、期待に沿えねばと奮起させてくれる。
その後、二、三報告を行い、王都で済ませなければいけない公務があるため、その場を後にした。
ノアール殿下とはあの部屋で別れたが、次の公務に向かう途中まではブランが一緒だった。
「ここに来るまで遠かっただろう? 手紙のやり取りでもよかったんだが兄上が直接話を聞きたいと言ってね」
「いや、今回の件は直接話した方が絶対にいい。それに他にも王都での公務があったし問題はないさ」
先ほどとは少し違う、互いに肩の力を抜き、口調も少しだけ砕ける。
「……西の方に配置されたのは、私の古い友人の魔法使いなんだ」
「そうか。だが友人とはいえ信用に値するかはまた別問題だ」
友人の友人が必ずしも信用できるとは限らない。より高貴な人間にはいい顔をするが下のものを見下すものだっている。
自分の目で見て確かめて、それから少しづつ相手との仲を信頼関係を深めていきたい。
「ははっ。フレッドは真面目だな」
可笑しそうにブランが笑う。
「私は直接会ったことがないからな。君の友人とはいえ見極める必要がある」
「すぐに分かるよ。こっちがやりすぎじゃないかと思うくらい誠実に人に向き合う、とても温かい子だよ。絶対にフレッドの力になってくれる」
そう言って優しく微笑んだブランは古い友人を思い出しているかのようだった。
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