温かいもの
『いいかい? カルラ。 家族というものはね、温かいものなんだよ』
私がまだ小さかった頃、お祖母様がそう教えてくれたーー。
この世界には人族と魔族が存在する。
人族は自由な生き方で多くのことを学び、様々なものに取り入れた。突出して独特な発想と行動力のあった青年が、知識のあり方、力のあり方、国のあり方を考え、統率していった。今の王族の祖先だ。
長年、人族が王族や貴族として上に立てたのはこの考えと行動からだと言われている。
魔族はそんな人族の【自由な生き方】に圧倒され、羨ましがり、嘆いて、縛った。
魔族は生まれ持った魔力を育てることに並々ならぬ力を注いだ。そして成人後は自分の役割を認識し、攻撃系の力が強ければ兵として駆り出され、回復に特化した力があれば医療に携わる。
自分の魔力を最大限に発揮できる魔法使いになることが義務だった。それは誇りであった。
人族はそんな魔族が生まれ持つ【魔力】を羨ましがり、尊敬し、妬み、手中に収めた。
今では互いの種族を尊重し、助け合いながら生きている。
だが振り返った長い歴史の中では、種族が違うが故に意見をぶつけ、争うことも多くあったのだ。
そして今、長い歴史の後。人族と魔族が共存した世界。
これは魔族である私、カルラ・ヴァーベナが成人を果たした時の誇りある話だ。
「よし。ここが私の魔法使い第一歩ね」
腰まである長い髪を三つ編みお下げにし、代々ヴァーベナ家に伝わる紺のローブを身に纏う。
記念すべき初任務のために気合を入れに入れまくった。
そしてやる気十分にやってきたのは辺鄙な場所に建つ大きな邸。
魔族としては平均より小さい私。その私の身長を遥かに越した門を潜り抜けた後、白を基調とした圧倒的存在感の邸が目の前に立ちはだかった。
事前調査によると、ここはどこかのお貴族様の邸らしい。
貴族相手の任務はベテラン魔法使いが行うのが通例だが、今回は内容的に私が適任ということでこの地に派遣された。
『魔法使いになりたての新人にできるわけがない』
『あんな魔法で役に立つはずがない』
いろんな人に散々なこと言われたが王子殿下直々のご命令だったため、誰も私が行くことを止められなかった。
「さあ、中がどうなっているのか私に見せて」
透視系の魔道具を使い、家の中を覗き見る。
本来は許されない魔道具だが、今回は任務のため特別に使用が許可されている。
眼鏡タイプの魔道具をかけるとキュインと小さく起動音が鳴り、目の前に魔法陣が展開される。その魔法陣に少しだけ自分の魔力を送り込み、陣を通してさらに奥の、家の中を覗き見る。
「いつもいつも、ふざけないで!」
真っ先に飛び込んできた映像は、女性がヒステリックに叫んでいる場面だった。
思わず足がすくみそうになるのを必死に抑える。
「お前が悪いんじゃないか!」
そして次に見えた映像は、その女性に対して激昂している男性だった。
どうやらこの二人、喧嘩をしている様子。
「何? 全部私が悪いっていうの?」
「それ以外に何があるっていうんだ!」
男性が近くにあった花瓶を女性に投げつける。
細長いその花瓶は女性の横を通り過ぎ、後ろの白い壁に大きな傷をつけ、陶器が粉々に割れる音があたりに響いた。
どういう経緯でここまで発展したのか分からないが、喧嘩はヒートアップしている。
酷い有様に目を背けたくなるが、今日はそういうわけにはいかない。それに。
「父様、母様、喧嘩はやめて」
目を凝らしてよく見ると、青い顔をして怯えきった小さな子供が二人。兄らしき男の子が妹の女の子を抱き寄せ、必死に守っている様子が見えた。
「黙りなさい!」
「邪魔だ消えろ!」
心のない言葉の刃が深く深く彼らに突き刺さる。
妹が泣く代わりに涙を必死に堪える兄。震える手はきっと氷のように冷たいのだろう。
どうして子供たちの前で喧嘩なんてするんだろう。
どうして酷い言葉を放ち、存在を消そうとするだろう。
生きていれば、確かに気に食わないことはいっぱいある。
でもこの子たちに何の罪もない。こんなの何も解決にならない。
誰も幸せになんかなれない。
『いいかい? カルラ。家族というものはね、温かいものなんだよ』
小さい頃にお祖母様が教えてくれたこと。
それを胸に言葉を紡ぐ。
「小さなあの子たちが笑顔になりますように」
私は魔法をかける。この家族の未来のために。
読んでいただきありがとうございます!
ゆっくりまったり不定期ですが、カルラの物語をお楽しみください!!
応援してくれると嬉しいです\( 'ω')/