File.08「早朝・焦燥」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳
運動神経抜群だが能天気。
本作の主人公。中学三年生。
◆牡丹田 朱里 (ぼたんだ あかり) ??歳
クロッカスの総指揮官。試験監督。
ジリリリリリリリ!!!!!!!!
非常ベルのような不快な音が俺の鼓膜を刺激する。そのあまりの大きさに、思わず飛び上がるように起きてしまった。
「うおっ!?何だ何だ火事か!?」
もちろんそんな筈もなく、しばらくしてベルが鳴り止むと、間髪なく館内放送が流れ始めた。
『只今より、本年度”戦闘護衛部隊クロッカス入隊試験”を開始する。受験生はクローゼット内に収納されてある制服に着替え、5分以内に敷地内中心の広場に整列するように。以上だ』
ブツンとマイクが切れると同時に、鍵のかかっていたクローゼットが解錠された。俺は寝起きの睡魔に抗うように目を擦りつつ、メモリングを起動して現在時刻を確認する。
《4:04》
「って、なんちゅう時間に起こしてんだよっ!この鬼教官め!」
「――いやいや、ツッコんでる場合じゃねぇ!着替えだ着替え!えーっと……」
クローゼットを開けると、ハンガーに制服らしきものが掛けられており、下段にはウエストポーチやブーツなどの小物が整頓されていた。その横には、制服の着用マニュアルが記された用紙が置いてある。
それにしても、今のところ特にお咎めなしということは、俺は22時までに寝れていたのか。ひとまず安心……と言いたいところだが、そうこうしているうちに、既に開始の合図から1分以上は経過しているはずだ。一刻も早く着替える必要があるな。
制服の着用方法は至ってシンプルだ。ワイシャツに黄色のアスコットタイを結び、ポケットが左右についた黒色のカーゴパンツのような形状のボトムスを穿き、淡いグレーのジャケットを羽織る。焦げ茶色のブーツを履いて、紺色のポーチを腰につければ完成だ。図式化されているため、焦りさえしなければものの1〜2分で着替えられるだろう。
そして、クローゼットの下の方にまだ何か隠れている。手に取ったのはデカデカと『96』と書かれた布製の両面ゼッケンだ。頭から被り、両サイドを紐で結ぶらしい。おいおい、ダサいなこれ……
それはさておき、ワイシャツからブーツに至るまで、特殊な構造をしているからなのか、見た目の数倍は機動力に優れている気がする。一見動きにくそうだが、いざ着用すると運動着と何ら遜色ない可動域を有している。それにしても――
「かっけぇなぁ、クロッカスの制服!受かればこれが着られるのか……俺、結構イケてるかもな」
壁掛けの姿見鏡で制服姿の自分に見惚れていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてくる。それを聞いて、俺は直ぐに我に返った。
「やべっ!さっさと集合しねぇと!」
俺はゼッケンを装着したのち、部屋の扉を勢いよく開き、受験生の波に飲まれるようにして階段を駆け下りた。緊張と焦りによるものなのか、先程の眠気はすっかり飛んでしまった。
特別棟を出ると、4つの棟の中心にある広場には既に100人以上の受験生が整列していた。列の先頭では、マイクを片手に携えた牡丹田が険しい顔つきで時間を確認している。その横では、ホログラムで映し出された巨大なスクリーンに残り時間が表示されている。
「残り20秒!着いた者から順に並べ!」
「うおっ、急げ!」
集合場所までは2〜30メートル程度、俺の脚力なら余裕だな。
俺は他の受験生を掻い潜って空いていたスペースに身体をねじ込み、何とか時間内に集合することができた。
「終了!現時点で白線内に入っていない者は不合格だ」
牡丹田の合図とともに、メモリングに通知が届いた。
《受験番号:96 御角 陽彩 一次試験 合格》
「よしっ!というか、今のが一次試験なのか……」
周りを見渡すと、白線外にいた受験生は10名前後だろうか。落ち込んでいたり、放心状態だったり、中には泣いている受験生もいる。
そんなのはお構いなしといったように牡丹田がマイクを口元に寄せる。
「えー、受験生諸君、早朝からご苦労。只今より身だしなみのチェックを行う。前後左右の間隔を1メートルほど空け、その場で静止してくれたまえ」
身だしなみチェックか、大丈夫だよな?多分……
俺たちは綺麗に整列をし直し、姿勢を正してその場に静止した。そして、牡丹田が一人ずつ舐め回すようにチェックを始める。
「22番、ポーチの不備、不合格!168番、ネクタイの不備、不合格!」
ふっ、不合格!?それだけで!?
それにしても、あのスピードでよく正確に指摘できるな。さすがクロッカスの総指揮官だ。
待てば待つほど、その分不安も募っていく。外気温はかなり低いはずだが、額にかいた冷や汗が頬を伝っていくのを感じる。
マズイぞ、根拠は無いが何か忘れている気がしてならない。この胸騒ぎは一体何なんだ。
そしてついに、俺の前に牡丹田が近づいてきた。至近距離で見ると余計に威圧感があるな。
俺は下唇を強く噛み締め、横目で牡丹田の様子を伺う。
すると、彼女は俺の斜め前で静止し、明らかに俺の胸元あたりを凝視している。
「……96番」
「うっ、はっ、はいっ!!」
自分の番号を呼ばれ、俺は動揺して背筋をピンと張りながらも、肩を小刻みに震わせる。
こんなところで終わりなのか、俺も――
————————————————————◇◆
ここは、ヒュドール学園高等部生徒会室。
早朝4時、広々とした室内に少女が一人、優雅にジャスミンティーを嗜みながら、プロジェクターで映し出された映像を眺めている。淹れたての紅茶を吐息で冷ましつつ、手元に置かれた資料に目を通しているようだ。
彼女がティーカップを口に運ぼうとした瞬間、生徒会室の重厚な扉が何者かによってコンコンとノックされる。
ガチャッ――
「失礼いたします。おはようございます、翡翠会長」
扉から顔を覗かせたのは、やや小柄で、キリッとした目元、少し青みがかった髪色が印象的な少女だ。
翡翠会長と呼ばれた少女は、来訪者の存在に気がつくと、彼女に向けて眩しげな笑顔を向けた。
「あらっ、レエナちゃん、ごきげんよう♪朝早くからご苦労様っ♪」
「会長こそ、お疲れ様です」
レエナと呼ばれた少女が深々と頭を下げる。
「それと、わたくしと二人きりの時は、気軽に蘭と呼んでいただいてよろしくてよ?」
「……すみません、まだ言い慣れていないものですから」
「ふふっ♪恥ずかしがり屋さんだねっ」
「そ、そういうわけでは……」
少女は、恥じらいを誤魔化すようにそっぽを向いた。
「そういえば、ひすっ……蘭さん、指揮官に依頼していた”受験者リスト”、お持ちしました」
「あらっ、ありがとうね♪」
翡翠会長は受験者リストが入っているICチップをタブレット端末に挿入し、一人ずつプロフィールを確認していく。
すると、ある人物が目に入った途端、何かに気がついたのか、自らの口元に人差し指を押し当てる。
「蘭さん、どうかされましたか?」
「この子……ふふっ♪面白くなりそうね」
「……蘭さん?」
翡翠会長は受験者リストを見つつ、その人物を拡大してプロジェクターに映し出す。
「蘭さんのお知り合いの方ですか?」
「うーん……まぁ、ちょっとね♪」
意味ありげに笑みを浮かべる翡翠会長の横顔を、少女は訝しげな様子で眺める。
「さあ、始まりますわよっ。今年はどんな子達が入ってきてくれるのかしら♪」
「私たちの後輩ですか……何だか、感慨深いですね」
二人は互いの目を見つめ合い、そして静かに微笑んだ。
こんばんは、ProjectAI.(プロジェクトアイ)です。
クロッカスの入隊試験がついに開始となりました。早くも過酷になりそうな予感が……
翡翠会長、何処かで見覚えがありませんか……?
そして遂に遂に、メインヒロインがちょびっとだけ登場しました……!
さらにさらに、3月29日に第一章のビジュアルボイスドラマを投稿いたしました!!
↓下記URLよりご覧いただけます☺️↓
https://youtu.be/x0TLWY9VXM8?si=YWnAOMVI8u795NWH
ボイスドラマに出演していただく声優様も随時募集していますので、そちらも併せてご覧くださいませ。
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