File.50「点火・鎮火」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆明智 柚葉 (あけち ゆずは) 15歳(高1)
フレンドリーなクラスのムードメーカー。可愛いものが大好き。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)
人見知りな性格で、陽彩とは入試で協力し合った仲。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)
クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
『グォォォォォォォ……!!!!!!!』
モンスター型は唸り声を上げながら俺たち目がけて鉤爪を振りかざす。
「明智さんっ!!」
「ですぅ~!!」
前衛の明智は盾で攻撃を食い止め、後衛の俺は敵の隙を窺いつつ黒百合の動向を探る。
黒百合が相手しているトキシーは残り体力が多く、戦況としてはトキシーが若干優勢だ。恐らく、黒百合のスタミナはあと僅か――少しずつでもいい、1秒でも早くコイツのHPを削るんだ。
「御角くんっ!!」
「ヤァァァァーーーーーッ!!!!」
俺は明智の合図と共にモンスター型の背後に回り、泥を跳ね飛ばしながら無我夢中で斬撃を重ねる。雨で視界が封じられていて、狙いを定めるのも困難だ。
《Monster Toxxy 50pt 44% ■■■■■》
「クソッ!この調子じゃ……間に合わねぇっ!!」
弱点や攻撃パターンを把握しきれていないのもあるが、何度斬撃を繰り出してもミリ単位でしかHPは削れない。合格を放棄するとはいっても、最終試験の時のように俺のHPが尽きてしまっては、アカツキの機能は停止し協力は不可能になってしまう。
「くたっ……ばっ……れえええええええええっ!!!!!!」
黒百合の苦しそうな金切り声が背後から飛んでくる。恐らく、保ってあと1分かそこらだろう。
俺は再び明智の背後に身を隠し、手に持っている剣に話しかける。
「アカツキ!!もっと攻撃力を高める方法は無ぇのか!?」
「……あるには、ありますわ」
何故かアカツキは後ろめたそうな口調で俺の質問に答えた。
「あるには……?」
「ただし、それなりのリスクが伴いますわ」
「リスク?それって何だよ」
「それは……」
『グォォォォォォォ……!!!!!!!』
「やべっ!」
アカツキが言い淀んでいると、モンスター型が再び明智に向かって突進してきた。
明智は腕を震わせながら必死に防いでいるが、泥濘みに足元を掬われズルズルと後退してしまっている。
「御角……くんっ……!明智……腕が限界ですぅ~!!」
「なっ……とにかく時間が無い!アカツキ、頼めるか!?」
「……仕方ありませんわね。ヒイロ、”オーバードライブ”と叫んでくださいまし!」
「おう、わかった!」
どういう意味かはさておき、俺は念を込めるようにして剣を強く握りしめた。
「オーバードライブ!!」
唱えた刹那――全身の血が滾り、身体の芯が燃焼するかのように熱くなった。
「何か……力が漲ってきたぞ……!」
「説明は後でよろしくてよ!ヒイロ、攻撃開始ですわっ!」
「何かよくわかんねーけど、わかったぜ!」
俺は姿勢を低くして、明智の背後からモンスター型に向かって身を乗り出した。
「ヤァァァァーーーーーッ!!!!」
斬る速度、パワー、何もかもが段違いにレベルアップしている。それに、敵の動きが明らかに遅くなっている――というより、”俺が敵のスピードを遙かに凌駕している”と表現する方が正しいだろう。
「これが”オーバードライブ”の性能ですわっ!3分間だけヒイロの身体能力とミーの攻撃力が5倍に跳ね上がりますの!」
「5倍!?この調子なら……」
『グォォォォォォォ……!!!!!!!』
興奮状態のモンスター型は、完全に俺へと殺意を向けている。その隙に明智は戦場から退き、俺にグッドサインを送った。
「おりゃああああ!!!!」
俺は高く跳び上がり、宙を舞いながらモンスター型の背中を何度も斬りつける。そして、ヤツの死角となる腹部に身体を潜り込ませ、全身に力を込めて剣を振り回す。
「ヤァァァァーーーーーッ!!!!」
『グォォォォォォォ……』
《Monster Toxxy 50pt 3% ■》
会心の攻撃を与えるとモンスター型は瀕死状態になり、残りHPは僅かとなった。
「ユイちゃんっ!!!」
俺は肩で息をしながら黒百合に合図を送り、モンスター型から距離をとる。
「くたっ……ばっ……れえええええええええっ!!!!!!」
黒百合は残されたスタミナ全てを拳に込め、モンスター型の顔面に強烈な一撃を与えた。
『グッッッッ!!!!オォォォォォォ……』
モンスター型は溺れるような咆哮を吐き出しながら膝から崩れ落ちた。ズタズタになった顔面からは回路が剥き出しになり、発生した静電気が痛々しく悲鳴を上げていた。
「倒したっ!!」
「御角くんナイスですぅ〜!!」
「ユイ……ちゃ……ん……の……」
喜んでいたのも束の間、四つん這いで静止していた黒百合は、今にも消えかかりそうな声で俺たちへ顔を向けると、白目を剥きながらバタリと横倒しになってしまった。
「白百合さんっ!!」
俺は闘志が燃え尽きた黒百合――白百合の元へ駆け寄り、大声で何度も彼女の名前を呼びかける。
「白百合さんっ!!!!」
「……」
言うまでもなく、彼女には俺の声に反応する余力など残されてはいなかった。
————————————————————◇◆
俺と明智は白百合を抱え、現場から100メートル程離れた小さな洞穴へと避難した。お世辞にも広い空間とは言い難いが、雨宿りをするには十分だ。
「……もう、ここまで来れば安心だよな」
「結衣ちゃん……うぅぅ……グスン」
先程から回復体位を取らせているものの、身も心もボロボロになった白百合はうんともすんとも反応しない。
「結衣ちゃん、これまで相当辛い思いをしてきたんでしょうね……」
「……ああ」
白百合の窶れ果てた姿は、彼女の背負ってきた過去を物語っていた。
「…………ど…………さ…………」
「!?」
乾いた唇を震わせながら、白百合が僅かに瞼を開いた。俺たちは即座に彼女の元へと駆け寄る。
「白百合さんっ!!」
「結衣ちゃんっ!!」
「……ゆっ……ゆい………は…………」
白百合は必死に言葉を紡ごうとするが、俺たちの顔を交互に確認すると、ほんの少しだけ口元を緩ませ、再び眠りについた。
「白百合さん、もう大丈夫だ!今はゆっくり休んでてくれ」
「グスン……結衣ちゃん、よく頑張りましたですぅ〜!」
そうだ、これでいい。俺たちはこの試験での役目を果たした。白百合がクロッカスを去る必要も、これ以上己を責め続ける必要も無くなったのだから。
彼女の存在が、世に必要とされる時代が来る。
じゃあ、俺は……
「いやいや、ご苦労だったねぇ~子リスチャン☆」
この男はいつも最悪なタイミングで俺の前に現れる。
「黒華……お前っ……!!」
呑気な黒華に腹を立てた俺は拳を握りしめ、歯軋りをしながら威嚇する。
「イヤだなぁ、暴力なんて……ボクはただキミたちに感謝を伝えに来ただけさ。一切手を汚さずに100ptを得ることができたんだからねぇ」
「俺は別に、お前のために協力したわけじゃねぇぞ!チームメイトがお前じゃなければ、白百合さんは……」
「子リスチャンが、どうしたって?」
『こんな目に遭わずに済んだ』と言いたいところだが、もし白百合の事情を全く知らない人間がペアだったら尚更動きにくかっただろう。
それを解った上でコイツは俺を煽っているのだ。
「……もういいっ!」
言い返す術がない俺は悔しさを誤魔化すしかなかった。
「ま、用も済んだし、残り時間はここでゆっくりさせてもらうヨ☆キミたちはどーするんだい?」
「それは……」
「御角くん、明智たちも最後まで戦い抜きましょう!」
明智からの予想外な言葉に俺は目を丸めた。
「でも、もう5分切っちまってるぞ……?それに、俺たちが白百合さんのチームに協力したことは紛れもない事実だ。どうせ追試を受けることになるんだし、今さら戦う意味なんて……」
「ですですっ、確かに意味は無いのかもしれません。でも、この試験は点数を達成することだけが全てだとは思えないんです。入試がそうであったように」
入試――そうだ、まさに俺がそうだったじゃないか。大幅に点数が届かなくとも合格を果たした俺と、もう一人の誰か。
このライセンス試験も、加点対象となる項目が存在している可能性は十分あり得る。あるいはその逆も……
重要なのは、この試験に対する心意気だ。
「……そうだな、試験はまだ終わってねぇ。残りの時間は俺たちのために戦おう!」
「ですですぅ〜!!行きますよ、御角くんっ!」
「おうよ!」
俺と明智は熱い握手を交わした。
「ヒュ〜熱いねぇ〜そういうの嫌いじゃないヨ☆」
茶化すこの男はさておき、俺は剣を拾い上げて制服の泥を払う。
「……白百合さんのこと、任せたからな」
「ハハッ☆ボクは可愛い女の子を無闇に傷つけるような真似はしないさ。安心したまえ」
謎に説得力のある回答だが、コイツの発言はどこまでが冗談でどこからが本気なのか未だによく解らない。
「……さあ、行くぞ明智……さ……」
一歩目を踏み出した瞬間、不意に視界がモノクロに染まった。滾っていた熱が、氷水に変わったかのように一瞬で体温を奪っていく。心臓の鼓動が、耳元で鐘のように不快に鳴り響いた。
「……あ……れっ……?」
膝どころか、全身の力がたちまち抜けていく。まるで魂が抜け落ちたような、独特な感覚だ。
似たようなものを俺は味わったことがある。あれは確か……
「……まだ……おれ……は……」
モノクロに染まった視界が閉ざされ、不快な雑音が消えていく。
意識が、遠退いていく。
まだ……俺は戦わなきゃいけないのに。
――ライセンス試験終了まで、残り4分。
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
"結衣の合格を手助けする"というミッションは達成したものの、オーバードライブの影響で突如倒れてしまった陽彩。
そして、ライセンス試験はついに終幕を迎えます。
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