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File.49「泥濘・足枷」

◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)

 本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆明智 柚葉 (あけち ゆずは) 15歳(高1)

 フレンドリーなクラスのムードメーカー。可愛いものが大好き。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)

 人見知りな性格で、陽彩とは入試で協力し合った仲。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)

 クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆牡丹田 朱里 (ぼたんだ あかり) 27歳

 厳格な性格で、常に冷静沈着。

 戦闘護衛部隊"クロッカス"の総指揮官を務めている。


◆土山 茂郎 (つちやま しげろう) 65歳

 人工知能研究の第一人者で、ヒュドール学園の学園長。

――同時刻、人工森林管理室。


「……」


 試験官の牡丹田朱里は、薄暗い部屋の壁際に設置されているモニターの前で目を尖らせていた。


「……おぉ、おったおった。お疲れ様、牡丹田君」


 管理室の入口から不意に顔を覗かせたのは、学園長の土山茂郎だ。


「……お疲れ様です学園長。私に御用でしょうか」


「ふぉっふぉっ、まあそんな警戒しないでおくれ。ワシはただ、君が思い詰めていないか心配しに来ただけじゃよ。隣、失礼するぞ」


 土山はのっそりとした足取りで隣の椅子に腰掛け、映し出されている映像を眺める。


「どうだね?期待のルーキー達の様子は」


「丁度、佳境に入っているところです。それと……私の心配は御無用ですので、お気になさらず」


「ふぉっふぉっ、頼もしいのう」


 一見平然とした様子の牡丹田だが、”ある人物”がモニターに映し出された瞬間、唇を軽く噛みながら人差し指で机をコツコツと叩き始める。


「やはり、アカツキ君が心配かね?」


「そう……見えますか」


 心中を察せられた牡丹田は、ばつが悪そうに画面から視線をそっと逸らした。


「まあ、今のパートナーは彼じゃからのう。それに、彼とアカツキ君を組ませたのは君じゃないか。そこまで気に病む必要はないじゃろう?」


「ええ、重々承知しております」


「それに……御角くんからは、君と同じものを感じるよ。なんかこう、どんな窮地も乗り越えられる根性というか、姿勢というか……」


「……同じもの、ですか」


 牡丹田は再び画面に映る人物――御角陽彩へと視線を向ける。どこか満足げな様子の土山は、時間を確認しつつゆっくりと腰を上げた。


「それじゃ、ワシは社長と会談があるから、これにて失礼するぞ」


「はい、ありがとうございました」


 土山の姿が見えなくなるまで頭を下げ続けた牡丹田は、再びモニター画面を横目に溜息を零す。


「私の選択は、正しかったのだろうか……」


 珍しく弱音を吐く彼女も、今は彼に運命を委ねることしかできなかった。


「……頼むぞ、御角」



————————————————————◇◆



 俺は剣先を目の前のトキシーに向け、声を張り上げる。


「しゃあ!まずはお前から始末してやるぜ!!」


『グォォォォォォォ……!!!!!!!』


「どけどけぇえええええ!!コイツはユイちゃんの獲物だぁああああああ!!」


 俺の声に反応した黒百合が、後方から直線的に飛びかかってきた。


「うおっ!!危ねぇよ!!」


「ユイちゃんの通り道を塞ぐんじゃねぇ!!オラオラァ!!」


「って言われてもなぁ……」


 黒百合の自己中心的すぎる戦闘スタイルに呆気にとられていると、雨音に紛れた明智の叫声が微かに聞こえてくる。


「――かどくんっ、後ろ!!!」


「んっ?」


『グォォォォォォォ……!!!!!!!』


 振り返ると、興奮状態のモンスター型トキシーが咆哮とともに急接近していた。


「うおっ、危ねっ!」


 俺は咄嗟に剣を盾代わりにし、不十分な体勢でトキシーの体当たりを受け止める。


「ぐっ……足腰が……破裂しそうだっ……!」


 ゴーレム型とは比にならない強靱なパワーに俺は必死に食らいつく。雨で泥濘(ぬかる)んだ地面は踏ん張りが利きにくく、体力の消耗も激しい。足枷でもつけられたのかと錯覚してしまいそうだ。


「くっ……なんのっ……!これしきっ……!!やあああああああああああああっっっ!!!!!」


『グォォォォォォォ……!!!!!!!』


 俺は僅かにパワー戦で競り勝ち、モンスター型の体勢を崩した。


「よし、ユイちゃん!!今だっ!!」


「オラオラァ!!どけどけぇええええ!!!!!!!」


 他の個体を攻撃中だった黒百合は、俺の声に即座に反応すると、目の前のトキシーの背中目がけて拳を打ち込んだ。


「うおっ、アブねっ!」


 またしても間一髪で黒百合の攻撃を躱した俺は、何度も転がりながら突っ伏した。


『グォォォォォォォ……』


 そして黒百合の渾身の一撃により、目の前のモンスター型トキシーはHPが尽き、その場に(くずお)れた。


「ヒャハハハッッッ!!!!!!雑魚が!!もう死んじまったのかぁ???」


 黒百合は抜け殻の如く動かなくなったモンスター型の頭部に何度も踏みつけ、ひしゃげた装甲から火花と異臭のするオイルを撒き散らさせている。


「……これじゃあ、まるで(おとり)も同然だな……」


 為す術が無くなった俺は、這いつくばりながら明智の傍まで身を退く。


「御角くん、大丈夫ですか?」


「ああ、俺は大丈夫なんだが……白百合さんの様態が心配だ」


「ですね……なんか、さっきよりも動きが鈍くなっているような気が……」


 残りのトキシーにも攻撃を始めた黒百合であるが、本能に身体が追いつけていないのだろうか、呼吸が先程よりも一層荒くなっていた。


「確かに……あの様子だと、2体同時に相手するのは厳しいだろうな……」


 黒百合が獲得した討伐ポイントは最低でも50pt以上――つまりモンスター型をもう一体倒せば条件はクリアする。


 俺は顔の泥汚れを袖で拭い、明智に鋭い視線を向けた。


「やっぱり、俺も戦うよ。このままだと白百合さんも討伐ポイントが足りずに不合格になっちまう。俺がトキシーの体力を微調整して、トドメを白百合さんに決めてもらう。それがベストな戦略だと思うんだ」


「結衣ちゃんも、トドメを刺すこと以外は好きにしろって言ってましたからね」


 あとは、もう1体のトキシーの相手だが……


「おい、黒華!!お前も協力しろ!!」


 俺は相も変わらず後方で腕組みをしながら不敵な笑みを浮かべている男に怒号を浴びせた。


「ん~?ボクに(こうべ)を垂れるとは、どういう風の吹き回しカナ?」


「何でそんなポジティブに……じゃなくて、白百合さんがここで力尽きたら、お前も不合格になるぞっ!!」


「ハハッ☆心配してくれるなんて、キミもカワイイところあるじゃないか~」


「……ちっ、もういい!!」


 はなから期待なんぞしていなかったが、こんな状況でも茶化すような人間にかまけている余裕は無い。首席のコイツも、この場ではただの足枷だ。


「御角くんっ、明智も行きます!」


 明智が左腕をピンと垂直に挙げた。


「いやいや、無茶だろ!?クローネちゃんを背負いながらなんて……」


「確かに、真っ当に戦うのは難しいかもしれません。でも、大切なお友達が苦しんでいるのをただ黙って見過ごすのは嫌なんです!サポートくらいなら、明智だって出来ますよ!」


 明智は盾を展開し俺の前方に歩み寄る。引け目を感じてしまうほどの堂々たる佇まいは、もう立派なクロッカスの隊員だと言い張れるほど(たくま)しく見えた。


「……あぁ、ありがとう明智さん!」


 俺だって負けていられない。俺には俺の果たすべき役目がある。


「よしっ、白百合さんを救うぞっ!」


「ですですぅ~!!」


 試験は最終局面を迎えた今、天の涙は勢いをさらに増していた。


 ――ライセンス試験終了まで、残り10分。

こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。


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