File.47「親友・星芒」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)
人見知りな性格で、陽彩とは入試で協力し合った仲。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)
クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
※本エピソードには、一部過激な表現及び描写が含まれています。苦手な方はご注意のうえ、お読みください。
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「さっさとくたばれぇぇぇっっ!!!!」
凶暴化した白百合の攻撃は周囲の木々をも薙ぎ倒し、強敵相手に一切怯むこともなく、今までの白百合結衣という人間からは想像も出来ない面構えをしていた。
「あれが、白百合さん……で間違いないよな……??」
「フフッ、彼女の体捌きは実に素晴らしいよ。キミも刮目するといいさ」
黒華は白百合の戦いぶりに終始感心している。
「ノロいんだよ雑魚がぁ!!!!!ユイちゃんをナメんじゃねぇっ!!!!」
攻撃の度に、汚言が飛び交う。
「白百合さん……」
「彼女の闘争本能は一体何処から来ているのかなぁ~?ヒーロークンは、当然知ってるんだろう?」
黒華は首を傾けながら露骨に俺を煽る。
「……それをお前に言って、何になるんだ」
「ハハッ☆御名答のようだねぇ。まあ、子リスチャンの事情や過去なんてどーでもいいんだけど……」
「お前、ホントに性格悪いな……!それでもクロッカスの自覚はあんのかよっ……!」
今までもコイツの外道な行動は散々見てきたが、同じチームの仲間がこの状況になっても一切助けようとしないコイツの思考に、俺は苛立ちを露わにしてしまった。
ところが黒華は俺の物言いに屈するどころか、口元を真一文字にして俺に鋭い視線を向けた。
「性格の良い人間が、ここで生き残れると思うかい?」
「それは……でもよ、仲間のために何かしてあげようってのは、至極当然の考えというか……」
「だから君は”あまちゃん”なのさ。お人好しほど、ここでは損をする。綺麗事で済ませようとするのは勝手だけど、手段を選んでいるようでは周りの足を引っ張るだけさ」
「……」
一見捻くれているようで、コイツの言ってることは概ね理に適っている。だからこそ俺は何一つ反論などできなかった。
「覚悟しておくんだねぇ。ここに入ったということは……」
黒華は瞳を閉じると、少し間を置いてから口を開く。
「”人間として扱われなくなる”ってことさ」
「人間として……か……」
その含みのある冷徹な言葉と黒華の冷めた表情は、俺の背筋を凍りつかせると同時に、白百合がかつて同級生から向けられたという辛辣な言葉を想起させた。
『人間じゃねーよ、アイツ』
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一年前、秋田県某所――
定期試験終了後、結衣が腰を上げたと同時に一人の女の子が駆け寄ってきた。
「結衣ちゃーん!一緒に帰ろ!」
「うん、いいよ!菊ちゃん、今日は部活お休み?」
「試験直後だからね~面倒くさいからサボっちゃおうかなって!」
「えぇー悪い子ー」
「えへへ~」
菊ちゃん――淀川 菊は結衣の幼馴染で親友だ。天真爛漫なムードメーカーの彼女は体育祭の実行委員長を務めており、クラスメイトからの信頼も厚い。
結衣たちは土足に履き替え、正門に向かって歩み始めた。衣替えの季節が近づいてきていることもあり、学ランやブレザーを脱いで下校する生徒が大半を占めている。
「結衣ちゃん、今回も1位取れそ?」
「うーん、どうかなぁ……今年は入試だし、他のみんなも勉強してるんじゃないかな?」
「グサッ!刺さるな~~私なんて授業中に起きてるだけで精一杯なのに~」
菊ちゃんは陸上部に所属しており、今の時期は多忙を極めているのだそうだ。睡眠不足は致し方ない。
「じゃあ、菊ちゃんは明日から結衣と追試のお勉強、頑張ろうねっ」
「ひぇ~~~~~っ」
菊ちゃんは頭を抱えてその場に蹲った。お勉強はちょっと苦手な子だけど、結衣を頼ってくれるのは素直に嬉しかったり。
正門を出ようとした瞬間、背後から聞き馴染みのある声が飛んできた。
「あんれぇ?白百合と淀川じゃん、テストおつー」
「お疲れさま、小長井さん」
明るい頭髪と軽い口調、着崩した制服が特徴的な声の主は、クラスメイトの”小長井 りり” さんだ。
「丁度良かった!あんさ、今日の夜空いてる?」
「……空いてるけど、今日何かあったっけ?」
「流星群が来るらしいんよ!しかも50年に一度らしくて!一緒に見に行かない??」
「流星群か……えっと……」
急な誘いに戸惑っていると、菊ちゃんは目を輝かせて結衣の手を握りしめた。
「イイじゃん行こ行こ!結衣ちゃんっ」
「……うんっ!」
菊ちゃんの誘いには多少強引でもつい乗っかってしまう。それに、天体観測には多少なりとも興味はあった。
「決まりっ!じゃあ夜7時、学校の正門で!それと……」
小長井さんは少し言い淀むと、眉をひそめて結衣たちに想定外の耳打ちをした。
「えっ……?でもそれってバレたら絶対怒られるよ……」
「いーからいーから!大丈夫だって!安全は保証すっからさ!」
小長井さんの提案に気乗りはしないけど……菊ちゃんも楽しみにしているし、今さら引き下がれない。
「……うん、わかった」
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「菊ちゃん、小長井さん、お待たせ……!」
家族への言い訳に時間を割いてしまったことが仇となり、結衣は5分ほど遅れて集合場所に到着した。
「白百合おっそ~い!早く行くよっ!」
「ええっ、ちょっと……!」
着いたばかりの結衣の袖をグイッと引っ張った小長井さんは、心踊らせながら歩みを進めた。
それから2,30分くらいは経過しただろうか。結衣たちは市街地から離れた山道の入口付近に到着した。
「二人とも、メモリングちゃんと家に置いてきたよな?」
「小長井ちゃんに言われちゃ、逆らえないよね~」
「……だね」
「ヨシッ、良い子たちだ」
小長井さんは満足げに結衣たちの頭を撫でると、茂みの先で徘徊している物体に目をやった。
「アイツだ」
「あれは……警備クロー、だよね」
「ああ、コロニーの外縁はアイツらが巡回してるからな」
「小長井ちゃん、ホントに掻い潜ることなんて出来るの?警備クローってそんなザルじゃないでしょ」
「安心しな。メモリングが無きゃ、アイツらの目は節穴も同然さ。それに、コロニー外への脱走はこれが初めてじゃないしな」
「うわーマジ?小長井ちゃん超ワルじゃん……」
菊ちゃんは若干呆れているが、小長井さんは一切動じずに強気な姿勢を見せている。
「だってさぁ、トキシーが出てから全然山とか海とか行けなくなっちゃったじゃん?一度きりの人生、我慢してたら損でしょ!」
「一度きりの……人生……」
そうだ……人生は一度きりなんだ。
周知の事実だけど、つい忘れてしまう。
トキシーが出現してから人々の生活は大幅に制限され、この国には以前のような活気が無くなっていた。
光陰矢の如し――いまこの瞬間は二度と戻ってこない。誰がどう願おうとも。
華の青春時代、少しくらい冒険したっていいじゃないか。
失敗しようが後悔しようが、最後に笑い話にさえなれば、それでいい。
「結衣ちゃん?」
「あっ、ごめんね!何でもない」
いけないいけない。つい自分の世界に没入してしまった。
「じゃ、行くぞ。ついてきな」
「ラジャー」
「……うんっ」
結衣たちは警備クローの監視の目を掻い潜り、駆け足で山中へと分け入った。
「結構地面荒れてるなぁ……しかも暗いし」
「そうだね……」
結衣と菊ちゃんは小型の懐中電灯で足元を照らしつつ、先行する小長井さんの背中を追っていた。
「がんばれ、もうちょっとだぞっ!」
小長井さんが鼓舞をしてから間もなくして、茂みを抜けると開けた場所が広がっていた。
「ここは……」
警戒しながら周囲を見渡していると、菊ちゃんが興奮気味に結衣の腕を引っ張り、夜空を指差した。
「ねえねえ、結衣ちゃん!」
「ん……?はっ……!」
天を仰ぐと、おとぎ話の世界に引き込まれたような絶景が広がっていた。漆黒の夜空と無数の星影が織りなすコントラスト――宇宙の壮大さを語るにはあまりにも十分すぎた。
「なっ、すんげー綺麗だろ?」
「結衣、こんな綺麗な星、生まれて初めて……」
「私もだよ……ありがとね、小長井ちゃん」
「へへっ、いいってことよ!……あっ!見て見て流れ星!」
「わぁ、ホントだ……!」
満天の星空に一筋の流星が降り注いだ。
その直後、菊ちゃんが小さく息を漏らすと、結衣と小長井さんの肩に腕を回した。
「そうだ、折角だし願い事でもしようよ!」
「願い事?」
「ほらほら、結衣ちゃんも小長井ちゃんも目閉じて!」
「うんっ」
「しゃーねーなぁ」
小長井さんは恥ずかしそうにしながらも、首を上に傾けながら瞳を閉じた。結衣も両指を絡めて胸元に寄せ、ゆっくりと瞳を閉じる。
――ああ、何て幸せな時間なんだろう。
願い事なんてついさっきまで考えてもいなかったけど、”この時間が永遠に続いて欲しい”という想いは明確に芽生えていた。
この瞬間は、間違いなく結衣の青春の一ページに深く刻まれるだろう。
そう確信できた。
「みんな、ちゃんとお願いした?」
「ま、一応な」
「結衣も……」
各々の願いを星空に委ね悦に浸っていたところ、周囲の木々が徐々に揺れ動く。
「ねえ、何か足音しない……?」
最初に気がついたのは菊ちゃんだった。
「んっ、もしかしたら、ウチら以外にも来客がいるのかもなっ!」
「だといいんだけど……」
この穴場を知っている人間はそう多くは無いだろうが、もしかするとクロッカスがパトロールに来ているのかもしれない。
「私、ちょっと様子見てくるよ。直ぐ戻るね!」
「えっ、菊ちゃん!?」
考えるよりも先に身体が動いてしまう性分の菊ちゃんは、危険を顧みず足音のする方向へと姿を消してしまった。
――それから30分が経過しても、菊ちゃんは戻ってこなかった。
「淀川、おっそいなぁ」
「菊ちゃん……」
二人に積もり積もっていく不安、いつの間にか消えた足音。
先程の高揚感は何処かへ消え去ってしまった。
5月の夜の山頂は、徐々に寒さを増していく。
根拠は無いが、嫌な予感がする。
そして、先程よりも数段大きい足音がもの凄い勢いで近づいてきた。
「やっぱ、この足音って……」
『グォォォォォォォ……!!!!!!!』
茂みの奥から姿を現したのは、体長3m越えの得体の知れないバケモノだった。耳鳴りのような金属音、鋭い鉤爪、そして……口元からはみ出している大きく鋭利な牙には、人間の死体が二つ……串刺しになっていた。
この世のものとは思えない凄惨な光景に、結衣たちは言葉を失うしかなかった。
「……!!!!!!」
死体のうちの一つ――腹部を貫かれ、目の前のバケモノの動きに合わせて力なく仰向けで揺れ動いていたのは――紛れもなく、菊ちゃんだった。
ついさっきまで生きていた親友が、同じ夜空を眺めていた親友が、トキシーに殺されたのだ。
「き、ききっき、菊ちゃ、う、う、う……」
「し、白百合……?」
――苦しい。
――胸が灼けそうだ。
瞳を閉じる。
――そう、夢だ。きっと、悪夢を見ている。
――なんて解像度の高い悪夢だろう。
周囲の音が、次第に聞こえなくなっていった。
「うっ、うっ、ううっ……うああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
————————————————————◇◆
「……」
――満天の星空。
「……」
――綺麗だ。
「……あれ……?」
結衣は、仰向けで倒れていた。
「んっ……!」
力が入らない。
「ゆ、結衣……は……」
「うっ……ぎゃああああああっ!!!!!」
声のする方へ首を回すと、全身を大きく震わせている小長井さんが、脚を引きずりながら後ずさりをしていた。
「……ええっ?」
「こ、来ないでっ!!!」
小長井さんは顔や腕など、複数箇所に痣ができており、結衣に怯えながら涙を流していた。結衣の掌も傷だらけになっている。
「えっ……?」
状況を飲み込めないまま、結衣はゆっくりと反対側へ首を回した。
そこには、グシャグシャになったトキシーの残骸、そして……
「菊ちゃん……?」
菊ちゃんの亡骸が仰向けの状態で転がっていた。
「菊ちゃ……んっ!!」
結衣は歯を食いしばり、匍匐全身で菊ちゃんとの距離を詰める。
「菊ちゃんっ!!菊ちゃんっ!!」
何度呼びかけても、菊ちゃんはびくとも反応しない。
「……起きてよ……菊、ちゃん……」
菊ちゃんの魂は、遥か遠くの――宇宙よりも遠い場所へ旅立ってしまった。
「結衣の願い事……もう……叶わなくなっちゃった……」
菊ちゃんの瞼から頬を伝い、既に乾いてしまった涙が流星のような輝きを放っていた。
結衣は菊ちゃんの冷え切った右手を握りしめ、嗚咽混じりに泣き叫んだ。
「うぅ、うっ、うあああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
きっと、結衣も菊ちゃんも、同じことを願っていたんだと思う。
『またこの3人で、満天の星空が見られますように』
――でもこの瞬間だけは、無数の星芒すらも吐き気がするほど煩わしかった。
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
結衣が何故このような性格になってしまったのか、何故クロッカスを志すことになったのか、その原因となった凄惨な過去を書かせていただきました。
狂戦士としての顔を持つ結衣は、今後クロッカスでどのように生きていくのか。
そもそも、試験は無事終えることができるのか。
是非、最後まで見守ってあげてください。
YouTube&ニコニコ動画にてビジュアルボイスドラマも公開中です♪
↓下記URLよりご覧いただけます☺️↓
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