File.45「達磨・刻限」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆明智 柚葉 (あけち ゆずは) 15歳(高1)
フレンドリーなクラスのムードメーカー。可愛いものが大好き。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
「はぁ……はぁ……速ぇな、アイツ……!」
俺は指定のポイントに向かって全速力で向かっている最中だ。曲がり角や階段を上手く活用することで、四足歩行型との距離を何とか保っている。
「明智さんっ!そっちの準備はできてるか!?」
『バッチリですぅ~!!御角くんの位置情報も届いてますよ~!!』
「了解!あとは頼むぜっ!」
指定のポイントまであと10秒といったところか。俺は最後の曲がり角に照準を定め、減速せずに最適な体勢で進入した。俺を追っている四足飛行型は遠距離攻撃を仕掛けてはこないらしく、このまま逃げ切ることができれば作戦は成功するだろう。
そして曲がり角を抜けた先には、長机や椅子を組み合わせて作られたバリケードが一面に張り巡らされており、天井付近の僅かな隙間には、腹ばいで待機をしている明智の姿があった。この短時間でよくここまで作り上げたものだ。
俺は残った体力を振り絞り、ラストスパートをかけて加速する。
「明智さぁ~~~~~~んっ!!!!!!」
「ですですぅ~!!」
俺は明智に合図を出し、バリケードの僅かな隙間に身体をねじ込むようにして飛び込んだ。そして背負っているクローネちゃんにダメージを与えぬよう、俺はコンクリートの床に顔面からスライディングする羽目になった。
「ブブブブブェェェッッッッ!!!!!」
痛ってぇーーーーーっ!!!!!床痛ってぇーーーーーっ!!!!!
脳内の俺が悲鳴を上げたのも束の間、四足歩行型はバリケードに激しく体当たりをしてきた。普通であればバリケードは破壊され、俺とクローネちゃんは完全に巻き添えを食らってしまうところだが――このバリケードには”ある仕掛け”が施されている。
————————————————————◇◆
――数分前、俺は明智に作戦を耳打ちした。
「……”ダルマ落とし作戦”、ですか?」
『何言ってんだお前』と言いたげな顔――ではないが、明智は全く想像が出来ていないらしく、首を大きく傾げている。まあ無理もないか。
「あぁ、そこの壁際に長机と椅子が大量に放置されているだろ?学校や廃ビルを舞台にしたホラーゲームなんかは、コイツを組み立ててバリケードにしていることが多いんだ」
「そーなんですね……でも、敵さんはパワーもあるでしょうし、簡単に壊されちゃいそうですね」
「問題はそこだ。アイツの強靱なパワーを逆手に取るのが、この”ダルマ落とし作戦”だ」
「なる……ほど……?」
明智は今度こそ『何言ってんだお前』と言いたげな顔を俺に向けている。俺は気まずさを紛らわせるため、軽く咳払いをする。
「……まず、机を四段重ねてバリケードの基礎を壁一面に張る。下二段だけをロープでガチガチに固定、上二段はあえて崩れるようにするんだ。あとは俺がトキシーをおびき寄せて、下段に一箇所だけ設けた隙間にダイブする。そうすれば、ダルマ落としみたいに下段がスライドして、上に積んである机がトキシーに落ちてくるだろ?いい足止めになると思うんだ」
「でも、それだと御角くんが巻き添えを食らっちゃいますよ?それに、クローネちゃんも……」
「確かに……この作戦は難しかったかな」
我ながら冴えてる作戦だと思ったが、あまり現実的では無かったようだ。俺がどれだけ机の下敷きになっても、トキシーに攻撃さえ受けなければHPは恐らく減らないだろうが、クローネちゃんはそうもいかないからな。
半ば諦めかけていたところで、周囲を見渡していた明智が小さく声を漏らした。
「……あっ、解決する方法、ありましたですぅ~!!」
「……ん?」
「そこの張り出している支柱ですぅ~!あそこだけ廊下の幅が狭くなってますよね?」
明智の言う通り、廃ビルの廊下は建設の都合上、支柱が張り出している箇所が存在している。
「確かにそうだな……あっ、そうか……!」
「ですですぅ~!!あの柱をストッパーにしちゃえば、御角くんとクローネちゃんは柱の向こう側へ、敵さんはストッパーに引っかかったバリケードでがっちりガード!」
「あとは、バリケードの上段で待機している明智さんがトドメを刺す――こんな感じでどうだ?」
————————————————————◇◆
作戦通り、積み上がっていた机や椅子が次々と四足歩行型の背中にぶち当たっていく。
『グォォォォォォォ……!!』
「しゃあ!今だ!!明智さんっ!!」
「お任せあれ!ですぅ~!!」
明智は下敷きになった四足歩行型に跨がると、L・ウィップを巧みに操り、四足歩行型の巨体をいとも簡単に渦巻き状に巻きつけ、そのまま窒息させるかのようにジリジリと締め上げた。
『グォォォォォォォ……』
「けっこう惨い技だな……」
四足歩行型に同情してしまいそうになるほど、そのか細い呻き声は妙に虚しく聞こえた。
《Group1 Team3:明智柚葉 30pt 獲得》
どうやらチームメイトの戦況は共有されるらしい。試験開始から約40分、俺たちのチームはようやく討伐ポイントを得ることが出来た。俺はゆっくりと立ち上がり、明智に笑顔を向ける。
「よっしゃあ!上手く行ったな!!」
「ですですぅ~!!これも御角く……ん!?!?!?おでこから血が出てますよ!!血!!とりあえず絆創膏を!!」
明智は瞼を大きくかっぴらいて仰天すると、慌ただしくウエストポーチを漁り、消毒液と絆創膏を渡してきた。
「んおっ、悪ぃな」
俺は冷静に絆創膏のシールを剥がそうとするが、明智に手首をガッシリと掴まれてしまう。
「いえいえ、明智が貼りますので!御角くんはじっとしててくださいっ!ハイ座って!」
明智は自前のハンカチを俺の顔面にゆっくりと近づける。心なしか柔軟剤特有の仄かに甘い香りが俺の鼻腔を擽る。
「ちょ、ちょっと……!顔くらい俺が拭くか――」
「動いちゃダメですっ!」
「……ハイッ」
俺は明智に制されるがまま、息を殺しつつ手当を受けた。正直死ぬほど恥ずかしいし、目の前の光景を直視できるほど俺はこういうのに慣れていない。消毒液が傷口に染みる激痛など、もはやどうでもいい。不可抗力とは言え、年頃の男子には刺激が強すぎるぜ……
はぁ……俺はもう、天国に逝ったんだな……って、いやいや、これじゃあ俺まで怪我人側じゃねぇかっ!
……実際怪我人なんですけども。
「これで……バッチリですぅ~!!」
「……お、おう!ありがとな!」
俺は素早く立ち上がると、明智に背を向けて目一杯息を吸い込んだ。埃まみれでお世辞にも美味しい空気とは言えないが。
それに、この状況を他の男子が監視していたらと思うと――俺の寿命はそう長くはなさそうだ……
「ゴホン……!この調子でギア上げていこうぜ、明智さん!」
「ですですぅ~!!」
俺たちは気を取り直して荒廃都市の別エリアへと向かった。
————————————————————◇◆
試験開始から55分経過――
「ヤァァァァーーーーーッ!!!!」
『グォォォォォォォ……!!』
《Group1 Team3:御角陽彩 20pt 獲得》
「っしゃあ!ゴーレム型撃破っ!」
「御角くん、ナイスプレーですぅ~!」
俺たちはクローネちゃんを交互に背負いつつ、順調に討伐ポイントを稼いでいた。
《Group1 Team3》
討伐ポイント合計 85pt
御角 陽彩 35pt (HP 74%)
明智 柚葉 50pt (HP 81%)
救助ポイント 127pt
試験終了まで 残り 34:33
「合格ラインまであと115ptか……前半でのんびりしすぎたかもなぁ」
「クローネちゃんを護るのが最優先ですからね~なかなか難しい試験ですぅ……」
廃ビルが建ち並ぶこのエリアは、見通しが悪いうえにかなりの広さがあるため、下手に行動は起こせない。それは明智も重々理解しているはずだ。同時攻撃が困難なこの状況では、どうしてもポイントの回収効率は悪くなってしまう。
「どうしたものか……」
俺が腕を組みながら色々と思い悩んでいる一方で、明智は明後日の方向を見つめ、どこか物憂げな表情を浮かべていた。
「……明智さん?」
「……ハッ、ごめんなさいですぅ!ちょっと考え事しちゃってて」
「いや、いいんだ。タスクが多いと頭真っ白になるよな〜」
「ですですぅ~」
明智は申し訳なさそうに眉間に皺を寄せているが、気持ちを切りかえようと大きく背伸びをし、両頬を軽く叩いた。
テキトーに取り繕いはしたものの……きっと、俺も明智も考えていることは同じだろう。
真実を知るか否か――ただ、それだけの違いなのだ。
”考えるな、今は忘れろ”――解っているはずなのに、その刻限が迫るほど俺は気が気では無くなっていた。
だって、白百合結衣は俺たちの大切な友達なのだから。
彼女がこの学園を去ることを、俺たちは微塵も望んでいない。
であれば、俺が起こすべき行動は……
「……明智さん、ひとつ提案があるんだ」
「はいっ、なんでしょうか?」
「提案と言うよりは、願望なんだが……」
「……?」
俺は深呼吸をして、真剣な面持ちで明智に鋭い視線を向ける。
「……今回の試験、俺と一緒に不合格になってくれ」
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
試験は後半戦に突入し、ギアを上げていこうと士気を高めたのも束の間、陽彩の放った衝撃の発言の真意とは一体……
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