File.44「狂犬・連鎖」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆明智 柚葉 (あけち ゆずは) 15歳(高1)
フレンドリーなクラスのムードメーカー。可愛いものが大好き。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)
人見知りな性格で、陽彩とは入試で協力し合った仲。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)
クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆宇紺 慎弥 (うこん しんや) 15歳(高1)
苧環の取り巻きで、暴力的で短気な性格から『狂犬』と称されている。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆外村 大和 (そとむら やまと) 15歳(高1)
入試では40位合格を果たした、気弱で大人しい性格の持ち主。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
15分前――
トキシーの巣窟へと繋がる入口から、怪我人を抱えた少年・黒華苧環と、俯きながら黒華の影を踏みつけるようにして歩を進める少女・白百合結衣が姿を現した。
「おっかしいなぁ?トキシーチャンたち、全然居ないじゃないか〜。ネッ?子リスチャン☆」
「……」
小動物の如く身震いする白百合は、唇を噛み締めつつ黒華から視線を逸らす。
「……おや?」
不穏な空気が漂う中、メモリングに一斉メッセージが届いた。黒華はメッセージを読み終わると、ほくそ笑みながら白百合の頭上に掌を乗せる。
「フッ、フフッ」
「……何……でしょうか」
白百合は神経を逆撫でされたかのように不機嫌な様子で、黒華を鋭い眼差しで睨みつける。
「子リスチャン……いよいよショータイムダヨッ☆」
「……」
届いたメッセージを黒華に見せつけられた白百合は、思わず唖然として全身が萎縮してしまった。
「やっぱり、彼に見られちゃうのが怖いのカナ?」
「……違いますっ!!結衣は……結衣は……!」
「ハハッ☆必死だねぇ〜」
白百合の破れかぶれの抵抗も、黒華は鼻であしらう。彼には何を言っても通用しないと察した白百合は、もはや苛立ちすらも消え失せてしまったかのように視線を落とした。
「……あなたは……何が目的なんですか」
「目的、ねぇ……」
黒華はわざとらしく顎に手を当てると、指をパチンと鳴らして白百合の鼻先にその指を添える。
「そんなもの、ボクは初めからひとつだけさ。キミに鎌をかけているのは、所詮ただの暇潰しだよッ☆」
「……」
黒華の外道な発言に絶句した白百合は、ついに何も言い返さなくなった。そんな白百合に追い打ちをかけるようにして、鏃に毒を塗りたくった矢が次々と彼女の心臓に突き刺さる。
「……それとも、キミは今日で終わりかい?クロッカスに入って、自身を変えたいって気持ちは、ボクに煽られた程度で途切れてしまうのかい?」
「うっ……」
「別にボクは、キミを退学に追い込みたいわけじゃないのさ。むしろ、”あの姿”を入試で見た時、確信したよ。キミには、常人が持ち得ない才がある。ボクですら羨むレベルさ。それを利用せずして、この学園を去るのは勿体ないにも程がある」
「……結衣は、兵器になりたいわけじゃない……結衣は、人間ですっ……一人の、人間ですっ!!結衣の人生は、結衣の意志で決めますっ!!誰の所有物にもなりませんっ!!」
白百合は心の奥底に眠っていた自我を吐き出した。
彼女の自我を釣り上げた黒華は、満足げに前髪を掻き上げる。
「だったら、残りの時間、キミがやるべきことは”ひとつ”だろ?」
「……わかってます……と思います……」
「フフッ……さあ、任務開始だ☆」
————————————————————◇◆
俺は3階部分に近づくにつれ、徐々に足音を鎮めるようにして階段を上っていった。身を潜めながら3階の廊下へ顔を覗かせると、討伐済みの小型トキシーが2,3体ほど転がっており、廊下の突き当たりで二人の男子生徒が揉め事を起こしていた。というより、一方がもう一方に対してひたすら罵詈雑言を浴びせていたのだ。
「てんめぇ外村ァ!!怪我人しっかり見とけって言ったよなぁ??」
「う、うぅ……!だ、だって、僕もポイント稼がないとだし……」
後頭部を両手で抱えながら蹲っている気弱な男子生徒は、外村 大和。外村の背中を脚で容赦なく押さえつけている男子生徒は、黒華の取り巻き宇紺 慎弥だ。
宇紺はペア訓練が始まった辺りから気性の荒さがエスカレートしており、成績下位層のクラスメイトからは黒華以上に煙たがられている存在だ。一部からは、影で『狂犬』だの『暴れん坊ウ〇コ』だの呼ばれているんだとか。
「あぁん?俺に逆らうのか?劣等生の分際でよ……!」
「ひっ、ひぃぃっ!!」
宇紺は怯える外村の前髪を強引に引っ張り上げ、無防備な顔面に殴りつけようと拳を振り上げた。
「おい宇紺!外村くんに何してやがる!」
俺は無意識のうちに物陰から飛び出し、宇紺の左手首を捕まえた。宇紺は俺を視認すると、掴んでいた外村の頭を地面に軽く叩きつける。
「……んだぁ?ちっ、シスコン野郎かよ。邪魔する気か??」
「邪魔も何も、殴ろうとしてただろ。外村くん、怯えてるじゃねぇか……!」
「ふんっ、いいんだよコイツは。足を引っ張ることしか能の無いポンコツだからな」
「ひっ、ひぃぃっ……」
言われっぱなしの外村は、情けない泣き声を上げることしかできずにいる。
「一体何があったんだよ……」
「あぁ、この外村に怪我人を見ておけって指示したら、勝手に別のフロアに移動して、怪我人放置して雑魚トキシーを狩り始めやがったんだよ。そのせいで……ほらよ」
宇紺はメモリング内のアプリを開くと、リザルト画面を俺に見せてきた。
「救助ポイント……108pt!?もうちょっとで失格になっちまうじゃねぇか……」
「そーだ。こーゆーヤツがクロッカスで小さなミスを犯し続けると、バタフライエフェクトで大損害を引き起こしかねない。ここいらで去ってもらう方が、世のため人のためになるんだよ」
「でも、そしたらペアのお前までこの学園を去る羽目になるぞ」
「だからコイツを殴って制裁してやろうとしてたんだよ!!ボケ!!」
「ひっ、ひぇぇえええっ!!!」
宇紺は再び外村の前髪を引っ張り上げ、拳に力を込め始める。
「待て待て宇紺!まずはしっかり話し合いをだな……」
「話し合いもクソもあるか!!こんな自己中なヤツ――」
「自己中はお前だ!!それに、ここで外村くんを殴ったら、失格はおろか退学処分にもなりかねないんだぞ!お前はそれでもいいのかよ!!」
俺は怒りを爆発させ、外村の分まで全力で正論をぶつけた。想像を遥かに超えた俺の反撃に少しばかり怯んだのか、宇紺はバツが悪そうに俺から視線を逸らした。
「……ちっ、命拾いしたなぁ、外村。ほら、さっさと行くぞ」
「うっ、うぅ……」
宇紺は怪我人を背負うと、特段俺に歯向かうこともなくその場を立ち去った。
一方、精神的にも肉体的にもボロボロになった外村は、小鹿のように両足を震わせながらも、その重い腰を上げた。
「……御角くん、ありがとうね。助かったよ」
「……いや、いいんだ。お互い頑張ろうな。宇紺のことはあまり気にしすぎるなよ?」
「……うんっ」
俺は外村の肩をポンと叩き、念を込めて宇紺の元へと送り出した。
そんな外村の頼りない作り笑顔が、ある人物を彷彿とさせたのだ。
「……そうだ、白百合さん……」
あれだけの数のトキシーが蔓延っているのだ。すでに”その刻”を迎えているのかもしれない。
彼女も、そして俺も、もう覚悟は出来ているはずなのに。
手の届かないところがずっとむず痒い――そんな気分だ。
どうやら事実を知っているらしいあの男――黒華苧環は、今何を企んでいるのだろうか。
頭を抱えながら唸っていたのも束の間、地割れのような足音が凄まじい勢いで迫ってきた。わざと脆く造られた廃ビルは激しく揺れ、ひび割れた天井からは砂ぼこりの雨がフロア全体を灰色に染めていく。
「んおっ!?何だよ今度は!?」
地割れのような息遣いが徐々に迫ってくる。まさかとは思うが……
「……ゲッ、またお前かよっ!」
姿を現したのは、先程俺と明智をロックオンしてきた四足歩行型のトキシーだった。近くで観察すると、その禍々しさがより際立っている。こんなバケモンが世に蔓延っているのかと思うと、手の震えが止まらなくなりそうだ。
《Quadruped Toxxy 30pt 100% ■■■■■■■■■■ 》
「しかも、ゴーレム型よりも強ぇってことだよな……」
俺は勝手に高鳴る心臓を制服越しに無理矢理押さえつけ、一度深呼吸をしてからインカムのミュートを外す。
――そうだ、窮地の時こそ冷静になれ。
今はただ、明智と協力してポイントを稼ぐことだけを考えればいい。
「明智さん、聞こえるか!?」
『はいはいっ!こちら明智ですぅ〜!』
「さっきの四足歩行型に見つかった!伝えた作戦通り、よろしく頼む!」
『了解!ですですぅ~!!』
俺は明智に最低限の要件だけ伝え、全速力で階段へと向かった。
――さあ、任務開始だ!
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
各チームが様々な問題を抱える中、ついに"その刻"を迎えようとしています。
陽彩、柚葉、そして結衣の運命は如何に……
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