File.43「荒廃都市・怒号」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆明智 柚葉 (あけち ゆずは) 15歳(高1)
フレンドリーなクラスのムードメーカー。可愛いものが大好き。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆アカツキ
陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。
お嬢様口調で、派手な見た目をしている。
◆クローネちゃん
美少女の見た目をした人型クロー。ライセンス試験では怪我人役。
第一ミッション終了まで残り1分、俺は全速力で明智の居場所まで辿り着いた。屈みながら慌ただしく周囲を見渡している明智に対し、飛びかかるような勢いで距離を詰める。
「はぁ……はぁ……明智さんっ!一体何が!?トキシーか!?」
「はっ、御角くんっ!いいえ、この箱ですっ!!」
取り乱した様子の明智は、茂みにポツンと置かれた棺桶サイズの金属製の箱を指差した。
「んっ、何だこれ……?もしかしてクローネちゃんがこの中に……?」
「ですです!箱の側面に注意書きが!」
「どれどれ……『二人同時に中央の液晶モニターにメモリングを3秒間翳すことで解錠が可能』か……多分コレのことだよな」
俺は箱の中央に設置された小型の液晶モニターに目をやった。明智が俺を緊急招集したのはこの狡い仕掛けのせいか。
「ですです!急いでクローネちゃんを救出しましょう!!」
「……おう」
俺は明智に言われるがまま、液晶モニターに左手を翳した。明智も俺と肩を密着させるようにして左手を翳す。制限時間が迫っているから仕方がないとはいえ、わざわざ俺の真横に来る必要なんてあるのか?ほら、箱の反対側に回った方が絶対に収まりが良いはずだろ。
冷静に考えて、俺の隣にいるのはクラスのマドンナ的存在の女の子だ。むしろ緊張しない方が無礼というもの。鼻の下を伸ばすくらい赦されても……良いはずだ。
……決して俺は色欲に溺れているわけでは無いっ!断じて!Nothing!
「あっ、開きましたのですぅ~!!ミッション成功ですぅ~!!」
余計なことを考えているうちに、閉ざされていた棺桶から黒髪ショートヘアの美少女がゆっくりと身体を起こし始めた。
「……おっ、クローネちゃんだ」
「相変わらず別嬪さんですね〜明智、羨ましいですぅ~!!」
「別嬪って……」
随分と昔の言葉を引っ張ってきたな。それに、君も別に負けてないと思うぞ……?自覚は無いだろうけど。
「てか、こんなイヤらしい仕掛けが他に沢山あるとしたら、どう考えても第二・第三グループが有利にならないか?あいつら、俺らの様子カメラで見てるんだろ?」
「あー、その辺は、上手く映らないようになってるらしいですよ?」
「へぇ……じゃ、いっか」
どういう原理かは知らんが、試験の公平性は上手い具合に保たれているようだ。そもそも、今はそんな心配をしている場合じゃないが。
「さっ、クローネちゃんの応急処置をするぞ。クローネちゃん、どこか痛いところはないか?」
『ピピ……シカトキイロさん……』
その誤情報、クローネちゃん間で共有されてるのか……
『ピピ……左腕が折れているかもしれないです……あと、右足首から、出血多量です……トキシーに、引っ掻かれました……』
「なっ!大怪我だな……明智さん、消毒液と包帯の用意を!俺はクローネちゃんを回復体位にするから!」
「ビシッ!了解ですぅ~!!」
俺はクローネちゃんにダメージを与えぬよう慎重に抱きかかえて箱から救出し、回復体位を取らせた。その後、明智が適切な処置を施し、俺たちの残り救助ポイントは146ptとなった。
「このスピードで処置しても4pt減るのか……結構繊細なんだな」
もしトキシーの攻撃をもろに喰らいでもしたら、救助ポイントは瞬く間に100ptを下回ってしまうだろう。
俺は救命具を装着してクローネちゃんを背負い、周囲を警戒しつつマップを確認する。
「さてと……今のところ、人工森林とトキシーの巣窟が開放されてるけど、どうする?」
「そうですねぇ……他のチームと協力は出来ませんし……あっ」
明智が「う~ん」と唸りながらマップを操作していると、メモリングに一斉メッセージが届いた。
《 “模擬荒廃都市”にトキシー大量発生!! 受験者は怪我人を保護しつつ、直ちに荒廃都市エリアに向かえ! 》
「模擬荒廃都市……」
さらっと追加された新エリアだが、クロッカスの訓練場にこんなものが隠されていたとはな。高いコンクリート壁に囲まれていると案外気がつかないものだ。わざわざこんな通達を寄越したということは、森林や巣窟には殆どトキシーは出現しないだろう。
人命救助が絡んでいるというのに、ずかずかと危険エリアに足を踏み入れるのもおかしな話だが……
「確か、森の最西端に入口があったはずですっ!急ぎましょう!」
「おう!」
俺たちは細心の注意を払いつつ、模擬荒廃都市の入口へと向かった。
————————————————————◇◆
試験開始から15分経過――
「うわぁ……良く出来てるなぁ……」
「不気味ですね……」
模擬荒廃都市は、まさにトキシーに襲撃されたビル街を忠実に再現していた。多くの建物が激しく損傷しており、足の踏み場も限られている。10年前の大事件の片鱗を想起させるような、身の毛がよだつ空間だ。
俺はメモリングで試験の状況を今一度確認する。
《Group1 Team3》
討伐ポイント合計 0pt
御角 陽彩 0pt (HP 100%)
明智 柚葉 0pt (HP 100%)
救助ポイント 146pt
試験終了まで 残り 74:43
討伐ポイント200ptを得ること自体は、決して難しくはない。残りの時間でゴーレム型を4体ずつ倒せれば達成できるだろう。やはりこの試験の肝となるのは、救助ポイント100pt以上を死守することだ。クローネちゃんを背負いながらの戦闘は無謀に等しい。二人同時にトキシーの相手をするのはあまり現実的では無いか。
「明智さん、俺が前方をシールドで塞いでおくから、後方からの奇襲に警戒しておいてもらえるか?」
「ビシッ!了解ですぅ~!」
明智は元気よく敬礼すると、相棒のもっちちを両手で抱えて天に突き上げる。
「L・ウィップ!」
「んんっ??なんだそれ??」
明智が謎の詠唱をした次の瞬間、もっちちは眩い光を放ち、剣でも光線銃でも、もちろん盾でもない別の物体へと姿を変えた。
「えへへ~これは、明智のL・スキル、鞭さんですぅ~!」
明智はリボンの如くしなやかに動く革鞭のようなものをクルクルと振り回している。
「明智さん……そんなもん振り回して、乗馬でもするのか?」
「まさか~!個別に与えられた特殊な武器ですよ~!御角くんも持ってるんじゃないんですか?」
「いやいや、知らんぞ!?アカツキ、もしかして俺にも――」
「ありませんわよ」
「あっ、ですよね……」
淡い期待を抱いていたが、二つ返事で否定されてしまった。L・スキル――俺もそれ欲しいんだけど。なんか……みんなばっかズルくない??
「ケッ!そんなもの無くたって、ミーの生み出す武器は最強ですわっ!フンッ!」
アカツキは珍しく二代目ルミナスクローに対する嫉妬心を露わにしている。いい気味だぜ。
「明智、中学の時は新体操をやっていたので!この武器が与えられたのにも納得ですぅ~!」
「へぇー、知らなかったな」
新体操選手の明智柚葉――想像するだけで絵になるな。
「……!」
またしても要らん妄想をしていると、明智が突然目を丸くして前方に視線を向けた。
「どうした明智さん……なっ!?」
振り返ると、瓦礫の山の奥で大量のトキシーが徘徊していた。飛行型、ゴーレム型、他にも見たことない種類のトキシーが合計で10体……いや、20体近くは湧いているだろうか。
「さすがに、これはキツイですね……」
「こんな数、まともに相手したらすぐヤラれちまうぞ……」
額に浮かべた冷や汗が頬を伝い、次第に顎から零れ落ちた瞬間――ひび割れたコンクリートに弾かれた音に反応したかのように、一体のトキシーが猛スピードでこちらに向かってきた。
俺たちに狙いを定めた四足歩行のトキシーは、奇声を上げながらその禍々しく波打つ肉体を躍動させている。それに釣られるようにして他のトキシーも俺たちの元に向かってくる。
「あわあわあわあわ!!気付かれちゃいました!!あわあわあわあわ!!」
「と、と、とりあえず逃げるぞぉぉぉおおおおおおおおおっっっ!!!!!!!」
「ですですぅ~!!」
俺は今にもションベンを漏らしてしまいそうなほどビビっているが、こんなところで痴態を晒すわけにもいかない。俺はクローネちゃんを担ぎ直し、全速力で近くの廃ビルへと逃げ出した。
————————————————————◇◆
「入ったはいいものの……」
「なんか、ホラーゲームみたいですね〜」
俺と明智は5階建ての廃ビルを彷徨っていた。埃の独特な匂いや宙に舞う粉塵が己の嗅覚や視覚を阻害している。日光が届かないせいか視界も悪く、戦闘に不向きなのは明らかだ。荒廃都市の再現度があまりにも高すぎるため、俺の緊張感は最高潮に達している。
それに、試験開始から間もなく30分が経とうとしているが、俺たちの獲得した討伐ポイントは未だに0pt。そろそろ積極策を講じる必要がありそうだ。
「明智さん、一つ提案が……」
「はいっ!何でしょう?」
俺は脳内で考えついた作戦を明智に耳打ちする。すると、明智はにこやかな表情で俺に視線を向けた。
「御角くん、ナイスアイデアですぅ~!でも、それだと御角くんが損しちゃいますよ……?」
「いや、いいんだ。結局、トドメを刺した人間にしかポイントは与えられないんだからな。これが今できる最善の策だろうよ」
「……ですねっ!ですですぅ~!」
明智は若干気後れしながらも、何とか俺の案に乗ってくれた。
「じゃ、俺はこのビル内に潜んでいるトキシーを探してくるよ。お互いの位置情報は随時マップで確認、何かあったらすぐに連絡してくれ」
「ビシッ!了解ですぅ~!お気をつけて!」
俺は明智に別れを告げ、盾を前方に構えつつ上層階へと歩を進めた。
明智は1階の”ある場所”で待機、俺は2階から順番にトキシーの捜索を進めていく。
「曲がり角から急に出てくるのだけはやめてくれよ……?ホントに怖いから……」
創立祭で惨敗を期したゾンビィゲームとは違い、今回は実物が襲ってくるのだ。この試験での敗北は、すなわち”死”を意味する。つい自分や白百合の心配ばかりしていたが、俺が握りしめている盾――アカツキの命運も俺が握っているのだ。
「2階には……いないか」
俺はマップや残り時間を逐一確認するが、特段大きな変化は見当たらない。他のチームの戦況も、現時点では全く見当もつかない。
そして、3階へ向かうべく階段に片足を掛けた瞬間――
「てめえ!!!いい加減にしろや!!!!!!!殺すぞ!!!!!!!!!」
3階部分で何者かによる怒号が響き渡っていた。俺は反射的に肩が跳ね上がり、周囲を警戒しつつ身を屈める。
「……なんだ!?」
それから少しして、インカムから明智の声が飛んできた。
『御角くんっ、何かありましたか……?』
「そっちにまで聞こえてたか……いや、上の階からだ。ちょっと様子を見てくるよ」
『はい!お気をつけて!』
さっきの声、どこかで聞いたことがあると思ったら……
「これは……ただ事じゃ無さそうだな」
正直、”ヤツ”との接触は極力避けたかったのだが……
俺は掌にかいた汗をサッと拭い、階段を駆け上がった。
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
模擬荒廃都市で大量のトキシー——想像するだけで鳥肌が立ちますね……
そして、怒号を飛ばした人物の正体は……?
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