File.40「籤引・耳打」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)
人見知りな性格で、陽彩とは入試で協力し合った仲。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)
クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆明智 柚葉 (あけち ゆずは) 15歳(高1)
フレンドリーなクラスのムードメーカー。可愛いものが大好き。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆根茂平 侑 (ねもひら ゆう)16歳(高1)
陽彩とは隣の席で、清楚な見た目ながら芯が強く、プライドが高い。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆牡丹田 朱里 (ぼたんだ あかり) 27歳
厳格な性格で、常に冷静沈着。
戦闘護衛部隊"クロッカス"の総指揮官を務めている。
翌日、クロッカス1年は普段通り登校し、緊張感が立ち込める教室内で俺は精神統一のために机に突っ伏していた。決して緊張しすぎて寝不足だから仮眠している、というわけではない。決して。
「陽彩くん、すっごい眠そうだけど、大丈夫?」
「……んんっ、あぁ、侑さん、大丈夫だぜ。それよりも昨日、ありがとな。お陰で何とかなったよ」
「そっか、役に立てて嬉しいよ。結衣ちゃん、ちゃんと来てくれたね」
「そう……だな」
根茂平の視線の先には、窓の外を眺める白百合の姿があった。クラスメイトからすれば、いつもの大人しい白百合結衣に見えているだろうが、無論俺は違った。
背負う覚悟、そして重圧、彼女が今抱えているものの大きさは計り知れないだろう。
俺が彼女に対して出来ること――昨晩からそればかりを考えている。だが、結論は未だ出せていない。
様々な思考が脳内を交錯する中、教室の扉が開くと同時に教室内の張り詰めた空気が更に凝縮された。
「……諸君、おはよう。無事、全員出席のようだな」
鋭利な眼差しで一人一人の顔色を窺う担任教師――牡丹田朱里は普段と変わらず凛とした佇まいで教壇へと上がった。俺たちの心拍数を支配するかの如く、コツコツとヒールで床を叩く音が緊張感を更に際立たせている。
「本日は戦闘護衛部隊クロッカスの公式ライセンス取得試験だ。合格した暁には、正式にクロッカスのメンバーとして活動することが可能となる。これから試験のルール説明を行うので、しっかりと聞くように」
牡丹田は手元のタブレット端末を起動すると、ルール説明が表記されたスライドを映し始めた。
「クロッカス公式ライセンス取得試験は、本日10時より開始となる。既に先日説明済みだが、今回は二人一組となって試験に臨んでもらう。入試の最終試験とは異なり、トキシーの討伐ポイントに加え、新たな評価基準が加わる。それは何だ?御角」
「……んえっ!?っと、人命救助ポイント……ですよね」
「あぁ、その通りだ。流石に分かっていたようだな」
この鬼教官め、急に振ってくるなよ……!たまたま覚えていたから助かったけど。
「討伐ポイント200ptに加え、人命救助ポイント100ptを獲得することが今回の合格ラインとなる。討伐ポイントは加点方式だが、人命救助ポイントは減点方式だ。たった今、君たちのメモリングに試験のルールブックのデータを送付した。私の口頭でも順次説明するが、熟読しておきたまえ」
牡丹田の指示通り、俺はメモリング内のメッセージアプリを起動し、送られてきたルールブックに目を通した。そこには、試験の注意事項や人命救助ポイントの減点方法など、厳密な規定がみっちりと書き込まれていた。見ているだけで目眩がしてきそうだ。
試験の内容を要約するとこうだ。
・クロッカス公式ライセンス取得試験の制限時間は90分、人工森林とトキシーの巣窟に加え、新エリアとして模擬荒廃都市が開放される。
・討伐ポイントはペアの合計が200pt以上かつ、一人あたり最低80pt以上の討伐ポイントが必要となる。人命救助ポイントの最初の持ち点は150pt。
・ルミナスクローのHP(プレイヤーのHP)が一度でも尽きる、もしくは人命救助ポイントが100ptを下回った場合、そのペアは不合格となる。
・他グループとの協力は不可、ペア以外の人間との情報交換等を一切禁ずる。
要するに、誰とペアを組むのかによって試験の難易度は大きく左右されそうだ。問題はペアの決め方なわけだが……
「今から、試験を共にする相手を、こちらで用意したくじ引きにて決めてもらう。箱の中には1番から21番まで書かれたくじが各2枚ずつ入っており、試験は7チーム毎に実施する」
くじ引きか……ペアを自由に決められるのなら間違いなく白百合を選んだのだが、そう上手くはいかないな。しかも、紙製であれば細工を施しようが無い。運が全てだ。
となれば、確率は低いが白百合と同じ番号を引き当てるしかなさそうだ。21分の1、約5%か……大丈夫だ、俺なら引ける。
「では、明智から順番に前に出てきたまえ。私の指示があるまで中は見ないように」
「はーい!ですですぅ〜!」
明智は勢いよく立ち上がると、教壇の前に置かれた黒い箱に手を突っ込んだ。そして、迷い無く手に掛けた紙切れを引き抜くと、意気揚々と自席へ戻っていった。
その後、白百合の出番になると、俺は固唾を呑んで彼女の様子を見守った。退路を断たれた今、彼女は一体何を望むのか。進むべき未来は導き出せたのか。
やや時間を要したが、白百合は命運を分ける紙切れを大事そうに握りしめながら自席へと戻った。
何も考えず引く者、場を盛り上げようとする者、白百合のように手に汗握る者など、各々の個性が垣間見える中で、あっという間に俺の出番がやってきた。
「御角、お前の番だ。前に来たまえ」
「……はいっ」
俺は胸に手を当て、重い腰を上げる。「ふぅ……」と一息ついて、俺は目の前の黒箱に右手を突っ込んだ。残り枚数は8枚、指先が何度も箱の底を叩く音が静寂に包まれた教室内に響き渡る。クラスメイトの視線は、俺の隠された指先へと一点集中している。
「ヒーロークン、優柔不断だねぇ。別に何番でもいいじゃないか。それとも、よっぽど自信が無いのカナ?」
教室の後方で退屈そうに両腕を後ろに組んでいる黒華が俺を煽るように挑発してきた。取り巻きの宇紺も便乗するようにして薄ら笑みを浮かべている。
「……るっせ」
俺は黒華の挑発を適当に受け流し、手に掛かった紙切れをサッと引き抜くと、ヤツに対する怒りを込めるように握りしめ自席に腰掛けた。
42名が引き終わり、教室内の緊張感は限界に達していた。そんな空気を気にも留めない牡丹田は、俺たちの様子を窺いつつ口を開いた。
「では、くじの中身を確認してくれたまえ。自分の番号を確認したら、私宛に名前と番号を送信するように。こちらのプロジェクターにてペアと組み分けを同時に発表する」
俺は恐る恐る四つ折りにされた紙切れを広げる。そこに書かれていた番号は……『3』だ。つまり、1グループ目に受験することになる。
「全員確認したようだな……では、本年度クロッカス公式ライセンス取得試験の組み分けを発表する」
牡丹田が手元のタブレット端末を操作すると、間もなくして組み分け表が表示された。
つい先程まで凪いでいたのが嘘であったかのように、教室内には瞬時にして荒波が立っていた。
俺は真っ先に自分の名前を見つけ出し、横に並んでいる人物の名前を確認する。
《3 御角 陽彩 & 明智 柚葉》
「明智さん……か」
白百合とペアにはなれなかったが、親密度の高い明智と組めたことは大きなアドバンテージになりそうだ。上機嫌な明智は俺に対して笑顔で目配せをしている。俺もそれに釣られて親指を立てた。
だが、俺の中で既に別の懸念点が生じていた。俺の名前から少し下がった位置に、心臓が凍りつくような組み合わせが表示されていたのだ。
「……最悪だ」
《7 黒華 苧環 & 白百合 結衣》
プロジェクターの光が、残酷な現実を網膜に焼き付けてくる。目の前に突きつけられた文字列を、俺はただ呆然と眺めることしか出来なかった。
「ふふっ、ははっ!最高なパートナーだねぇ。ヨロシク、子リスチャン☆」
「……」
黒華の不快な笑い声が俺の鼓膜を刺激した。眉間に皺を寄せながら窓側に視線を向けると、白百合の震える肩に片手を置いて前髪を掻き上げる黒華の姿があった。クラスメイトの誰一人としてプロジェクターに映された組み分け表には目もくれず、黒華の奇行に注目が集まっていた。
「おやおや、ボクと組むのがそんなに不満かい?悲しいねぇ」
「……」
白百合は黒華に気圧されて瞼を閉じ、まさに小動物のように縮こまっていた。
「なあに、心配は無用さ。なぜなら……」
黒華は不敵な笑みを浮かべつつ、白百合に耳打ちをする。愉悦に満たされた黒華の口元には毒蛇が棲みついており、白百合の耳元に噛み付いては猛毒を染みこませていた。
やがて絶望感に襲われたかのように目を見開いた白百合は思考が停止し、そのつぶらな瞳には涙が滲み、呼吸も次第に荒くなっていった。まさに猛毒が全身に巡ったかのように血の気が引いた白百合は、言葉を発することも出来ずにいた。
「おい黒華!白百合さんに何言いやがった!!」
俺は反射的に席を立ち上がり、黒華に対し怒鳴り声を上げた。
「怖いなぁ、ヒーロークン。ちょっと魔法の言葉をかけてあげただけさ☆」
「んだと……?」
舐めた口ぶりの黒華には殺意さえ湧いてくるが、白百合と黒華がペアになってしまった事実は変えられない。
それよりも、ヤツの意味深な発言には何か引っかかる。魔法の言葉――まさかとは思うが……
「お前たち、そこまでにしろ」
場を鎮めるように牡丹田の短い言葉が突き刺さった。冷静になった俺は周囲を見渡し、クラスメイトの冷ややかな視線を真摯に受け止め、力なく腰を下ろした。
「……すみません」
「ごめんね、朱里チャン☆」
俺とは対照的に反省の色ゼロの黒華は堂々とした足取りで定位置へと戻っていった。
「白百合さん……」
メンタルの限界に達しそうな白百合を横目に、俺はただ彼女の名前を呟くことしか出来なかった。
限界に達しているのは、もしかしたら俺も同じかもしれない。
俺はただ目の前に突きつけられた課題を解決する方法を模索するしかなかった。
試験そのものの過酷さなど、この時は考える由も無かったのだ。
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
張り詰めた空気が立ちこめる教室内、果たして苧環が結衣にかけた《魔法の言葉》とは……
不安が募る中、陽彩は柚葉との合格を目指していきます。
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