File.38「進言・助言」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)
本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)
お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆樹 雅也 (いつき まさや) 15歳(高1)
頭脳明晰な陽彩の幼なじみ。
ヒュドール学園高等部先進技術学科に所属している。
◆根茂平 侑 (ねもひら ゆう)16歳(高1)
陽彩とは隣の席で、清楚な見た目ながら芯が強く、プライドが高い。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆アカツキ
陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。
お嬢様口調で、派手な見た目をしている。
ここは、ヒュドール学園高等部生徒会室。
放課後、広々とした室内に少女が二人、対角に腰掛けて黙々と事務作業を行っている。
「……蘭さん、手が止まっていますけど、どうかされましたか?」
「……はっ!ごめんねっ、ちょっと考え事してたの」
「考え事、ですか」
眉間に皺を寄せて苦笑いを浮かべる蘭を、レエナは心配そうに見つめる。
「明日の、ライセンス試験のことでしょうか?確かに、組み合わせによっては合格ラインに届くか懸念されるペアが出てくる可能性もありますが……」
「うーん、それもあるんだけど……」
蘭はふと、窓の外へと視線を逃がした。中庭の花壇や空を自由に飛ぶ鳥たち――彼女の瞳は、この学園の景色ではない、もっと遠くにある何かを探しているように揺れている。
日頃から全校生徒に笑顔を振りまく彼女にしては珍しく、どこか寂しげで、儚い表情だった。
「やはり、妹さんの……あっ、申し訳ございません。無神経でした」
瞬時に何かを察したであろうレエナは、即座に立ち上がり深々と頭を下げた。
「いえいえ、いいのよ……!?こちらこそ気を遣わせてしまってごめんね」
慌てた様子の蘭はレエナの手を包み込むように優しく握りしめる。その手は、微かに冷たかった。
「わたくしは、大丈夫ですから♪」
「……」
蘭の完璧な、けれどどこか脆さを孕んだ愛想笑い。それを複雑な心境で受け止めたレエナは、何も言えずに自分の席へと戻った。
それから少しして、静寂を切り裂くように生徒会室の重厚な扉が何者かにノックされる。
「どうぞ ♪ 」
蘭の許可を扉越しに確認した訪問者は、遠慮がちに顔だけを扉から覗かせた。
「失礼いたします。お疲れ様です、先輩方。お時間よろしいでしょうか」
「あら、樹くんお疲れ様っ ♪ もちろんいいですわよ」
「ありがとうございます」
訪問者の正体は高等部一年の生徒会役員、樹雅也だった。生徒会に加入してから2ヶ月も満たない彼であるが、人望の厚さと機転が利く仕事っぷりを評価され、早くも生徒会長の補佐業務を委託されていた。
「ごめんね樹くん、期末試験も近いのに……」
「いえいえ、多忙な会長を支えるのが我々役員の務めですから。どんな犠牲も厭わないですよ」
「まあ、頼もしいわね ♪ 次期会長候補かしら ♪ 」
「ははっ、光栄です」
「入って入って ♪ お茶でも用意いたしますわっ」
「いえいえ、お気になさらず。この後も予定を控えていますので」
翡翠会のメンバーとは思えないほど紳士的な対話をする雅也であるが、空いている椅子に腰掛けると、蘭の顔色を窺うようにしてわざとらしく咳払いをする。
「……少々、翡翠会長にお聞きしたいことがございまして」
「あら、何かしら?仕事の件では……無さそうだけど」
雅也の真剣な眼差しから重い空気を察した蘭は、顎に手を当てて考え込むような仕草を見せる。
「俺の友人についてです。白百合結衣さんはご存じですか?」
「ええ、もちろん」
「でしたら、俺の質問は何となく予想がつくかと思いますが」
「そう……ね……」
蘭は”ばつ”が悪そうに顔を逸らすと、同じく物憂げな表情のレエナに目配せをする。
「……その様子だと、お二人は彼女の事情を熟知しているということで間違いなさそうですね。他に把握しているのは学園長や牡丹田先生くらいでしょうけど……そう簡単に口を滑らせることは無いでしょうし」
「わたくし達も、口は堅いですわよ?」
「私たち生徒会は、学園全体の信頼の上で成り立っています。生徒会マニュアルにも記載されていますが、個人情報を安易に拡散することは”生徒会役員規範”に反する行為に値します。あなたは生徒会役員としての自覚が足りていないようですね」
口を閉ざしていたレエナも、蘭を守るように冷徹な口調で加勢する。
だが、雅也はその威圧に怯むどころか、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。
「すみません、配慮に欠けていましたね。先輩方がそこまで頑なな態度を取られるということは、”相応の事情がある”と判断してよろしいですね?」
「……」
「これ以上、深入りすることは控えます。俺ごときが首を突っ込んで解決する問題では無さそうですし」
「……ええ、そうしてください」
深々と頭を下げる雅也に対し、少々言い過ぎてしまったことを反省したレエナは雅也から徐々に視線を逸らした。
「俺はこれで失礼します。お忙しい中、ご対応いただきありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ要望に応えられなくてごめんね」
「まあ、規則は規則ですから。ただ……」
言い淀んだ雅也はそのまま席を離れると、扉に手をかけたところで立ち止まった。
「彼女の身に何かあれば、必ず助けてあげてください。白百合さんは、俺の大切な友人ですから」
「……ええ、善処するわ」
「それでは」
雅也は彼女らに目を合わせることもなく、生徒会室を後にした。
雅也の足音が消えたのを確認した蘭は、唇を軽く噛みしめながらレエナに視線を合わせる。
「レエナちゃん、ごめんね。本来ならわたくしが言わなければいけないのに……」
「いえ、蘭さんの面子を潰すわけにはいきませんから。私は、あのような対応には慣れていますので。それに……」
「……?」
レエナは口角を僅かに上げながらメモリングを起動すると、ある人物からのメッセージを蘭に見せる。
「彼が既に動いてくれていますので」
————————————————————◇◆
放課後、俺は桔梗先輩に断りを入れて白百合の自室へと向かった。
アカツキの位置情報によれば、白百合の相棒”マロン”は自室で充電中らしい。
「アカツキ、本当に白百合さんはこの部屋で間違いないんだよな?」
「もーっ!少しはミーを信じてもらえないかしら!プンスカ」
「悪かったよっ、もし違う人が出てきたら気まずいだろうが……」
俺は半信半疑で白百合の部屋のインターホンを押す。
「……」
「……出ませんわね」
「まあ、そりゃそうか」
そもそも、マロンが充電されているだけで必ずしも白百合が在室中とは限らないからな。
「ユ~イ~!!居るなら返事してくださいまし~~!!もしも~し!!」
「コラッ!廊下でデカい声出すなって!あと扉を蹴るなっ!」
「だって、話が出来なければユズハとの約束は果たせませんわよ?」
「いや、それはそうなんだが……」
コイツはもっとこう、器用に立ち回ってはくれないのだろうか。お嬢様口調のくせにやることなすことが脳筋過ぎる。
俺がアカツキの所作に頭を抱えていると、隣の部屋の住人がひっそりと顔を覗かせていた。
「あれっ?結衣ちゃんが変な声でも出しているのかなーと思ったら、陽彩くんじゃん。やっほー」
どうやら、白百合の隣人はクラスメイトの根茂平だったらしい。トートバッグを肩に掛け、丁度買い出しに行くところだったのだろう。
「……んおっ、侑さんか。すまんな、コイツが騒がしくて」
「フンッ!ミーは悪くありませんわっ!」
「あははっ、相変わらず元気だね〜アカツキちゃん」
「えっへん!ですわっ!」
アカツキ、多分それ褒められてないぞ……
「もしかして、結衣ちゃんに用事でも?」
「ああ、そうなんだよ。白百合さんの相棒は部屋ん中に居るらしいんだが……」
「多分だけど、部屋には居ないんじゃないかな」
根茂平は白百合の部屋を横目に小さく首を横に振る。
「んっ、何でそう思うんだ?」
「この間、借りたい本があって訓練後に学園の図書館に行ったことがあったんだけど、その時に結衣ちゃんを見かけてね。一人で分厚い本を何冊も読んでいたんだよ」
「分厚い本か……どんな本だったか覚えてるか?」
「うーん、個別に仕切られているタイプの机だったからよく見えなかったし、私も声かけるの躊躇っちゃった」
「そっか……」
ペア訓練を欠席してまで調べたいこととは一体何だろうか。やはり俺は”白百合結衣”という少女に対する理解がまだまだ浅いようだ。
「ごめんねっ、あんまり当てにならない情報しか提供できなくて……」
「いやいや、十分だぜ。ありがとなっ、侑さん!」
俺は根茂平に親指を立てると、迷い無く図書館へと向かった。
「……ヒイロ、逆方向ですわよ」
「あ、やべっ」
俺が一度も図書館に行ったことがない脳筋人間であることを、ポンコツAIに見透かされてしまった。
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
生徒会の二人が隠そうとしている結衣の秘密。図書館で読んでいた本と何か関係が……?
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