File.37「魘夢・友誼」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)
人見知りな性格で、陽彩とは入試で協力し合った仲。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆明智 柚葉 (あけち ゆずは) 15歳(高1)
フレンドリーなクラスのムードメーカー。可愛いものが大好き。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆樹 雅也 (いつき まさや) 15歳(高1)
頭脳明晰な陽彩の幼なじみ。
ヒュドール学園高等部先進技術学科に所属している。
『なあ、アイツの噂ってマジ?』
『マジマジ』
『うわ~怖ぇ〜』
『私もう関わるのやめよっかな〜』
『人間じゃねーよ、アイツ』
嫌だ……
『バケモンだな』
やめて……
『キャーーーッ!!てな、ププッ』
『おいっ、やめとけって〜』
もう、これ以上は……
……
「……はっ!!」
「はぁ……はぁ……夢……か……」
――最悪な目覚めだ。
何度も何度も、同じ夢に魘されている。
「グスンっ……何が、間違ってたの……」
枕を濡らすのも、これで何度目だろう。
これが逆夢ならどれほど良かったか。
でも、過去は変えられない。
そんなのは解ってる。
だから、未来の可能性に賭けてこの学園に来たんだ。
けれど、あの日の悪夢をまた繰り返そうとしている。
――これは、己に付き纏う宿命なのだ。
「どうしたらいいの……?教えてよ……」
「――菊ちゃんっ……!」
————————————————————◇◆
クロッカス公式ライセンス取得試験まで残り1日、俺はいつものメンバーと食堂で昼食を摂っていた。
「ついに明日、か……」
「どうした陽彩、ぼーっとして。食わないならその唐揚げもらうぞ?」
「……ん、おいっ!勝手に他人のご馳走を奪おうとするな!この貪欲眼鏡め!」
我に返った俺は、慌てて目の前に置かれた唐揚げ定食を平らげた。
「ン゛ン゛ッ!!ゲッフゲッフ!ゴッホゴッホ!」
「おいおい、そんな慌てて食うからだぞ?」
「お゛……お゛ま゛え゛の゛せ゛い゛た゛……」
俺は机に突っ伏しながらマサを睨みつけ、コップの水を一気に飲み干した。
「ぷはっ!……そーいえば、白百合さんと明智さんは大丈夫そうか?明日の試験」
他人の心配をしている余裕なんて無いわけだが、女子の訓練は見る機会が全く無かったからな。どんな様子だったのか少々気になるところではある。
「そうですねー、明智はみんなと比べるとまだまだ未熟者ですけど、蘭先輩が超超優しく教えてくれているのでノープロブレムですぅ〜!!」
明智は親指をピンと立てて、今にも発電しそうな勢いで腕をブンブンと振り回す。
「……おぉ、そうか!なら心配は要らなそうだなっ」
翡翠先輩直々のご指導、一度くらい受けてみたかったぜ……
『うふふ♪陽彩くんっ、もっと脇はこうやって締めないとダメよ?』
『うっ、ひゃあっ!ひ、翡翠先輩!?!?か、顔ちか――』
『こらこら♪わたくしと二人きりのときは”蘭”でしょ♡』
う、うおおおおおおおおっっっ!!!!
「御角くん、何か変な妄想してます……?」
明智は俺のニヤけ面を若干引いたような目で見つめる。
「え!?は!?そんなことねぇし!?」
俺は慌てて口元を制服の袖で覆い隠した。いかんいかん、煩悩を捨てろ!俺はあくまで紳士、紳士なのだから。
下心丸出しな絵空事はさておき、俺は先程から食事を止めて俯いている白百合に視線を向ける。
「白百合さんは、明日の試験大丈夫そうか?」
「……」
聞こえていないのか、はたまた俺を無視しているのか、白百合の反応は全く無いままだ。
「白百合さん?」
「……あっ、ひゃっ、ひゃいっ!!」
「ひゃい……?」
時間差で俺の声に反応した白百合は、飛び跳ねるようにして席を立ち上がる。周りにいる生徒も白百合の甲高い声に反応し、視線が一斉に彼女に向けられた。
「えっ、あっ、その……」
「何か不安なことでもあるのか?俺で良かったら相だ――」
「ゆっ、結衣っ、御手洗い行くのでっ、失礼しますっ……!」
「んえっ!?ちょっ……」
白百合は食べかけの昼食を置き去りにして、一目散に駆け出してしまった。
「トイレ、逆方向だけどな……」
「陽彩、また白百合さんに変なちょっかいでもかけたのか?」
マサは眉間に皺を寄せつつ、俺に疑いの視線を向ける。
「なわけあるかよっ!てか、”また”ってなんだよ”また”って」
「ははっ、冗談だよ。それにしても、白百合さん近ごろ元気無いよな?」
「言われてみれば確かに……2週間くらい前からかなぁ」
初めて出会った頃は常に負のオーラを身に纏っていた白百合であるが、最近ではクラスメイトと徐々に打ち解けられるようになり、彼女の抱いているコンプレックスも緩やかに解消されつつあった。彼女に限らず、クラスメイトは明日のライセンス試験に向かって直向きに努力を積み重ねてきているはずだ。
そして、2週間前は丁度ペア訓練が始まった日だ。白百合の変化と何か関係がありそうだが……
俺とマサが「う~ん」と唸りながら心当たりを探っていると、どこか悶々とした様子の明智が俺の隣までそそくさと移動し、耳打ちをしてきた。
「……御角くん、ちょっといいですか?」
「んっ、どうした明智さん」
訝しげな表情を浮かべているマサを横目で流した明智は、心苦しそうな声色で囁く。
「ここだとちょっと話しにくいことなので……場所を移しても良いですか?」
「まあ、いいけど……」
「ははっ、もしかして俺はお邪魔だったかな?」
何かを察したマサはトレーを持ち上げると、速やかに立ち去る準備を進める。
「あーいえいえいえ!樹くんが悪いわけじゃないのです!ですですぅ~!!」
明智は申し訳なさそうに両手を擦り合わせ、何度も頭を下げる。
「いや、いいんだ。俺も生徒会の仕事が溜まってるからな、これで失礼するよ」
「生徒会か……お前も大変だな」
「なぁに、蘭様と同じ部屋でお仕事ができるんだ。これ以上のご褒美は無いだろう?」
マサは俺を露骨に煽るかのように眼鏡をクイッと押さえた。
「くっ、このムッツリ眼鏡め……!」
どうやらこのメンツで翡翠先輩との接点が希薄なのは俺だけのようだ。
「樹くん、お仕事ファイトですぅ~!!」
「ああ、二人もな」
マサは軽く会釈をすると、食堂を後にした。
午後の授業開始まで残り20分、あまり時間の余裕は無さそうだ。俺と明智は目配せをして席を立ち、足早に校舎の外へと向かった。
————————————————————◇◆
「ここなら、今の時間は人も居ないですし、どうでしょう?」
「ああ、いいぜ」
俺たちは正門前の中央広場のベンチに腰掛け、自販機で買った缶ジュースのプルタブを開ける。
甘酸っぱい果汁を喉奥まで染み込ませ、一息ついた後、俺は探りを入れるように明智に語りかける。
「……それで、話ってのは」
「えーっと……察しはついているかもしれませんが」
「白百合さん……だよな」
「ですですぅ……」
ここまで活気の無い「ですですぅ~」は初めてだな。
「ペア訓練で何かトラブルでも?」
白百合は以前も訓練中にトラブルを引き起こし、自己嫌悪により逃げ出してしまったことがある。ペア訓練で一悶着あった可能性が高い。
ところが明智は眉間に皺を寄せ、首を小さく横に振った。
「うーん、トラブル以前の問題ですね……」
「以前……?まさかとは思うが、ペア訓練になった途端サボり始めたとかか?頻繁にメモを取るくらい真面目に取り組んでいる白百合さんに限って、まさかそんな黒華の野郎みたいな――」
「その、まさかですよ」
「……マジか」
予想外の返答に俺は思わず唖然としてしまった。そして、明智の表情はより険しさを増している。
「ペア訓練初日、女子は訓練所の広場に集合がかかったのですが、そこに結衣ちゃんの姿はありませんでした。後から来た蘭先輩にお話を聞いても、『事情は把握しているから、心配しなくても大丈夫よ♪』の一点張りで、詳細を教えてはもらえませんでした」
「詳細を教えてもらえないってのは引っかかるな。チームプレーで失敗することを恐れていたとか?」
「それも一理あるとは思いますが、多分結衣ちゃんは、明智たちに”隠したいこと”があるんじゃないでしょうか」
「”隠したいこと”か……本人に聞いたりしなかったのか?」
明智と白百合はここ2ヶ月間で十分と言えるほど信頼関係を築いているはずだ。それは明智に対する白百合の表情や仕草からも見てとれる。流石に彼女には打ち明けていそうなものだが……
「もちろん聞きましたよ。でも、『心配しないでください』の一点張りで……」
「口を揃えてはぐらかされたってわけか」
俯きながらコクリと頷く明智は、いつにもなく物憂げな態度をみせる。
「御角くん、もし可能であれば、結衣ちゃんの事情を聞き出してもらえませんか?」
「え?俺が?白百合さんに?」
「ですですぅ~!明智がダメでも、御角くんなら行けちゃいそうな気がしますですぅ~!」
「そんなバカな」
明智はベンチから勢いよく立ち上がると、包み込むように俺の右手を固く握りしめる。
「御角くんにしか、頼めないんです」
「明智さん……」
決して義務感によるものでは無い――彼女の言動には友誼に厚い性格が顕著に現れていた。
「……わかった、でも期待しないでくれ」
「わーい!ありがとうですぅ~!!ですですぅ~!!」
明智は俺の右手を握ったまま激しく上下に振り回した。喜んでくれるのは悪い気はしないが、試験前日にして腕を持っていかれそうだ。
俺は明智に掴まれている腕をそっと引き抜き、深呼吸をしながら天を仰ぐ。
「……明日、無事受かるといいな。クラス全員で」
「大丈夫ですよっ!明智たちはあの過酷な入試を通過したエリートなんですから!ふふんっ♪」
明智は腰に手を当て、自信ありげに胸を張る。先程までの張り詰めた空気が嘘であったかのような、晴れやかな顔つきだ。おそらく、俺に対してかなりの信頼を置いてくれているのだろう。
「ははっ、そうだな。大丈夫だよなっ」
期待されている分、背負う責任も決して軽くはない。俺の行動が白百合にとって人生のターニングポイントとなるだろう。彼女の窮地は何度も救ってきたが、今回は彼女の隠す秘密――すなわち白百合結衣という人間の最深部に足を踏み入れることになるのだ。俺もそれなりの覚悟を持たなければならない。
俺は両頬を叩き、己に喝を入れる。
「……もし上手く行ったら、明智さんに聞きたいことがあるんだが、問題無いか?」
「もちろんですぅ~!一体何でしょうか?」
「それは……試験が終わってから、な!」
「ビシッ!了解ですぅ〜!」
他人に対して自分の秘密や弱点を明かすことは、可能な限り避けたいものだ。事実、この2ヶ月間そうして生きてきた。だが、そんな上っ面の自分を演じたところで『カッコよくて、勇敢で、周りから認められるような人間』にはなれない。
俺が唯一弱さを吐露した相手は桔梗先輩だ。どちらかというと、”吐露せざるを得ないほど打ちのめされた”と表現するのが正しいかもしれないが。
ある程度良好な人間関係を築いてしまうと、それを崩さないために行動制限を掛けてしまう現象が起こる。桔梗先輩のように、序盤で弱さを見せてしまった方が本当は楽なんだと思う。だが、白百合結衣に対する”偽りの御角陽彩像”を創ってしまった以上、このまま時の流れに身を任せるのは彼女に対して不誠実だ。
俺は、白百合結衣という人間を知ったつもりでいた。臆病で、人見知りで、だけど心優しくて、実は勉強熱心な努力家――こんなのは白百合結衣の表面だけを切り取った情報の寄せ集めだ。対する彼女も、俺に対する認識は似たようなものであろう。
俺はもっと知る必要があるのだ。白百合結衣という人間を。
そして、俺の目の前にいる明智柚葉という人間のことも。
お久しぶりです!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
ついに始まりました、第4章では【クロッカス公式ライセンス取得試験編】をお送りしていきます。
早くも結衣が抱える問題解決に動き始めた陽彩。次話以降、彼女の抱える秘密に迫っていきます。
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