File.35「悶着・刺激」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)
本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆アカツキ
陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。
お嬢様口調で、派手な見た目をしている。
◆徳川 柊 (とくがわ しゅう) 16歳(高2)
筋肉バカだが面倒見が良い先輩。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
『テステス……こちら01、02応答どうぞ』
ノイズの混ざった桔梗先輩の声がインカム越しに聴こえてくる。
「んあ、えっと……こちら、02どうぞ」
『”んあ、えっと……”は余分です。伝達事項は、最低限且つ分かりやすく――ですよ』
「了解……」
無線が切断されると、巣窟の奥から涼しげな顔をした桔梗先輩がスタスタと歩いてきた。
「インカムも異常なし。それでは、訓練を始めましょう」
「よろしくお願いします」
「トキシーの強さはライセンス試験と同レベル、クローネちゃんは脚部損傷により歩行困難という設定にして、制限時間は……今日はお試しということで60分にします。私の戦闘能力も、1年生の平均値くらいに合わせましょうか。手加減するのは少々難しそうですが……」
「ほ、ほう……」
さすが学年最強の桔梗先輩、セリフが強者そのものだ。
「本番では怪我人を探すところから始めるのですが……今回は省略しましょう。重要なのはペアとのチームワークですから」
「ヒイロ、足を引っ張ったら許しませんことよ?」
「わ、わかってるよ!お前こそ、途中で充電切れとか起こすんじゃねーぞ?」
「もしそうなったら、ヒイロの所為ですわっ!」
「いや、何でだよ!オンボロのくせに!」
「ムキーッ!!ですわ!!」
既にチームワークに対する不安が募るが、コイツはあくまで武器なのでノーカンということにしておこう。
「では、カウントダウンを開始します」
桔梗先輩は俺たちの泥仕合を完全に無視し、メモリングで巣窟内のシステムを遠隔操作する。
《3……2……1……》
「うおっ!もう始まるのか!」
「切り替えてください。本番だと思って気を引き締めましょう」
俺は深呼吸をしつつ、胸元に手を当て精神統一をした。
「……はいっ!!」
《 START!! 》
————————————————————◇◆
「はぁ……はぁ……はぁ……こちら02、01応答どうぞ……!」
『こちら01、02概況の報告を』
「巣窟内にて脚部負傷者一名を搬送中、後方50メートルに飛行型トキシーを発見!応援求む!!」
『了解。02の位置情報を確認……直ちに応援に向かいます』
「はぁ……はぁ……担ぎながら戦闘なんて無理ゲーだろっ……!」
俺は開始早々、桔梗先輩と二手に分かれて行動をしていた。俺はクローネちゃんを背負いながら巣窟内を探索していたところ、早速飛行型トキシーと遭遇し、為す術も無く逃げ回っていた。
『私は地下1階のA5地点にいます。02はそのまま1階のB地点を目指して逃げてください。サイドから飛行型の死角を狙います』
「……了解!」
俺はメモリングで巣窟内のマップを表示し、桔梗先輩の指示通りの地点を目指して走り続ける。安全の為に訓練中はギミックが発動しないよう設定されているが、この薄暗い巣窟内での訓練だ。恐怖と不安、そして緊張がじわじわと押し寄せてくる。
「クソッ!何も攻撃できないまま3発もペイント弾を食らっちまった……!」
背後は盾と化したアカツキに守ってもらっているが、それでも完璧に防ぐことは困難だ。
《Clow’s HP 70% ■■■■■■■ 》
入試とは異なり、公式ライセンス取得試験ではルミナスクローのHPが一度でも尽きてしまったら、ペアの人間諸共不合格となってしまう。
「こうなったら……」
俺は桔梗先輩の指示を無視し、「レイガン!」と唱えアカツキを光線銃に変えた。
「さっさと倒しちまえばいいんだろ!もうお前の動きは解りきってるからな!」
俺は背負っていたクローネちゃんを壁際に素早く避難させ、飛行型との戦いに一点集中することにした。
「悪いなクローネちゃん、ここで座って待っててくれ!」
『ピピ……キイロさん、了解いたしました』
俺はクローネちゃんに背を向け、高速で向かってくる飛行型に照準を合わせる。
ビビューン!
「おらぁ!!」
ビビューン!
1発、また1発、俺の攻撃がヤツの身体に命中していく。
《 Toxic 15pt 32% ■■■■ 》
間違いない、俺は入試の時よりも遙かに成長している。戦いに一点集中してしまえば、当時苦戦していたコイツも、今では俺の足元にも及ばない。
「お前の不規則な攻撃も、今の俺には効かねぇのさ!」
俺は薄暗い空間を縦横無尽に駆け回り、柔道場での鍛錬が確実に身になっているのを実感する。俺の成長ぶりをクラスの皆が見たらきっと驚くだろうな。
気がつくと飛行型のHPは5%を切り、瀕死状態となった飛行型はゆっくりと地面に落下した。
「っし、トドメだぜっ!」
ビビューン!
《 Toxic 15pt 0% 》
「っしゃあ!桔梗先輩の助け無しでも出来るんじゃねぇか、俺っ!」
ピロン
「ん?通知?」
飛行型を倒した直後、メモリングに一件の通知が届いた。
「……えっ」
《 怪我人の救助 ”失敗”により、訓練を終了します 》
「なっ、何故だ……?」
俺はクローネちゃんを置き去りにした壁際を恐る恐る振り返る。すると、クローネちゃんを両腕で抱えた桔梗先輩がゆっくりと近づいてきた。
「……」
桔梗先輩は俺と目を合わせることもなく、屍の如く動かなくなったクローネちゃんを静かに仰向けに寝かせた。
「……何故、と思っているでしょう?」
冷たい口調の桔梗先輩に対し、俺は口を閉ざしながら頷く。
「あなたが飛行型との戦闘に夢中になっている間、クローネちゃんは別のトキシーに襲われていました。あなたの愚行のせいで、クローネちゃんは命を落とすことになったんです」
「命を落とすって、そんな大袈裟な……」
桔梗先輩の深刻すぎる発言に、俺は僅かに失笑がこぼれてしまう。
これはただの訓練、いくら失敗しようが生身の人間が命を落とすなんてことは有り得ない。
「大袈裟……?ヘラヘラするのもいい加減にしたらどうですか?不愉快です」
「別に、ヘラヘラしてるわけじゃ……」
「あなたの中途半端なその姿勢が、クロッカスの面子を潰すことに繋がるんです。どれだけの人がここに期待をし、どんな思いでここに入ってきたのか、考えたことは無いんですか?」
桔梗先輩は拳をグッと握り、声を震わせながら俺に訴えかけている。
「……んなもん、俺に言われても困るんだよ」
「逆ギレですか。いいご身分ですね」
解ってる。これは逆ギレだ。
でも、今の俺にはこうすることしかできない。
俺は、弱いから。
「今日は終わりにしましょう。これ以上、あなたの為に時間を割いたところで、労力の無駄でしかありませんから。明日以降も、やる気が無いのなら来なくて結構です」
桔梗先輩は俺に背を向け、クローネちゃんを抱えて管理室の方へと歩み始めた。
「あぁ、そうかよ。こっちからもお断りだ」
違う。
そんなことが言いたいわけじゃないんだ。
苛つくな。抑えろ。
ここで彼女との関係が絶たれたら、俺はどうなる?
きっと、悔恨の念に駆られる。
でも――俺は、彼女を呼び止めることはできなかった。
言葉が、出てこなかった。
去り際の桔梗先輩は、俺への怒りを通り越して、諦めさえ感じている――そんな面持ちだった。
「ははっ……また怒らせちまったな……」
俺の空笑いだけが巣窟内に虚しく響き渡った。
————————————————————◇◆
翌日の放課後、俺はトキシーの巣窟へ出向くことはなく、徳川先輩率いる男子生徒の練習場へと足を運んだ。
「そっか……体調が優れないのなら仕方ないね。今日は人工森林内での戦闘訓練だから、自由に見学していっていいよっ!」
「はいっ、すみません、いきなり」
もちろん、体調が優れないってのは嘘だ。
だが、徳川先輩は俺を疑うつもりは一切無さそうだ。
「はぁ……結局、逃げてきちまったな」
俺は徳川先輩に聴こえないように小さくため息をこぼす。
「んっ?御角くん、顔色すっごく悪いけど……やっぱり今日は帰ったほうが――」
「あっ、いやいや!お気になさらず」
いかんいかん、思いっきり顔に出てしまっていたようだ。
「まったく、見ているだけなんて身体がウズウズしちゃいますわ!もうっ!」
「すまんな、今日だけは我慢しててくれ」
アカツキも機嫌を損ねてしまい、顔をプイッと横に逸らしてしまった。
「じゃ、僕たちも人工森林に移動しようか!他のみんなはもう集合しているからねっ!」
「あっ、はい!」
俺は徳川先輩の逞しい背中を追いかけた。
————————————————————◇◆
「はーい!みんな、お疲れ様!今日は、昨日とは違うペアを組んで訓練に励んでおくれ!トキシーのレベルも一段階上げるから、頑張ってねー!」
徳川先輩の合図とともに、俺以外の男子生徒は各々が好きな相手を選び始めた。
クロッカス1年の男子は俺を除くと23人――だが総ペア数は11、余っている生徒は見当たらない。今日は誰も欠席していなかったはずだが……
そういえば、例の男の姿がない。
「あのー徳川先輩、黒華の野郎はサボりですか?」
俺の質問に対して眉をピクリと動かした徳川先輩は、うーんと唸りながら少しずつ表情を歪める。
「あぁ、苧環くんか……実は、昨日のペア訓練から全く姿を現していないんだ。先週までは普通に来てたんだけどね」
「そうなんですか……何か心当たりでも?」
「無いから、困ってるんだ。指揮官に相談しても、『あくまで訓練参加の有無は当人の自己責任だ。休もうが何しようが、ライセンス試験で落ちたらそこまでだからな』と言われてしまって……」
なるほど、訓練に参加せずともライセンス試験の受験資格は存在しているようだ。つまり、今日の俺の行いを咎められる心配は無い……よな?
「まあ彼はああいう性格だし、悩んでも仕方ないかな!僕はやる気のある後輩の指導に集中させてもらうよ。さあみんな!準備はオーケーかな?今日もマッスル全開で、頑張ろう!!」
徳川先輩は気持ちを切り替え、張りのある声で男子生徒を鼓舞した。統率力に優れた先輩の背中は、いつも以上に大きく見える。
「じゃあいくよっ!よーい……始めっ!」
————————————————————◇◆
「みんな、すげぇ成長してんな……!」
「はっは!君が桔梗さんと頑張ってる間、他のみんなも頑張っていたからねっ!」
俺は徳川先輩とともに、複数のドローンを用いて訓練の様子を観察していた。戦闘能力は言わずもがな、ペアとの連携も申し分ない。各々の得意分野を把握した上で、無駄を極限まで減らした戦闘スタイル――まさにこれこそ、理想のマルチプレイだ。
昨日の俺は、自己中心的な戦闘スタイル――ペアのことを微塵も考えることなく、相手に迷惑をかけるだけの妨害行為だ。
桔梗先輩があそこまで憤慨していたのも、納得がいってしまう。
「……くっ」
悔しい――この感情は決して桔梗先輩に対してではない。未熟な己に対して、だ。
「ん?どうした、御角くん」
「徳川先輩!俺っ、体調回復したんで戻ります!クロッカスの足を引っ張りたくは無いっすから!」
「……そうか、頑張れよっ!君はクロッカスの柱になる男だからねっ!期待しているよ!」
「ええ、いい刺激になりました!頑張ります!」
俺は徳川先輩と熱い握手を交わした。
徳川先輩の瞳には、俺はどう映っているだろうか。
妙なプレッシャーをかけられてしまったが、ライセンス試験まで残り10日、悠長なことを言っている暇はない。
俺は覚悟を決め、徳川先輩と目を合わせる。
俺の気持ちを汲み取ったであろう徳川先輩は、満面の笑みで俺の肩を強めに叩いた。
「それじゃ、例の合言葉、一緒に叫ぼうじゃないか!せーの……」
『筋肉は!!!裏切らないっ!!!!!』
こんばんは、ProjectAI.(プロジェクトアイ)です。
レエナとすれ違ってしまった陽彩ですが、クラスメイトから良い刺激を受け、再びレエナの元へ動き出します。
第3章もいよいよ大詰め!クロッカス公式ライセンス取得試験に向け、クロッカス1年生の運命や如何に……
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