File.29「小手調べ・魔窟」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆牡丹田 朱里 (ぼたんだ あかり) 27歳
厳格な性格で、常に冷静沈着。
戦闘護衛部隊"クロッカス"の総指揮官を務めている。
◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)
本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆アカツキ
陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。
お嬢様口調で、派手な見た目をしている。
◆???
???
◆クイン
???
俺が今から桔梗先輩と一戦交える……?つまり、戦うってことだよな……
「どうやら困惑しているようだな、御角」
「そりゃもう、何が何だか……」
牡丹田は俺の顔色を窺いつつ、近くに置いてあったパイプ椅子に腰掛けて長い脚を組む。
「桔梗は、2年生の中で他を寄せ付けぬほど高い戦闘力を誇る。その反面、お前は最終試験で過去最低点を叩き出した――言わば、過去類を見ない劣等生なわけだ」
「分かってますよ、そんなの」
俺への侮辱はさておき、この小柄で華奢な桔梗先輩が学年最強……?確かに、凛とした佇まいは強者の貫禄を醸し出しているようにも見えるが、男の俺相手には圧倒的に不利であろう。
「このままでは、お前は確実にライセンス試験に落ち、退学処分が下されるだろう。そこで急遽、彼女に専属コーチを務めてもらうことになったのだ」
「なるほど……」
彼女が俺の専属コーチになった理由は何となく理解したが、俺の抱く疑問はまだ解決していない。
「それで、俺が桔梗先輩と戦う必要性は一体……?」
「簡単な話だ。ちょっとした小手調べさ」
「小手調べ……」
「これから行ってもらうのは1分間の接近戦だ。アカツキとウイングには同性能の模造刀に変形してもらう。相手の身体に模造刀を当てると1点、場外に身を乗り出したり、故意に相手の急所を狙うのは禁止だ」
何かいきなりルール説明が始まったぞ……?
「指揮官、一つ質問が……」
「ん、どうした」
俺は桔梗先輩に聞こえないように牡丹田に耳打ちする。
「相手は女の子ですよ?いくらクロッカスとはいえ、さすがに手加減した方が……」
「くっ……はっはっは!」
普段冷静沈着な牡丹田が珍しく声を上げて笑い出した。その様子を見た桔梗先輩は眉間に皺を寄せる。
「お前は哀れだなぁ、御角」
「……えっ?」
「確かに、身体の構造上、女性が男性よりも不利的状況を強いられる――それは紛れもない事実だ」
牡丹田の表情が徐々に強ばっていく。牡丹田自身も、女性隊員としての立場は十分に弁えているはずだ。男性隊員を凌駕するほどの戦闘技術を誇っていたという牡丹田であれば、その過酷さ、それに熾烈な環境であったことは十二分に理解しているであろう。
「だが、お前は桔梗の実力を見誤っているようだな。まあ、今に解るだろうが――」
「指揮官、時間が惜しいので始めてもよろしいでしょうか」
俺たちの長たらしい会話にうんざりした様子の桔梗先輩は、さっさと俺との勝負を終わらせたそうにしている。
「ああ、すまない。では始めるぞ、位置につきたまえ」
牡丹田は椅子から立ち上がると、俺たちを柔道場の中心に誘導する。俺と桔梗先輩は畳1枚分程度の間隔を開け、模造刀と化したアカツキを手渡された。
全長は80cm程度で、剣先は丸まっているが、本気で当てたら普通に痛いだろうし、下手したら痣にもなるだろうな。
やはり、女の子相手に本気を出せだなんて、無理な話だ。
――だが、そんな俺の思想は瞬く間に破壊される。
「お互い、手加減はするなよ。では――」
俺は模造刀を右手で握り、顔の前に構える。一方の桔梗先輩は腰辺りに模造刀を構え、俺の足元だけを鋭い視線で見つめる。その視線には強い敵意や殺意のようなものが込められているように感じた。
俺はこの時点で負けを確信してしまいそうになったが、狼狽えずに歯を食いしばり、彼女の威圧に負けじと左手を柄に添え、剣先を桔梗先輩の胸元に向ける。
俺たちの準備が整ったのを察した牡丹田は、右手を天から地に振り下ろす。
「始めッ!!」
————————————————————◇◆
「……そうか、引き続き頼むぞ」
ピッ
「ククッ……順調に進んでいるようだな……」
陽の光が決して届くことのない、狭く寂れた部屋で独り、不敵な笑みを浮かべる男。何年も切っていないであろう頭髪は長く伸び、食事も碌に摂らず、ただ目の前に置かれた複数台のモニターの前で作業するだけの生活。
「漸くだ……漸く、我々の理想とする未来が始まろうとしている……ククッ……」
男は立ち上がると、腰の痛みを誤魔化すように拳で数回叩き、別室へと移動する。
ギィィィィ……
今にも外れそうな脆く重厚な扉を開くと、男は埃をかぶったソファへ腰掛け、テレビの電源を点ける。
『――続いてのニュースです。ヒュドールカンパニーが新たに開発中の、全自動医療クロー”Dr.Clow”は、再来年の春――』
ピッ
「……チッ、くだらん」
男は僅か数秒でテレビを消し、顔を顰めながらソファに横たわった。
……カタッ
「……ん?」
静寂の中、微かな物音に気がついた男は、その音が聞こえた部屋の隅に視線を向ける。
「……なんだ、貴様、居たのか」
「……」
コクリと機械のように無機質に頷く少女。年齢は15歳前後といったところだろうか。男とは対照的にサラリと綺麗に伸びた長髪、目に生気は無く、額には5つの赤い斑点が刻まれている。
「……解っているな?この計画は、絶対に失敗は許されない。我々の命運が懸かっているのだ」
「……」
少女は再び頷く。一方、男の表情は次第に険しくなっていく。
「貴様……ついに返事をすることすら忘れたか」
「……」
少女は首をゆっくりと横に振る。表情は変わらぬまま、絡繰人形の如く動くだけの少女に対し、男は大層苛立ちを覚えていた。
バチンッ!!!!
少女の頬を平手で引っ叩く音が部屋中に響き渡る。少女は声を上げることもなく、ただその場に跪く。
男は少女の胸ぐらを掴むと、眉間に皺を寄せながら鋭い視線を向ける。
「貴様……この計画が失敗したらどうなるのか……解っているのか!ポンコツが!!」
「はい……存じております……」
「チッ、最初から喋れ」
「申し訳、ござい――」
ガタンッ!!
男は少女の胸ぐらを掴んだまま壁に突き飛ばすと、再びソファへ腰掛け煙草に火を付ける。
突き飛ばされた少女は放心状態で壁にもたれ掛かり、ただ一点を見つめている。
「ふぅ……」
男は煙を吹かすと、傍にあった煙草の空箱を力一杯に握り潰し、威嚇するかのように歯軋りを始める。
「クロッカス……貴様らの思うようにはさせんぞ……」
ビビッ……ビビッ……
「……ん?」
部屋に置かれた内線の通知に気がついた男は、ゆっくりと立ち上がると内線を耳に押し当てる。
「なんだ?……ああ……そうか」
男の口角は徐々に上がっていく。
「よし……ではそろそろだな……」
男は短い会話が終わると、放心状態にあった少女の元へ再び近づく。
「おいポンコツ……貴様に大役を与えてやろう。詳細は”クアドル”にでも聞くんだな」
男は満足げな表情で部屋を後にした。
少女は男が去ってから少し間を置いて立ち上がると、やはり表情を変えぬまま部屋の出口へと向かう。
「……”クイン”、任務を遂行します」
————————————————————◇◆
「やあぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
俺は開始の合図と同時に勢いよく桔梗先輩との間合いを詰める。狙うは模造刀を構えていない左の脇腹、素早く振れば確実に当たる。
俺は姿勢を低くし、左足を軸にして両腕に力を込め、金属バットのように模造刀を水平に振る。
ブォンッ……!!
「なっ……!?」
模造刀は空を切り、目の前にいたはずの桔梗先輩は俺の側方へと瞬間移動していた。
バチン!バチン!バチン!
1発、2発、そして3発、俺の脇腹、太腿、腹部に強烈な打撃が入る。
「いっ……!!」
俺は想像を絶する痛みに堪えながら、2、3歩後ずさりし、呼吸を整える。
「御角!!休んでいる暇は無いぞ!!死ぬ気で食らいつけっ!!」
牡丹田の怒号が響き渡る。
「分かってる……!けどっ……!」
桔梗先輩は容赦なく俺に真っ向から攻撃を仕掛けてくる。もう、防ぐので精一杯だ。
この華奢な身体の何処にこんなパワーが秘められているのだろうか。
「俺だって……世界を変える人間になってやるんだあああああああああああ!!!!!!!!!」
俺は声を震わせながら渾身の叫びを桔梗先輩にぶつけ、俺は模造刀を振り下ろした。桔梗先輩は僅かに瞳を見開くが、俺の隙だらけの攻撃をあっさりと躱し、俺の足元目がけて強烈な一撃を繰り出す。
「うおっ!!」
俺はバランスを崩され、背中から畳に身体を打ちつけた。
「痛ってぇ……」
俺は直ぐさま立ち上がろうとするが、桔梗先輩は間髪なく模造刀の先端を俺の眼球に照準を合わせ、冷酷な視線を向けている。
「うっ……」
暗殺者を彷彿とさせる洗練された無駄の無い動きに、俺は言葉を失うしかなかった。たった1学年違うだけでここまで差がついてしまうものなのか。
「――終了!12-0で桔梗の勝利だ」
牡丹田の合図と同時に、俺と桔梗先輩の接近戦は呆気なく終わりを告げた。
言うまでもなく、俺の完敗だ。
「……クソッ!」
俺は悔しさのあまりその場に蹲り、畳に拳を叩きつける。
「……お話になりませんね」
「……何すか、煽りですか」
桔梗先輩が発した冷淡な言葉に、俺はつい強く返してしまう。
「煽り……そう思っているうちは、あなたは強くなれないでしょうね」
「なっ……!い、痛っ……!」
俺は立ち上がって桔梗先輩に刃向かおうとしたが、攻撃を受けた箇所がズキズキと痛むせいで思うように身体が動かない。左足の脛は軽く痣になっている。
「私はこれで失礼します。これ以上、彼は動けないでしょうから」
「……そうだな。ご苦労だった、桔梗」
桔梗先輩は振り返ることなく、ウイングと共に柔道場から去っていった。
柔道場には俺と牡丹田、そしてアカツキだけが残された。
「言っただろ、御角。お前は桔梗の実力を見誤っていると」
「はい、身をもって痛感しました……」
「彼女は少々気難しい性格だが、実力は確かだ。明日以降、彼女から接近戦のいろはを一から学び、己の肉体に刻み込め」
牡丹田は不安そうな顔をしている俺の肩をポンと叩くと、僅かに微笑む。
「大丈夫だ、お前は私が合格させたのだ。伸び代は保証する」
「指揮官……」
牡丹田はそれだけを言い残し、柔道場を後にした。
しばらくの静寂が流れ、俺はふとアカツキに語りかける。
「アカツキ、俺やってやるよ。絶対に、桔梗先輩に追いついてやる!」
「そう簡単なことではありませんことよ?」
「あぁ、わかってるさ。でも、桔梗先輩に勝てないようじゃ、この世界を変えるなんて到底無理だと思う」
「……まあ、そうですわね」
俺は、まだまだ弱い。最弱も最弱だ。クロッカスの第一線で戦うような人財になるには、運動能力はもちろん、判断力、観察力、協調性……他にも計り知れない能力が必要となる。
「だから……相棒として、見守っててくれねぇか?」
俺はアカツキに真剣な眼差しを向ける。
「まあ、見守るくらいならしてあげてもよろしくてよ?」
「上から目線じゃなければ素直に喜んだんだけどな……」
気難しい専属コーチに、生意気な相棒、そして俺は学年最下位の劣等生。
――本当に大丈夫か?これ……
こんばんは、ProjectAI.(プロジェクトアイ)です。
レエナとの実力差をまざまざと見せつけられ、途方に暮れる陽彩。今後の展開は如何に……
そして、謎の男に謎の少女。彼らの正体、目論見は一体……
YouTubeにて第1章のビジュアルボイスドラマも公開中です♪
↓下記URLよりご覧いただけます☺️↓
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第2章のボイスドラマは9/1(月)ついに公開予定♪詳細はX(旧Twitter)にて!
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