File.28「専属・動揺」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆御角 すず (みかど すず) 12歳(中1)
陽彩の妹でしっかり者。ヒュドール学園中等部に所属している。
◆牡丹田 朱里 (ぼたんだ あかり) 27歳
厳格な性格で、常に冷静沈着。
戦闘護衛部隊"クロッカス"の総指揮官を務めている。
◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 16歳(高2)
お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)
本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆徳川 柊 (とくがわ しゅう) 16歳(高2)
筋肉バカだが面倒見が良い先輩。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆アカツキ
陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。
お嬢様口調で、派手な見た目をしている。
俺とアカツキは寮の部屋の前に辿り着いた。
「いいかアカツキ、くれぐれもすずに迷惑かけたり余計なこと言ったりすんなよ?」
「誰ですの?スズって。犬?」
「違う、俺の妹だ」
「ヒイロの妹……ほうほう……」
『アホそうだなー』とか考えていそうだが、今はそっとしておこう。
俺は扉のキーリーダーにメモリングを翳す。
「ただいまー」
「にぃにおかえり……って、あれ?その子――」
俺の隣で立っている物体を見るや否や、リビングの奥から出てきたすずの歩みが止まった。
「ああ、俺の相棒だ。今日から一緒に暮らすことになるぞ」
「アカツキと申しますわ!えっへん!ですわっ!」
「アカツキちゃん、よろしくねっ」
すずはアカツキに視線を合わせるように屈むと、頭部をワシャワシャと撫で回す。
「わーっ!恥ずかしいからやめてくださいまし!ミーはこれでもベテランですのよ!?」
アカツキは頭をブンブンと激しく振ると、リビングの方へと走り去っていった。
「……なんか、かわいいね、あの子」
「そうか?」
リビングではアカツキが部屋を物色するかのように彷徨いており、目を細めたりため息をこぼしたりしている。
「……なんだよアカツキ、なんか不満でもあるのか?」
「なんか、面白みの無い部屋ですわね」
「ほっとけ」
そもそも学生寮の部屋に面白みがある方が問題だと思うが。
「そういえば、今日の夕飯は?」
「えーっとね、本日のメインディッシュはコチラになります」
すずが予熱していた圧力鍋の蓋を開けると、和風だしをベースとした香ばしい湯気が立ち込める。
「これは……肉じゃがだぁ~~っ!!」
「えへへっ、パパのレシピを少しアレンジしてみたんだ。美味しそうでしょ」
「くぅ~~~さっすがすず様だぜ!」
盛り上がっている俺たちの様子が気になったのか、アカツキも忍び足で近づいてくる。
「あら、ヒイロの妹のくせに優秀ですのね」
「はっはーそうだろー」
「にぃに棒読み……」
すまんな妹よ、お兄ちゃんはイライラを抑えるので必死なんだ。
「さあさあ、人間様のお食事タイムだ。クローは引っ込んでな、シッシッ!」
俺は脚に纏わりつくアカツキを手で軽く払い、二人掛けのダイニングテーブルに腰掛ける。
「キーッ!別にいいですわっ!今日はもう寝ますわよ!」
「はいはい、おやすみー」
ご立腹なアカツキはリビングの端に置かれた充電スタンドへと向かうと、即座にシャットダウンした。
「にぃに、大変そうだね」
「はぁ……大丈夫かなぁ」
この調子で果たしてやっていけるのか、不安が募る夕食だった。
————————————————————◇◆
「――本日より、ルミナスクローを用いた訓練を行う。各自、パートナーの点検を行なってくれ」
翌日の放課後、クロッカス1年は訓練場の広場に集合した。各々がパートナーのクローを引き連れており、訓練に対する士気は高まっている。
点検とは言えども、ルミナスクロー専用アプリ「With Clow」内にある設定画面から「クローの状態」という項目をタップすれば、クローの残バッテリー量や各パーツの状態が一目で分かるようになっている。
ちなみにアカツキはバッテリーの劣化ランプが常時点灯しているが、牡丹田曰く気にする必要は無いとのこと。
「何ですの?その蔑むような目は。失礼しちゃいますわっ」
それ以上に問題なのはコイツの性格なわけだが……
「これから1ヶ月間、君たち全員にライセンス試験を突破してもらうための特別講師を付けることにした。紹介しよう……」
牡丹田がパンッと手を叩いて合図をすると、俺たちの背後から二人の人物が牡丹田の傍へと歩み寄ってきた。
「嘘……だろ……」
予想外な人物の登場に、周囲は騒々しくなる。
「ごきげんよう♪クロッカス2年、翡翠蘭ですわ♪」
「やあやあ!同じくクロッカス2年の徳川だ!よろしくね!」
翡翠先輩……!?!?と、徳川先輩か……
徳川先輩はともかく、生徒会長で多忙なはずの翡翠先輩が何故ここに……
「彼らはクロッカスの中でも特に優秀な生徒だ。男子は徳川、女子は翡翠から指導を受けてもらう。ただし、彼らにも時々クロッカスの仕事が入る関係で不在の場合がある。その際は自主訓練に励んでくれたまえ」
結局徳川先輩かよ……それじゃあ4月の基礎トレ期間と全く一緒じゃないか。
「はぁ……俺も翡翠先輩から教わりたかったぜ……」
「……下心丸出しで気色悪いですわね、ヒイロ」
「うるせぇ、別にそんなんじゃねぇよ」
確かに、全くもって下心が無いといえば嘘になるが、あの高嶺の花に手を出そうもんならどんな仕打ちを受けるか分からないし、そもそも俺如きでは相手にすらされないだろうからな。
「では、広場の西側は男子、東側は女子に分かれてくれ。あとは二人の指示に従うように。私は別の仕事があるので、これで失礼する」
翡翠先輩からご教授いただけると勘違いしていた男子一同は、肩を落として徳川先輩について行く。
「はぁ……あの時のお礼、結局まだ言えてねぇんだけどなぁ」
俺もため息をこぼしつつ、むさ苦しい男子集団について行こうとしたその瞬間、誰かに後ろ襟を掴まれ反対方向へと引き摺られた。喉元がきつく締まり、息が詰まる。
「ぐぇっ!ぐっ……ぐ、ぐる゛じい゛……!」
「おっとすまない、強く引きすぎたな」
俺のしゃがれた声に気がついた馬鹿力の持ち主は、即座に掴んでいた手を離した。
「ゴッホゴッホ!!……って、指揮官!?別の仕事があるんじゃ……」
「その別の仕事というのが、お前を”ある場所”へ連れて行くことだ」
「……??」
何だ何だ、また会議室か?アカツキの表情を見るに、コイツも心当たりが無さそうだが。
「とにかく、ついてきたまえ」
「は、はぁ……」
————————————————————◇◆
「ここは……柔道場?」
俺とアカツキが連れてこられたのは、第一体育館の中にある柔道場だった。
「あぁ、お前たちに会わせたい人物がいるのでな」
「俺たちに、ですか」
誰だろう。柔道部の顧問とかだろうか。
牡丹田が柔道場の引き戸をゆっくりと開けると、部屋の隅で目を閉じ、姿勢を正して座っている一人の少女の姿があった。
「待たせたな、桔梗」
「ん、桔梗……?」
聞き覚えのある名前、そして見覚えのある容姿。正直、あまり思い出したくはなかった。
俺たちの入室に気がついた少女は、ゆっくりと立ち上がると俺たちの方へ近づいてきた。
「紹介しよう、今日からお前の専属コーチを務める――」
「戦闘護衛部隊クロッカス2年、桔梗レエナです。よろしくお願いします」
牡丹田の言葉に被せるようにして少女は礼儀正しく頭を下げ、淡々と自己紹介をした。
「ど、どうも……1年の御角陽彩です」
彼女はまるで初対面であるかのような態度を取っているが、俺は彼女が”桔梗レエナ”という名前であることも、クロッカスの先輩であることも既知である。
俺のことは忘れてしまったのか、それとも忘れたことにしているのか……
創立祭の件については、是非とも記憶を消し去っていただきたいのだが。
何はともあれ、彼女が俺の専属コーチになるという予想外の状況に、俺は気が動転していた。
「なーんだ、誰がコーチになるのかと思ったら、レエナでしたの」
「こんにちは、アカツキ」
俺の顔を見てからずっと無表情だった桔梗先輩の口角が僅かに緩んだ。
「えっ、二人とも知り合いなのか?」
「ええ、レエナとは昔からの付き合いですわっ!」
なぜか自慢げにマウントを取るアカツキだが、牡丹田の元パートナーであるならば何ら不思議ではない。
「桔梗、”ウイング”はどこにいった」
「”ウイング”でしたら、私の背中に隠れています」
桔梗先輩が後ろを振り向くと、その名の通り、天使の羽のように綺麗な触角が特徴的なルミナスクローが背中にしがみついていた。”ウイング”というのは、桔梗先輩のパートナーの名前らしい。わざわざ隠れるなんて、よっぽど人見知りなんだろうな。
「そうか、ならば丁度良いな」
「ん?丁度良いってどういう……」
桔梗先輩は鋭い眼光で俺を見つめると、俺との間合いを徐々に詰める。俺は彼女の雰囲気に気圧されるように少しだけ後ずさりをするが、どうも逃れられるような状況ではない。
「……御角くん。今から私と、一戦交えていただきます」
「……はい!?」
こんばんは、ProjectAI.(プロジェクトアイ)です。
陽彩の専属コーチとなったレエナ。ここから二人の物語が幕を開ける……?
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