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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 3. Tomb of the Red Queen
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幕間3

「それであのオジサンは何だって?」

「この手配書にあるテロリスト4人を倒せだってさ」


 私……アデレイドは仲間の少女、エヴァニアから渡された手配書を受けとった。


 この世界に異世界召喚されてから4ヶ月。

 

 最初の部屋から運営に直接案内されてやってきたこの町……セレファイスでの生活にも慣れてきた。


 このセレファイスの町は見た目こそファンタジーRPGのような中世風の都市だが、実際はこの世界でゲームをやっている運営がこの世界の管理を行うために作り上げられたハイテク都市だ。


 建物から街路樹に至るまで、全てが運営のシステムで管理されており、決して朽ちるということがない。

 

 なんでもこの世界でゲームを始めてから400年間、全く変わることなくこの町の形を維持し続けているらしい。


 町の住民達もそうだ。


 1つは、この町が住み易いと近隣地域から移住してきた何も知らない一般人。

 そしてもう1つは、この運営が人間の情報から作り出したクローン人間だ。


 町の機能を維持するためだけに人工的に生産され、劣化したら新しいクローンに入れ替えられる。

 そのために何も事情を知らない一般人には年を取らない不老不死の人間が住んでいるように見えるだろう。

 

 時間が流れない都市……この町と交易を始めた町はそう称しているとか。

 

 その不滅の町で私達は冒険者の真似事をやっている。


 住民達の要望に応えて、近くに発生するモンスターを狩ったり、お使いしたり、敵対勢力との戦闘を行うなどだ。

 

 元々はただの女子高校生である私やエヴァニア。

 大学生のジュウベイが冒険者という危険な仕事をやっていけるのは、この世界へ召喚された時に与えられた能力が有るからだ。

 

 あの世界から50人が同時に喚ばれたが、私達はその中でもトップ5の実力があるらしくて、特に苦労なくやっていけている。

 異世界チートとか言うのだろうか?


 どんな敵が出てきてもスキルを使えば簡単に倒せるし、結果を出せば住民達からも称賛される。

 

 そんな私達に「仲間を狩れ」という命令がやってきた。


「それでこいつらは何やったの?」


 冷めた目つきで尋ねると、エヴァニアはクフフフと何が面白いのか変な笑い方をした。


「テロ活動だってさ。この世界へ来た時に貰った能力をチート能力だと勘違いして、それを悪用して住民に迷惑をかけまわっているって」

「悪質だね。私達はチート能力を貰っても慎ましく生きてるってのに。変なマンガに影響されたんじゃないの? 自分達は主人公だから、何をやっても許されるって」

「やっぱり向こうの世界の人間ってクソでしょ。こりゃ懲らしめないとね。上には上がいるってさぁ!」


 手配書に載っているのは男が2人、女が2人。

 この中の女がリーダーということになっている。


「それでこのリーダーの名前の横に付いてる(ハロウィン)って何よ」

「さあ? 本当なら私達の仲間になるはずだったあの子と同じじゃないの? 誘ったけど断られたでしょ。(水着)の子」

「ああ、いたね。なんか痴女みたいなの」


 本来ならば私とエヴァニア、それに(水着)の子が選ばれた3人のはずだったが、(水着)の子は他の変な服を来た連中とチームを組んでしまった。


 ただ、惜しくはない。


 近代的な軍装に近い私、ゴスロリパンク風のエヴァニアとは見た目からして元から合わなかったとも言える。


 そこで代わりに拾ってきたのが、今も部屋の外でトレーニングをしているジュウベイ君だ。

 

 改めて手配書を読んで思わず吹き出した。


「待って、この人達って普通にレアリティ低いんだけど」

「本当だ。なんでこれで自分達が一番だと思ったの? 思い上がり過ぎじゃないの? バカかな?」

「まあ、一応戦績だとSRで構成されたチームに勝ったとなってるね。戦闘技術はそれなりだと思う」


 それぞれの人物の紹介の下に簡単な戦歴が書かれていたが、私達と同じように運営側に雇われた戦士、錬金術師、アサシンのチームの襲撃を返り討ちにして、戦士を殺害と記載されている。

 

 他にも古代遺跡で調査を行っていた組織の女性エージェントを殺害とある。


「すごいじゃん。現代人なのに人間殺しまくってる。こいつらに倫理観とかないの?」

「酔ってるんじゃない? 自分達の力に」


 ラヴィニア(ハロウィン) SR 邪神の巫女

 モーリス R 衛兵

 エリス R 武闘家

 カーター SSR 探索者


「DEAD or ALIVE……別に生きていても死んでいても良いんだってさ」

「じゃあ殺しちゃう? 殺しちゃう?」


 エヴァニアがまたはしゃいでいる。

 もう少し落ち着いてくれるなら良いのだが。

 

「一応はこらしめて牢屋の中へ入れるだけにしておこう。もちろんうっかり死んじゃったら知らないけど」

「じゃあ、あたしはこの名前被ってる子をもらっちゃうね。ジュウベイ君はこの男の子をやってもらおう」


 エヴァニアはリーダーのラヴィニアという娘を指差した。

 常にテンションが低そうなダウナー系の少女だ。

 

 まあ、いつも無愛想なのは私も同じだが。

 よく常時ハイテンションのエヴァニアと付き合えているなと思う。

 自分でも驚きだ。

 

「なら私は残り? このカーターってのだけはSSRだから手強そうだし。まあ、私らに比べりゃ低いんだけどね」


 私は虹色のカードを取り出した。

 

[アデレイド UR]


「まあ、あたし達が最高ランクだから、勝てるわけないんだけどね」


 エヴァニアも張り合うつもりなのか金色のカードを取り出した。

 

[エヴァニア SSR Limited]


「さて、それで何処に行けば良いのかな? ここで迎え撃てばいいの?」

「オジサンによると、この大きな町に来るらしいから、そこで待ち構えろだってさ」


 エヴァニアが手配書の資料として付いていた地図を指差しながら言った。


「ここに転送してもらえれば早いよ」

「湖畔の町、サルナスか」


   ◆ ◆ ◆


「これが最高ランクの3人だが勝てると思うかね?」


 僕……メルクこと六平英知(むさかえいち)にゲームマスターを名乗る人物が尋ねてきた。


 目の前のモニターにはアデレイド、エヴァニア、ジュウベイ……第1チームが何やら手配書を見て色々と皮算用している姿が映し出されている。


 個人の能力や戦歴も記載されていているというのに、どう戦うかではなく、勝った後にどうするかの話しかしていない。


 僕の性格を知っているならば、何と答えるなんて分かっているだろうに。


「戦闘になるかね」

「私は5分と見た」


 僕の答えとしては、どうせあのラヴィとかいう変な女に口で丸め込まれるか、この3人がヘタれて戦闘にならない。

 そういう意味で言ったのだが、どうもこのゲームマスターは戦闘をして負けると思っているようだ。


 本当にこいつは見る目がない。


「酷いやつだな。子供向け番組でも30分は引っ張るぞ」

「その子供向け番組も戦闘シーンのパートだけ抜き出せばせいぜい5分だろう」


 本当に酷いやつだ。

 だからこそ、僕達に声をかけた理由が分かる。


 僕は、与えられた錬金術師の職業と、改変の能力を使用して、タウンティンの軍事施設で使用されていた無線機を盗み出して改造。

 

 改造無線機でゲームを運営している連中が使用している通信回線を特定。


 その情報を元に、例の遺跡に設置されていた転移の扉を改造して、運営の基地に転移して交渉したのだ。


「無能なお前たちに代わって、天才の僕がこのゲームを正しく運営してやる」と。


 その尊大な言動がこのゲームマスターという男に気に入られたのか、この拠点へと招かれて現在に至っている。


 つまり、僕は1プレイヤーにも関わらず運営と近い立場にいるのだ。


 400年の歴史が有るこのゲームだが、ここまでやったのは僕が最初らしい。


 やはり僕の知能は凡人とは違う。


「どの辺りが勝てないと思う?」

「慢心」

「スペック差もだよ。ランクアップ後と初期状態なら前者の方が強いに決まってる。彼女達は自分達の初期状態がたまたま高スペックだったのを過信して、常に相手は自分達より下だと思い込んでいる」

「それを慢心と言うんだろ」


 本当に酷い趣味だ。


 僕達をこの世界に召喚してゲームを行っている運営は本当に趣味が悪い。

 このゲームを観戦してる観客(オーディエンス)とやらもそうだ。


 勝てるか勝てないかのギリギリの範囲の敵をぶつけて「英雄」が苦しむ様を娯楽にしている。

 

 あの最高スペックを与えられた連中もその余裕の表情が崩れることを期待されているのだろう。


 もちろん、あのラヴィとかいう頭がおかしな女の仲間が無様に負ければ、それはそれでヨシということだ。


「低レアのやつが必要以上に自分を卑下したり、逆に高レアのやつが自信過剰に振る舞うのを見て笑い、ランクアップで立場がひっくり返るのを見て更に笑う。酷い趣向だ」

「でも楽しいだろう。自信満々の奴のプライドが砕けて絶望する様は。まあ、1人くらい倒して盛り上げてくれることを期待するよ」


 それを聞いてゲームマスターと共に笑い声をあげた。


「クソみたいだな」


 これは聞かれないように小声で呟いた。


 自分に誇れるものがないから、他人の不幸を見て嘲笑うことで、相対的に自分が上だと思い込む。


 このゲームの運営も、それを見て楽しんでいる観客もクソのような連中しか居ない。


 こんな奴よりも天才の僕が代わりに運営してやる方が正解なのではないか?


「僕ならば、もっと面白い趣向を用意できますよ。あの自称ナンバーワンよりももっと面白い」

「それはどういうことかな?」

「この施設にある研究施設を使わせて欲しい。僕が……人間の心理を知る天才の僕が最高のエンターテインメントってやつを見せてやるよ」


「研究施設」と聞いてゲームマスターが露骨に顔をしかめた。


 まさか僕が知らない、気づいていないと思ったのか?


 スキルであらゆる情報にアクセスして改造できる僕が何にも気づいていないと?

 この施設で何が行われているかを知らないのと?


 目の前の「ゲームマスター」様が過去に何をやったのか、前任の「ゲームマスター」がどこにいるのかも把握済だ。


「何をするつもりなんだ?」

「あいつらが会いたいって言ってる相手に会わせてやるだけだよ。これだけでもドラマが産まれる。それをどう調理するは乞うご期待」

「それは楽しみだ。君の初プロデュースを楽しみにしているぞ」


 ゲームマスターはそう言うと手元のワイングラスからワインを飲み干した。


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