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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
卒業
303/303

――Part2 「空間を歪める杭」

 矢上の案内で狭い道を抜け、県道23号線を南下。

 マクドナルドが見えてきたあたりで脇道へ入っていく。


 道路より下の方には川が流れているようで、車の走行音に混じって、水の流れる音が聞こえてくる。

 やや進むと、そこにはススキに覆われた広い空き地があった。


 見事に空き地を白く染めている穂は、風に揺れ、整備された道路のすぐ脇とは思えない、取り残されたような静けさを醸し出していた。

 その空き地の前で矢上は立ち止まった。


「洋館があったのはここです」

「ここ!?」

 

 私有地らしく、簡易的な柵と目隠しらしいビニールが付けられているが、その中はススキに覆われており、とても建物が建っていたようには見えない。

 

 左右には横浜らしからぬ山に囲まれた光景だ。


 周りには住宅はあるものの、平成くらいに建てられたごくごく普通の住宅ばかりだ。

 とても、明治や大正時代から古い洋館が建っていたような立地には見えない。


「みなさんに、洋館の写真データを送りますね。近距離だとギガを使わないので、許可が出てきたらOKボタンを押してください」

「ああ、分かった」


 端島のスマホに画像が送信されたというメッセージが表示されたので「OK」ボタンを押すと、洋館を外から撮影した写真が転送されてきた。


「洋館の後ろに写り込んでる背景はここで一致してますね」


 合田が洋館の写真の背景と、実際の光景の一致箇所をめざとく見付けた。


 端島にも、既に日は落ちて暗くなっているが、それでも背景に見える山の稜線や木、電波塔の位置などが一致してくることは分かる。


「ここらが開発されたのは、昭和の終わりくらいの新しい町なんです。だから、大正の建物が建ってるわけがないので」

「まあ、住宅地だとよくある話なんじゃないの?」

「でも、確か明治の時に教会が建ってたって話はなかったっけ? 小森が調べてきたはず」


 ここで柿原が気になる話を出してきた。


「教会?」

「いや、それはさすがに関係ないと思うよ。横浜天主堂事件だっけ? キリスト教が弾圧されて、山の中に逃げ込んできたとかいう事件の話」

「そんな事件が有ったんですね。それで建っていたという教会というのは?」


 合田がスマホのメモアプリを起動させて、メモを取り始めた。


「明治時代に昔にアメリカ? から移住してきた人がいたらしいんだけど、当時に関内の方でキリスト教が迫害された事件が起こって、山の中に逃げ出したって話。横浜の山手の方が有名なんだけど」

「今は僕らの通う学校がある場所に、当時の外国人が隠れ住んでいたってらしいよ。まあ、昭和初期で戦争が始まる前にみんなアメリカに戻ってしまって、その教会も家も壊されたらしけど」

「さまよう幽霊屋敷と関係していたりしますかね?」

「それは私たちも考えた。で、図書館や資料館で古い写真を調べたんだけど、形はまるで別物だった」

「なるほど……それは学校の場所だけの話ですか?」

「えっ?」


 柿原は意図が理解できず、間抜けな返事を返した。


「いえ、外国人が何人も移住してきたんですよね。なら、家が一軒ってことはないですよね」

「言われてみるとそうか……」


 柿原は、ここで合田の質問の意味を理解したようだった。


「調査は小森がやったんだけど、その時のPDFがまだスマホの中に入ってるはず」

「いただけるとありがたいです」

「じゃあ、転送するね」


 柿原がスマホを操作して、PDFデータを合田のスマホへ転送した。

 それを合田はすかさず開いてチェックすた。


「学校以外にも外国人が住んでいた場所はあったみたいですね。キリスト教会寄贈って公園がいくつかあるので」

「えっ、そんなのあったの?」


 合田が受け取った資料の古い地図には、外国人居住区と書かれた箇所が数カ所あった。


 背後を振り返り、県道の先に続く高台の住宅地の方を見る。

 資料が正しければ、そこにも古い外国人居住地があったはずだ。


「このシャロンのバラ園とかいうところもその跡地みたいですね。今は展望台みたいになってるみたいですが」

「そこらの詳しい話は、小森に直接会ってもらった方がいいかな。今日は無理だろうけど、明日以降なら話はしとく」

「じゃあ、明日お願いします」


 合田はやや強引に約束を取り付けた。


「次に……友瀬……さんでしたっけ? 分析の能力を持っているんですよね」

「はい。もちろん、私の能力で、この広場は調べてみました。だけど、何も出てこないんです」


 合田の質問に友瀬が答えた。

 その後に、友瀬のブレザーの胸元から、呼ばれたと勘違いしたのか、赤い鳥の頭がぬっと突き出てきた。


「そんなところに隠してたのか」

「はい。しばらく出しっぱなしのほうが効率は良いので」

「妙に服が膨らんでるなと思ったら、そういうことか」


 端島が感心するが、その直後に合田と梨本が両側から耳を引っ張った。


「どこを見てるの? 失礼でしょ」

「そういうところが端島さんのダメなところです」

「何がダメなんだよ!」

「あの、友瀬さんって高校2年で17歳ですよね」

「はい、そうですよ」


 合田の質問に友瀬が答えた。


「私はまだ16歳。高校1年なので、1年あればまだ成長できると思います」

「えっと……はい」

「合田チャンって高1だったの? わたしは18だよ」

「同じ年だと思ってました……端島さんは?」

「俺は17で高校2年」

「みんな同じ年だとばかり……」


 こんな基本的なことも話していなかったことに合田は今更驚く。

 ずっと戦闘ばかりの日々で、すっかり日常というものを忘れていたと。


「合田、念のために分析を頼めるか? 似たような分析能力でも、若林(わかばやし)と合田じゃ分かる内容が違っていただろ」

「そうですね。私の能力でもしかしたら何か分かるかもしれません」


 合田は、その広場……空間そのものに対してスキル「分析(アナライズ)」を使用した。

 眼鏡の下の合田の目が青白く光る。


 分析の効果範囲は視界内の全て。

 薄い壁くらいならば突き抜けて、見ることが可能だ。

 それを利用して、レーダー代わりにも使用することも出来る。


 本当に空き地に「さまよう幽霊屋敷」とやらが存在していたのならば、痕跡くらいは発見出来るだろう。

 というのが端島の狙いだ。


「私のアル君と違って、コンソールみたいなのは出てこないんですね」

「むしろ、出てくる方が不思議なんですけど。どういう原理なんですか?」

「さあ……」


 友瀬も使い魔「アルゴス」を使用した際に、分析したデータがゲーム画面のように、宙に浮かんだ半透明コンソールに浮かび上がる原理については分かっていないようだ。


 かく言う合田も分析の原理について理解しているわけではない。


 ともかく、能力を使うと、隠されていた調査対象の情報が見える。

 それだけ分かっていればいいと思っている。


 スキルは能力の認識やイメージによって、ある程度効果を拡大出来るということは、以前に上戸から聞いてはいる。

 ただ、全く原理不能の分析については、変な認識をしてしまうと、逆に機能が低下する恐れがあるため、あまり深堀していない。


「それで、何が見えた?」

「空間の歪み……というか、歪んでいた痕跡みたいなのが残っています」


 合田が空き地の方を指差した。

 第3世界から元いた第4世界へ帰る時に通った次元の門……それと同じような次元の歪みが存在したであろう痕跡をうっすらと見ることが出来た。


 その歪みの中心部には、ススキの合間に僅かではあるが、金属製の杭のようなものが刺さっているのが見える。


 その金属杭は、暗がりではあるが、街灯や周囲の住宅の明かりに照らされて、鈍い光を放っている。


 侵入防止の柵や警告の立て札などが土地の周囲に立っているのは理解出来るが、土地のど真ん中にそんな金属製の杭が刺さっている理由を論理立てて説明出来ない。


「怪しいのはあの杭ですね。スキルでも、具体的にどうだとは出てこないんですけど、歪みの中心というのが引っかかるんです」

「いっちょ調べてみるか。杭を抜いてみればいいんだろう」


 端島は空き地を囲っているフェンスに手を掛けた。

 もちろん、中の杭を直接調べようと考えてのことだ。


「何をやろうとしてるんですか! 私有地ですよ」

「そうは言っても、実際に見ないと何も分からないだろう」

「やるなと言ってるんじゃないです。こんな目立つ場所で侵入すると通報されるでしょ。やり方を考えようってことです」

「こんなことなら、やっぱり船木にも声を掛けとくべきだったか。あいつの動物なら、自然に調べられるだろう」

「船木さんは呼ばないでくださいよ」

「なんでだよ。仲間は多い方がいいだろ」


 端島と合田で口論が起こった。


「その船木って人は何ができるの?」


 柿原が尋ねてきた。


「色々な動物を喚び出して操れるんだ。少なくとも人間が何かやるよりは自然に調査できると思う」

「動物ってどんな? 犬とか猫とか?」

「犬というか狼は何度も出してた。あとは猿とかキツツキとか」

「ウサギとか出したりは?」


 期待を込めた視線を端島へ向けた。


「それは知らない。戦闘用の動物ばっかりじゃないかな」

「なーんだ」

「また行きましょうね、ウサギ島。一緒のフェリーで知り合った人も誘って」

「岡山の人だっけ? そうだね、また行こう」


 柿原と友瀬から船木への興味はそれで失せたらしく、違う話へと移行していった。


「動物に調査させるというなら、ちょっと任せてくれないか?」

 

 一連の話を聞いていた新坂隼人(にいさかはやと)が2人の間に割り込んだ。

 

 新坂の手にはオイルライターが握られている。

 矢上や友瀬も使い魔を喚び出す際にはオイルライターに点火するのを予備動作としていた。


 新坂も同じように、ライターの点火をトリガーにしている……つまり、使い魔で何かをやろうとしていることは分かった。


「新坂の能力って、遠隔操作できる能力だったりするのか?」

「まあそういうこと。近接戦闘能力は矢上君のカボチャほどじゃないが、その分だけ、少し遠くまで移動させて細かい動作をさせることができる」

「理屈は分からないけど、それが一番良さそうだ。やってくれ」

「わかった。任せてくれ。来い、ホルス!」


 新坂がライターを点火すると、頭部が鳥……隼、体は褐色で筋肉隆々とした人間……奇妙な怪人が姿を現した。

 召喚系能力……エジプトの神話に登場する、太陽神にして天空の神だ。


「その怪人が入っていったら余計に目立つんじゃ」

「なのでこうする。分離しろ!」


 新坂が怪人に命じると、その姿が何羽もの隼へと姿を変えた。


 そのうちの2羽が空き地内の杭の方へと飛んでいく。


「便利なものだな。でも、鳥だけじゃあ、あの杭は調べられないんじゃ?」

「大丈夫。部分的に元に戻すから」


 杭の上に止まった2羽の隼は、一度宙に溶けて、人間の腕のような形状へと変化した。

 腕だけが器用に宙に浮き上がり、杭を握って地面から引き抜いていく。

 

「あれはあれで気持ち悪いな」

「とはいえ、今できるのはこれがベストでもある」

「やっぱり船木を呼ぶか」


 そうしているうちに杭は完全に引き抜けた。


 腕だけではそのまま杭を持ち上げて運ぶほどのパワーはないようだった。

 宙に浮かんだ腕が杭を転がして運んでくるシュールな光景が眼前で展開される。


「歪みが……消えた」


 合田が近くに転がってきた杭を目視するも、詳細については分からない様子だった。


「歪みってのが、何かは分からないけど、その杭で歪みが固定されていたってわけか?」

「状況だけ見るとそうなります。その杭も、何かしらの魔術が掛かっているみたいです。ただ、それについては私の能力だと全然わからないんですが」


 合田の能力で分析出来なければ、この場にいる人間には誰も分からない。

 色々と案を出すが、これという結論は出てこない。


「でも、魔術関係であることは間違いないんだろう。こんなの勝手にどこかから飛んできて刺さるわけがないし。誰かが何かをやったんだ」

「誰か分かる人は……」

「和泉さんに連絡してみよう。魔術関係ならば、見せたら何か分かるかもしれない」


 端島は早速、聞いたばかりの和泉の携帯番号に電話を掛ける。

 数度コールすると和泉に繋がった。


「すみません和泉さん、謎の洋館があったとかいう場所で、変な杭を見付けたんだ。多分、魔術関係の品だ」

『まっすぐ帰れと言っただろう』


 端島の状況報告に対して、返ってきたのは、若干の苛立ちと小言だった。


「端島さん、ダメですよ。私たちは第4世界の和泉さんとそんなに信頼関係を築けていません」

「そんなこと言ったって……」

『だが、見付けてしまったものは仕方ない。明日にでも回収に向かう。杭はその場に放置しておくこと』

「放置って……明日まで、こんな誰でも通れる場所に置いといて、大丈夫なんですか?」

『そんなわけがない。君たちの最善策は、杭を抜くことではなく、杭が刺さった状態のまま、私に連絡することだった。状況の保全は調査の基本だ』

 

 和泉の説教は耳が痛いが、もっともだった。

 

『抜いてしまったものは仕方ない。だが、きちんと、やらかしたことについての反省はして欲しい』

「すみません」

『ならいい。魔術関係の品は、一般人には危険な可能性が高い。杭はその場に放置して、早く帰りなさい』


 和泉の言葉は、ただの警告ではなく、集まった一同を心配してのことだということくらいは端島にも分かった。


「でも、そんなに危険なものを、こんな誰もが通る道のすぐ近くに放置はしとけないでしょう」

『だが、誰かの家に持っていくなど論外だ』

「それなら、いい方法がありますけど、それで行きます?」


 耳を澄まして通話の内容を聞いていた柿原が人差し指を立てて提案を始めた。


「うちの高校って、この坂を上がってすぐのところにあるんだけど、そこなら安心して置いとけると思う」

「学校なんて余計にダメだろ。大勢の人がいるのに」

「それが大丈夫なところがあるの。もう学校は門を閉めちゃってるから、他に誰も入り込まないし、そもそも昼間でも誰も来ないようなところが」

「そんなところがあるのか?」

「もちろん。うちの学校の旧校舎。そこなら絶対に人は来ない」


   ◆ ◆ ◆


「来い、ビアーキー!」


 端島が昆虫の胴体を持つ竜……ビアーキーを喚び出した。

 ビアーキーは棒のような腕を器用に動かして、杭を掴み取る。


「町中でそんな目立つのを出して大丈夫なの?」


 柿原の指摘も当然だ。

 路地とはいえ、周りには住宅もあり、人通りが皆無ではない。


 また、一本道路の先は交通量が多い県道だ。

 あまり目立つことは出来ない。

 

「なので、藪や山の中を突っ切らせて、最短で旧校舎とやらに置いておく。とりあえず屋上に投げ込んときゃいいんだよな」

「とりあえず屋上で。そこなら、絶対他の誰も来ないだろうし」

「明日に和泉さんという人が回収に来たら、こっちでホルスを使って屋上から回収するよ」


 新坂がライターを消化すると、腕と化していたホルスが消えた。

 今のように遠隔操作をうまく活用すれば、やはり誰の目に見られることもなく、屋上に放置した杭を回収出来るだろう。

 

「OK。じゃあ行け、ビアーキー!」


 端島の命令どおりにビアーキーは飛翔する。


 直線距離だと、矢上たちが通う学校までは数百メートルの距離。

 ビアーキーの射程内には十分収まる。


 木々の中を突っ切らせることで、限りなく目立たないように飛翔したビアーキーは無事に旧校舎の上空に到達。

 杭を屋上へと投下後、速やかに消えた。


「じゃあ、今日のところは解散でいいかな?」

「そうだな。このまま調査を続けてると、和泉さんにも怒られるだろうし、うちの親も何か言ってきそうだ」


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