閑話 5 「海蝕洞窟」
まずは鳥達を四方に放って島の調査を開始する。
手始めにホテル……かつて富豪の屋敷だった洋館を上空からチェックだ。
10人近くが亡くなった場所と考えるとあまり気持ちが良い場所とは言えない。
だが、ホテルとして再利用する際に全面改修が入っており、その事件の時とは実質違う建物とも言える。
ここは割り切っていくしかないだろう。
屋根の上にはホテルの電力を賄うためのソーラーパネルの間にかつて煙突だった突起物と、複数の海鳥の巣が見える。
煙突の排煙口はセメントで固めて使えなくしているようだ。
鳥の巣が多いのは、海から近い場所にある平らな屋根を持つ建物は海鳥も使いやすいのだろう。
鳥の巣は木の枝や流木などの漂着物を固めて作られ、鳥の羽で固められている。
雛が巣立って使われなくなった巣は、もはやゴミの塊でしかない。
風に飛ばされて煙突に詰まっても何もおかしくない。
「煙突が詰まった原因は海鳥の巣みたいだな。屋根の上のあちこちに巣が作られている。おそらくそれが煙突の中に落ちた」
「カモメの巣のせいで事件が起きたのか」
「あれはウミネコだ。どうやって見分けるか? ニャアニャアなくのがウミネコだ」
「ガーガー鳴いているが」
「……ウミネコもカモメの仲間なので」
「カモメなんだな」
「海鳥のコロニーだな。うるさいのは多分威嚇されてる。自分達のテリトリー内に見慣れない鳥が飛んできたと」
「カモメなんだな」
屋敷の調査はもういいだろう。
続けて島の調査に入る。
島の南東側。ちょうど三日月の内側、湾になっている部分に波止場と砂浜の広がるビーチがある。
脱衣所や簡易シャワールーム、バーベキュー広場はその近くにあるが、ホテルから荷物をまた運ぶのは面倒そうだ。
端にはホテルと同じくソーラー発電で稼働する無人灯台。
大きな離島だと海底ケーブルで本土から電力を供給しているらしいが、人が住んでいないこの無人島にそんなものはない。
だからなのか、灯台とホテルへ電力を供給するためのソーラーパネルが島のあちこちに設置されている。
俗世からかけ離れたような無人島だが、こういうところだけは現代的だ。
ソーラーパネルの発電量でも、灯台の灯りやホテルの宿泊客用の冷蔵庫と照明くらいなら十分賄えるのだろう。
「南東側にはこれといって怪しそうな場所はないな」
「事前に航空写真で確認した通りだ。この島の利用者は港やビーチのある東側ばかりで、反対側の山や崖には誰も行かない。岩礁が多くて船も近づけない」
カーターがスマホを取り出し、現在位置周辺の航空写真を表示させた。
四国やしまなみ海道の島々が近く、周囲に大きな遮蔽物もないためか、離島にしては電波環境が悪くないのは幸いだった。
俺と麻沼さんが画面を覗き込み、現在位置から島の地形を再確認する。
「本命は北西側か。人が歩いて向かうような道があれば良いんだが」
「ホテルの裏側から入っていけそうですね。通路のような筋が見えます」
麻沼さんの言う通り、ホテルの裏手には細い獣道のような筋が走っていた。
道は人か獣が通らなければできない。
だが、この島には人も獣もいない。
つまり、この島を買い取った富豪、あるいはそれ以前に島を利用していた「誰か」の足跡が、道という形で残っているということだ。
航空写真の倍率では判別しづらいが、実際に見れば何か手掛かりがあるかもしれない。
四方に飛ばしていた使い魔達を北西に移動させるよう指示を出す。
「この獣道を目印に、何かないか探してくれ」
「何かとは?」
「怪しい建物とか海蝕洞とか。現代まで発見されていないということは、多分空や真正面から隠れて見えない構造のはずだ」
日本軍の軍事施設に使われていたとなると、研究機関か、軍用戦の整備工場のどちらかだろう。
ノーヒントよりも目星がついている方が探しやすい。
「海蝕洞なら、波の動きも参考になるはずだ。中に入った波が奥まで達したら跳ね返ってきて変な流れが発生しているはずだ」
「そこまでヒントがあればもう答えだろう」
南東の穏やかな砂浜とは対照的に、島の北西側は切り立った断崖が連なっていた。
近くの笠岡諸島――北木島や白石島の石切り場にも似た、鋭い岩肌が海面から立ち上がっている。
波が砕けるたび、白い飛沫が霧のように舞った。
あまりに岩が密集しているため、人も船も容易には近づけそうにない。
人はまともに歩けないし、船は座礁する危険がある。
もし海蝕洞が有ったとしても、これではまともに使えないのではないだろうか?
ここで違和感に気づいた。
海面から突き出た岩はともかくとして、不自然に角が鋭く、大きな岩がゴロゴロと転がっている場所がある。
鳥の使い魔の視点でよく観察すると、岩の一部が不自然に黒ずんでいた。
何か高熱を受けて焼け焦げ、煤がついたような感じだ。
「まさか出入り口を爆破したのか? 証拠隠滅のために?」
元が軍の施設ならば十分に有りうる話だ。
ここで秘密の実験が行われていたことを知られないために出入り口を爆破。
中に入れないようにしただけではなく、人や船も入れないようにした。
明らかに怪しい。
使い魔を崖の中腹をなでるように飛ばすと、黒い縦筋――亀裂のような線が見えた。
崖を正面から見るとただの影にしか見えない。
だが、亀裂は斜めに走っており、角度を変えるとその奥にわずかな空間が見えた。
出入り口は大きな岩によって塞がれているが、使い魔の大きさならば侵入出来ないこともない。
一度使い魔を解放すると、カーターが平手を前に伸ばしてきた。
俺の微妙な表情の変化で、目的の場所を見つけたことに気付いたようだ。
カーターと手を打ち鳴らす。
気心知れているので、言葉を交わさなくともお互い考えていることくらいある程度は分かる。
「2人とも息はピッタリですね」
「まあ付き合いは長いんで」
2人に発見したものを結果報告する。
洞窟を見つけたが、海路では向かえそうにないこと。
入口だけではなく、内部は落盤で崩落している可能性についてもだ。
「ならホテル裏から陸路で向かうか。地上からどうなっているか確認したい」
◆ ◆ ◆
俺とカーター、麻沼さんの3人はホテル裏の獣道を進むことにした。
裏手には、雨水を貯めるための大きなタンクと、スコップなどの道具が詰め込まれた倉庫がある。
ここには明日のバーベキューで使うバーベキュー台などの道具が一式保管されている。
宿泊客が来るのはおそらくここまでだろう。
この先に足を踏み入れる理由など、本来なら誰にもない。
獣道は、雑草に覆われていた。
地面には落ち葉が厚く積もり、踏むたびに湿った音がした。
何年も人の足が通っていないのが分かる。
「人が通った形跡はないな」
「ただ、これは長年人が通り続けて踏み固められた道です。長年放置されていても、そこだけは自然に還りにくい」
麻沼さんが足元を指さした。
道は消えつつあるが、完全に痕跡を断つまでには至っていない。
しばらく行くと、木々の間に灰色の石がちらりと見えた。
近づくにつれ、それが鳥居だと分かる。
石材を丁寧に加工して作られた立派なものだった。
苔に覆われているが、刻まれた文字はかろうじて読める。
「大山神社……?」
鳥居の奥には、小さな祠があった。
石垣に囲まれた空間の中心に鎮座する社殿は半ば崩れかけている。
木材は湿気と塩で黒ずみ、屋根は傾き、片方の柱は根元から裂けていた。
地面には風化した御札や、割れた陶器の皿が散らばっている。
鳥居を抜けて神社の裏手へ出ると、そこから先は道が途切れていた。
足元の先には荒れた断崖が広がっていた。
「ここが海蝕洞の真上か」
眼下には波が白く砕けている。
崖の下からは、先程使い魔のコントロールを一時失わせるほどの強風が吹いている。
「瀬戸内海だと恵比寿神社か八幡神社……海の神が定番のはずだが」
「偶然ここに神社があるとは思えませんね」
「麻沼さん、魔力反応は?」
「微かにあります。わざわざこんなところに神社を建てたのはそれが理由……荒神を鎮めるためでしょう。神社は立て直しているようですが、鳥居の方は日本軍がいた頃よりも、もっともっと古い……200年以上は経過しているかと」
つまり、この島が無人島になる前に何者かがこの島に住んでいたか、利用していたということだ。
「200年以上前となると、お前の雑学知識で、何か思い当たる節はあるか?」
「大山神社が実質答えだな。村上水軍だ」
島の位置、古びた鳥居の造り――二百年以上前の遺構、そして神社の名前から推測するならばこれが最も自然な解答だ。
「詳しく」
「室町時代から瀬戸内海を拠点に活動していた海賊だ。商船から通行料を取ったり、略奪したり、時には戦国大名に雇われて敵対相手と戦ったりと傭兵的な仕事もしていた」
「そんな連中が、なんでこんな無人島に?」
「ここも連中の基地のひとつだったんだろう。しまなみ海道沿いの島々にも、似た遺構がいくつも残ってる」
俺は潰れた神社の中に転がっていた古い御札を拾い上げ、スマホのカメラを向けた。
環境の悪さと経年劣化で文字は消えかかっており、人間の目では判別しにくいが、カメラアプリでAI解析させればすぐ分かる。
「大三島の大山祇神社や、因島の大山神社は村上水軍の守護神として祀られていた神社だ。御札に書かれている名前もその二社の主神、大山積大神。山の神であり、同時に船の守護神でもある。そして、須佐之男。海の神だ」
「どこでそんな知識仕入れてんだよ」
「言っただろ、しまなみ海道にいくつも遺構が残ってるって。何度か行ったことがある」
「しまなみならテレビで見たから知ってる。自転車で走るんだろ」
「バイクでツーリングだよ。加古川からなら日帰りコースだし、美味いみかんとレモンを年に一度買いに行ってた。大三島で売ってる青いレモンは生でかじっても甘くて美味いんだ」
「レモンを生で!?」
カーターと麻沼さんが同時に背筋を震わせた。
「他所のレモンと全然違うぞ。甘味が強くて、ちょっと酸味が強い柑橘類の感覚で食べられる。しかも豚肉や牡蠣との相性が最高だ。レモンの香りのポン酢を想像してくれ」
「ポン酢と脂がのった豚肉の組み合わせ? それは絶対美味いやつだろ!」
カーターの顔つきがレモンの酸っぱさから美味いものを想像しているものに変わった。
「そう、レモンと豚肉。それに水菜を鍋に入れて、和風だしで炊く。レモンの酸味は豚肉を柔らかくするだけではなく、脂身の甘さを際立たせる」
「どこに行けば食える? キャンプの後にしまなみのどこかの島に行けばいいのか?」
「残念ながら甘くて美味しい青いレモンの旬は秋なので、今の時期に行っても酸っぱいレモンしかない。秋になったら買って送るよ」
「すみません。本題から逸れてます」
麻沼さんの言葉で我に返った。
本題からすぐ脱線するのは俺達の悪い癖だ。
重要なのはレモンの話ではない。
この島は、もともと村上水軍の隠し砦。
それを推定日本海軍が再利用し、戦時中に秘密施設として使った。
戦後、島を買い取った富豪がその上に別荘を建てた。
「そうなるとだ……どこかに洞窟内に入るための階段があるはずだ」
極光を放って無秩序に生えまくった雑草や木々を薙ぎ払うと、神社の片脇に崖の石を削って作ったと思われる階段が姿を表した。
軽く足を乗せてみるが、いきなり崩れてくるということはない。
「下にある海蝕洞窟は村上水軍のメンテナンスドッグとして使われていた。だから、必ずそこに行くための通路が残っていると思ったが、当たりだ」
◆ ◆ ◆
階段を降りるにつれ、光が急速に薄れていった。
気づけば、周囲は完全な闇に包まれている。
どうやらそのまま海蝕洞の内部へと続いていたようだ。
「麻沼さん、ヘッドランプを。こっちはラビ助の分」
「ありがとうございます」
「助かる」
カーターから受け取ったヘッドランプを頭に装着し、スイッチを入れる。
以前に俺が使っていた安物とは違い、光量も照射範囲も十分だ。
こういう場面では、形から入るカーターの性格が役に立つ。
ヘッドランプが闇に光をくれる。
壁には、ろうそくを立てるための金属皿のような器具が等間隔で埋め込まれていた。
そこに光を向けた瞬間、壁一面がうごめいた。
フナムシの群れが一斉に逃げ出したようだ。
まるで岩そのものが生き物のように動いたかのようで、さすがに背筋が冷える。
小森くんがここにいたら、悲鳴を上げて地上まで全力で逃げていたに違いない。
柿原さんも、そこまで無様を晒す姿をみたことがないだろうし、さすがにドン引きするだろう。
呼ばなくて正解だった。
洞窟内の天井には、崩落を防ぐためか木製の骨組みが組まれている。
船の竜骨を思わせる構造だ。
さらに、その上から鉄骨の支柱が補強として並んでいた。
木枠は村上水軍の時代の遺構。
鉄骨は旧日本軍による補修兼改築箇所かもしれない。
ところどころには滑車が残っており、茶色に錆びたワイヤーが蔦のように垂れ下がっている。
人の気配が途絶えて久しいこの無人島には不釣り合いな構造物。
ここがかつて何らかの施設だったことは疑いようがない。
階段を降りきると、比較的広い空間に出た。
天井は高く、壁には岩とコンクリートが混ざり合っている。
中央部分はプール……否、落石で塞がって外海と遮断されてこうなっただけで、元は船渠だったのだろう。
村上水軍の帆船――いや、それどころか日本海軍の駆逐艦ほどの大きな船でも出入りできる規模だ。
もちろんその痕跡は何も残っていない。
駆逐艦を自沈処理させたわけでもなさそうだ。
そもそも大戦末期の日本軍にこんなところで動く艦船を遊ばせておく余裕などあるわけがない。
呉や尾道の造船所に近いこの島で極秘理に何らかの実験を行っていたが、戦況悪化により、実験を早々に切り上げてここ施設は投棄されたのだろう。
「日本軍の遺物は見つかりそうか?」
「そんなものはどうでもいい。俺たちが来た理由は、歴史の勉強じゃない。島で起きている『事件』を解決するためだ」
「そういうことです。魔力反応はそちらの壁の方からあるのですが」
麻沼さんがいつの間にか円形のプレートのようなものを手に持っていた。
原理は不明だが、魔力検知ができる道具なのだろう。
麻沼さんが指す先は暗がりだと単なる岩盤の一部に見える。
だが、よく見ると積み重なった岩の無効に錆びて変色した金属製の横開きの扉が見える。
「壁……じゃないな。こいつを開けられるか?」
カーターが岩に隠された扉に近付いた。
小さめの岩を掴んでプールへと投げるが、何の解決にもなっていない。
「上でカレーを作っている連中を誰か呼んでくるか? 向いてるのは但馬さんか、赤土か」
「扉の向こうを壊さずにという条件付きは難しいがやってみる」
まずは使い魔を5羽補充。
再使用間隔を待って5羽追加。
「増幅! 増幅魔法陣を更に増幅! そして盾を強化!」
一気に能力を解放。
9羽の鳥を使用する贅沢仕様だ。
状況に適した能力がないならば、なんとか応用で使う方法を考えればいい。
手元にあるカードでしか勝負できないならば、カードの使い方を考えればいい。
「跳ね返せ!」
盾から発生した斥力が扉の前に積み重なっていた岩や砂を勢い良く吹き飛ばしていく。
盾にによる反射は空間に対して発生するので、取りこぼしはない。
範囲内にある全ての岩や石をまとめて移動させられる。
扉の開閉に邪魔な岩を全て撤去したところで効果時間が終了し、増幅魔法陣は消えた。
反射でエネルギーを使い果たした盾も然り。
増幅の二重発動は準備時間がかかりすぎる上にコストが重すぎて戦闘で使うのは難しいだろうが、いざ使うとかなり強力だ。
単純に盾3枚ではここまでの効果は出ない。
「お見事」
カーターが全然吹けていない口笛をフーと吹いた。
出来ないならやらなきゃいいのに。
残った1羽の鳥を肩の上に乗せる。
……爪が肩に食い込んで痛い。
誰だよノースリーブが流行だという怪情報に踊らされて、島にわざわざ着てきたやつは?
……俺だよ。
なんだよノースリーブって。
肩が直射日光に当たって熱いんだよ!
「圧縮極光!」
扉に付いていた南京錠に向けて極光のエネルギーを一気に爆発させると、勢い良く錠前が吹き飛んだ。
衝撃を一点に集中させたので、扉にはほとんどダメージは入っていない。
「よしカーター、手伝ってくれ。扉は錆びていているみたいだから、多分簡単には動かない」
「麻沼さんも頼む。3人がかりで開けるぞ」
「わかりました。全員の力を合わせましょう」
3人で渾身の力を込めて扉を引っ張ると、ギギギと音を立てて扉が開いていく。
扉の中は倉庫のようだった。
壁際には金属製の工具ケースや燃料ポンプ、小型発電機などがところ狭しと並べられている。
どれも錆だらけでまともに使えそうにないが、それはまあいいだろう。
問題は倉庫の先に謎の通路が伸びていることだ。
「行け!」
肩の上に乗せていた使い魔を通路の奥へと放つ。
光などない通路だが、使い魔自身が放つ淡い光によって最低限の照度は保たれる。
通路をしばらく直進した後に行き止まりになった。
上方向に縦の穴が続いていた。
金属製のはしごがかけられているのは、これを使って出入りしろということだろう。
穴の先には蓋のようなものが取り付けられているようだが、隙間からは若干光が漏れている。
位置関係と移動距離を考えると、この出口の先にあるのは……。
「通路の先に何があった?」
「もしかして、もしかするかもしれない。とりあえず説を証明するために使い魔を通路から脱出させる」
使い魔を急上昇させ蓋を跳ね飛ばして飛び出させると……そこはかつての富豪の屋敷内であり、現在のホテル。
その一階階段すぐ横にある何もないスペースだった。
間違いない。富豪が誰にも気付かれないよう地下の軍事施設に移動するために作った隠し通路だ。
謎も何も解かずにゴールから逆に見つけてしまってすまない。
「麻沼さん、魔力反応はどこから出ています?」
「信じられないかもしれませんが、この倉庫の真上……どこかは不明ですけど」
崖の上の神社から検知すると淡い反応。
位置関係を考慮にいれると神社の真下、倉庫の真上である。
使い魔を縦穴に戻すと、階段の途中から横方面に別の通路が続いていた。
おそらく、その倉庫の上にある謎の空間……隠し部屋に続いている。
パズルのピースは多分揃った。
足りない分は想像で補う。
蓋を吹き飛ばした音を聞きつけて、調理室にいたであろう数人が走ってきて縦穴をのぞき込んでいるのが見えた。
「どうなった? 倉庫の先はどこに繋がっていた?」
「これは……もしかすると、富豪一族を襲った悲劇は事故ではなく殺人事件だったのかもしれない」
「どういうことだ?」
「一度ホテルに戻ろう。この仮説が正しいのかみんなにも考えてもらいたい」
 




