第57話 「ミイラはどこに消えた?」
探偵事務所に到着したときには既に21時になっていた。
シャッター付きのガレージは端の方が開いていたのでそこにバイクを停めさせてもらう。
KTMのバイクは見当たらないので、麻沼さんは別件で出掛けて、まだ戻ってきていないようだ。
玄関には一人の中年男性が待っていた。
以前にもお会いした八頭黎人さんだ。
須磨さんと一緒にエレベーターへ乗り込む。
「上戸さん。本当に申し訳ないことをしました」
低く抑えた八頭さんの声には罪悪感が滲んでいた。
「謝られるようなことではありませんよ。八頭さんが直接やったわけじゃないでしょう」
「ですが……結果的に、貴女をこの状況に押し込めたわけですから」
「責めるつもりはありません。私も自分の判断で協力したのですから。ただ、何を目的にしているのかくらいは、知る権利があると思っています」
「私も所長とはそれなりに長い付き合いですが、外の方をこういう形で巻き込むなど、正直初めてです」
「所長さんとは、何か話をされたんですか?」
「いいえ。所長は夕方の五時には事務所を出て、自宅に戻っております。先程連絡がありましたので、あと10分もあれば着くでしょう。須磨への指示は、どうやら自宅から直接電話で出していたようです」
そう言って八頭は、エレベーターの隅に立つ須磨さんへ視線を送った。
「和泉や麻沼とは違い、須磨は所長から直接声をかけられてここへ転職してきた元警察官です」
和泉さんと麻沼さんが陰陽道由来の術を使うのに対して須磨さんは車やメカを使用したサポート活動が多いと思っていたが、そういう理由か。
魔術についての知識はあるが、実際に使うのはそれほど得意ではない、もしくは使用出来ないのだろう。
「須磨が元々いたのは捜査第二課……知能犯、政治家などを調査する部署の人間でした。所長……蘆名の元部下です」
「つまり今回の件では警察が裏で動いている可能性が高いと」
「おそらくは。流石にここへ大挙して武装した警察官が押し寄せてくるということはないでしょうけどね」
流石にそれはシャレになっていない。
八頭さんなりの冗談であることを願おう。
「お茶を入れてきます」
須磨さんは無表情のまま言うと、視線を合わせることもなく給湯室へと姿を消した。
俺たちは黙って応接室に入り、椅子に腰を下ろす。
ほどなくして、須磨さんが湯気の立つ湯呑みを載せた盆を運んできた。
躊躇わず口をつけると、上品な香り、深い渋みと柔らかな甘みが舌に広がった。
上等な茶葉を使っているのがすぐに分かる。
2月の寒さで冷え切った身体には、温かいお茶がよく染みる。
一方、八頭さんは湯呑みに口を付けようとせず、ただ手の中で湯呑みを回し続けていた。
指先の動きはわずかに強張っていて、落ち着かない心境が隠し切れていない。
「やはり関東だと静岡茶が多く飲まれているのですか?」
緊張をほぐすために話題を振ってみる。
「買い置きしているのは埼玉の狭山茶です。近所に茶葉の専門店がありまして、何種類もの中から産地とブランドを選べるんですよ。農家によって味が微妙に違うので、更にその中から私の好みのものを購入しています。この茶葉は香りと甘みのバランスが良い」
少し落ち着いたのか八頭さんも湯呑みに口を付けた。
説明を受けた後に改めて飲むとプラシーボかもしれないが強く甘みを感じる。
人間の脳も舌も単純なものだ。
「上戸さんはお茶にこだわりなどは?」
「私はお茶にそこまでのこだわりはないですね。近所のスーパーに丹波茶が置いてあるのでそれを買うくらいです」
「丹波と聞くと栗や黒豆のイメージが浮かびますが」
「兵庫県内でもイメージはそんな感じですけど、水と気候が良いからか農作物は色々と作っていますね。お茶はもちろん、米や野菜も美味しいですよ」
そんあ他愛もない話をしていると、廊下の向こうから、ゆったりとした足音が近づいてきた。
「……来たようですね」
八頭が小声で呟いたので姿勢を正す。
扉を開けて入ってきたのは長身の老人だった。
以前に調べた情報によると60歳を越えているはずだが、背筋は真っ直ぐで、頬の削げた精悍な顔立ちは若者に引けを取らない。
オーダーであろうスーツを身にまとっているが、胸元や二の腕などは鍛えられた筋肉ではち切れそうだ。
流石元は警視庁の部長だけあってかなりの威圧感がある。
異世界のタウンティンで最初に度会知事に会った時と同じく「老獪」という言葉が脳裏に浮かぶ。
ただ年齢を重ねた老人ではない。
幾多の経験を経て正も濁も飲み込み、なお矍鑠として立つ曲者――そういう存在感が漂っている。
以前に会社の登記情報などで経歴だけを見た時、この人はただのハンコ係だと思っていた。
とんでもない。
おそらくこの人は日本やこの探偵事務所を守るために警察組織や政治家、官僚やらと真正面から殴り合って予算や権限を奪い取っている化け物だ。
八頭さんと一緒に起立して深く一礼した。
「お待たせいたしました。蘆名天彦と申します。本日は遠いところ、ありがたいございます」
名刺を差し出してきたので「頂戴いたします」と受け取る。
名刺には名前と探偵事務所の名前だけが記載されている。
箔押しの上質紙で以前に麻沼さんから頂いた名刺と同じフォーマットだ。
名刺を受け取る際に逆に蘆名さんから俺を値踏みするような視線があった。
セクハラではなく、格上の人間と対峙した際の立ち振舞などのチェックなのだろう。
小声で「ほぅ」という呟きがあったので、一応は合格のようだ。
蘆名さんがソファーに座るのと同時に須磨さんが急須から湯呑みにお茶を注ぐ。
「八頭から話は聞いております。今の日本とは別の世界から戻ってきた経験をお持ちとか」
「どのような話が伝わっているのかは分かりませんが、その点に嘘はありません」
「もちろん嘘はないでしょう。ここの地下で拘束している『神父』をひと目視れば分かります」
蘆名さんはそう言うと軽く尻を浮かせてソファーに深く座り直した。
「私はただの調整役として干渉するつもりはありませんでしたが、のっぴきならない事情があり介入させてもらった。だが、速度を優先したために上戸さんや八頭君に迷惑をかけてしまった。その点は謝罪したい」
「そののっぴきならない事情とやらについて知りたく今回訪問させていただきました」
「それについて伝えるべきかは悩みましたが、貴女ならば大丈夫そうだ」
所長はスーツを少しはだけて内ポケットから厚手の封筒を取り出した。
「少々、古いものをお見せしましょう」
封筒から引き出されたのは、色褪せた白黒写真の束だった。
やはり異世界で巨人の被害状況が撮影された写真を見せられた時の状況が脳内にフラッシュバックする。
直感がそう告げている。
この状況で出てくる写真とは「そういうもの」であり、蘆名さんが話す内容とは「そういうこと」だと。
理由を告げない理由についてなんとなく理解出来た。
覚悟した上で蘆名さんが並べていく写真に目を向ける。
木造の建物の奥に、不気味な影のようなものが写っていた。
「これは戦後すぐに起こった事件について当時の警察が作成した資料にあった写真だ」
それは何かの生物のミイラだった。
中央が丸くて先端に行くほど細長いサツマイモのような胴体。
そこから伸びる太い5本の触腕。
頭頂部は更に特徴的でヒトデのような五芒星のような形。
奈良の地下遺跡で見た「いにしえのもの」だ。
「驚かないのだな」
「実物を既に見ておりますので」
「なるほど……それでそいつを見てどう思ったのかを聞きたい」
この場合聞きたいのは、倒せるか倒せないかという話だろう。
「この怪物は既に息絶えておりました。ただ、この手の怪物は何かのはずみで蘇生する可能性がありますので私が完全に滅ぼしました」
「滅ぼせる方法があると」
「方法について説明は出来ませんが、可能です」
「よろしい。それでは次の写真を見て欲しい」
二枚目以降の写真に写っていたのは予想していた通りの光景だった。
どこかの集落が襲撃を受けた跡――家屋は瓦礫と化し、炎に焼かれた柱が黒煙を上げる。
その中で、住民や警察官が得体のしれない化け物に蹂躙される凄惨な場面が写っている。
当時のカメラの性能では、その化け物を正確に撮影することは出来なかったのだろうが、なんとなく正体は分かる。
奈良の地下遺跡にいた不定形生命体のショゴスだ。
「警官隊ではどうにもならず、やむなく当時日本に駐留していたGHQの指揮の下、米軍が投入された。ようやく事態は収束したが……これが明治以降に記録された中で最悪の異能絡みの事件だ」
そこで、所長の声が低く沈む。
先ほどまで淡々と語っていた口調が、一瞬だけ重みを帯びた。
「そんな事件など、私は聞いたことがない」
八頭さんが眉を潜めた。
不信の色が隠せない。
「当然だ。君が産まれるよりはるか昔のことだし、表の歴史には残されていない。知らなくて当然だろう」
「……ですが、私の立場からすれば、知っていて然るべきはずです」
「もちろん、君が所長に就任する際には、他の秘匿事件と合わせて正式に引き継ぐつもりだ。ただ――私の口から軽々しく語れる話ではないと理解して欲しい」
そう言って蘆名さんは静かに視線を外した。
八頭さんはなおも不満げな表情を見せながらも、しぶしぶ言葉を飲み込んだ。
「騒ぎが起きた村は、多数の犠牲者を出した末に……地図から抹消された。表向きには『ダム建設のための立ち退き』ということになっているが」
「住民たちは立ち退いたのではなく、どこにも行っていない」
「残念ながら、その通りだ。津山事件が二度も起きた、などという説明では辻褄が合わない。だからこそ、当時はそうするしかなかったのだろう」
「――つまり、その事件は岡山で起こった、ということですね」
俺が口にすると、蘆名さんの表情が一瞬だけ揺らいだ。
鋭い目元がわずかに緩み、唇の端が「しまった」と告げるかのように歪む。
俺が指摘すると蘆名さんの表情が「しまった」とばかりに一瞬だけだが崩れた。
なんとなく予想は付いていた。
日本の古代に登場するのは、大和、出雲、吉備と高千穂だ。
大和と高千穂の遺跡は既に確認済み。
出雲ではまあ似たような感じのやつと戦った後なのだから、未確認なのは吉備くらいだ。
「その村では『旧支配者』のミイラを神として崇めていた」
蘆名さんは何事もなかったかのように話を再開した。
この面の皮の厚さは流石である。
見習いたいような見習いたくないような……すごいことはすごい。
「でもただのミイラだったのでしょう。そこまで崇められる理由が分からないんですけど」
「村人達にも今の学生達ほどではないが、何かしらの能力が与えられていたようだ。実際、その村の住民達は太平洋戦争の最中に徴兵されて最前線に送られたというのに、ほぼ全員が無傷で帰国出来ている」
なんとなく話が見えてきた気がする。
当時の日本政府は戦後の帰還者の情報を持っていたはずで、村の出身者の生存率が他の地域と比べて高すぎることにはすぐに気づけたはずだ。
その理屈さえ解明出来れば日本の復興は大きく進む。
そう考えて調査を行ったことは容易に想像がつく。
派遣された調査員は村を訪れて……「いにしえのもの」を見つけてしまい、結果としてそいつは暴走した。
白黒写真に目を通していく。
確かに人口が多い市街地にこんな凶悪なモンスターが突然に解放されたらとんでもない惨事が起こるだろう。
「このミイラが発見された遺跡は吉備にしかなく、同様の事件が発生する確率は極めて低いと予想されたが、数年前に大学の合同研究チームが奈良で同タイプの遺跡を発見してしまった」
これは折戸教授が発見した御杖村の遺跡の話だろう。
実際「いにしえのもの」もショゴスもいたのだから、もし何の対策もないまま発掘作業が行われると同様の事件が発生する可能性は高かった。
「それを未然に防いだと思ったら、今度は高千穂にも有ることが分かった。そこがもぬけの殻で安心したら今度は鎌倉だ。一体日本全国に遺跡はいくつあるのか」
「いっそ、解散させた大学の研究チームに正式に許可を与えて掘らせるのが良いと思いますよ。もちろん旧支配者が出現した時の対策は備えた上ですが」
「だが、それでは世間に混乱が……」
「素人が宛もなく彷徨うよりも、知識ある人間に場所を探させる方が間違いないと思います」
俺の提案に蘆名さんが唸り始めた。
効率を考えると俺の提案は否定出来ないのだろう。
「今回の事件に関係しそうな記録にこんなものがある。鎌倉時代中期の宝治元年。同年には羽蟻や黄蝶が鎌倉を乱れ飛ぶなど得体の知れない怪異が頻発した」
「なんでしたっけ……吾妻鏡ですよね。何年か前に大河ドラマでやっていた鎌倉殿とかいう」
羽虫はともかく黄色の蝶が舞うのは日本では戦乱の前触れとされると他の書物にも記載されている。
科学的に考えるならば、気候の変化に伴って特定の虫が異常発生して、そこから作物の不作などにより飢饉が発生。
政情不安が起こり、更に戦乱に繋がるということだろう。
バタフライエフェクト的なものとはまた違うはずだ。
「その話だ。鎌倉周辺の山から現れたそいつは、近隣にあった最大の都市である鎌倉を襲撃した。鎌倉の大仏殿が破壊されるなどの被害が出たが、北条時頼指揮する幕府軍によって討伐されたと伝わっている」
「宝治合戦の対戦相手の三浦軍どこに消えた」
ここで連想されるのはやはり旧校舎地下の遺跡だ。
奈良の遺跡と違い「いにしえのもの」もショゴスも不在だった。
神父がどうにかして処理したと思っていたが、実際にそいつらを倒したのは鎌倉幕府と鎌倉武士だったということか。
もう1つ連想されるものがある。
教団事務所へ踏み入った時に教団の能力者が妨害をしてきたが、そいつは羽虫を操る能力者だった。
それと地下遺跡にあった壁画。
そこにはヨハネ黙示録が元ネタであろうイナゴについて描かれていた。
そいつと同じ能力を持った人間が鎌倉時代にいて、「いにしえのもの」の側に付いていたのだとしたら……。
「鎌倉武士に倒されてミイラ化したと思われていた怪物は実は生きていて、それが議員宅に流れたと」
「正確には教団の関係者がどこかにミイラを隠しているということは予想はしていた。ただ、どこに安置しているのか分からなかった」
「教団の拠点を次々と潰し、残ったのは教団事務所と議員宅の二択になった……そういうことですね」
「本来なら、部外者である貴女にこんな頼みをするのは心苦しい。だが、怪物が再び暴れ出すのなら、それを止められる力が必要なのだ」
なるほど、事情は理解できた。
怪物の正体を迂闊に話せば、当然隠蔽した過去の惨事についてもバレてしまうと。
「私達の能力を買っていただけるのはありがたいですが、それならばもっと早い段階で真実を打ち明け、正式に協力を求めてほしかったです。今の状況だと何も知らされぬままタダ働きをさせられた形でしかありません」
「心象が良いはずもないことは理解している。だが、それを踏まえた上であえて協力を要請したい。もちろん金銭的な報酬も用意したいと考えている」
「私の会社は副業禁止ですので金銭的な報酬はむしろ迷惑です。それは公務員の片倉も同じです。副業で金銭を得たとなれば更に厳しく処分されます」
説明した通り、金銭的な報酬を貰えば会社との関係が無茶苦茶になるのもある。
ただ、それよりも面倒なのは「金さえ払えばなんでもやってもらえる」と変なイメージを持たれることだ。
金を条件に更にとんでもない仕事を振られる可能性も出てくる。
こちらとしては、所長が何か考えているのかと隠し持っていた情報を確認出来た時点で概ね目的は達成出来ている。
あとは八頭さんと取り決めた「お互い縛りのない緩い協力関係」を所長に提示出来れば実質こちらの勝ちだ。
「ただ、直接的な金銭のやり取りはなくとも、調査に必要な機材などの貸与や政治的な調整の都合などは付けていただきたいです」
「必要な情報や機材については調達するようにしよう」
「お願いします。事件を解決するための協力関係です。それが逆に足を引っ張ることは時間と労力の無駄ですので避けたいのはお互い同じだと考えています」
「ああ、その通りだ。可能な限り無駄は省く方向で進めたい」
まあこんなものだろう。
あとは消えた議員宅の事件について調べるだけだ。
「では本題に入ろう。我々にとっての敗北とは旧支配者がこの世界に解き放たれて民間人に被害が出ることだ。それを阻止するためには、なんとしてもミイラがどこに行ったのかを突き止める必要がある」
「教団事務所や議員宅ではミイラはもちろんメダルも発見されませんでした。議員の父親である元議員、東啓一郎氏の姿も見えないことから、教団事務所に家宅捜索が入った時点で、議員宅の方にもすぐに手が延びると考えて慌てて拠点を移動したと考えられます」
八頭さんが現状をまとめてくれた。
「啓一郎氏は端的に説明すると看板倒れの二世議員です。先代は知事として精力的に活動していたようですが、当人はただの県議会議員で収まっています。もちろん親の七光もあって、引退してもなお県議会ではかなりの発言力を持ってはいますが、所持していた資産の大半……株券や不動産物件などはリーマンショックの際に大半を切り崩したようです」
「別荘のようなものも残っていないと?」
「葉山のリゾートホテルはまだ残っているようですが、長年放置されて廃墟と化しているようです。リフォームに相当な金がかかるからか買い手も現れないようですね」
「ただ、潜伏場所としては有力だ。他には?」
「娘の夫……東啓太郎氏の義理の弟にあたる人物が衆議院議員ですが、関係はほぼ切れており交流はほぼないようです」
「切れているかどうかは表向きでは分からないだろう。私の古巣で関係を再度調べさせてみよう。それで名前は?」
「テレビにもよく出ている市ヶ谷議員ですよ。かなりのタカ派で有名な」
「なるほど、確かにそれは東議員とはタイプが全く違うな。性格的に合わないはずだ」
「市ヶ谷議員について気になる情報は2つ。昨年秋に一人娘が突如として失踪。議員は強気の発言であちこちに敵を作っているためにそれらとの関係が噂されています。もう一つは更に昨年末に高千穂を訪れているようです」
「高千穂を? やはり遺跡絡みか?」
「東議員と何か関係があるならばそうかと」
つまるところこれから調査するラインは2つか。
葉山のリゾートホテルか、その市ヶ谷議員が関係しているという……。
いや待って欲しい。
どうも捨て置けない名前が登場した気がする。
「待ってください。娘が誘拐された市ヶ谷さんですよね」
「ええ、そうですが何か?」
「娘さんは高校生くらいの年代で名前はもしかして理乃だったりします? おそらくキリスト教徒の」
「確かそんな名前だったと記憶しております」
間違いない。
その議員は異世界で会ったアデレイド……市ヶ谷理乃の父親だ。
そして年末に高千穂を訪れていたというのは、おそらく八千代さんのところだ。
娘の居場所を捜索したが見つからず、ついにオカルトの力に頼ろうと高千穂を訪れたのだ。
俺達が八千代さんの自宅から帰る途中、黒塗りの高級車が入ってきたことがあったが、もしあの車に乗っていたのならばニアミスをしていたことになる。
「なんとか市ヶ谷議員と会えるように手配出来ないですか? その市ヶ谷議員の娘さんとは異世界で会いました」




