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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
番外編 2 横浜地下迷宮
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第23話 「探偵」

「すまない。警戒させてしまったね。私は和泉隆成(いずみりゅうせい)。こんな見た目だが、探偵だ」


 和泉と名乗った男は僕達に名刺を差し出してきた。

 探偵 和泉隆成……警視庁の認定団体とある。


 これはもしや、小森君から教えてもらった「探偵」とやらの仲間だろうか?

 ただ、「星の智慧(ほしのちえ)」という宗教団体に接触した直後のこのタイミングでやって来たというのは流石に怪しい。


 警告されていた通りの成りすまし詐欺の可能性もある。


 一応手に負えなくなったら上戸さんに取り次げと聞いてはいるが……

 

 警戒していると、和泉は僕達の方へゆっくりと近付いてきて、小声で囁いた。


「気持ちは分かる。確かに私は胡散臭い人物だ。もし立場が逆ならばすぐに警察に通報するだろう。信用してくれとは言わない」

「だったら……」

「それでも話を合わせて欲しい。理解していると思うが、今は藪をつついたら知恵のある蛇が出て来た状態だ」


 要するに、僕達を追跡している何者かがいる。

 先程から感じていた気配というのはそういうことか。

 

「やっぱりあの団地には何かあるんですね」


 和泉は無言で頷いた。


「ただ、連中も計りかねている。自分たちがただの通りすがりに過剰反応してしまっているだけなのか、それとも明確な目的意識を持って自分達の正体を見極めに来た敵なのかを」

「なら、どうすれば?」

「この洋菓子店に入ったのは良い判断だ。連中も半ば階下にある店へ取材に来ただけではないかと。だが、まだ諦めてはいない」

「何故分かるんですか?」

「私はこう見えても人望があってね。私の目や耳の代わりに動き回ってくれる友人がたくさんいるのさ。だから、そこの電柱の陰に隠れてこちらを見ている奴についても分かる……おっと、直接は見ないで」


 和泉がハンドサインで示した先を、スマホのカメラ越しで確認すると、確かに電柱の陰に黒い影が見える。

 カメラの性能の問題で画像が潰れてしまってハッキリとは見えないが、髪の長い女性のように見える。


「だから……そうだな。近くの公園にでも行ってそのケーキを食べて待つんだ。なるべく楽しそうに。そちらの少女の持っているカメラでケーキの写真を撮ってもいい。あくまで取材の体裁を取るんだ」

「それで諦めてくれるでしょうか?」

「それだけじゃ足りないだろうな。だから、見極めのために何者かが接触してくるはずだ。それは君達の顔見知りかもしれないし、知らない人間かもしれない。どんな人間が来るかは向こうの人材の幅次第だ」


 誰が来るのだろう。


 木島君を含む例の3人組だろうか?

 それとも全く知らない別の人物だろうか?

 

「その人相手に、僕達はあくまで店の取材をしていただけと主張しろということですか?」

「そうだ。あくまでも自分達はショップを巡っていただけ。そこの上のフロアにいた連中のことなんて知らないと。それが伝われば納得して去っていくはずだ」


 和泉はそれだけ言うと突然に距離を取った。


「じゃあその通り歩いてみるよ。教えてくれてありがとう!」


 突然に意味不明なことを言った後に和泉は駅の方角へと歩いていった。

 ただ、今の内容からして「道が分からないので尋ねた」という設定なのだろう。


 僕達もなるべく和泉の方は見ないで公園の方へと歩き始める。


「先輩、あの人を信用するんですか?」

「どの道、公園で演技をしようと思っていたし、やることに変わりはないよ。どこか落ち着ける場所で綾乃や上戸さんにも状況の報告はしたいとも考えていたから丁度良いよ」

「分かりました。先輩の判断を信じます」


    ◆ ◆ ◆


 少し歩いて駅の西にある「西公園」にやってきた。

 隅の方に東屋があったので、そこに座って購入したばかりのケーキを広げる。


 綾乃と上戸さんに簡単に今の状況報告のメールを送信すると、すぐに2人から返事があった。


 上戸さんからは「和泉という人が来たら手筈通りに取り次ぐこと」と心配するようなメール。

 綾乃からは「こっちには変な連中は来てないから安心して」という内容だ。


 メールの内容をチェックしていると、友瀬さんが上機嫌で箱を開封して中からチーズケーキを取り出していた。


「フォークは2つ入れてもらいましたから切り分けて食べましょう……あ、飲み物がなかったですね」

「それくらい近くの自販機で買ってくるよ。甘いものだし紅茶でいい?」

「なら、ミルクティーを頼んで良いですか?」


 僕は了承を伝えて急いで自販機へと走り、ミルクティーを2本買って戻ってきた。

 

「皿が有ったら良かったんですけどね。ないから、箱の上で食べましょう」


 友瀬さんが切り分けてくれたので、それぞれフォークで一切れずつ取って食べる。

 チーズケーキなんて普段は食べる機会はないが、たまにこうやって食べるとなかなかに美味しい。


「これって昔にも食べたことある味です。お母さんが買って来てくれたのこの店のだったんだ……」

「友瀬さんはよくお菓子は食べるの?」

「食べたいんですけど、カメラのフィルム代が大変なので。高いんですよ、意外と」

「お金がないのはやっぱり問題だね」


 ここでフィルム代くらい僕が払うよと言えるとカッコ良いのだが、流石に僕もそれほどお金を持っているわけではない。

 

「それよりも矢上先輩、柿原先輩をこうやって誘ったりはしないんですか?」

「しないよ。僕と綾乃は幼稚園の時からの腐れ縁で、兄妹みたいなもんなんだよ」

「兄妹? なるほど、そうですか。うん、兄妹なんだ……」


 そう説明すると、友瀬さんは何故か嬉しそうな顔をしてまたケーキを食べ始めた。

 偽装工作で買ったケーキだが、喜んでもらえたならば良かった。


「矢上君よね。こんなところで何をしているの?」


 そうやって友瀬さんと談笑していると、突然に声をかけられた。


 声のする方を見ると、見覚えのある顔の女子高校生だった。

 同じクラスの女子で名前は確か……


大城戸(おおきど)さん? だっけ。同じクラスの」


 同じクラスと言っても女子なので特に会話をしたこともないが、確か苗字は大城戸だ。

 名前までは知らない。


 ハーフだかクォーターだかでアメリカ人の血が入っているらしくて、茶色の髪と青い目が特徴だ。

 教室の一角で取り巻きの女子達数人とグループを作って談笑している光景は毎日のように見ている。


 先程の探偵……和泉が言っていた通りの展開になったが、例の宗教団体に所属しているのか、本当にただの通りすがりなのか判断しがたい。


「あれっ、柿原さんは? いつも一緒の矢上君がいるか、どうせそこらに居ると思って声を掛けたんだけど。どこか席を外してる?」


 そう言うと大城戸さんはわざとらしくキョロキョロと周囲を見回し始めた。

 今の口ぶりからすると、綾乃がすぐ近くにいると思っているようなそぶりではあるが、その動きからは本気で人を捜しているようには見えない。

 

「綾乃は別の場所で取材だよ。来月の新聞のネタ探しに苦労していて、手分けして町のあちこちで取材をしているんだ」


 自然とそれらしい話が出来た。


 一応嘘ではない。

 自殺者の幽霊という記事のネタが使えなくなって来月の新聞の目玉記事をどうしようか、ネタに困っているのは事実だし、こうやって調査のために町を周って取材をしているのも事実だ。


「そのチーズケーキも取材?」

「そうだよ。タウン誌で見たんだけど、マンションや古い団地の部屋を借りた新しい店が色々と増えてるみたいで、学校近くの穴場発掘みたいな記事を書こうかと」

「私が頼んだんです。店の前を通った時に、ここのチーズケーキを前に食べたのを思い出して。そうしたら先輩が奢ってくれるって話に」


 友瀬さんがフォローに入ってくれた。

 これならば自然に話が繋がる。

 

「それで何か取材の成果はあった?」

「古い団地に新しい店が出来ていたのはびっくりしたかな。表通りにマンションの空き部屋にも美容室とか色々店が出来てるよね」

「表通りのマンションにある美容室なら私も通ってるわ。東京からこっちに流れて来たみたいだけど腕は確かだし、テナント代が安いからなのか、意外と安いし。確か同じマンションに手作り雑貨を売ってる店もあるはずよ」

「もしかして僕が知らなかっただけで、そういう個人経営の小さい店って有名だったりする?」

「そんなことはないんじゃない? 私が通ってる美容室も知る人ぞ知るってクチコミで回ってる店だし。店も高校生にタダで宣伝出来るなら喜ぶと思う」


 それならば、本当に来月の新聞のネタはこの隠れ家的ショップ案内でも良さそうだ。

 美容室以外にも女子が好きそうな雑貨を売っている店でも見つければ、それなりにウケるかもしれない。

 

「じゃあ私はこれで。柿原さんにはアンケートを出すように伝えといて」

「アンケート?」

「それは本人に言えば分かるから」


 大城戸さんはそれだけ言うと歩いて公園を出ていった。


 僕は大城戸さんの姿が完全に公園から消えるのを確認して、一息ついた。


「今のどう思う?」

「私達にカマをかけにきたのか、それとも偶然通りすがっただけなのか分からないってことですよね」

「大城戸さんの話も理屈は通っていた。この場所はうちの学校の生徒なら誰が通ってもおかしくない場所だから絶対に『敵』とは言えない」

「せめてアル君を出せたら、もっと色々分かるのに……」


 おそらく友瀬さんはライターがなくともアルゴスを喚び出すことは可能だろう。

 ただ、一度喚び出すとライターがなければ消すことが出来ない。


 そんな状態で「探偵」ほかの人物が接触してきたら、僕達が能力者であるとすぐにバレてしまう。


「今は我慢だ。そのうち使うチャンスがあるはずだ」

 

   ◆ ◆ ◆


 大城戸さんが去り、ケーキを食べ終わってから20分ほど経った頃にコンビニのレジ袋を片手にぶら下げた和泉が東屋にやって来た。


 僕達の返事も待たず、無遠慮に東屋の椅子に腰かけた。


「一応、連中も納得してくれたみたいだよ。君達があの団地に来たのは単なる偶然だと」

「何故分かるんですか?」

「彼女が本部へ電話を架けているのを聞いたからだよ」

「まさか、どこかに隠れて聞いていたんですか?」

「女子高生の会話を隠れて盗聴とか、それこそ、私がストーカーとして警察沙汰だよ。協力者に頼んだんだよ」

 

 和泉はそう言って近くに立っている電柱へ視線を向ける。

 そこには一羽のカラスがとまっていた。


 和泉と顔が合うとカァー!と鳴き声を上げた。


「はいはい、分かってるよ。仕事の報酬だろ。ただし山にいる可愛い七つの子にも持って帰ってやれよ。独り占めするなよ」


 和泉はレジ袋の中から魚肉ソーセージを取り出して包装を解いて空高く投げつけた。

 

 カラスは電柱から飛び立ち、空中でソーセージを器用にキャッチすると、そのまま何処かへと飛び去って行った。


「あいつが協力者。頼りになる奴だ」

「もしかしてあのカラスを飼われているんですか?」

「いや、ほんの30分ほど前に初めて会ったばかりの野生のカラスだよ。私は動物に好かれるタイプでね」

「好かれるだけじゃそんなことは出来ない気が」

「もちろん手品の種はあるよ。飯の種でもあるから詳しい方法は企業秘密ではあるが。まあ話の種だな」


 言っていることは分からないが、この和泉という男も何かしらの能力を持っていると考えて間違いないだろう。


 単に動物が好き嫌いくらいでそんな細かい仕事を……しかも人間の言葉を理解して伝えてくれるようなことをしてくれるとは思わない。


 ただ、一応礼は言っておいた方が良さそうだ。


「ありがとうございました。助けていただいて」

「そこまでのことはしてないさ。君も私が現れなくても同じことをやるつもりだったんだろう」

「はい。何かしら怪しまれていることは気付いていましたので」


 ここは正直に言うことにした。

 ここで嘘をつく意味はない。


「まあ、感謝しているということであれば、その対価としていくつか質問をしていいかな? なぁに、答えたくないことならば答えなくいい。簡単な話さ」

「そういうことでしたら」


 今の説明からはデメリットのようなものは感じない。


 こちらも助けていただいた恩がある。

 質問に答えるくらいならば協力しても問題はないだろう。


「では、まずこの写真を見てくれないか?」


 和泉は持っていたアタッシュケースを開いて中から3枚の写真を取り出した。


「答えたくないからそれで構わないが……この中の人物のうち誰か1人でも見覚えはないかい?」


 その3枚の写真には知らない顔の中年と老人……そして僕達が探している黒人の神父の姿が写し出されていた。


 これは正直に言って良いものだろうか?


「判断は先輩に任せます」


 友瀬さんはそう言うと僕の服の裾を掴んだ。

 不安になっている後輩のためにも、ここで弱気にはなれない。


「神父服の黒人の男には見覚えはあります。他の2人は知りません」

「ありがとう。正直に答えてくれて。神父以外の2人に面識があると言われたら困っていたところだ」


 和泉はおどけた様に薄ら笑いを浮かべながら言った。


「ネタバレすると、中年の男は一週間ほど前に別件で会った人物だ。少なくとも関東にはいない。もう1枚の老人はうちの所長だ。この2人を知っていると言われると困るところだった」

「僕達を試したんですか?」

「すまない。本当に聞きたいのはこの神父の情報だったんだ。その上で、君達がどこまで真摯に私の質問に答えてくれるか確認したかったんだ」


 そう言うと和泉は僕達を騙したようなものだというのに、全く悪びれる様子もなく写真をアタッシュケースに戻した。


「詳しくは説明出来ないが、この『神父』は各地で様々な事件を起こしている凶悪犯だ。なので、我々はこいつの尻尾を追っている」

「つまり僕達に神父の情報を提供しろと」

「オフコース!」


 和泉は芝居がかった言い回しと派手な動きで僕を指差した。

 いい大人なのだから落ち着いて普通に会話して欲しい。


「この神父について知っていることを何でもいいので教えて欲しい。君達はどこでこの神父を見かけたんだい?」

「私は先週の金曜日ですね。学校帰りにいきなり宗教の勧誘みたいなことを言われたので慌てて逃げました」

「僕も似たようなものです。先週土曜日ですね。学校に急に神父が出て来ました。出合頭に意味不明なことを言われて、気付いたらいなくなっていました。それ以上のことは知りません」


 これについても正直に答えて良いだろう。


 ただ、流石に深夜の学校に忍び込んだら謎の敵に襲われましたとは言えないので疑われない範囲で一部を隠したまま話した。


 嘘はついていない。

 説明が足りていないだけだ。


「そちらの彼女は金曜だから下校時に学校近くを歩いていたのは分かるが、君は何故土曜日に学校へ?」

「僕の住んでいるマンションは学校の近くで、駅方向に行くには学校の横を抜けるのが近道なんです」

「なるほど、横浜でもこの辺りは坂道が多いもんな。迂回ルートなら通って当然だ」


 和泉はスーツのポケットから手帳を取り出すとメモを始めた。


 どうやら会話の中に少しずつ探りを混ぜ込んで来たようだ。

 上戸さんが会ったというポテト星人と同じパターンだ。


 注意して対応しないと迂闊に余計なことを喋ってしまってミスしてしまいそうだ。


「それで、君達は他に『神父』に接触したであろう人物について心当たりはないか?」

「ないですね。不審人物に会った話なんてあんまり自慢する話でもないですからね。相手が警察ならともかく」

「それもそうだ。本物のお巡りさんは怖いぞぉ」

 

 綾乃の話も出さない方が良さそうだ。

 この男が「綾乃」にも聞き込みに行ったら、その時はまた口裏を合わせるしかない。


「次の質問だ。学校内で行方不明になった人物はいないかね……って、そんなのがいたら大騒ぎだな。今週になってから一度も登校して来ていないインフル疑惑がいないか程度の話だ」

「それは……」


 流石に僕も全校生徒について把握しているわけではない。


 ただ、神父は僕達以外……たとえば木島君他の人物にも何人かに接触している。

 そう言った人物が他にいて、使い魔を暴走させているというのはあり得る話だ。


「僕のクラスにはインフル予備軍はいないですね」

「私のクラスに休んでる人が1人いますけど、男子で面識はないので詳しいことは」

「なるほど、その生徒の名前は?」

新坂(にいさか)? だったかなと。下の名前は知りません」

 

 友瀬さんが首を傾げながら答えた。


 まあそれが普通の対応だろう。

 僕も先程の大城戸さんのように、クラスメイトの苗字は知っていても名前となると大半を知らない。


「新坂ね……ありがとう、参考になった。それでは次の質問。昨日の話なんだが……学校で異臭騒ぎがあったんだよね。何が見えたか教えて欲しい」

「トイレで何かの薬品が変な反応をしたんですよね。先生が警察と消防が調査に来るから早く帰れって」

「本当に君達の目に視えたものを包み隠さず教えて欲しい」

「トイレ……」

「視えたものだ」


 和泉は僕の心内を見透かすような目つきで見つめて来た。


 ここは正直に答えた方が良いだろう。


 ただし、全てを話すことはない。


 先程と同じく、嘘をつくのではなくて説明が不足しているだけだ。

 僕は口下手なので、うまく全てを説明することなど出来ないのだ。


「信じられないかもしれないんですけど、バカにせず聞いてくださいね」

「信じるよ」


 和泉はシンプルながらも力強く言った。


「私も昔は見えない物が見えると主張してはバカにされたものだ。だから、君の気持ちは分かる」

「ありがとうございます。学校の廊下を大きな虫みたいなものが動き回っていました。これは見える人と見えない人がいるみたいでした。もしかして、おかしくなったのは学校じゃなくて僕の頭じゃないかと」

「大丈夫。君は正常だ」

「そう言って貰えると助かります。ですが、僕が知っているのはそこまでです。担任からもう帰れと言われて帰宅。今日は朝から登校しましたが、もう虫は消えていました。夜のうちに警察が何かやってくれたんだと思います」

「ありがとう。参考になる」


 今のところミスした記憶はない。

 友瀬さんの顔を見ても大丈夫だと無言で伝えてきてくれている。


「それでは、次が最後の質問だ。これが終われば君達はお役御免。今まで協力をありがとう」

「いえいえ。お役にたてたら何よりです」

「ではこれで最後……」


 そう言うと今までにやけた顔の和泉の表情が急に引き締まった。

 冗談は許さない。求めているのは真実だけ……そんな凄みを利かせてきた。


「君達2人が垂れ流している魔力は何だ? 平均的な魔術師が放出する以上の魔力が常に放出され続けている。まるで揺らめく赤い炎」


 魔力?

 一体何のことだろう。


 ただ、明らかに僕達の能力と関係していることは分かる。


 ここで和泉は言葉を一度切った。


「『神父』に妙な能力を渡されたな。しかも、君達はその能力を駆使して何度か戦闘を行っている」

「それは……」


 どうやら最初から全てバレていたようだ。


 この「探偵」は全て分かっていて僕達に接触して来ていたようだ。

 僕達の仕事はひと段落のようだ。

 ここからは手筈通りにプロに頼むとしよう。


「その件なんですが……実は、『探偵』が接触してきたら取り次ぐようにことづけを預かっています。その人と話してもらっていいでしょうか」


 そう説明すると和泉は露骨に口角を釣り上げてニヤけたような表情を見せた。


「なるほど、私よりも先に君達に接触していた人物がいたということか。それで、その人物の名前は?」

「はい。山田奈緒子と」


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