Episode 1 Period
あの遺跡の出口の罠に引っかかった直後は自分たちの迂闊さを呪った。
だが、どうやらあの最後の転送は罠ではなく、本当にゴール地点へ送り届けるものだったらしい。
私ことハセベ。
そしてウィリーさん、ガーネット君の3人があの山の遺跡から転送された先は、まるでリゾート地のような美しい色の海と椰子の木のような南国の植物が立ち並ぶ島だった。
日本だと日付は11月のはずだが、この島はまるで夏のような眩しい太陽の光と熱気に包まれている。
最初はどんな罠があるか警戒していたものの、何故か日本語が通じる現地民も住んでいる。
私たちと同じように他の場所から転送されてきたチームもいる。
今のところは平和そのものである。
日本に戻りたいという気持ちに変わりはないが、当面、命の危機はないようだ。
なので、もうしばらく体力の回復のために体を休めつつ、情報収集に当たっても良いだろう。
「それにしてもラヴィ君たちはまだ来ないのだろうか」
「もしかしたら別の場所に転送されたのかもしれないな」
ウィリーさんは何やら心当たりがあるようだった。
「どういうことだ?」
「近くの港に交易船が来ていたので、その船員連中に話を聞いたんだが、どうやらこの島の北にある大陸にもオレたちと同じような連中がいて、やはり海から上がってくる怪物と戦っているらしい」
合点がいった。
最初に召喚された50人のうち、30人近くの居場所が分からなかったのは、最初の部屋からこの島のような全く別の場所に飛ばされていたのだろう。
あの遺跡の内部には最初からいなかったので、探し回っても会えるはずなどなかったのだ。
「それならば、もう少し情報収集をしてから、北の大陸へ探しに行ってみることにしよう」
彼女やあの高校生2人も若干ズレたところはあるが、バカではない。
だから、あの遺跡に留まるよりはマシだといずれ扉を抜けてどこかへ転送されるはずだ。
もしかしたら北の大陸ではなく、明日の朝あたりに、この島にやってくる可能性があるかもしれない。
私たちをこの世界に喚んだ連中の思惑通りに動かされるのは若干癪なところもある。
だが、他に情報や手段もない以上は、この流れに乗って動くしかないのだ。
「早く再会して、私たちは無事だと安心させなければな」
「そうだな。急にオレたちがいなくなって不安になっていそうだし」
「クッキーも出してもらいたいですしね」
そうだ。きっと再会できる。
そう信じたいが、ふとあの事実を思い出してしまった。
彼女は私たち50人とは違い、3日経った段階で、思い出されたように追加された、召喚方法すら違う完全なイレギュラー枠だ。
そのイレギュラー枠が現れたことで、最初の部屋から出ることができずにそのまま朽ちていくだけだった「端数2」を救出するという、私たちを喚んだ何者かの想定外の掟破りを既に実行している。
性格や能力にしてもそうだ。
自分では普通だなどと言っているが、能力といい、性格といい、あらゆる意味で「普通」とはかけ離れている。
そんな彼女が、用意された転移の扉を素直に通るという想定内の行動を取るだろうか。
敷かれたレールなど無視して、勝手に独自ルートを開拓して歩み始めないだろうか?
ラヴィ君、あまり余計なことをしてくれるなよ……
普通で良いんだ、普通で。
◆ ◆ ◆
俺たちは今、4トントラックほどの大きさの恐竜、トリケラトプスが引くワゴン……竜車と呼ばれる乗り物に乗せられていずこかへと運ばれている。
町を目指してジャングルに踏み込んだ俺たちを待っていたのは、新たな冒険の始まりではなく、ライフル銃のような武器で武装した兵士だった。
数人から一斉に銃口を突きつけられたので、両手を挙げて即降伏。
抵抗する方法はいくつか思い浮かんだが、
「抵抗しなければ客人として歓迎したい。私たちは敵ではない」
と日本語での呼びかけがあったので、応じることにしたのだ。
それで乗せられたのが、馬車の馬ではなくトリケラトプスが引いているバージョンの乗り物……竜車だ。
竜車の通り道だけは原生林が切り開かれて道が確保されているようだ。
アスファルトやセメント舗装などはされていないが、それでも道は大きな石などはなく、土が平らに固められているからか振動は少ない。
「この兵士の人たちって俺たちと違って現地の人なんですよね」
「ジャングルの先にある集落から来た人たちなんだろうけど、日本語が通じるのは意味が分からないんだよな」
兵士たちはみんな黒髪に褐色の肌だった。
東南アジア系か南米系か。
日本語が通じるとは思えなかった。
どのようにコミュニケーションを取ろうか、身振り手振りのジェスチャーでどうやって意思疎通をしようか必死に頭を巡らせていたが、兵士たちとは普通に日本語での会話が可能だった。
ありがたいと言えばありがたいのだが、違和感はかなりある。
これほど都合が良いのは、やはりここはゲームの中の世界だからなのだろうか?
「少しよろしいでしょうか?」
3人で話し込んでいると、ワゴンの中に一人の女性が入ってきた。
褐色の肌に美しい銀髪。
キューティクルがない白髪の俺とは違って艶のある綺麗なシルバーブロンドの長髪を後ろでまとめてポニーテールにしている。
襟の立った長袖シャツにニッカポッカのような太腿部分が膨らんだパンツ。
シャツの胸元には階級章のような飾りがぶら下がっており、腰には拳銃とサーベルが吊るされている。
付いている階級章などから察するに、他の兵士より若干階級は上ということだろう。
階級章にある国旗らしき模様は紅白の縦三分割。
中央には何か動物のようなイラストが入っている。
丁度、オーストリア国旗を横向きにしたような感じだ。
シルバーの髪はいかにもゲームのキャラクターという雰囲気があるが、服装はファッション性よりも実用性が重視されているからなのか野暮ったいところがある。
あまりゲームに登場するキャラクターのようなスマートさは感じられない。
「先程は銃を向けるなど乱暴な行為、申し訳ございませんでした」
女性が初手で頭を下げて謝罪を申し出てきた。
先に頭を下げられるとこちらとしても強気には出にくい。
「いえ、私たちの方が部外者ですから、それは仕方がないことです。お互いに怪我がなかったのでこの件はこれで終わりにしましょう」
あまりここで話を拗らせても仕方ない。
話はなるべく穏便にまとめたいし、相手も同じことを考えていると信じたい。
「それで、貴方たちは神の戦士……で良いのでしょうか?」
「神の戦士?」
言葉の意味が分からず、鸚鵡返しする。
「私たちはそう呼んでいます。50年に一度、この地に現れる異界の戦士たちの総称です。彼らは強い力と様々な知識を持ち、私たちに恩恵を与えてきました」
50年に一度という言葉に疑問が浮かぶ。
異世界から50年に一度、俺たちのような人間が喚ばれたというだけなら、まあゲームならそういうこともあるだろうと納得できない話ではない。
だが、50年前にソシャゲなどないはずだ。
異世界からこの世界に呼ばれたという点については共通項はあるが、ソシャゲのガチャから出てきたキャラに姿を変えられてしまった俺たちとは似て異なる別の存在ではないだろうか。
それに、今「50年に一度」と言った。
50年前に一回だけの召喚ならば、そのような言い方はしない。
おそらく100年前にも、150年前にも同じことが起こっていた可能性が高い。
それに、あの遺跡の出口は、おそらく入口と同じく3人揃うとどこかへと強制転送させる仕組みだ。
俺たちはたまたまイレギュラー的な脱出をしただけなので、遺跡からは普通に出ようと思っても出られないのではないだろうか。
それとも、あのホールのような場所にあった扉とは別に遺跡から出る方法があったのだろうか?
転送地点はあの遺跡からそう離れた場所ではないのだろうか?
何にしても情報不足すぎて考察をすることもできない。
やはりまずは情報を集める必要がある。
そうすればハセベさんたちがどこに飛ばされたのか確認できるかもしれない。
「神の戦士は何もないところから物を出したり武器や身体を光らせたりといった、まるで神の奇跡のような技をお持ちとか」
今の俺は先程使用した魔女の呪いの影響で全身に紋様が浮かび上がり、虹色の光が放出されている。
「身体を光らせる」というのはこれで良いとして、何もないところから物を出すということならば、やらざるを得ないだろう。
「ハロウィンです。クッキーをどうぞ」
俺はクッキーを1枚取り出して女性に渡した。
「ハロウィン? それにえっと……これは食べられるものですか? 食べても害はありませんか?」
クッキーを受け取った女性は訝しげな表情をした。
冷静に考えると、全身を虹色にピカピカとゲーミングPCのように光る怪しい奴など近寄りたくもないだろう。
そして、そんな怪人物が、どこからともなく取り出した食べ物をあまり食べたいとも思わない。
俺ならば謝罪しつつ突っ返すところだ。
初対面で謎の怪物として銃撃されなかっただけでも御の字なのか。
「大丈夫です。同じ味が続きすぎてさすがに飽きてきましたけど、普通に美味しいです」
「そうですよ。ちょっとパサパサするので、もうちょっと火の加減とか調整して欲しいところもありますけど普通に美味しいクッキーです」
モリ君とエリちゃんがフォローに入ってくれた。
一部あまりフォローになっていない発言もあったように感じられる。
だが、クッキーは俺の手作りではなく、スキルでどこからともなく湧いてきたものだ。
味についてあまり気にしても仕方ないだろう。
念のために、もう1枚クッキーを取り出して3等分にする。
毒などないと証明するために俺とモリ君とエリちゃんで食べてみせた。
女性も「そ、そうですか」と言ってクッキーを食してくれた。
ありがたい。
「このコジャ州の州知事が貴方たちに会いたいとのご要望です。そのために私たちは貴方たちを客人としてお出迎えに参りました」
女性が手を伸ばしてきたので握手で応じた。
「私はリプリィと申します。州知事の孫で、貴方たちから見ると日系三世と呼ばれる立場にあります」
「え?」
「祖母は貴方たちと同郷……50年前に日本からこの地に召喚された神の戦士の一人です」
「その州知事が私たちにどのような用件で……」
「それは、直接確認いただきたく。私たちは地母神の遺跡最寄りの町、パカリ・タンプへ向かっています」
竜車の窓から外の景色は開けた道に変わっていた。
その先の方に、白っぽいレンガの外壁に赤い屋根を持つ建物がいくつも並んでいる町が見えてきた。
先程までいた遺跡はマチュピチュに似ていると思ったが、先に見える町も、やはりガイドブックで見たことがある南米の町によく似ている。
「念のために確認しますが、州知事が呼んだのは私たちでしょうか? それとも私たちを含む当代の神の戦士50人でしょうか?」
「両方です……具体的には、昨晩に遺跡から隣の山へ熱線を放った能力者を確保するというのが、私に与えられた指令です」
それは間違いなく俺だ。
昨晩ならば、最初の試射の話だろう。
だが、熱線を放った能力者を呼んでいるというのは?
単に、同郷の日本人を歓迎するということではなさそうだ。
きな臭さを感じつつも、今はその州知事に会うしかないだろう。
「50年前の日本人……いったいどんなやつが待っているのやら」




