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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
番外編 2 横浜地下迷宮
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第七話 「赤い孔雀」

 小森君がバトンのような短い金属の棒を片手に部室のドアを少しだけ開いて顔を出して左右の様子を確認。

 すぐにドアを閉じて施錠した。


「外の様子はどう?」

「作戦を考えたい」


 その一言で部室の外が異常な状態になっていると伝わってきた。

 緊張のあまり生唾を飲み込む。


「外に居るやつは熊?」

「いや、ハンドボールくらいのサイズの眼球みたいなのが宙を飛び回っている。数は5匹以上」

「聞くんじゃなかった。今の話の時点で気持ち悪い」


 綾乃はそれを聞いてラックに入れているファイルを取り出して机の上に広げた。


 ファイルの中には校内の図面がファイリングしてある。

 もちろんただの図面ではない。


 歴代の新聞部員が取材と調査をしやすいように電気の配線やら防犯カメラの位置などを色々と書き込んだ代々伝わる秘伝の書だ。

 綾乃はこういう状況での判断力と行動力が強い。


「これを見た小森も同罪ね。もちろん部外者への他言無用」

「別に言いふらすつもりはないよ。俺も清廉潔白正義の人ってわけじゃないし」

「よろしい」


 綾乃は「部室エリア」と書かれている場所に有る部屋を指差した。


「ここがうちの部室。この2つ隣が写真部の部室なんだけど、3年が引退しちゃって今では1年が1人いるだけのはずよ」

「うちも似たようなものだけどね。2人しかいない」

「その話は今はいいでしょ!」


 綾乃は配置図を辿って写真部部室の場所を確認した。


「写真部の真下が書道部。調理部は一階の端っこ。霧は2階には流れていっていないから、巻き込まれているとしたら写真部だけだと思う」

「その写真部員が巻き込まれているかもしれないと?」

「助けに行こう!」

「待ちなさい!」


 僕達が部屋から出ていこうとしたところ、綾乃が制止の声をあげた。


「私はこの写真部の子が熊か部屋の外に居る目玉を操った主犯じゃないかなと思ってる」

「普通の人間がモンスターを操ったと?」

「恵太の例があるでしょ。それを考えると使い魔を操る能力を貰った高校生が他にいても不思議じゃないと思う」

「そんなまさか……」


 現代日本人がそんな他人を攻撃するようなことをやるわけがない。

 そう言いたかったが、片倉さんが言っていた契約の「後払い」の話を思い出した。


 あの神父に「命が惜しかったら命令に従いなさい」と言われて脅すだけならばと仕方なく協力している可能性もあるだろう。

 考えたくはないが、貰った能力の万能感に酔いしれて暴走してることも……否定は出来ない。


「命が惜しかったらワシの命令に従ってもらおうゲヘヘって可能性もあるでしょ」

「あの神父はゲヘヘとは言わなさそうなんだけど」

「さあ、人は見た目だけじゃ分からないものよ」


 綾乃も僕と似たようなことを考えていたようだが何かおかしい。


「だから写真部部室に踏み込んで、救助と敵を倒すこと。どちらの可能性もあるってことで動いて欲しいんだけど」

「人はなるべく傷つけたくないけど、状況次第では仕方ないか」

「というわけで、私はここで隠れてるから、恵太と小森は写真部部室へ向かってね」


 綾乃はそう言うと長机を動かし始めた。

 バリケードを作って立てこもるつもりのようだ。


「じゃあ行こうか、小森君」

「いや、3人で一緒に行動した方が良さそうだ」


 小森君はそう言うと同時に、手に持っていた短いバトンのようなものが1.5m程の長さに伸びた。

 そうやって変化した「槍」を天井の方へ突き出し、何かを串刺しにした後に床へと叩きつけた。


 床の上で潰れたのは巨大な眼球のような物体だった。

 視神経のような触手が体の後方から伸びてうねっており、潰されてもう動かないと分かっていてもなお嫌悪感がこみ上げてくる。


「もうどこからか入り込んできている。矢上君、ジャック・オー・ランタンを出して防御を!」

「分かった!」


 一度は出しているのだ。

 今回もちゃんと出せるはずだ。


 まずは体の周囲に炎の珠が浮かぶイメージを行い……。


「いや待った!」


 綾乃が突然に叫んだ。


「写真部の部室へ行けさえすれば良いのよね」

「まあそういうことだけど、そこのドアを開けて出ていく以外に方法はないだろう」

「それがあるのよ」


   ◆ ◆ ◆


「この部室棟って元は使っていない教室でね。それを間仕切りで三分割して使ったって聞いたことが有ってね」


 小森君が部屋の隅に置いていたロッカーやキャビネットを動かすと、薄いパネルの壁が現れた。


 パネルの端へ小森くんが槍を突き入れててこの原理でグイと動かすと、パネルが横方向へスライドした。


 すると、眼の前にまた別のロッカー……歴史研究家が使用しているものが現れた。


「矢上君、ちょっと槍を持っていてくれないか? 今度のロッカーはかなり重そうだ」

「隣は歴史研究会だから多分本か何かを詰め込んだ本棚として使ってるんだと思う」

「道理で重いはずだ!」


 小森君から槍を受取り、ロッカーを動かしてくれるのを見守る。

 異世界帰りの力のおかげなのか、その重そうなロッカーを何とかずらして1人が通るスペースを開けた。


「お邪魔しまーす」

「失礼しまーす」


 僕達2人がそのスペースから隣の歴史研究会の部室へ入った。

 最後の小森君も入って、パネルとロッカーを動かして元通りにする。


「もう一回同じことをやれば写真部部室ってわけ」

「確かに効率は良いな。俺ばっかり苦労してるのはともかくとして」

「旧校舎みたいな迷宮を走り回るなんて懲り懲りだし、こっちの方が良いでしょ」

「まあそうなんだけどさ」


 反対側のロッカーを動かすのは流石に僕も協力した。

 2人でロッカーを動かした後にパネルを少しスライドさせると、目にも見える猛烈な煙が吹き出してきた。


 煙にはまるで酢のような酸っぱい臭いが混じっており、もろに吸い込んでしまってむせる。


「流石にこの先は黙っては通してくれなさそうだ。矢上君は戦闘準備を」

「分かった」


 周囲に炎の珠が浮かび、それらが集結するイメージを思い描く。

 集まって大きくなった炎が人の形を取ったところで呼びかける。


「来い! ジャック・オー・ランタン!」


 叫びと共に僕の少し前の空間にカボチャの怪人……ジャック・オー・ランタンが出現した。


「来てくれたのか。ジャッコ」


 カボチャ頭に呼びかけると無言だが頷いて返事をしてくれた。

 ある程度意思のようなものはあるのだろうか?


「矢上君、体調は大丈夫かい?」

「特に問題なし……と言いたいところだけど、疲れみたいなのはあるかな。午前中の授業を受けて昼休みがようやく来たってくらいの」

「流石に何も消費せずってわけにはいかないのか。カーターさんは使い放題だと言っていたけど使用回数は絞った方がいいと思う」

「僕もそう思う。追い込まれてから出すくらいにしたい」

「マンガの能力者みたいに腕だけ出して節約とか出来るの?」

「応用編はまた今後考えるよ」


 カボチャ頭に命令を出してパネルを動かしてまたも1人が通れるスペースを確保した。

 意外と力が強いので、戦闘以外のこういう場面でも役立ちそうだと思いながら中へと入る。


 抜けた先はとても部室の中とは思えない巨大な空間になっていた。


 縦横50m四方。

 旧校舎にいた巨大ヘビがいた空間と同じくらいの広さだ。


 内部には無数の抽象画のような何が写っているのか判別できない写真が無数に飾られており、赤い光で照らされていた。

 

 呼び出されたモンスターはこういう結界的な物を作るのかもしれない。


「それで黒幕みたいなのはいる?」

「黒幕かどうかはともかく誰かいるな」


 小森君が槍で部屋の中央を指す先には椅子に座った女子生徒がいた。


 暗いのと距離があるので分かりにくいが、目を瞑って眠っているように見える。


 そして、その背後には全長は10m以上あるであろう、巨大な赤い鳥が目を閉じた状態で鎮座している。

 羽は閉じており、うつらうつらと冠羽(かんう)を揺らしている。


「そこで眠っているのは写真部の子ということで良いんだよな」

「引退した前の写真部の部長とは面識があるんだけど、その後ろにくっ付いてるのは見たことある。念の為に言っておくけど後ろの赤い鳥は初対面だから」

「それは知ってる。ともかく何を仕掛けてくるかわからない。慎重に近づこう」


 3人でなるべく物音を立てないように移動していく。


 今の所あの怪しげな目玉はいないようだ。

 その分だけ助かるといえば助かるが。


「あの女子が要救助者なのかボスなのかは分からないが、どの道あの大きな鳥は倒す必要があるはずだ」

「僕がカボチャ頭を操作して助けに行くよ。もしカボチャ頭が攻撃されても僕達は怪我しない」

「じゃあ俺は鳥が動き出した時の攻撃を」

「じゃあ私はひたすら逃げる方向で」


 方針は固まった。

 僕はカボチャ頭を前面に出しながらゆっくりと物音を立てないよう忍び足で近付いていく。


 女子生徒まであと一歩というところまで来た時に鳥が目を開いた。


 その鳥は……まるで蜥蜴のような目をギョロギョロと動かして僕、そして後ろにいる小森君と綾乃へ向けてきた。


「攻撃が……来る」

「矢上君、警戒を。柿原は俺の後ろへ!」


 鳥はケェーンと高い雄叫びの声を上げると共に巨大な尾羽を扇のように広げた。

 それは動物園や図鑑などで見た孔雀の姿そのものだった。

 

 ただ、決定的に普通の孔雀と異なる点がある。

 尾羽には無数の眼球が埋め込まれており、それぞれの目は四方八方へと視線を動かしていく。

 

「うわっ気持ち悪っ」

「こんなボスがただの孔雀のわけはないと思っていたけど」


 それと同時に椅子に座った女子生徒の前に半透明のモニターのようなものが出現した。


 女子生徒は眠ったままで、そのモニターを見ているとは思えないが、モニター内には僕と綾乃、小森くんの姿が映し出されて、その横に何らかの文字が表示されている。

 どうやら、孔雀の目で見たものが分析されて、モニターに情報として出力されるようだ。

 

「分析能力? 攻撃能力はない……のか?」


 小森君の呟きを否定するように、床をガリっとひっかく音を立てながら孔雀が立ち上がった。


 その足は孔雀のものとは思えないほど長くて太く、そのつま先には猛禽類のような鋭いかぎ爪が付いている。

 その爪によるひっかきを受ければ重傷は間違いないだろう。

 

「まさかあの足で蹴ってくる?」

「もしそうなら、攻撃をあえて誘えば、あの子から孔雀を引き離せるな。それを狙おう」

「なら僕が誘導するよ。小森君はその間に」

「分かった。俺が救出係に回る。柿原は」

「頑張って逃げるね」


 僕はカボチャ頭に指示を出して、わざと孔雀に対して挑発するようなポーズを取った。


 赤い孔雀が接近戦を仕掛けてきてくれるならば、少女から距離を離せる。

 その間に、小森君が少女を救出してくれさえすれば、あとは自由に戦える。


「さあ、かかってこい!」


 僕は孔雀が体当たりを仕掛けてくることを前提に身構える。

 敵の攻撃に対してカウンターでの反撃狙い。


 熊に対してラッシュの後に食らわせたような強烈な蹴りを放つつもりだ。


 だが、孔雀は少女を護るような位置に陣取ったまま動くことなかった。


 その代わりに、尾羽の先に付いた数個の眼球だけが僕の方を向いた。


「なんだ?」

「まずい! 走り回って避けろ!」


 小森君が何かを察知したのか大声で叫んだ。


 僕も理屈は分からないが、嫌な予感がしたのは事実だ。

 全力で走ると、今まで立っていた位置へ向けて、尾羽に付いた眼球から赤いレーザー光線のような光が発せられた。


 眼球の付いた尾羽は先端で折り曲がり、僕が逃げた先へレーザー光線の向きを変えてきた。


 これは動きを止めるとレーザー光線に狙い撃ちされてしまう状況だ。

 当たればどうなるかなど考えたくもない。


「ジャッコ! 僕を抱えて走れ」


 僕の脚の速さだとすぐに追いつかれると判断して、カボチャ頭に指示を出して抱えさせた。

 

 僕を抱き抱えたカボチャ頭は更に速度を上げて加速し、赤い孔雀が雨のように浴びせてくるレーザー光線から間一髪で逃げ回る。

 思っていた通り、自分の脚で走り回るよりはカボチャ頭に運んでもらった方が早く動ける。


 ただ、逃げ回るのが精一杯で攻撃のチャンスがない。


 小森君はどうしたのか?


 目線を部屋の端へ向けると、赤い孔雀が放ったレーザー光線はそちらにも飛んでいた。

 ただ、小森君の眼の前に出現した青白く光る壁がそれらを全て防ぎきっていた。


 小森君の後ろには綾乃が隠れている。

 どうやら綾乃を護るために小森君が防御系の能力を使ったが、そのせいで身動きが取れないようだ。


「小森君、このままだとジリ貧だ!」

「分かってる。2人で撹乱しよう。油断を見せたチャンスを狙う!」

「2人で撹乱って言うけど、私は?」


 綾乃が小森君に訴えた。

 確かに綾乃を護っている間は小森君が受けない状態は変わらない。一体どうすればよいのか?


「仕方ない。柿原、ちょっと乱暴に扱うぞ」

「えっ、乱暴って何!? ひゃっ!」


 僕がカボチャ頭に抱き抱えられたのと同じように、小森君が綾乃を小脇に抱え込んでそのまま走り始めた。

 

 攻撃を防いでいたバリア的なものが消えたが、小森君が恐ろしいほどの速さで走り出したことでレーザー光線は当たることがなかった。


「ちょっ……これ……この体勢無理! 出る、昼ご飯全部出る……」

「それじゃあこれで。これなら文句ないだろ」


 小森君も小脇に綾乃を抱えた体勢だと無理があると判断したのか、槍を縮めてベルトに付けていたフックに引っ掛けた後、もう片方の手を回して前に抱き抱える体勢へと変える。

 俗に言うお姫様抱っこというやつだ。

 

「ちょっと……恥ずかしんだけど!」

「我慢して。まずはこいつの攻撃を避けないと。それよりちょっと跳ぶからしっかり掴まってろ!」

「跳ぶって何が? ひゃああああ」


 小森君が綾乃を抱えたまま数メートルの高さまでジャンプしてレーザー光線を避けた。


「どんな脚力してんのぉ!」

「まだまだ加速するから、振り落とされないようにしがみついて! まずはレーザーを撃つ羽を落とす」

「まだ速くなんの!?」


 更にそこから壁を蹴って斜め上方向へ飛翔した。

 そのまま落下しそうになる度に壁を強く蹴るという行動を繰り返して、まるで壁を走っているように縦横無人に駆けまわって華麗にレーザーを避けていく。


 綾乃は小森君の首に手を回して振り落とされないように必死でしがみついた。

 小森君は宣言どおりに更に速度を上げて赤い孔雀が降り注ぐレーザー光線を間一髪で避けていく。

 

 赤孔雀はそのアクロバットな動きを挑発と感じたのか、全ての攻撃を裕和の方へと向け始めた。


「チャンスだ! ジャッコ! 炎柱(フレイムピラー)!」


 攻撃が手薄になった隙を付いてカボチャ頭に命令を出して炎弾を放った。


 もちろん孔雀の近くには女子生徒がいるので直撃はさせない。

 目標はレーザー光線を放つ尾羽だ。


 炎弾は赤い孔雀の尾羽を掠めて離れた部屋の隅に着弾し、赤い炎の柱を上げた。


 掠めただけだが、尾羽とその先に付いた眼球を焼いて動きを止めるには十分だった。


「小森君!」

「ああ! 今がチャンスだ。プロテクション!」


 小森君が叫ぶと、その足元に青白く光る粒子で構成された壁が出現した。

 先程レーザー光線を防いでいた青白く光る粒子で構成された壁だ。


 ただ、壁の向きは縦方向で、攻撃を防ぐために出現させたとは思えない。


 そもそも攻撃に使っていた尾羽は僕がたった今焼き払ったところだ。

 何をするというのだろう。


「そんなところにバリアを作ってどうすんの?」

「こうするんだ! モードチェンジ、(アクス)!」


 小森君の指示を受けた壁は半円形の斧のような形状へと変化して、孔雀の尾羽の付け根へと突き刺さった。


 更にその「斧」の上部へ綾乃の体重を上乗せした状態で飛び乗り、斧の刃を深く食い込ませる。

 孔雀の尾羽の付け根に「斧」は深々と食い込み、孔雀が悲鳴を上げた。


 だが「斧」はそれだけでは孔雀の尾羽を切り落とすことは出来ず、半分くらい食い込んだところで止まってしまった。


「一発で切り落とそうと思ったけど、流石に俺1人じゃこれが限界か」

「これのどこがプロテクションなのーっ!?」


 絶叫しながらツッコミを入れる綾乃を無視して小森君が高く跳躍した。


「矢上君、追撃は任せた!」

「任された!」


 カボチャ頭の攻撃のリーチは意外と短い。

 機会を逃せば、次にいつ攻撃出来るかどうか分からない。

 

「これで決める!」

 

 小森くんと入れ替わりに、僕を抱き抱えたままのカボチャ頭が「斧」の上へ強烈な飛び蹴りを放った。


 孔雀の体に食い込んでいた「斧」はついには胴体を突き抜けて完全に尾羽を切断するに至った。

 孔雀が苦痛からか頭を上へ向けて、周囲の空間をも響かせるような叫び声をあげた。

 

 ダメ押しとばかりに強烈な回し蹴りを孔雀の頭へと当てて、その巨体を転倒させた。


 カボチャ頭から飛び降りて椅子に座った少女を確保する。

 要救助者か黒幕かはともかくとして、これならばもうボス退治の邪魔になることはない。


「行け! アサルトラッシュ!」


 目立つ弱点である頭部へ鋭く速いパンチの連打を打ち込み続ける。


「トドメだ。焼き尽くせ!」


 カボチャ頭が火の玉を放つと、赤い孔雀はオレンジ色の火柱に包まれ、全身が激しく燃え上がった。

 孔雀はチリチリとその体を燃え上がらせていき……やがて粒子になって消えていった。


 それと同時に結界が解除されたのか、いつの間にか僕達3人と写真部の少女は狭い写真部の部室の中に立っていた。

 大蛇の時と同じなのか?


「そろそろ下ろしてくれるとありがたいんですけど」

「ああ、すまない」


 小森くんが抱えていた綾乃を降ろした。

 すると、綾乃は部室の端の方に行って口を抑えてしゃがみ込んだ。


「気持ち悪い……朝食の弁当全部吐きそう」

「大丈夫、綾乃?」

「大丈夫じゃないけど大丈夫。うん、大丈夫」


 僕が声をかけると、綾乃は立ち上がってフラフラとおぼつかない足取りで小森君の方へと歩き始めた。


「何なの? なんで生身の人間がジェットコースターみたいな動き出来るの?」

「すまない。安全を確保しつつ反撃をしようとしたらああなった」

「いや……まあ悪気はないんだろうし、怒ってはないけどさ……」


 問題は写真部の女子生徒だ。

 怪我はないように見えるが、まだ目を閉じたままで意識があるのかないのか分からない。


「とりあえず、本人にはなんと説明する?」

「まずは体調の確認だ。ケガをしているようならば病院へ連れて行こう」

「賛成。それで行こう」


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