第八話 「トナカイ」
鳥達が洞窟の奥から金の腕輪を抱えて戻ってきた。
赤く大きな宝石が埋め込まれた純金製の腕輪。
これは水源である洞窟の奥にある水たまりの底に沈んでいたものだ。
芸術や工芸品にそれほど詳しいわけではないが、装飾のデザインが明らかに日本古来のものや近年のブランドとは全く異なるのは素人目に見ても分かる。
緻密な彫刻はどこかの博物館に展示されていてもおかしくなそうな品々だ。
真新しい古代の秘宝という矛盾した表現が脳裏に浮かぶ。
先輩たちが俺達と同じ旅程を通ったのならば、メキシコ密林に眠る遺跡で発見したものかもしれない。
赤い宝石でホンジュラスで見た寄生体の種のことを思い出して一瞬だけ警戒したが、元は先輩達の持ち物であることを思い出した。
影響あるものならば、とっくに先輩達に異常が発生しているだろう。
つまり、これは安全なものだ。
「これ一つだけだということはないだろう。とりあえず水たまりに沈んでる自然界に存在しないものを全部拾ってこい」
鳥達に命じて再度洞窟内に潜らせる。
少し待つと、今度は両足一杯に様々なものを抱えて運んできた。
金の指輪、宝石、金貨。
俺達と同じ旅程を通っているのならば、南米、黄金の国エル=ドラドを通過しているのだろう。
やはり金の装飾品がやたら多い。
宝物以外にも謎の金属バッジ、見慣れた銅のメダル、水に長期間浸かっていたからか錆びたナイフなどが運ばれてきた。
そして、最後にはそれらの宝の出所を証明するように、麻か何かを編んで作られたナップサックの残骸が運ばれてきた。
底が破れて袋として機能していないのは、おそらく洞窟内の尖った岩か何かに鞄の底を引っ掛けたのだろう。
水たまりの中に大量に色々なものが沈んでいたのは、そのせいに違いない。
ここからは完全に想像だ。
帰還者2人が向こうの世界からこちらの世界に転移した際の出口はこの洞窟だった。
その際に、帰還した最低2人の先輩達が持っていたであろう袋が破けて、中身が水の中にぶちまけられた。
ある程度は回収出来たのかもしれないが、洞窟内は明かりがないために水底に沈んだ小さい宝石類は回収出来なかった。
そうやって紛失したものに含まれていたもののうち、軽いカードだけが流されて下流にある八千代さんの仕掛けた網に引っかかった。
細部は違っても、この推測はそこまで大きく外れてはいないと思われる。
先輩達が向こうの世界から持ち帰ったお宝。
指輪などは純金のようだし、腕輪にはめられた巨大な宝石は国宝レベル。
全て売ればそれなりの金額にはなるだろうが、元は先輩達の持ち物だと考えると、落とし物は返すのが筋だ。
ネコババすれば小森くんの学費の足しにはなるだろうが、流石に所有者が分かっているのにそういうことはしたくないし、小森くんの方も出所がそういう金ならば受け取るのを嫌がるはずだ。
本当に俺達は損な性格をしている。
金目のものではないもの……例えばバッジなども当人達には大切なものなのかもしれないので、一通り持ち帰って、後で当人達に選別してもらおう。
裸のまま置いておけないので、鞄から巾着タイプのビニール製エコバッグを取り出し、回収した宝をまとめてその中に入れて洞窟の脇に置いた。
それなりの重量があるので風に飛ばされてしまうことはないだろう。
帰還者の問題はとりあえず置いておくとして、まずは喫緊の問題を解決する必要がある。
鳥からLEDライトを回収。
手に持って洞窟を進んでいく。
水源である水たまりを超えてほんの数メートル歩くと、硬い岩盤が立ちはだかり進路を阻んでいた。
――終わっているように見えた。
少なくとも肉眼では行き止まりにしか見えない。
たいまつや一昔前に主流だった電球の懐中電灯の暗い光ではそこから先はないと諦めたに違いない。
だが、今は違う!
現代の高照度LEDライトが作り出す強烈な光は暗い洞窟内を昼間のように照らし上げた。
その光によって影が岩の壁を突き抜けるという不思議な動きを見せてくれた。
足元に転がっていた小石を掴んで壁に向かって投げつけるも、跳ね返ることはなくそのまま奥へと消えていった。
「つまりはただの幻影。実際には存在しない」
視覚情報を無視して歩みを進めると、何の感触もなく壁の奥へと突き抜けた。
幻影の岩盤を抜けた先に有ったのはおそらく手彫りで正方形に削り出された空間だった。
幅や奥行き、それに高さ。全てが目算3mで統一されている。
古墳の玄室的なものか。
床には円や直線を組み合わせた何やら幾何学模様の溝が彫り込まれており、使い魔の目で視ると溝からはわずかに光が放たれている。
もちろん、その幾何学模様の溝は高度な3Dレーザー投影技術などが仕込まれたハイテク機器には見えない。
科学ではなく、何らかの魔術的な仕掛けが施してあるのだろう。
この魔術的な仕掛けが日向神話や古事記日本書紀に出て来る高千穂の伝承と何か関係あるのか?
気にならないと言えば嘘ではあるが、一介の新人サラリーマンが貴重な余暇を潰してボランティアで解明する謎でもない。
本日の俺のタスクは先輩の所在とまっくろくろすけ達の出所の解明。
それ以外は欲張らないことにする。
「魔法陣は放置のままでいいか。下手に一般人が迷い込むのを防ぐことが出来るわけだし」
一番奥の壁はスライドドアのような構造になっており、半開きの扉の先には更に下方向へ続く階段が続いていた。
玄室が墓だと仮定すると、水源である水たまりから流される水で穢れを浄化。
扉の向こうにある階段を下って死者の国……根の国へ至る。
そんなところか。
「ならばこの先にいるのは地獄の主か。閻魔様だかアヌビスだか」
LEDライトを照らしながら階段を降りていく。
「まさか現代日本に帰って来てもダンジョンへ潜ることになるとは思わなかったけど」
以前に潜ったことがあるホンジュラスの蟇の遺跡は緻密に石組された整然とした空間だったが、ここは人の手は最小限に天然の空洞をそのまま利用した構造のようだ。
近いのはタウンティンの海岸近くにあった巨人の祭祀場があった遺跡か。
あそこは海蝕洞窟に階段や通路などを整備した後に壁画などを取り付けた自然環境を生かしたものだったが、そちらとかなり共通する点が多い。
「南米と同じ文化圏……というよりも、向こうの世界の南米と直接繋がっている可能性の方が高そうだな」
白いやつが異世界のことを知っているというのは、次元を越えた通信能力を持っているというよりも、実際に往来出来ていたと考える方が自然だ。
おそらくこの通路の先には次元の境界……まさに端境があるのだろう。
先輩達はその端境を利用して日本への帰還に成功した。
これならば全ての理屈は通る。
床面には上の水源から流れてきたであろう水が常に流れている。
地上を歩いていたら靴も靴下も水浸しだっただろうし、足を滑らせることにも気を付ける必要があっただろうが、今は箒に乗った状態で宙に浮游しているので何の支障もない。
それでも水が流れているからかかなりひんやりとした冷気が伝わって来て身体が冷えてたまらない。
早く解決して帰りたいところだ。
長い階段を降り切ると、今度は横向きの通路になった。
先の方からは淡い光が差し込んでいるように見える。
「さて、最深部には何が待っているのやら」
これほどのまっくろくろすけを垂れ流しているのだ。
何が出てきても不思議ではない。
別の世界に繋がるゲート?
それとも俺の想像を超える何か得体の知れない存在?
その答えはすぐに明らかになる。
◆ ◆ ◆
「やあ」
洞窟最深部で俺を待ち構えていたのは巨大な黒くて長い毛を持つ四本足の生物だった。
現代の地球に現存するどの動物にも似ていない。
ただ、頭部から生えた樹木と見間違うくらい無数に枝分かれした巨大な角からは山羊、もしくは鹿との類似性を見出すことは出来る。
山羊と呼ぶべきか、鹿と呼ぶべきか?
体長は5mほど。
胴体は黒くて太くて長い……まるで触手のような長い毛に覆われており、その毛から黒い水のようなものが滴り落ちている。
地面に落ちた雫はボコボコと音を立てて泡立ちながらまるでアメーバのように動き回り、それがいくつか集まってある程度の大きさに育ったところでヘドロ状のまっくろくろすけとなり動き始める。
間違いなく「穢れ」の発生源はこいつだ。
こいつにこの世界から消えてもらわないことには俺の目的は果たされないようだ。
ただ、今の挨拶から考えて言葉は通じるようだ。
出来れば戦闘なしで説得により穏便にこの世界から退去いただきたいところではある。
「人間を見るのは久々だね……いや、君も純粋な人間ではないようだ」
まあこの謎の生物の言う通り、自分が真っ当な人間でないことくらいは分かっている。
普通の人間は箒で空を飛んだり鳥を喚び出したり全身からゲーミングカラーの光を放ったりしない。
男だか女だかよく分からない生物でもないからだ。
俺はまだ一応人間のつもりではあるが、本質的には目の前にいる存在と大差ないへんないきものなのかもしれない。
「貴方も純粋な鹿ではないようですが」
「鹿などと一緒にされるのは流石に不満があるのだが」
「失礼いたしました。トナカイですよね」
念のために確認してみる。
こいつはおそらく何か偉そうな肩書き付きの邪神だったり神話生物だったりするのだろう。
その手の人間のイメージのフィードバックを受けて生きてるような存在に遜ることで無駄に力を与えてやる必要はない。
雑に扱って矮小化させるが一番有効な対策だ。
人間の恐怖心を糧とする邪悪な異次元からやってきた魔神を「ヘイジョージ!」とクソ映画を紹介してくる下水に住んでる変なおじさん扱いして無力化させるようなものだ。
ということで決めた。
こいつはただの喋るトナカイだ。
私がそう判断した。
「そうだよトナカイだよ。サンタクロースを知らない? いや、私も別にサンタのそりなんて引いたことないんだがね」
トナカイ?はヤケクソ気味に答えてくれた。
本人が認めた以上はトナカイ扱いで良いだろう。
「クリスマスも済んで世間は新年一色ですが、最近は如何ですか?」
「冬至だけあって最近は陽が落ちるのが早いな。この時間だというのに気分と同じでいつも真っ暗。ゲーテの心情だよ」
「『もっと光を』は今際の際の言葉なんですけど体調不良なのですか?」
「最近は運動不足で良くないな。われわれの本性は、怠惰へ傾いているとはいえ」
「スポーツなど如何ですか? 活動へと心を励ます限り真の悦びを感ずるとも言います」
「ならば、そり以外のスポーツでも始めてみるか。ボブスレーとか」
こちらの突拍子もない話に反応して小粋なジョークを返してくる辺り、単に毛のないサルの猿真似をしているわけではなく、それなりの知識と知能を備えていることは分かる。
何故喋るトナカイがこんなところに閉じ込められているのか?
それを把握することが先決だ。
「それで何の用事で魔女がこんなところまでやってきたんだい? 力が欲しい……ってわけじゃなさそうだね」
「サンタならともかくトナカイにプレゼントを貰うってのは何か違う気がしますので結構です」
「でも何か欲しいもの、望むものくらいあるんだろう。言ってごらん。私は力だ。常に悪を望みつつ、常に善をなす」
ここでウェルテルからファウストにスイッチか。
メフィストフェレス気取りなのか知らないが、本当に頭の回転が早い奴だ。
「やあ檀那。飛んだご無礼いたしました。蹄を隠していらっしゃるものだからどこの有象無象のトナカイかと」
「もういい、えらい巫女さんよ。早く薬を持って来て縁にいっぱいまで注いでおくれ」
ファウストで魔女から秘薬を受け取るメフィストの下りか。
何のネタを振ってもすぐに返してくるのが面倒すぎる。
欲しいものを聞きたいようなので、せっかくなので答えておこう。
「温泉旅館の宿泊券をズワイガニ付きで。もちろん紅じゃなくて本ズワイガニでタグ付きのものをお願いします」
「ズワイガニ? いや、そういうのには対応していないんだが」
万能のように語っておきながら、いざこちらから頼みごとをすれば急に真顔でこの塩対応である。
JTB旅行券プレゼントすら出来ないとは使えないやつだ。
まあカニ一杯5万はトナカイと言えども渋って仕方ない金額だ。
ならばこちらもプライスダウンで対応しよう。
「すぐに欲しいものだとコーラでしょうか? 500mlのノンシュガーじゃないやつ」
「この寒い中コーラ?」
「そこをあえてコーラで」
「赤いラベル?」
「この際青いのでもOKです」
「トナカイというかサンタが青いのを出したらもうそれは戦争だぞ」
ダメ元で言ってみたが、どうも反応は渋い。
「どちらも無理だよ。まあ分かっていたけどね。私を前に畏れも敬いもせず会話している相手に普通の反応なんて期待できないって」
「普通の反応のつもりですが」
「常人の対応という意味だよ。ややこしいけど」
どうやらトナカイには別にコーラを超能力などで取り出せるような自販機的な能力があるわけではないようだ。
結果はともかくとして、これで会話のきっかけは作ることが出来た。
今度はこちらの質問ターンだ。
「何故こんな洞窟の地下におられるのですか?」
「よくぞ聞いてくれました!」
そういうとトナカイは待ってましたとばかりに歌劇のように大げさに快哉を叫んで大きく首を振った。
角が大きく振れて風音が鳴る。
「この洞窟は次元の端境になっているようでね。ちょくちょくこちらの世界へ遊びに来ては、出会う人間の願いを叶えたりしていたんだ。神様ごっこだよ。迷える子羊よって」
「ということは、ここを作ったのは貴方ではない?」
「そうだよ。多分私が来るよりも前に他の誰かが住んでいて、そいつを敬う誰かが作ったんだろうね」
そう聞いて少しだけ安心した。
このフランクなトナカイが日本創世神話に関わっているとなるともう色々と台無しである。
つまるところ、タヌキの掘った巣穴に住み着くゴミパンダのような特定外来種という解釈で良いだろう。
「だけどね。何日か前から元の世界に帰ることが出来なくなったみたいなんだ」
トナカイはそこまで軽快に話した後に言葉を突然に切った。
目を瞑り、代わりに胴体の毛の下に隠れていたいくつもの目と口が一斉に開いた。
面白い構造をしている。
「やったのは貴様か?」
トナカイは殺気がこもった凄みのある声を上げた。
それと同時にどういう原理なのか勢い良く風が吹きつけてくる。
風が吹く=空気が動くということなので、俺の見えない魔力的な「何か」を放っているようだ。
ただ、視認出来ないだけに何が起こっているのかさっぱり分からず、反応に困るのが欠点だ。
だが、怒りに我を忘れて理性を飛ばしているようには見えない。
それなりの知恵と知能を持っているトナカイは貴重な情報源である俺に対して無意味な暴力を振るうつもりなどないだろう。
俺を傷つけたり殺しても得られるものは何もないからだ。
その上で、傷をつけない威圧による脅しは効果があると考えている。
ならばこちらは何も恐れることはない。
淡々と対応するだけだ。
むしろ怯えることで、威圧することに効果があると思われるとどんどんエスカレートするだろう。
「私ではなく先輩がやったことです」
「そいつは何故そんなことをした?」
「ナイアルラトホテップという邪神をご存じですか?」
邪神の名前を出すと、トナカイが放っていた気配が急に収まった。
「またか」
そのうんざりするような言い回しから、ニャル子はトナカイにまで悪名が轟く常習犯だったと分かった。
いや、まあ知っていたけど。
「多次元から向こうの世界へ攻撃を仕掛けたせいで次元の壁が無茶苦茶になり、世界が崩壊仕掛けたそうです」
「私の知らないところで、そんなことが起こっていたのか?」
割と騒ぎになっていたはずだが、このトナカイは知らなかったのか。
そう考えると、このトナカイも万能とは程遠いのかもしれない。
「一度は凌ぎましたが、追撃は防ぎきれずに今度こそ世界が壊れると次元の壁を修復して向こうの世界を隔離したということです」
「何故そんなことを知っている?」
「本人から直接聞きました」
「本人とは? ただの人間にはそんなことは出来ないだろう」
「先輩は邪神……夢の魔女イートラーと名乗っていました」
トナカイは胴体の目や口を閉じた。
そして元のトナカイの頭の部分に付いている目を開いて大きくため息をつく。
同時に先程までの穏やかな気配が戻ってきた。
「イートラーも知らない関係ではない。確かにそいつならば可能だろう。何とか連絡を取る手段はないかね?」
「一応メールを送ってみますね。これで連絡がつくか、返信してくれるかは別の話として」
スマホを取り出して以前に伊原さんから送られてきたショートメールに対して返信を試みる――試みようとしたが、流石に地下まで電波は届かないようだった。
仕方ないので鳥にスマホを持たせて地上まで飛ばし、再送信を試みることにする。
1羽はスマホを支える係。
もう1羽はメール送信の操作を行う分担だ。
「便利になったものだな。手のひらに収まるような小さな道具で別の世界に居る相手と交信できるとは」
「この道具自体に次元を越えて通信する機能なんてないですよ。連絡が届くのは相手の能力のおかげです」
「そういうものか? いや、そういうこともあるのか。無茶苦茶だがどういう原理だ?」
「どういう原理なんでしょうね?」
地上に送った鳥の視界でスマホの画面を確認するとメールは無事に送信出来たようだ。
伊原さんはこちらの世界にはなるべくかかわらない宣言を出しているし、その上でずぼらな性格だ。
向こうの世界の時差も考えると、こちらからメールを送ってもすぐに読んで対応してくれるとは限らない。
今のところトナカイには平和裏にこの世界から退去いただける流れではあるが、このまま伊原さんと連絡がつかない場合は、俺がここで銀の鍵を使ってヨグ=ソトースを召喚し、このトナカイを送り返すことも考える必要が有るだろう。
この邪悪そうなトナカイを向こうの世界に送って良いのかは全く別の問題としてだ。
5分待ち、10分待ち。
流石にもう返信はないだろうと諦めようとしていた時に、スマホにメール着信を示すランプが光った。
『何があった?』
どうやらこちらからのショートメールを読んで反応してくれたようだ。
鳥をもう1羽送り出し、電波の届く場所でスマホを操作させて今の状況を簡単にメールで報告することにする。
「そちらの世界と日本を往来していたトナカイが次元の壁修復の影響で取り残されてしまい、穢れを垂れ流している」だ。
ややあって返事が返ってきた。
『トナカイ?』
どうやら目の前にいるトナカイが何なのか伝わらなかったようだ。
「高千穂の洞窟の奥に閉じこめられてる黒くて長い毛が特徴で角が無数に枝分かれした木みたいな大山羊。胴体に目や口が浮かんだりする」
トナカイの外見を改めて見ながら特徴をメールを送信する。
『黒山羊なら最初からそうと言え。把握した。今から行く』
どうやら対応していただけるようだ。
ありがたい。
「今からこちらに来るそうです」
トナカイに伝えると、呆れたように首を振った。
表情豊かなトナカイだ。ちょっとかわいく見えてきた。
首のあたりの毛に手を突っ込んでもふもふしたい。
「私が言うのも何だが随分と無法だな。世界の法則も何もあったもんじゃない。次元間を移動するってとんでもないことなんだぞ」
「私もそう思います」
次元間の移動が途轍もなく大変なのは、向こうから日本に帰還した俺も実感している。
ちょっとコンビニに行ってくる感覚でホイホイ移動する伊原さんがおかしいだけだ。
あとは伊原さんの到着を待とう。




