第六話 「無貌の神」
小森くんを先頭に3人で赤い女と対峙する。
相手がどのような攻撃をしてくるか分からない以上は小森くんのプロテクションの防御力を信じて後ろで身構えるのが良いだろう。
「私は暴力的なことがあまり得意ではございません。そこで、貴方達には別の対戦相手を用意いたします」
「赤い女」が手をかざすと、その背後に魔法陣が3つ出現した。
その中から黒い人の形をした影が出現する。
地上で戦った影は完全に黒い塊でしかなかったが、こちらは人の顔のようなものが、うっすらと見える。
1人はファンタジー世界の登場人物のように、長剣を持ち、鎧を纏った青年。
1人はゆったりとした魔法使い風のローブを着た少女。
最後の1人は俺と同じような魔女の服装をした少女……いや、向こうの方がファッショナブルだ。
ビスチェ風の服の上にコート風のローブ。
ローブも折り目や刺繍などデザインに工夫がされており、生地が丈夫な上に暖かくて丈夫だぞという質実剛健のみに全振りしてデザイン性皆無の俺のローブとは全く違う。
「これは『私』の友人達のイメージを影の兵士として喚び出したものです。『私』のイメージですので、実物よりは強いかもしれません」
私というのは中村の話だろう。
そうなると、あの剣を持った青年が繁とかいう、度会知事の夫。
魔法使いの少女は度会知事の若い頃。
そして魔女は伊原か。
友人と決別したというのに、ここで頼るのは昔の友人の影って他に人付き合いはなかったのか?
……なかったんだろうな。
「分担は?」
「ラビさんは伊原さんを、恵理子は知事を。俺はあの剣士を倒します」
「待って、さすがにリプリィさんに似てるあの人と戦うのは無理だよ」
「分かった。なら、あの剣士は恵理子が相手を。あの魔法使いは俺が戦います」
手早く作戦会議を済ませて行動を開始する。
まだ、赤い女が別にいるのだから、こんなザコ戦で無駄に時間を使えない。
「小森くん、知事は炎を発生させるスキルとビームの二種類が使えるのは分かっている。ビームは多分スキル3」
「わかりました」
各自散開して、それぞれの影と戦う。
俺の相手は伊原。
以前に本物を観察した際は敵を消し去るスキル1、何かを出現させるスキル3の2種類は分かっている。
スキル2については不明。
スキル1はおそらく無抵抗の相手にしか使用できないと思われるので、警戒すべきはスキル3。
そして、ランクアップを繰り返して得られたという単純物理!
まずは鳥を5羽召喚。
何をするにもこれが基本だ。
ここから盾に割り振るか、それとも増幅で一気に勝負を決めるか、それとも単体のオールレンジ攻撃で攻めるか……。
影伊原はこちらへと駆け出しながら、自らの周りに青白く光る塊を出現させた。
その塊は床に着弾すると、そこからやはり体を青白く光らせている4足の動物……山羊が7体出現した。
「こちらの鳥と同じ能力……同じタイプの能力者か?」
7体の山羊は伊原と一緒に俺へと突撃してくる。
「数の上では不利。ならば、鳥で迎撃しても無駄。ならば!」
腰帯に吊されていた鞘から日本刀を引き抜いて山羊の迎撃にあたる。
日本刀を武器として使うのは初めてだが、使い方は『知っていた』
最初の1頭の山羊の突撃を回避。
無防備な胴体目掛けて刀を振り下ろして光る山羊を両断する。
まずは1頭!
続いて2頭目の山羊へ刀を振り下ろそうとして、以前にハセベさんに聞いたアドバイスが脳内で再生された。
(踏み込みが甘い! 前に教えた通り、恐怖から相手と距離が開きすぎている。間合いをもっとよく読め……だっけか)
アドバイスを意識して、あえて一歩前へ進んでから袈裟斬りで深く山羊の胴体に刀を食い込ませる。
そのまま刀を滑らせて流れるような動きで3頭目の山羊の首を落とす。
残る4体の山羊は左右2頭ずつ左右に分かれた。
どうやらこちらに挟み撃ちを仕掛けるようだが、そうは問屋が降ろさない。
「盾!」
左の2頭の山羊が突撃してきたタイミングに合わせて盾を形成。
鼻っ面にぶつけて動きを封じつつダメージを与える。
右側の山羊2頭はそれぞれ2羽の鳥をぶつけて相殺。
盾に頭をぶつけて怯んだ1頭の山羊を刀で切り捨てた。
「盾を解除。そして突撃!」
残る1頭の山羊を1羽の鳥の突撃で撃破。
これで影伊原が出した山羊は全滅させた。
残るは影伊原本体のみ!
そう思った時、殺気を感じて飛び退くと、俺がたった今まで立っていた場所を巨大な何かが通り過ぎた。
「くそっ……浮遊!」
俺の足では避けきることは難しいと判断して、箒に飛び乗って空中へ回避する。
だが、その何か……マンガにしか登場しないような巨大なハンマーは空中へ逃げた俺を執拗に追跡してくる。
そのハンマーの柄の部分には、影伊原がしゃがみ込んでうまくバランスを保ちながら乗っていた。
空中を逃げ回る俺を逃すまいと恐ろしい速度で突撃してくる。
直撃すれば無事では済まないだろう。
(ハンマーに乗って飛び回っていたというのはこういうことか)
回避運動を行ってハンマーの攻撃を避けるが、ハンマーが近くを通り過ぎる度に風圧でこちらの体勢が崩れる。
このままいつまでも回避し続けることは出来ない。
そのうち集中力が切れて直撃を食らう。
「ならばこうだ!」
箒を急停止。
影伊原とハンマーは慣性に振り回されて、こちらの動きに対応仕切れずにそのまま通り過ぎて行った。
ハンマーの重量に振り回されて細かい動きが出来ないようだ。
今がチャンスと箒を一気に加速。
ハンマーの上に乗っていた影伊原に体当たりをかけた。
不自然な体勢でハンマーの柄に乗っていた影伊原がバランスを崩した隙を狙って、ハンマーの柄に触れる。
「このハンマーのコントロールは俺がもらう。解除!」
伊原が乗ったハンマーのバランスがグラリと揺らいだ。
操作権限を失ったハンマーは上に乗った伊原と共に地面へと落下していく。
「群鳥!」
スキル1で青白く光る鳥を5羽召喚。
更に3羽で落下していく影伊原に合わせて増幅魔法陣を形成。
「そして極光!」
魔法陣を抜けた極光はレーザー光線と化し、落下していく途中の影伊原の体をバラバラに引き裂いていく。
影伊原だった黒い残骸は、そのまま粒子と化して消えていった。
まずは1体。
他のみんなはどうなったと状況を確認すると、エリちゃんの足元に腕と足がありえない方向に曲げられた青年剣士の影が転がっていた。
相手が人型ならば、一度でも捕まえればその瞬間に関節技の極め技から投げ技で間接破壊へと繋げるエリちゃんのプロレス技コンボが強すぎる。
おそらくあの青年剣士も開幕直後に腕を極められ、そのまま投げ技に移行されて、一切剣技を披露できずにトドメを刺されたのだろう。
頼もしさもあるが恐ろしさもある。
まあ、勝負は決まった。これで2体。
最後の1体、小森くんの方はどうなったか確認すると、ただひたすらに影知事が放つ炎とレーザーの攻撃をプロテクションの壁で耐え続けていた。
このままでは反撃出来ないのでは?
その思ったのも束の間、小森くんが槍投げ競技のように、手に持っていた槍を勢い良く投げて、影知事の胴体を串刺しにした。
影知事はそのまま倒れ込み、動かなくなった。
これで影の戦士は全滅だ。
本物の3人が相手ならばもっと苦戦したかもしれないが、所詮は単純な動きしか出来ない影だ。
大した相手ではなかったなと、地上に降りる。
あとはこの赤い女……ナイアルラトホテップを倒すだけだ。
「ラビさん危ない!」
小森くんが咄嗟に光の壁を形成して、俺に伸びてきた触手を受け止めた。
「私は暴力は嫌いだと言ったのに……貴方達がこんなに抵抗するから……こちらも本気を出さざるを得なくなってきた」
触手は赤い女の胴体部分から伸びていた。
小森君が作り出した壁はそう簡単に破壊できないと悟ったのか、触手は女の体内へと収納されていった。
「今のままだと私は勝てない。ならば、こちらも戦闘用の形態に変化する必要がある」
赤い女の頭上へと手をかざすと、空中に複雑なカットが施された赤い宝石のようなものが出現した。
その宝石には無数の黒い紋様が入っており、それが生物の血管のように不気味に胎動している。
「あれは、まさかホンジュラスの遺跡で見た寄生体」
「これは欠陥だらけの模造品ではない。戦闘形態を喚び出すための、本物の……輝くトラペゾヘドロン!」
宝石に亀裂が入り、そこから垂れ下がった黒い無数の血管が赤い女を覆い尽くしてく。
「ラビさん、次のスキルの使用タイミングは?」
「鳥はもうすぐ。極光は使ったばかりなのであと2分は使えない」
手持ちの鳥は2羽。これでは増幅も盾も作れない。
せめて鳥を追加で出せたら出来ることが増えるのだが……
ダメ元で鳥を喚び出すと、どういう原理なのか、5羽の鳥が召喚された。
3羽で盾を形成して、いつプロテクションを破られても良いように備える。
何か違和感がある。
1、2、3……秒数を脳内で数えながら小森くんに聞いてみる。
「小森くん、さっきプロテクションを使ったばかりなのに、なんでもう使えるんだ?」
「だから小森くんはやめてくださいって……あれ、でも確かにそう言われてみれば……若干待ち時間が短いような」
10、11、12、13、14
「群鳥!」
15秒目の間隔でスキル1を使用すると、5羽の鳥が出現した。これは間違いない。
「小森くん、限界超越で得られる能力が分かったぞ」
「なんですか、勿体ぶらずに教えてください」
「スキルの再使用間隔の半減だ。スキル3なら90秒。2は45秒。そして1なら、わずか15秒……つまりこういうことだ」
俺は再度、鳥を5羽召喚する。
今まで通りならばこの速度での追加召還は出来ないはずだ。
「小森くんだと、おそらくオーラウエポンの連続使用が可能なはずだ」
「オーラウエポン!」
小森くんの槍の周囲が青白い光で覆われた。
現在はただのオーラウエポンで、武器の威力を若干強化するだけしかない。
だが、このスキルを何回も使用して、火力を上げることが出来たのならば……。
「あの女の変身が完了するまで、こちらもなるべく戦力を増強させるぞ!」
「でも私はパワーアップは出来なかったんだけど」
「エリちゃんは俺がパワーアップさせるから安心してくれ」
増幅魔法陣を形成してエリちゃんの身体を通過させると、腕と足に纏っていた青白い光がその光量を増した。
「すごい……これならいくらでも行けるよ!」
俺は鳥を更に追加召喚。
箒は一度上空へ退避させ、片手に日本刀、片手にバルザイの偃月刀を握る。
赤い女の身体が変化はほぼ完了していた。
全身は墨のように黒く染まり、頭部は三角錘のような形状に3つの赤く光る目。
胴体は四足の肉食獣、前足には鋭いかぎ爪が生え、背中からは鷹……いやハゲタカのような翼が映える。
更に身体の各部からタコのような触手が何本も生えている。
全体的に統一感がなく、異形さと嫌悪感だけが強調された形態。
『では、始めましょうか』
赤い女改め無貌の神ナイアルラトホテップが後ろ足で立ち上がり、俺達へと突撃してきた。
「増幅射矢!」
俺の攻撃を皮切りに小森くんは青白い光を放つ槍を、エリちゃんは青白く光る拳を無貌の神の胴体目掛けで突き刺すように当てる。
『もしかして、これが攻撃のつもりなのかしら?』
奴は増幅魔法陣で強化した鳥の一撃、そして2人の近接攻撃を全くの無防備で受け止めた。
入った傷はわずかに皮1枚。
3人がかりの攻撃でもかすり傷程度にしかなっていない。
「こいつ強いよ」
「前の蛙の神の時と同じだ」
小森くんが俺の目を見て分かりやすく大きな声で言った。
蛙の神の時と同じ。
つまり、まずは旧神の印を入れて相手を弱体化させろというリーダーからの指令だ。
「いけますか?」
「出来るかどうかじゃなく、もうそれしかないだろう」
俺は両手に剣を携えて突撃する。
もちろん、敵の攻撃が来ることは想定済だ。
「増幅! そして盾を強化!」
増幅魔法陣と盾を同時に形成。
かなり複雑な動作だが容易に発動出来た。
何しろこちらは3人分のパワーがあるのだ。
これくらい出来て当然だと言える。
相手の前足によるかぎ爪の振り下ろしを出始めを盾で受け止めた。
増幅によって盾の強度も倍以上に増している。
単純な殴り攻撃程度ではビクともしない。
「跳ね返せ!」
盾の反射効果で相手の前足を後ろ方向へ押し返した。
バランスを崩れて腹を見せた隙にバルザイの偃月刀で大きく切りつけて、一気に三画を刻み込む。
魔法陣を描くという能力のおかげで、通常の攻撃ではまともな傷が入らない無貌の神に深く傷が刻み込まれた。
残り二画。
『バカな、何故この身体に傷を入れることが出来る!?』
どうやら奴は俺があっさりと傷を入れたことが理解できないようだ。
だが、そのカラクリを説明するつもりなどない。
まるで日本刀による攻撃で傷を刻み込んだような動きを取る。
「これがお前も知らない、日本人だけが扱えるチャドーの極意だ」
『チャドー?』
いいぞ。
こちらの与太話でどんどん混乱しろ。
「モードチェンジ! 斧!」
小森くんが槍の上にプロテクションの壁を出現させることによって作り出した刃で、武器の形状が巨大な斧へと変化させた。
限界超越で変化した槍の特性なのか、形態変化をすると、柄の部分もかなり伸びて以前よりも振り回しやすくなっているようだ。
「せぇのっ!」
その巨大な斧を無謀の神の肩口へと食い込ませる。
だが、やはりこちらも効いていない。
「それなら、これはどう!」
俺と小森くんの攻撃に対応している隙をついてエリちゃんが無貌の神の後方へと回り込んだ。
そのまま後ろ足の一本を掴み、大きく持ち上げる。
「くっそ、こいつ重い……」
『レディに向かって重いとは失礼な子ね』
「何がレディよ、ただのブサイクな怪物のくせにぃ!」
エリちゃんが持ち上げた足の裏へ向けて強烈なアッパーパンチを叩き込んだ。
おそらくこれも傷は入らないだろう。
だが、たとえ傷はつかなくても物理的な影響は受ける。
足元から上へと押し上げる力を食らった無貌の神は大きくバランスを崩した。
『倒れたから何? こちらには大空をかける翼があるというのに!』
無貌の神は背中から生えたハゲタカの翼を大きく広げて空へと舞い上がろうとする。
だが、そうはさせない!
「盾を連続形成! そして増幅!」
無貌の神の頭を押さえつけるように、連続して3枚の盾を展開した。
それら3枚の盾全てに増幅魔法陣を通過させて強化させる。
「地面へ叩き落とせ!」
盾から発せられた斥力が浮上しようとした無貌の神を地上へと叩き落とした。
今が最大のチャンスだ!
バルザイの偃月刀で残り二角を入れて星型の図形を腹へ刻み込む。
「そしてこれが最後の一画!」
バルザイの偃月刀を全身全霊を込めて刻み込んだ五芒星の紋様の中央へ突き刺した。
「旧神の印。お前ら邪神連中にはよく効くだろう!」
短剣を腹に突き刺したまま、箒を呼び寄せて上空へと退避する。
『旧神の印だと!? バカな?』
「バカはお前だよ!」
「ラビさん、ナイスアシスト! オーラウエポン!」
小森くんがスキルで強化した斧を無貌の神の背に生えた左の翼の付け根にめり込ませた。
今までとは違って斧は奴の翼はもちろん胴体へと深く食い込み、大きな傷を刻み込んだ。
「恵理子、追撃を!」
「分かってる!」
エリちゃんが高く飛び上がり、小森くんが振り下ろした斧へ向かって飛び蹴りを放つ。
ダゴンの腕を切り落とした時に使用したコンビネーション攻撃の再現だ。
斧の刃は無貌の神の翼の付け根ごと大きく肉を刳り取った。
2人はそのまま武器の反動を利用して後方へと飛んで追撃を避ける。
その隙をついて、俺は召喚していた全ての鳥を雨だれのように無貌の神へと降らせていく。
増幅をしている余裕はない。
今は手数の多さで相手の動きを封じるターンだ。
鳥の突撃によって、無貌の神の巨体が少しずつ削れていく。
『なんだこれは……私は無貌の神だぞ……貴様は……貴様等は一体なんなんだ?』
無貌の神が明らかに動揺している。
おそらく普通の人間に物理攻撃でここまで追い込まれたことなどないのだろう。
ならば教えてやる必要が有るだろう。
ホンジュラスの遺跡でも同じようなやり取りを赤い女に対してやったが、やはり今回もその再現。
スーパー説教タイムだ。
その間に小森くんはヒールでエリちゃんが受けた小傷を回復させていく。
「お前は多くの人を騙し、争わせることで自分の手を汚すことなく戦いに勝利し続けてきた。常に自分が上位の戦いばかりだったので、初めて自分が不利になった状況の立ち振舞いを理解できない。だが、俺達は違う。これまで、色々な辛くて苦しい、悲しいことがあった。だが、それを乗り越えてここまで来たからこそ、どん底からでも立ち上がる強さを手にしている。だから、どんな状況からだって勝利を掴むことが出来る」
「その上から目線……貴様は一体何様のつもりだ?」
「何様だって? なら教えてやろう」
日本刀を鞘に納め、箒を構えて見得を切り、声の限り叫ぶ。
「俺はお前を個人的に許せないだけの、ただの通りすがりの魔女だ。覚えておけ!」
旧神の印は既に刻み込み済み。
既に攻撃が効かない無敵モードは解除されている。
後は着実に攻撃を刻み込んで戦闘不能にするだけだ。
鳥の残弾は使い切ったので、5羽を追加召喚する。
『ならばこれを喰らえ!』
「盾!」
相手の3つの目が輝くのと同時に、相手の眼前に盾を展開させた。
「あからさまにその目から何か攻撃が出ますみたいなポイントを見逃すわけがないだろう。お前、本当に自分で戦ったことがないんだな……跳ね返せ!」
俺が盾に反射命令を出したと同時に無貌の神の頭部が派手に爆発した。
恐らく何かレーザー的な攻撃を出そうとしたのだろうが、それが盾に跳ね返され、結果として自爆したのだ。
無貌の神の自爆を合図に、俺達3人は一斉に飛び出した。
残っていた前足、右の翼、首に対して連続攻撃を行う。
その間も鳥の召喚を続けることを忘れない。
攻撃を続けるうちに、ついに無貌の神が動きを止めた。
『貴様達は、一体何故ここまでして私を攻撃する? 私を倒して何を得られるというのだ?』
「お前は知らないだろうが教えてやる。もうすぐ昼時なので、宍道湖近くの店で天然うなぎのうな丼を食べる用事がある。その後は可愛いペンギンのパレードとハシビロコウの餌やりに行く。だから、戦闘は12時前には切り上げたい」
『ふざけ――』
「――全羽、突撃!」
このタイミングで戦闘しながらずっと貯めていた群鳥、合計30羽をダメ押しとばかりに一斉に無貌の神へ叩き込むと、その巨体がゆっくりと倒れて地面に伏した。
死んではいないようだが、前足後ろ足の腱は既に切断済。
両翼はもがれて、身体は傷だらけ。
いくら化け物とはいえ、この状態ではまともに動くことすら出来ないだろう。
「お前の敗因は一つ。人生を楽しむことをせず、ただ人と世間を恨んで後ろ向きに生きたことだ」




