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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 7. Go Back To Japan
150/253

Chapter 18 「窮極の門」

 俺達はダンウィッチ集落を目指して、ミスカトニック川沿いに北上していた。


 道なき道が続くが、それでも州境までは約150km。


 それまでに到着するとなると100kmと考えて良いだろう。

 3時間もあれば到着する見込みだ。


「ラビさん見てください、川沿いに桜が咲いていますよ」

「アメリカに桜? しかもまだ3月だぞ」


 右モニターを見ると薄いピンク色の花が一面に広がっていた。

 運転をしている俺以外は全員がその花を見ているようだった。


「ああ、それは桜じゃないな。アーモンドだ」

「アーモンドってこんな花が咲くんですか?」

「日本でも植えている箇所はあちこちあるけど桜に似て綺麗だぞ。ちょっとくらい寄り道したってすぐに着く距離だし、適度に花見でもしていくか。賛成の人は挙手」


 全員が手を挙げたので、適当に広い場所へ車を停めて、後部ハッチを開けた。


「食材を余らせても仕方ないし、フルーツ系はここで在庫処分といくか」


 保存食材の中からまだ残っていたドライフルーツやらオレンジやら甘いものを中心にどんどん取り出す。


「せっかくの花見なんだしビールも開けて良いよな」

「ああ、どんどん飲め。残しても仕方がないぞ。ワインも全部開けろ!」

「ママの許可が出たぞ。タロさん、一緒に飲み切ろうぜ」

「ああ、もう飲みきってしまおう」


 カーターとタルタロスさんが残っていた缶ビールや酒類を次々と運び出していく。


「空き缶はあとで車とまとめて自爆に巻き込ませるので全部回収してくださいね」

「ああ、分かってる」


 大人組はこれで良いだろう。


 未成年組に何か欲しいので、子供達が持ってきて残っていた飴類を湯煎で全て溶かして、野菜で栄養不足のために味が薄いオレンジと混ぜてオレンジジュースを作る。


 そのままだと甘すぎてくどいので、隠し味に香辛料を少し入れた後に水で割って味を調整した。


 子供達が隠し持っていたお菓子類もそのまま渡す。


「はいはい甘いものはいくらでも……という程じゃないけど、それなりにはあるよ」

「まあそれなりですね」

「残していてもどうせ処分しないといけないんだし、なるべくここで食べてしまって欲しい。レルム君とドロシーちゃんも、ここでお菓子は食べきる感じで」

「まだ取っておきたいんだけど」

「ダメだよ。『まだ』なんてもうないんだから」


 ドロシーちゃんをなだめながらお菓子を渡すと、それを齧りながら花を見に行った。


 俺も自作オレンジジュースを片手に花を見て回る。


 自生している花なので綺麗に咲き誇るというには程遠いが、雰囲気を楽しむだけなら十分だ。


 アーモンド以外にも謎の花は色々と咲いており、気分を和ませてくれる。

 俺達の門出……この世界からの卒業には丁度良いかもしれない。


「でも、まさか異世界で花見を出来るなんて思いもしなかったよ」

「日本に帰ったら、本物の桜は見られるのかな?」


 モリ君とエリちゃんが桜を見ながら日本に帰ってからの話をしていた。


「伊原さんの話だと、こちらの50年は日本では6ヶ月だから、そこから計算すると俺達が日本に帰るのは11月1日になるはずだよ」

「11月!?」

「ああ。雑に計算するとそんな感じ」

「それだと、まあ無断欠勤でもギリギリ通る日数だな」


 カーターがビールを飲みながら近寄ってきた。


「会社への説明は面倒そうだけどな。メールも山ほど溜まっていそうだ」

「そこは仕方ない。我慢しようぜ」

 

 まあ、一応は土日祝日が挟まる感じだし、最初だけは大変だろうが、何とかなるだろう。


「僕らはどうなるんでしょう?」


 レルム君が心配そうに聞いてきた。


「日本に行った先で大丈夫なんでしょうか? 出来れば師匠に付いてきて欲しいですけど」

「そうは言っても付いていくことは出来ないからな。リモート接続か何かで連絡を取れる手段は確保しておきたいけど」

「電話番号を教え合うのは?」

「それだとレルム君達が詰む」

「何か良い方法はないかな……」

「それなら、俺の名前で検索してもらうのはどうかな? 色々SNSをやっているのでそれが引っかかるはず。そこに電話番号も載ってるから」


 モリ君が挙手して提案した。


 ネット上には一切連絡先を公開していない俺にはない発想だった。

 確かにそれならば、確実に連絡を取ることが出来る。


「横浜市栄区の高校生の小森裕和(こもりひろかず)ですよ。同姓同名の他の人には連絡しないでください」

「なら、掲示板とチャットとweb会議の方は俺がなんとかするよ。準備が出来たらモリ君のSNSのところにURLをアップしておくから、適当にログインしてくれ」


 これで日本に帰った後の連絡方法も何とかなりそうだ。

 あとはもう日本へ帰るだけである。


   ◆ ◆ ◆


 ダンウィッチの集落は発見出来なかったが、頂上に環状列石の遺跡がある丘陵は発見できた。


 センティネル丘陵に到着したということで良いようだ。


 その周囲は鬱蒼とした木が茂っているというのに、その丘の周辺だけは一本の木も生えていないという不思議な場所だった。


 モニターには環状に配置された石柱が表示されている。


 石柱は独特の形をしており、その石柱の一部は「内側からの衝撃」を受けたように放射状に倒れている。


 石柱に囲まれた内側の空間は黒く焼け焦げており、一部は余程の高熱を受けたのかガラス化していた。


 黒く焦げた地面には一切の草は生えておらず、明らかに異様な雰囲気が漂っている。


 すぐに連想されたのは「魔女の呪い」での熱線を放って目標を焼き払った後の地面だ。


 超高熱に晒されることで砂がガラス化したり黒焦げたりするのだが、今の祭壇の環境はそれと似通っている。


 かつてここでヨグ=ソトースが召喚された可能性は高い。


 調査を行うために車を降りようとすると、モニターに警告ランプが点滅し、警告音が車内に鳴り響いた。


 何事かとモニターを確認すると、それは放射線量の警告だった。


 丘陵の頂上周辺の放射線量が自然界ではありえない数値を示していた。


 ただちに死亡するレベルではないが、長時間滞在すると、人体に悪影響があるレベルの数値が表示されている。


「確かにここで間違いないみたいだけど、どうする?」

「でも、この倒れた柱は起こさないとダメだよね」

「ああ、だが柱についてはワシが立て直そう。若い連中はなるべく近づかん方が良いだろう」


 タルタロスさんが石柱の立て直しに名乗り出た。


「わかりました。ここは任せます。ただし放射線量が高いので長時間の滞在は健康面によろしくないようですので、滞在は短時間にしてください。あまり時間がかかるようならば、一度車に戻ってください」

「あい分かった」

「あとは俺だな。さすがに魔法陣を描けるのは俺しかいないし」

 

 これは他人に代わってもらうわけにはいかない。

 俺がやり遂げるしかない。


「なら、一度車を少し離れた場所に移動させよう。儀式の準備は俺とタルタロスさんの2人だけで済ませる」

「ラビちゃん、私に手伝えることは?」

「出来れば、この丘陵から距離を取ること。放射線の影響は受けない方がいい」

「その前に……みんなに言っておきたいことがある」


 カーターが突然に口を開いた。


「つまらない冗談なら本気で蹴飛ばすぞ」

「そうじゃない。オレの雇い主に会って欲しい。そのためにオレはここまで旅してきたんだ」


 カーターはそういうとスーツのポケットから銀色の鍵を取り出した。


「今からオレがそのスポンサーがいる異空間への門を開ける。みんなは、そこに居る人物に話を聞いて欲しい。これは重要な話だ」

「門を開けるって、車から降りなくていいのか?」

「その必要はない」


 カーターの持つ銀色の鍵が強い光を放ち始めた。


「おい、一体何をするって言うんだ?」

「役目だよ。ゴール地点まで仲間を導くこと……それがオレの存在理由」

「説明になってないぞ! どういうことか説明を――」


   ◆ ◆ ◆


 ふと気づくと真っ白い空間に全員が立っていた。


 先程までは装甲車の車内にいたというのに、車はどこにもない。


 ただ目の前には六角形の巨大な台座の上に衣服を纏った「何か」が載っていた。

 形状は人間のようにも見えるが、違うようにも見える。

 そもそも大きさは一般的な人間と比較しても半分しかない。


「連れてまいりました。〈案内者〉様」


 カーターが今までにないくらい勿体ぶった態度でそれに畏まっていた。


 余程の相手なのだろう。

 俺達も失礼がないように、カーターに続いて深くお辞儀をする。


「彼等が転移を希望する者達です」

「3人と聞いていたが……人でない者も混じっている」

「彼らも選ばれし者です」

「鍵を持っている汝が認めるならば些事にすぎぬ。歓迎しよう」


 人でない者というのはレルム君達のことだろうか?


 ただ些事ということは別にレルム君達を日本へ送るのことは不可能でもなく、拒否をするということでもないのだろう。


 この〈案内者〉とやらが何者なのかは分からないが、器が大きいことは分かる。


「だが、余計な者も紛れ込んでいるようだ」


 〈案内者〉が俺達の後ろの何もない空間を指差すと、何もない白い空間の一部に突然に木製のドアが出現した。


「余計な者とは大きなお世話だ。ウムル・アト=タウィル……〈最古なるものオールドエンシェントワン〉」

夢の魔女(イートラー)か」

「当たり。一度ここには来たいと思っていたが丁度良かった。これからもちょくちょく寄らせてもらう」


 急に現れた扉を勢い良く開けて入ってきたのは1人の女性。


 サンディエゴに居るはずの伊原だった。


 伊原は俺達、そして〈案内人〉の姿を交互に見た後に言った。


「前に一度言っただろう。私はこの世界の次元のゆらぎについては常にチェックしていると。だからこうやって異常な次元の歪を感知して飛んできた」


 伊原は図々しく〈案内人〉へ近付いていった。

 そしてその後ろにある空間へ視線を向けた。


「ここは第一の門戸……ようするに次元の狭間だ」

「次元の狭間?」

「そう。ここから窮極の門を抜けて神の住む上位次元へ行くことも出来るし、その下の各世界への移動も出来る。空港直結のターミナル駅みたいなものだ。空港に行って飛行機で海外にも行けるし、電車を乗り換えて国内旅行も出来る」


 勿体ぶった〈案内者〉と違い、伊原の説明は実に分かりやすくてありがたい。


「それで、お前がこいつのパシリと」


 伊原がカーターを指差して言った。


「まあパシリは否定しないけどな」

「どういう経緯でそうなったんだよ」

「前に一度話したことがあっただろ。実家で魔導書を見付けた件。あれでついうっかり魔術的な負債を背負わせられてだな。命かパシリかの二択になって、以降パシリ……身体で返させられてる」


 カーターはやれやれとばかりに肩をすくめてみせた。


 今の話が本当ならば、こいつもかなり犠牲者に近い。

 今まで運営のスパイだのなんだの、酷いことを言ってすまなかった。


 なお、生活態度の悪さを指導した件についてはこちらには非はなかったので私は謝らない。


「今回の任務は危なっかしいこいつらをここまで導くこと。それがオレの役目。まあ、これでお役御免だが」

「どこかの誰かと通信しているのは分かっていたので、もしや運営とつるんでると思い泳がせていたが、まさかここだったとは」


 伊原が怖いことを言い始めた。

 ということは、別れてからも俺達のことを監視し続けていたということか。


「だから運営に近いところでは有っても、運営じゃねえんだよ」


 カーターは何故か伊原に自慢気に主張したが、それほど導いてくれただろうか?


 あちこちで適当に酒を飲んでサボっていたイメージばかり思い浮かぶ。

 それとも、俺達の見えないところで密かに色々と何かの後始末をやってくれていたのだろうか?


「それでどうする? 汝らは銀の鍵を所持している。このまま進むことも出来るが」

「いえ、私達は元の世界……日本への帰還を希望します。他の仲間も同様です」

「委細承知した」


 詳しい話までは分からないが、どうやらこの〈案内者〉の許可なしでは日本に帰ることは出来なかったようだ。


 ただ、今回はOKを貰ってので後は大丈夫ということだろう。


「この世界に召喚された時の同じ場所、同じ時間への送喚で良いか」

「はい、それはもちろん」


 同じ時間に帰してくれるとはかなり良いサービスだ。

 それならば仕事云々について悩む必要はなくなるので助かる。


「あの、待ってください。俺達の身体はどうなるんですか?」


 モリ君が〈案内者〉に尋ねた。


 確かにそれは聞く必要がある重大な話だ。


 俺もいつまでの少女の身体のままでは生活に支障が発生する。

 ――否、既に生活のあらゆる点で支障が発生している。


 運動能力と体力の低下、月に一度のもの、精神的な変化……etc。

 色々と我慢を強いられていることが多すぎる。


 この状態は早くなんとかしてもらいたい。

 期待の目で見る俺に、〈案内者〉は告げた。


「肉体の変化についてはここでは関知しない。他で解決してもらいたい」

「えっ?」

「ここはただの門。時空を移動する以外のことは出来ない」


 激しい衝撃を感じた。


 日本へ帰ることが出来るのに、元の身体には戻れない。

 それでは、戻る意味半減ではないか……。


「それについては私から提案を用意できる」


 伊原が人差し指を立てて俺達に言った。


「これは契約だ。お前達に依頼が1件ある。この依頼を受けるのならば、私が元の生活に戻るための対策を用意しよう」

「依頼?」

「日本に戻ったら、人を1人殺して欲しい」


 伊原はそう言うと1枚の写真を取り出した。


 以前にも見せられた伊原の昔の写真だ。


 そこには仲が良さそうな少女が3人肩を組み合って笑っている写真だ。


 1人は伊原さんの若い頃。

 もう1人は度会(わたらい)知事の若い頃。

 そしてもう1人は……。


中村夕子(なかむらゆうこ)。運営に与えられた名前はミスラ。今はナイアを名乗っている。ナイアルラトホテップに乗っ取られた邪神の化身だ。私がこの世界から日本へ帰した唯一の人物でもある」


 伊原は何の感情も込めずにそう説明した。


「殺害を依頼する理由は分かるな」

「異世界を渡り歩いて色々な工作をしているから……」

「正解」


 やはり以前に予想した通りだ。


「あいつは決して許されないことをした。だから、その報いを受けてもらわなければならない。だが、私は次元の壁の修復があるし、追加攻撃がいつ来るか分からないことを考えると、この世界を離れることは出来ない」

「なので代わりに殺せと」

「ああ……」


 伊原の声のトーンにいつもの自信に溢れた感じがない。

 本音としては殺したくない、もしくは自らの手で決着を付けたいのだろう。


「それでその中村はどこに?」

「出身は島根県の出雲市だと聞いたことがある。全てを終えたら、おそらく故郷へ帰るだろう」

「出雲市と言ってもそれなりに広いですよ」

「それでも全世界をあてもなく彷徨うよりはマシだろう」


 さりげなく無茶を要求されているが、伊原の提示した条件は魅力的だ。

 それに、俺達としても元々中村が追加攻撃をするのを止めるつもりではあったので、断る理由などない。


 ただ、念のために意見を確認しておこう。

 

「みんなはどう思う?」

「現代日本で殺人はオレ達のリスクが大きい。それは考慮しているのか?」

「確かに、モンスター相手ならばともかく、ワシは人間を傷つけたくない」


 カーターとタルタロスさんは計画の実行については悩んでいるようだ。


 確かにそれは分かる。

 殺人犯として追われるのは俺達としても困る。


「僕たちは……」

「レルム君とドロシーちゃんは参加しなくていい。これは俺達だけで対処すべき問題だ」


 流石に人殺しの作戦に子供達を参加させたくはない。


 出来ればモリ君とエリちゃんにも手を出させたくない。

 俺だけで解決したいところだ。


「ダメですよラビさん。1人だけで全部背負うってのは。俺は賛成ですけど、ラビさんが1人でやるのは反対です」

「私も賛成だけど……伊原さん、本当に殺していいんですね」

「ああ。もう奴のメンタルは人間ではなくなりつつある。殺すしか手はない」


 モリ君、エリちゃんは俺1人での行動に反対らしい。


 でも、この2人を出来れば巻き込みたくはないが、俺はどうするべきなのか……。


「依頼を受けるということなので、私からのプレゼントだ。受け取れ」


 伊原は俺達に向けて何やら光を放った。

 まさかこれで元の身体に戻せるのだろうか?


 10秒経ち……20秒経ち……。


 特に何も起こった様子はない。

 他の仲間達も見た目はそのままだ。


 身体を見回したり触ったりするが何も変わった様子はない。


「認識阻害の魔法だ。お前たち以外の人間には姿の変化を認識できない。つまり、元の生活に戻る分には支障はないということだ」

「あの、支障があるんですけど」


 俺は伊原におそるおそる話しかける。


「あの……性別が変わっているので、その……色々と支障が」


 伊原はそれを聞くと、先程までの暗い顔は何だったのかという明るい笑顔で俺に近寄ってきて、両肩を掴んだ。


 そして次の瞬間に俺を恐ろしい顔で睨みつけた。


「贅沢言うな。女の何が悪い」

「でもずっと男で生きてきて……」

「何が不満なんだ?」


 勢いに押されて、俺はこう答えるしかなかった。


「アッハイ」


   ◆ ◆ ◆


「では、総勢7名を召喚された場所、召喚された時間への送喚を許可する」


 俺達は横一列に並んで〈案内者〉の答えを待つ。

 まるで卒業式の雰囲気だ。


但馬厚生(たじまあつお)。新潟県上越市」

「そうか、ワシは新潟出身か」


 タルタロスさんが答えた。


大町竜士(おおまちりゅうし)。福井県美浜町」

「福井県か。美浜町ってどこなんでしょう?」

「後で教えるよ」


 レルム君は福井県の若狭湾沿い。

 兵庫からならば、まあ行けなくはない距離だ。


塩原春子(しおばらはるこ)。福井県美浜町」

「あれ、もしかしてドロシーちゃんと同じ町」

「そうみたいやね。日本に帰っても仲良くしてや」


 ドロシーちゃんの妙な関西弁の謎が解けた気がする。


 レルム君と同郷ならば、日本に帰っても2人で助け合っていけるだろう。

 出来れば仲良くして欲しい。


片倉秀則(かたくらひでのり)。山梨県甲州市」


 これは以前に聞いていた通り。

 カーターだけ少し遠い場所に住んでいるが、まあ会えない距離ではない。


小森裕和(こもりひろかず)。神奈川県横浜市」

「はい!」


 まるで卒業式のようにモリ君が勢い良く返事をした。

 前から聞いていた通りだ。


 これでモリ君の家が横浜じゃなかったらむしろどうしようかと思えてくる。


「ちょっと待って、出身地を読み上げるの? いやなし、それはなし!」


 エリちゃんが自分の番になって突然に騒ぎ始めた。


 神戸市出身ではないのは分かるが、どうせ三木市や加西市くらいだろう。

 出身を隠して神戸と盛るのはその辺りの出身なことが多い。


赤土恵理子(あかつちえりこ)。岡山県和気町」

「待って、岡山待って」


 エリちゃんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

 一切俺やモリ君に顔を合わせようとしない。


 何故出身地を盛ってしまったのか?


「おいこっちを見ろ自称神戸市民」

「神戸なんですけど」

「嘘つけ。盛るにしてもせめて姫路にしておけ。どうせ岡山でも倉敷とか……まあなんかあるだろう」


 道理で加古川を知らないはずだ。

 完全に隣の県なのだから。


上戸佑(うえとたすく)。兵庫県加古川市」


 最後は俺だ。


 結局元の姿には戻れないわけだがこのチャンスを逃す手はない。


「そんなわけだ。夕子のことは頼んだぞ」

「ああ、任された」


 伊原はそれだけ言うと、またも何もない空間にドアを生み出して、そこへ消えていった。


「特に挨拶もなしか」


 伊原らしいと言えば伊原らしい。


「以上7名の転移を承認する」


 パンと大きな音がすると、いつの間にか装甲車に戻されていた。


「あとは儀式を成功させて日本へ帰るだけだな」


 問題は山ほどある。

 だが、一つ一つクリアしていくしかない。


 まずは日本へ帰ることが最優先だ。

 

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― 新着の感想 ―
こうして女湯にも男湯にも入れず病院でも乳がん検診も前立腺がん検診も受けられなくなるのであった。
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