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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 7. Go Back To Japan
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Chapter 14 「永遠の都市の舞台裏」

 興奮気味の男……ハンザラが落ち着くまで10分ほど少し待った。


 ようやく気分が落ち着いたのか、ハンザラさんは仮面でくぐもった声でボソボソと話し始めた。


「ここから見える町はセレファイス。かつて永遠の都と呼ばれていた」

「町で一体何があったんですか?」

「2ヶ月ほど前にこの町を支配していたクラネス王が突然姿を消した」

「2ヶ月……」


 運営がこの世界から撤退を決めた時期だ。

 流石に全く無関係とは思えない。


「それから町がおかしくなり始めた。建物は自動修復されない。船から供給されていた資材も全く届かなくなった」


 町が自動修復?

 

 話には意味の分からない部分が多い。

 まだ混乱しているのだろうか?


「住民もみんな狂い始めた。暴力衝動を抑えきれずに突然に喧嘩を始めたり、建物を破壊し始めたりと酷い荒れようだ」

「あなたは無事なんですか?」

「今は薬と、この仮面で症状を抑え込んでいる。ただ副作用が酷い。使うだけで全身がボロボロになっていく」


 ハンザラさんの話を信用するならば、顔の発疹は病気などではなく、薬の副作用ということか。


「町の住民があちこちに飛び出して暴れないように、唯一の島からの出入り口である橋を私が落とした。そして、余所者も町へ入ってこないようにここで見張りをしていた」

「ということは、町へ入るルートは他にないと?」

「ない」


 割と面倒なことになった。


 俺は空を飛んでいけばよいが、他のメンバーが川を渡る手段がない。

 

「その車を見てすぐに分かった。あんた達はクラネス王の仲間なんだろう? 早く町を元通りにしてくれ」


 ハンザラさんは全身を震わせながら装甲車を指差した。


 それでなんとなく察せられた。

 

 この装甲車は元々運営のものだ。


 つまり、そのクラネス王とやらは運営の関係者で、この町は運営の支配下に有ったと考えられる。


 運営はこの町を管理していたが、それが消えたせいで町の管理システムは停止。


 住民達や町は正常に動作しなくなっているということか。


「それだ!」


 突然にカーターが大声を上げた。


「いきなりどうしたんだ?」

「あっただろう、サンディエゴの周辺に運営が作った偽物の町が」


 それで思い出した。

 サンディエゴのすぐ近くにまるで3Dプリンタで作られたような完全人工製のテーマパークのような町があった。


 表面にこそ本物のようなテクスチャーが張られていたが、中はまるで発泡スチロールのような材質で出てきているという、まるで映画のセットのようだった。

 

「あの町はプロトタイプだとして、どこかには本番稼働している町が有るという予想はしていたが」

「つまりここの可能性が高いということか」


 町も人も運営に作られた完全人工製の偽りの町。


「それだと確か、町の住民はみんなNPCのはずなんだよな」

「ああ、そうだ。一見人間だけど老化なし繁殖力なしの無限再生という明らかに人間じゃないやつ。そして、エネルギー供給が途切れた際には飢餓感から暴走する可能性が高いと」


 話は完全に一致している。


 つまり、ここから見えるセレファイスの町は運営が人工的に創り上げた都市であり、目の前の男も運営に作り出された人造人間だ。


 町の住民達が狂い出したというのも、要するに運営の管理システムが停止したためにエネルギー供給が途切れて、暴走状態に入ったということだ。


 あの運営はどこまでもこの世界に迷惑を掛けるやつだと呆れるしかない。


「多分、町を制御している管理システムが何処かにあるはずだ。それを操作すれば何とか出来るかもしれない」

「本当か!?」


 ハンザラさんがカーターの発言に食いついた。


「早く何とかしてくれ」

「待ってくれ、まだ仮定の話だ」


 流石に放置は出来ないが、これからの行動についてはみんなの確認を取ろう。


 俺の独断で勝手に話を進めるのは良くない。

 モリ君の負傷の件も併せて、まずはみんなの意見を聞いてみたい。

 

「さて、俺達はどうするべきだと思う?」


 これでみんなはどういう反応を取るかだ。


「この装甲車で何か電波が出てないか調べてみましょう。それで、拠点の場所が分かるかもしれません」


 そう言うとモリ君は装甲車の中へ入っていった。


「師匠、僕がまた信号を探しますよ。一緒に行きましょう」


 レルム君もやはり車の中へ入っていった。


 おそらく以前に使用したバケツと針金を取りに行ったのだろう。


「では、ワシはこの川に簡易的な橋をかけるために、使えそうな木を調達してこよう」


 タルタロスさんはそう言うとドロシーちゃんを連れて近くの林の中へ入っていった。

 

「じゃあオレがシステムのコンソールを操作する役目か。まあやれるだけやってみるさ」


 今度はカーターが重い腰を上げた。

 

「しかし、みんな物好きだな。頑張ったところで金なんて出ないのに」

「でも、お前だって、システムを操作してなんとかするつもりなんだろう」

「運営絡みなら何もしないってわけにはいかんだろ」


 やる気を出したカーターは本当に頼もしい。

 何故普段からこのやる気を出してくれないのか?

 

「それに、放っておいたらラビちゃん1人が飛び出すでしょ。なら、私達が先に動かないと」


 そう言うとエリちゃんは俺の背中をポンポンと優しく叩いた。


「この町の人達も困っているみたいだし、早く解決をしよう」

「ああ、そうだな」


 みんな自主的にどんどん動いてくれて助かる。

 本当に俺は良い仲間を持つことが出来たよ。


   ◆ ◆ ◆


「まずは状況の整理だ。セレファイスの管理システムは町の中心に建っている宮殿部分のどこかにある」


 これは装甲車の通信システムを使って確認した結果だ。


 詳細な位置はレルム君に付き添ってもらって電波の受信機で絞り込む予定だが、大まかな位置としては間違いないだろう。

 少なくとも町中を駆けずり回ってここでもない、そこでもないと走り回る必要はない。


「失踪したクラネル王とやらが運営のメンバーで、システムのメンテナンスなんかを行っていたんだと思う」

「それがいなくなって放置されたと」

「ああ。だから、システム上で町の現状を確認。システムが操作出来るならばどうにかする」

「なんか曖昧だな」

「システムの詳細がわからないんだから、どうにかするとしか言いようがない。とにかくどうにかしたい」


 今の所は情報が足りなさすぎる。

 当たって砕けてみるしかない。


「町への侵入方法については、タルタロスさんに橋を架けてもらおうと思ったが、川幅が広すぎて橋に出来るような長い木は近くになかった。そこでだ」


 せっかくタルタロスさんにへし折って持ってきてもらった木を活用することにする。


「都市へ侵入メンバーの発表だ。まずは受信機役のレルム君」

「はい師匠。一緒に行きましょう」

「護衛役のエリちゃん」

「念の為だけど、住民の人は少々何をやっても死なないんだよね」


 エリちゃんがハンザラさんに尋ねた。


「この400年の間、セレファイスの住民は誰も死んだことはない。かく言う私も400年は生きている」


 ハンザラさんがさりげなくとんでもない事実を話した。


「それは寿命の話ですよね。流石に物理攻撃を食らったことはないですよね」

「いや、町ではたまに事故も発生して負傷はするが、それでもすぐに傷は治る。死ぬことはない」


 つい先程、川に落ちて死にそうになっていたのを見ているだけに「死ぬことはない」という言葉に全く説得力はないのだが、この発言をどう判断するべきかは意見が分かれるところだ。

 

「エリちゃん、物理はなしだ。なるべく控え目で」

「分かった。適度に手加減はするようにしておくよ」


 流石に人造人間とはいえ見た目は完全に人なのだから精神的によろしくない。


 死ぬ死なない以前の問題だ。


「最後はシステムを操作出来るカーター。この4人で向かう」

「俺は休みですか?」

「モリ君はまだティンダロスにやられた傷が完治していないだろう」


 流石にモリ君を戦闘があるかもしれないこの状況に連れていくという案はない。


 これだけは本人がわがままを言ってもなしだ。


「それでどうやって乗り込むの?」

「決まってるだろう。そこの丸t……箒で飛ぶんだよ」


 タルタロスさんが近くの林からへし折ってきた木は、先端の枝や葉以外は全てドロシーちゃんハイドロキャノンで薙ぎ払い、丸太の先に葉が付いている状態にしている。


 この棒の先に穂先が付いたような形状は箒と言えなくもないだろうか。


 無茶苦茶を言っているのは自分でも分かる。


 だが、俺達の能力は解釈とイメージ次第でいくらでも拡張が出来る。


 ただエンジンが付いただけの金属棒を箒と主張して飛ばしたように、この丸太も箒と言えば箒なのだ。


「今、丸太って言おうとしただろう」

「気のせいだ。これは箒なんだよ」


 流石に丸太を飛ばせるわけはない。

 これは箒なのだ。

 イメージが大事なので邪魔をしないで欲しい。

 

浮游(フロート)

 

 丸太に触れて呼びかけるが、流石に浮き上がる気配はない。


 否、違う。

 俺は「箒」に触れて再度呼びかけた。


浮游(フロート)

 

 反応なし。


 一度深呼吸した後に目を瞑った。


 イメージする映像はTVのドキュメンタリー番組でアジアの祭りだ。

 巨大な木を切り倒して、それの枝葉で魚か何かを獲るという奇祭。


 使い方は箒に近いので、それと同じと思えば、目の前にあるものも箒と呼んで差支えないだろう。

 イメージを固めた上で再度箒に触れて一言。


浮游(フロート)

 

「少し大きな箒」はそれでふわりと浮き上がった。


 やはりイメージは大切だ。


 その箒にカーター、レルム君、エリちゃんの順に飛び乗った。


「みんな落ちないように気を付けてくれ。今から宮殿へこの丸t……箒で一気に強襲をかける」

「やっぱり丸太って言ってるじゃねぇか!」


 カーターが後ろでうるさいが、今は無視だ。


 レルム君はバケツが落ちないように頭へ帽子のように被り、開いた両手で俺にしがみついている。

 良い判断だ。


「じゃあみんな、丸太は掴んだな! 行くぞオ!」


 一気に箒を浮上させた。


 そしてそのまま箒を前進……させたは良いもののの、流石に重量オーバーなのか、それともこの箒がきちんと箒として認識されていないからなのか、全く速度が出ない。


 まるで歩いているような速度のためにいつ宮殿へ辿り着けるのか分からない。

 

 仕方がない。予備プランで行こう。


「すみません、タルタロスさん、お願いします。予備プランです」


 俺はタルタロスさんへ声をかけた。


「了解した。本来ならワシも突入できたら良かったのだが」


 俺も出来ればタルタロスさんも連れて行きたかったのだが、流石に定員&重量オーバーだ。


「だが、突入には協力させてもらおう」


 タルタロスさんは俺達が乗った箒の真下へ入り込み、両手で担ぎ上げると、その全身が光に包まれた。

 筋力強化のスキルだ。


「お願いします。いっちょ景気よくぶん投げちゃってください!」

「任せろ!」


 タルタロスさんはやり投げ競技のように、俺達が乗った状態の箒を勢い良く宮殿の方向目掛けて投げつけた。


 箒は俺の力だけで飛ぶよりも圧倒的に速く、圧倒的に力強く宮殿方向へと突き進む。


「うわあああ、落ちる、落ちる!」


 飛行は初のカーターが必死の形相で箒にしがみついている。


 レルム君を少しは見習って欲しい。

 既に飛行は経験済だとはいえ、小学生だというのに余裕の表情ではないか。


 その点エリちゃんは初めての飛行だと言うのに堂々としたものだ。


 余裕の表情で眼下を流れていく町の風景を眺めている。


「空を飛ぶのは初めてだけど凄いねこれ。私もこんなスキル欲しかったな」

「実はキャラの固有能力で飛べたりしない?」

「残念ながら。夜中にこっそりとラビちゃんの箒を借りて試してはみたんだけどね。やっぱりジャンプしか出来なくて」


 それは初耳だ。


 エリちゃんもやはり魔法少女への憧れが有ったのだろうか。


「意外って顔してない?」

「うんまあ。格闘家がエリちゃんの適職だとは思ってたし」

「こう見えて日本にいる頃は文学少女だったんだよ。運動なんてやったのはこの世界に来てから初めて」


 エリちゃんがここに来て意外な話をしてくれた。


 てっきり、日本にいる頃から元気いっぱいのスポーツ少女だと思っていたが違ったのか。


「小さい頃にアニメで見た悪い敵をパンチやキックで倒す正義の戦士に憧れてなかったといえば嘘だけどね。でも天使みたいに羽で空を飛んで杖から出る魔法で大活躍ってのも捨てがたく」

「エリちゃんも見てたんだニチアサは」

「小学校までだけどね」


 なるほど、普通ニチアサは小学生までなのか。


 なるほど。

 なるほど。

 なるほど。


「ドロシーちゃんもやっぱり魔法少女をやりたかったみたいで、レルム君と一緒に必殺技の練習をしてたよ。なんか手からビームを出したかったみたいで」

「ドロシーちゃんが?」


 やはりドロシーちゃんもオリジナルの記憶をそれなりに取り戻しているようだ。

 

 そうでなければアニメの必殺技を使おうとは思わないだろう。


「杖も光って音が鳴るやつを欲しかったって言ってた」

「道理でレルム君が買った店ではお気に召すものがなかったはずだ」


 俺だとやはりこういうところで取りこぼしが発生する。

 人には向き不向きというものがあるのだろう。


「エリちゃんも将来はそういう方向で進路を考えてみては? 子供の相手をする仕事」

「というと幼稚園の先生とか?」

「小児科の看護師とか良いんじゃない。モリ君がもし医療の道に進むなら一緒に」

「看護師か……それもありかな」


 俺も有りだと思う。


 今までの旅でモリ君のサポートやドロシーちゃんの世話などエリちゃんが誰かの助けになるところを何度も見て来た。


 本人の意思も有るだろうが、選択肢の一つとして考えるのも良いと思う。

 

「……積もる話はあるだろうけど、後でやってくれねえかな」


 ここでカーターが死にそうな声をあげた。

 顔を見ると青ざめてげっそりとしている。


「吐きそうなんだけどまだか?」

「安心しろ。もうすぐ目的地だ」


 俺は箒……丸太を制御して、宮殿の庭部分に降り立った。


 全員で丸太から降りる。

 カーターだけはフラフラしていたが、他のメンツはやはりしっかりと立っていた。


 バケツを構えたレルム君の方へ視線を送る。


「レルム君、何か信号は?」

「建物の方から出てるみたいですよ」

「じゃあ踏み込むか」

 

 まずは2羽の鳥を空と宮殿ないそれぞれへ偵察に放つ。

 

 宮殿の外側には警護などはなし。


 内部は意外と複雑で全て回り切ることは出来ないが、今のところ哨戒している兵などは不在。


 邪魔が入らないうちに一気に調査を進めてしまおう。


 今の状況を全員に説明して、宮殿内に踏み込んだ。


「レルム君、信号は?」

「地下からですね」

 

 レルム君がバケツを構えながら言った。


 そのバケツからはわずかな音が鳴っている。


 ビーコンのようにはっきりとした信号ではないが、明らかに何かの信号が送信されているようだ。


「前と同じパターンなら地下に降りる階段があるはずだけど……」


 鳥を宮殿内へ飛ばして捜してはいるが、肝心の階段が見当たらない。


 どこかに隠されているのか?

 それともエレベーター的なものがあるのか?


「地下……があるんだよね」

「おそらくは。ただ、階段が見当たらない以上は他の手段で出入りする方法があるんだと思う」


 俺がそう説明すると、エリちゃんは床をタップダンスのようにリズム良くブーツの踵で踏み始めた。


 そのままステップを踏んで舞うように通路を歩き始める。


「あの、一体何を……」

「地下の場所を探してる……」


 そうやって踵を打ち付けながら歩くこと数分。


 突然何もない通路の真ん中で立ち止まった。


「ここだね。少しだけ跳ね返ってくる音が違う」


 そう言うと倒れ込むような姿勢を取った後に床へ耳を付けた。


「カーター、お前分かるか?」

「いや、全然。ちびっ子は分かるか?」

「僕にもさっぱり」


 俺にもさっぱり分からない。


 だが、エリちゃんの優れた聴覚がわずかな音の違いを聞き分けたというのならば、それを信じるしかない。


「みんな下がっていて。破片が飛び散るかもしれない」


 エリちゃんはそう言うと右手にスキルの青白い光を灯し始めた。


「みんな、エリちゃんの邪魔にならないように一時下がるぞ」

「はい!」


 俺達は距離を取って様子を見守る。


 エリちゃんが拳を床へ叩きつけると、轟音と共に床が一気に崩落した。


 砕け散った床材の破片が周囲に飛び散ったが、距離を取っていたので俺達の方までは飛んでこなかった。


 もうもうと舞い上がった砂埃をかきわけて進むと、通路には大穴が開いており、その下には人工の通路が広がっていた。


 床の断面はやはりあの偽物の町と同じで発泡スチロールのような見た目の材質に薄くテクスチャを被せているだけだ。


「多分、この中へ入っていけば良いと思う」


 エリちゃんはそう言うと荷物の中からロープを取り出して、近くの柱へと巻き付けた。


「みんな、注意して行こう」


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