Chapter 6 「魚人の発生場所を探せ」
フォルテ達にも参加してもらって現在の状況とやるべきことをまとめることにした。
俺は紙にメキシコ湾周辺の地図を簡単に書く。
ざっとした位置関係だけ分かれば良いので、細かい地形などは適当だ。
「まずキューバ。ここでは、あの地母神の遺跡から飛ばされたハセベさんとクロウさん達が魚人達と戦っていた。ここは一区切りしたんですよね」
キューバ島の位置に「全滅?」と書き込む。
「あの島に出現していた魚人達はだいたい倒したはずだ。ある日突然に出てこなくなった」
「疑問はそれです。メキシコ湾全域に魚人が出現しているならば他の地域から援軍が来ると思うんですけど、数が増えたりとかありました?」
これは俺が気付いた疑問だ。
「ないな。毎日それなりの数を倒していたら、ある日出現が止まったので、キューバ島周辺の魚人は狩り尽くしたのだと思っていたが」
「地域によって既定の出現数が決まっていて、ある程度倒すと中ボスが出現。そいつを倒すとその地域の魚人の出現が止まる……これっていかにもゲーム的だと思いませんか?」
「運営が仕掛けた罠だと?」
「罠じゃなくて、本来、俺達が参加させられようとしていたゲームなんだと思います。メキシコ湾とカリブ海に出現する魚人達から人々を守れ……という内容の」
俺達と一緒に地母神の遺跡から外へ出ようとしていたハセベさん達はキューバに飛ばされて、先にやってきていたクロウさん達と島の平和を守る戦いに参加させられた。
隣のドミニカでは第4チームの方々が弧軍奮闘していたところ、最終的にタウンティンの軍隊がやってきて魚人達とボスを倒した。
状況から推測するに、おそらく遺跡の探索部分が予選のようなもので、そこを勝ち残ったプレイヤー達が今度は魚人の群れと戦うというのが、本来予定されていたゲームだったのだろう。
それが
タウンティンのような強すぎる現地民。
次元の壁の崩壊。
本来いないはずの俺というイレギュラーが大暴れ。
などなどで予定されていたシナリオは無茶苦茶になり、修正も不可能となってゲームは放棄された。
ゲーム運営が用意した俺達とモンスターのバトルとかいうサービス終了済のコンテンツのために、地元住民が苦しめられるというのも理不尽な話だ。
早々に解決してしまいたい。
「話を続けます。おそらく運営が設定したゲームの内容は『自分達の担当されたエリアで敵を倒せ。全て倒したら次のエリアに移動してまた戦え。それらを繰り返すうちにラスボスが登場するので倒せ。それでラスボスを倒したらゲームクリア』……という内容ではないかと推測されます」
俺はカーターに視線を向けると、カーターは肯定の意味なのか無言で頷いた。
推論は概ね合っているようだ。
「なので、この町の近くにも、おそらく魚人の発生ポイントがあることは確実ですので、調査チームを結成してそこを突き止めて叩きます」
中ボスを倒せば魚人の新規発生は止まるはずだ。
既に出現してしまっている個体が自然繁殖したりしていたら、そちらの出現は止められないだろうが、発生件数は大幅減少するはずだ。
「魚人退治で小銭稼ぎをしようとしているフォルテさん達には申し訳ないですが」
「いや、僕達の生活よりも住民の安全の方が優先だろう。仕事はまた別のを探すさ」
「でもよ」
「僕達は別に何かを獲ったり作ったりしてるわけじゃなくて、誰かがコツコツ稼いだ利益から報酬を貰ってるんだ。だから、その人達が困っている時は助けないと巡り巡って自分達が困ることになる」
フォルテはさも当然のように住民が優先と言ってのけた。
本当にフォルテ達が善人で助かった。
人によっては損な生き方だと言われるかもしれないが、いつか報われて欲しいと思う。
「この地域の問題を解決させたら、どんどん他の地域へ移って中ボスを倒していくことになると思います。ただ情報が足りないので、あと何か所潰せば良いのかやら、ラスボス的なものが出現するならば、どこにどのような形で出現するのか? 現状だと何も分かりません」
「結論を出せないことで悩むよりも、まずは目の前の問題に集中した方が良いな。魚人どもの拠点を潰しているうちに、全貌も見えてくることだろう」
ハセベさんの意見は本当に参考になる。ありがたい。
「そういうことです。なので、まずは確実に出来る目の前の任務達成を目指しましょう」
状況整理は済んだ。
あとはどうやって動くかだ。
「チームを2つに分けたいと思います。召喚元を特定するチームと、町の防衛のために魚人と戦うチームです」
「では、私とウィリーさん、ガーネット君が対魚人チームに参加しよう。魚人達とは何度も戦っているので奴らの傾向については理解出来ている」
ハセベさんが挙手して立候補してくれた。
確かにその3人の経験に頼るのが良さそうだ。
「僕達もそちらに回ろう。最近は連日魚人達と戦っているので慣れている」
フォルテ達と合わせると7人。
これだけいれば大丈夫だとは思うが。
「では、召喚元の特定チームです。まずビーコンからの信号を受け取れるレルム君は必須です」
「頑張ります」
「じゃあうちも」
ドロシーちゃんが一緒に行くと宣言をした。
こうなるとなかなか諦めてはくれないが、果たしてどうしたものやら。
「それならばワシも行こう。子供達を護るのはワシの役目でもある」
タルタロスさんがドロシーちゃんに続いた。
前衛が欲しかったのでこれに異論はない。
「あとは魔術的な知識のあるカーター。後は鳥で状況確認できる俺が当たります。これで5人」
「やや前衛不足ではないか?」
「こちらは調査中心ですからね。なんとかしますよ」
召喚魔法陣の位置を特定して破壊するだけだ。
特に問題はないだろう。
「じゃあ俺とエリスも防衛チームの方に回りますね」
フォルテ達と合わせると9人。
町の防衛には十分だろう。
◆ ◆ ◆
「では再会を祝して乾杯!」
フォルテ達との再会を祝してという建前での食事会が始まった。
モリ君とエリちゃんはフォルテやマルスと同年代ということで以前と同じように何やら談笑している。
フォルテの仲間のレフティさんは、少し年上ということで、うちの大人組と一緒に酒を飲んで何やら語っている。
そして、俺はというと、フォルテの仲間のスーリアとガーネットちゃんと一緒に食事を摂っている。
一応ティーン女子の魔法使いという共通点のある繋がりになるのだろうか?
「実は……使い魔を覚えたので見て欲しいです」
「えっ、この短期間で?」
「基礎は覚えていたので」
スーリアがそう言って手を翳して何やら呪文を唱えると手の先から光り輝くカラスが出現した。
カラスは黒いものというイメージがあるので青白い光の粒子で構成されたカラスには違和感があるが、シルエットだけを見るならば確かにカラスだ。
「ガラスのカラス」というつまらないネタが脳内をよぎって喉元まできたが、なんとか声に出さず堪えた。
「今はまだこうやって手の平で踊らせるのが精一杯だけど、何かコツみたいなのはあります?」
「ええと……」
前にも言ったがあまり技術的な話をされても困る。
やはりここは心構えなどで誤魔化すのが良いだろう。
「決して無理はせず毎日コツコツと地道に続けることですね。ある日突然『なんだこんなことだったのか』と出来るようになるので」
「ありますね、そういうこと」
「急に出来るようになりますよね。わかります」
俺の実にフワっとしたアドバイスにスーリアとガーネットちゃんが同意した。
「ところでラヴィの恋の話に何か進展は?」
「ないです」
相手は誰なんだよという話は置いておき、とりあえずきっぱりと断言しておく。
「私の方も進展なしです」
「まあそんなに時間も経ってないしねぇ」
この会話に呼んでもいないガーネットちゃんが何故か食いついた。
「そこはグイグイ押すべきですよ!」
「グイグイとは?」
「寝間着で寝ているところに押しかけて、少し話がありますと」
「自重しろ中学生」
「それは良くない」
俺とスーリアがすかさず真顔で反論をする。
「そうは言っても一度の人生なんですよ。何も言わないで悔やむよりもちゃんとやるべきことはやっておきたいです」
「良いことを言ってる雰囲気出してるけど、やるなよ中学生」
本当に油断も隙もないとはこのことだ。
ウィリーさんも流されるようなことはないだろうが、自重はしてもらいたいところだ。
◆ ◆ ◆
翌日。
防衛チームを見送ってから、俺達、調査チームは中ボスと魚人の発生場所の調査を開始することにした。
まずは車の通信機で大まかな方向を絞り込み、あとはレルム君の簡易受信機で具体的な位置を絞り込む。
「魚人が暴れてそれなりに被害が出ているなら、現地民も近くの洞窟やら島やら……そういう場所に拠点がないかはとっくに調べた後のはずなんだ」
「なのに見つかっていない」
「だから、この世界の人達には簡単には見つからない仕掛けがあるのだと思う」
装甲車の中に入ってメニューを開いて電波スキャンを選択して実行する。
どうやら町中ではなく少し離れた場所のようだったので、少し移動することにする。
車を動かして信号を頼りにやってきたのは、町から少し離れた場所にある荒々しい岩場が連なるこの海岸だった。
ゴツゴツした岩場の先には比較的穏やかなメキシコ湾の海が広がっている。
ここまでの旅ではずっと荒れた太平洋の海ばかりを見て来たので、静かな海を見ると安心する。
町からは微妙に遠く、目印になりそうな岩などもない。
信号がなければ、ここが魚人の出現場所とは絶対に気付くことは出来なかっただろう。
もちろん、電波の受信を出来ない地元民に気付けるわけもない。
「位置的にはこの海岸の周辺なので、後はレルム君の能力を頼りに探していこう。行けるね」
「任せてください」
本当にこの調査はレルム君様様だ。
もしもこの受信機の能力がなければ手当たり次第に探し回らないといけないので、もっと時間がかかっていた。
とりあえず近くの岩壁の上に装甲車を停車させた。
この時代に通る車などないので、道のど真ん中に停車させていても駐車の取締などは来ないので安心だ。
全員で潮の香りを胸いっぱいに吸い込みながら、岩場の間を慎重に進んでいった。
足元には様々な形の磯溜まりが点在している。
透明な水たまりの中では小さなカニや小魚などが素早く陰に身を隠していた。
満潮時にはこの周辺は海中に没するのだろう。
そうすれば余計に捜索は困難になる。
干潮の間に全て片付けてしまいたい。
「レルム君、方向は?」
「まっすぐ海の方を向いていますね」
レルム君はバケツをまっすぐ海の方向へ向けると、バケツから一定間隔で音が鳴り始めた。
それなりの大きな音量なので、ある程度近くに電波の発信源が有ることは間違いないが、流石にその距離までは確認できない。
「これは間違いなく海中に沈められているな」
「潜ってみるか?」
タルタロスが海の方を見ながら言った。
「ワシはなんとなく素潜りが出来た記憶が有るのだが」
「記憶が有る?」
やはりタルタロスさんもオリジナルの記憶を取り戻しつつあるようだ。
本当に一体何が起こっているのか。
いや、今はそれはよい。
「いえ、具体的な位置を特定しないことには手当り次第だと時間がいくらあっても足りません」
「一度町まで戻って小さいボートを借りてくるか?」
カーターが親指を立てて遠くにうっすらと見える町の方を指した。
「車で行けば往復30分もかからないだろ。船は屋根に積めば運べるだろうし」
「まずは俺がレルム君と一緒に飛んで空から探してみるよ。ある程度の位置を絞り込んでから対策を考えよう」
「師匠ダメです」
俺が箒を取りに車へ戻る途中にレルム君が言った。
「両手でこのバケツとアンテナを持つと僕が師匠と一緒に箒に乗れません」
「そうか、両手が塞がるから掴まる方法がないのか」
若干のタイムロスではあるが、一度町に戻った方が結果として時間の短縮にはなりそうだ。
「場所は確認できたし、一度町に戻ってボートを借りてこよう」
◆ ◆ ◆
タイムロスにはなるが、一度フラニスの町に戻ってきた。
それから地元の漁師にかけあい、古い木造のボートを少しだけ貸してもらえるように交渉。
保証金を支払い、壊したら弁償することの念書を書いてようやく借りることが出来た。
「高く付いたな」
「まあ仕方ない。必要経費ってやつだ」
力自慢のタルタロスさんにボートを持ち上げてもらい、流木などを集めて作った簡易のキャリアを装甲車の屋根の上に作り、ボートを乗せてロープで固定する。
日本でもサーフボードなどをこうやって車の上に乗せている光景はたまに見かけるが、船を乗せているのを見るのは初めてだ。
「こうやっていると釣りの興味がどんどん湧いてくるな。海釣り行きてぇ」
カーターが車の上に乗せた船を見て感嘆の声を上げた。
「ゴムボートとかだと普通の乗用車でも出来そうなんだが」
「ゴムボートで海に出るな。死ぬぞ。金を払って船をチャーターしろ」
「そうか、チャーターか。その発想はなかった。日本に帰ったら調べてみよう」
本当にこいつは人生が楽しそうでよろしい。
「じゃあ海岸に戻るぞ。早く片付けないと」




