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収穫祭の魔女  作者: れいてんし
Episode 5. Yee-Tho-Rah
101/303

Chapter 10 「フィラデルフィア計画」

 町の中にはもう敵は出現しないようだった。


 日が暮れて夜になっても例の口だけお化けが出現する兆しはない。


 これはもう安全地帯が確保されたという認識で良いだろう。


「食料はあったか?」

「全然ねぇな。本当にこの町は人が住んでいたのか?」


 町の安全が確保されたということで、全員で手分けして食料などが残されていないか探し回ったのだが、缶詰、瓶詰の1つも出てこない。


 日用品も軒並みなくなっているし、本当にどこに消えたというのか。


「まあ、非常食や食材は買ってあるし食料に困ることはないんだけど」

「だが、どこに行ったというのだ。この町の住民とその生活用品は」

「住民は例の口だけお化けに食われたと仮定しても日用品までなくなるのはちょっと……」


 まあこの町で発生した事件はもう何年の前の話だ。

 考えたところで結果が出るような内容ではないし、分かったからどうなるものでもない。


「そう言えば、もう一か所調べるべき個所があったな」


 ハセベさんが思い出したように手を叩いた。


「砂漠の近くの駆逐艦とやらだ。町から近いならば一度見に行ってみよう。何か分かるかもしれない」

「そうだな。近いならせっかくだし見に行ってみよう。オレも横須賀の突堤で色々駆逐艦は見たことがあるけど、実際に間近で見たことはないからな」


 ウィリーさんが楽しみそうに言った。


「ウィリーさんは護衛艦の一般公開は行かなかったんですか?」

「そこまでミリタリー好きってわけじゃないからな。たまたま用事で横須賀に行った時にいいなぁって見るくらいで。ラヴィはミリタリー好きなのか?」

「日本海軍の船が女子になるブラウザゲーが流行ってたでしょ。あれの影響で国内の軍港巡りをしたくらいの浅いファンです」

「ラビさん、それは十分濃いファンです。普通はゲームで知ったからって全国巡りなんてしません。どこへ行ったんですか?」


 何故かモリ君が割り込んできて厳しい言葉を浴びせてきた。


「舞鶴、呉、佐世保、横須賀、大湊」


 そこまで変なところには行っていない。

 特に舞鶴と呉は兵庫西部からだと日帰り圏内だ。

 

「大湊ってどこでしたっけ?」

「青森」

「佐世保は?」

「長崎」

「それは立派なマニアです」


 それは流石に大げさではないだろうか?

 

 戦車なんて全部四角い箱にしか見えない浅いファンでも大洗であんこう鍋くらい食うし、豊橋で等身大パネルの撮影だってする。


 地元の市民プールや通勤途中の駅を撮影したことがある加古川の魔女の俺はルブリスに乗ってたぬきと戦えばいいの?

 

   ◆ ◆ ◆


 駆逐艦は町から20kmほどの場所に横倒しになって倒れていた。


 結局、駆逐艦の調査は俺とウィリーさん、ハセベさん、モリ君の4人だけでやってきた。


 エリちゃんとガーネットちゃんは興味なしということだった。

 あのホテルを綺麗にする方が重要らしい。

 

「艦名などは分かるかね?」

「だから浅いファンなんですって。それに異世界の船ならば、マニアでも全く知らない正体不明の船という可能性もあるわけで」

「まあ、それはそうだ」


 ただ、所属はアメリカの船で間違いないことは確かだ。

 半ば砂に埋まった部分からボロボロになった国旗が出てきたからだ。


 甲板の入り口からはボロボロになった縄梯子が地面まで延びていた。


 おそらく船員達はそこから脱出したのだろう。

 

 だが、流石にそれに捕まって登ろうという気にはならない。

 少し手で触っただけで縄がボロボロになって崩れていくからだ。

 

「3年この横転した状態で無事という実績があるから中に入った途端に崩壊しないことは確かだが」

「船の通路は縦向きで歩ける幅に作られているわけで、それが横倒しになるとまともに歩けないんじゃないですかね」


 ダメ元で使い魔モードで鳥を1羽を潜行させてみる。


「やっぱり相当狭いですね。移動はずっと匍匐前進みたいになるかと」

 

 通路は狭い上に何度も折れ曲がるので、なかなかうまく飛ばすことが出来ない。


 そのうち、操作を誤って鳥を壁に叩きつけてしまい、そのまま消えてしまった。


「最初の通路から2回くらい曲がったとことまでは飛ばせたんだけどなぁ。練習するか」

「やはり無理か」

「こっちの艦橋の方から入れないですか?」


 モリ君が駆逐艦の艦橋を指差した。


 相当丈夫に作られていたであろう艦橋のガラスも流石に船そのものが横倒しになった衝撃には耐えられなかったのだろう。

 

 粉々に砕けて窓枠だけが残っているが、その分だけ入り口は広いので、甲板側の入り口よりは入りやすそうである。


「ロープを張ってよじ登って行けば入れそうですよ。甲板のところの入り口は狭いし、多分こっちの方が楽そうです」

「なら、俺がロープをかけてくるよ」


 モリ君からロープを受け取って箒に乗って浮上。


 艦橋の中に入り、頑丈そうな柱にロープを通して、反対側を下へと降ろす。


(シールド)で足場の支えを作れるけどどうする?」

「お願いします」


 盾を形成して、エレベーターのように持ち上げる。


 さすがに盾単体で人間一人を十数メートルも持ち上げられるような馬力はないが、ロープをよじ登る助けくらいは出来る。


 モリ君を艦橋に入れた後は、ハセベさん、ウィリーさんの順で運ぶ。


「思ったより荒れていないですね。それにしても酷い熱気だ」

「砂漠のど真ん中にこんな鋼鉄の塊を放置すれば、それは焼けるよな」

「暑いし、さっさと捜索して、さっさと引き上げましょう」


 艦橋から通路に出て船室を目指す。


 船が横倒しになっているためか、天井は高いが狭い通路がそのまま、天井が低くてしゃがむか這うしか移動できない通路と化しているので、移動はかなり困難だ。


「油断すると頭をぶつけるので気を付けて」


 全員が匍匐前進で進んでいくが、これが地味に辛い。


 変な姿勢を強要されるので思っているよりも体力を使う。


 流石に体力の限界なので早めにギブアップ宣言を出すことにする。


「俺はこの入り口近くの船室や医務室なんかを調べてみるので、みんなは他のエリアの調査を任せた」

「はい。無理はしないでください」


 そうして見つけた船室の一室に入る。


「しかし本当に熱気が酷いな。ずっといたら熱中症になりそうだし、早く調べて出たい」


 船室を探すが、どの部屋も必要以上に荷物が少ない。


 この船は沈没したわけではなく、退避するのに時間的にな余裕があったので、持ち出せるものに関しては一通り持ち出した後なのだろう。


 医務室の医薬品棚は空っぽ。

 医薬品や包帯があれば欲しかったのだが残念だ。

 

 船長が付けてあるであろう航海日誌は見事に持ち去られていた。

 手掛かりは士官が付けていた別の日誌くらいだ。


 パラパラとめくってみて異変に気付いた。


「ギリシャ文字じゃないな。これ全部英語だ」


 役場で使われていた文字はギリシャ文字だったが、こちらは間違いなくアルファベットだ。

 筆記体での殴り書きなのでかなり辛くはあるが、読めないわけではない。


 斜め読みで概要だけ読んでみる。


 フィラデルフィア寄港中に駆逐艦で実験が行われること、

 実験が行われた日に突然砂漠の真ん中に投げ出されたこと、

 無線が通じないので乗員215名全員が近くの町に避難することが決まったと記載されている。


「うん、フィラデルフィア?」


 何かがおかしい。

 使われている文字も役場と違う上に、マインガルという名前ではなく実在のフィラデルフィアの名前が使用されている。


「駆逐艦と町は同じ世界から来たと思ったけど、もしかして別の世界なのか? 2つ以上の異世界が存在している?」


 いや違う。


 俺達が今いる世界。

 マインガルがあった世界。

 駆逐艦があった世界。

 口だけお化けの世界。

 

 これだけで4つの世界がここに集まっていた計算になる。


「これに俺達の日本を含めると5つの異なる世界が存在することになるのか? 流石におかしいだろ」


 船室から這い出ると、2人とも同じように通路に出てきたところだった。


「成果は?」

「見事に何もなかったな、全部綺麗に持ち出した後のようだ」

「まあ沈没じゃなくて時間があるし、下は地面で溺れたりこれ以上浸水することもなしで急ぐ必要はないですからね」

「俺は一応は缶詰と瓶詰を見つけました。これなんて凄いですよ。スパム缶」


 モリ君が自慢げにスパムの缶詰を見せびらかしてきた。

 明確に英語でスパムと書かれているので間違いない。


「美味いよなこれ。でも、よく残っていたなこんなの」

「食料庫に色々残っていましたよ。まあ野菜缶ばかりで肉の缶詰はこれ一つだけでした。多分見逃しだと思うんですけど」

「それで缶切りは? これ缶切りがないと開かないタイプの缶なんだけど」

「あっ」


 やはり最近の子は缶切りの存在を忘れがちなのか。

 野菜缶も残っているらしいし、あとで探しに行こう。


「オレは船倉を見に行ったんだが、未使用の砲弾がそのまま残されていた。流石に近付いただけで勝手に爆発したりする仕様ではないとは思いたいが」


 ウィリーさんが怖い話を始めた。


「安全設計はされていると思いますが、この砂漠の環境に長期間放置というのは想定外でしょうからね」

「不発弾みたいなものだよな。そのうち錆びてドカンと行きそうだ」


 こうやって捜索中に炸裂することはなさそうだが、そのうち不発弾として処理しないと大変なことになりそうだ。


「あと機関銃が残っていたけど武器として使うか? 必要なら取ってくるが」


 少し考えたが銃と弾を持ち運ぶとなるとかなりの重さだし、弾切れしたら補充できるポイントなどないので、後は邪魔になるだけだ。

 不要だろう。

 

「機関銃は重そうなので遠慮しておきます。タクティカルジャケットやアサルトナイフみたいなものはありませんでした?」

「なかったな。ヘルメットやピストルのような小さいものは置かれていた形跡はあったが残っていなかった。軽くて持ち出しやすいものは避難の時に全部運ばれたんじゃないか?」


 まあそんなものか。

 ただ、缶詰が残っているならまあセーフだ。


「こちらは下士官が付けていた日誌を見付けました。本当に日々の作業の日記みたいで内容は薄いですが」

「なるほど、ちょっと見せてくれ」


 ハセベさんに渡すとパラパラとページを捲り始めた。


「エルドリッジという船の名前を知ってるかね?」


 記憶を辿ってみると、名前だけは確かに聞いた覚えはある。

 ただ、どのような活躍をしたのかは記憶の彼方だ。


「この船の名前のようだ。何かヒントにでもなればと思ったのだが」

「聞いた覚えはあるので、思い出したら言います」


 頭を捻っているうちに急に思い出した。


 1943。

 フィラデルフィア。

 駆逐艦エルドリッジ。


 バラバラのキーワードがここで一気に繋がった。


「フィラデルフィア計画」

「なんだそれは?」

「都市伝説ですよ。1943年のこと。アメリカの駆逐艦がレーダーに掛からないように電磁バリアみたいなものを張ればいいという計画があり、フィラデルフィアの軍港でその実験が行われることになりました」


 俺は事件のあらすじを簡単に説明することにする。


「その実験中に関係した駆逐艦エルドリッジは次元の狭間に迷い込み、乗組員が壁にめり込んだり消滅したりしたという事件があってですね」

「待った、待ってくれ。それは現実に起こった出来事なのか? 映画のストーリーではなくて?」


 ハセベさんが真面目に尋ねてきたので俺は首を横に振った。

 

「だから都市伝説ですよ。アメリカ軍が極秘でステルス技術の研究開発をやっているらしいという噂に尾ひれが付きまくって発生した根も葉もないデタラメ」

「つまりデマカセか」

「まあ、デマカセじゃない証拠がここにあるわけですが」

 

 俺は駆逐艦の壁……じゃない天井をコンコンとノックするように叩いた。


「こいつは都市伝説が嘘じゃなく現実だった世界のフィラデルフィアから異世界転移してきた異世界駆逐艦です」

「信じられんな」

「でも現実なんです。そもそもこれから行こうとしているエリア51というのも都市伝説なわけで」


 こんな都市伝説が現実化するなんてまるで悪い夢のようだ。

 

「ちなみに、ネバダ州の砂漠にフィラデルフィアから駆逐艦が転移するというのは、映画フィラデルフィア・エクスペリメントでも採用されているバージョンですね」

「いや、待ってくれ」


 ハセベさんがからストップがかかった。


「今の話は全部創作だと思うんだが」

「はい。全部創作です。でも、全部現実に起こっていることだからおかしいんですこの世界」


 俺が神妙な顔をすると、ハセベさんとウィリーさんにも俺が冗談を言っているわけではないと伝わったようだ。


「まあ異世界モノって漫画やアニメでもみんなそうだから、そういうモンだと思っていたが。他に大変なこともあったし」


 ウィリーさんの感想も尤もだ。


 俺もただのゲームの世界、もしくはただの気のせいだと思っていた。

 だが、やっぱり何かがおかしい。

 

「まあ考えても答えなんて出せないし証明も出来ないので、ただの思考実験にしかならないですが」

「ああ、そうだな。私達は現実に出来ることをやるだけだ」

 

 本当にその通りだ。

 何の意味もない仮説よりも俺達にはこの駆逐艦の残骸から手に入った缶詰の中身の方が重要だ。


「じゃあ俺はもう少し食料庫を見てから脱出します」

「ああ分かった。無理はしないように」


 3人が入ってきた時と同じように脱出するのと入れ替わりで、俺は箒で飛行して食糧庫へと向かった。


 まず冷蔵庫を開けてみるが、こちらは流石に論外。

 

 電源喪失で保存状態を維持できなくなったからだろう。

 全ての食材だったもののが腐敗してただのシミと化している。

 

 棚に保管されていた缶詰や乾物類は横倒しになったことで大半が床……じゃない壁にぶちまけられていた。


 ただ、おそらく船がここに転移した直後にすぐに食べられるものは一通り持ち出されたのだろう。


 モリ君が言っていた通り、残っているのは野菜などの食材が中心だ。

 スパムを含む調理済みの料理やフルーツの缶詰などは残っていない。


 あるのはピクルスやほうれん草、トマト缶のような加工前提の缶詰や乾燥のパスタ、乾燥した調味料くらいだ。


 オリーブオイルもあったがこちらは酸化してものすごい色と臭いになっていた。これは流石に使えない。


 棚の形状からして、ワインの類も保管されていたのだろうが、やはりこちらも割れた瓶が残るのみで在庫は一本も残っていない。


「未開封のパスタは間違いなくいけるだろ。塩コショウは前から欲しかった奴だから沢山持っていきたい。トマト缶は多分何に調理しても美味い。ほうれん草は……馬にはダメなんだっけ?」


 欲しい物を詰め込んでいくと結構な量と重さになる。


 流石に欲張りすぎるのはダメだ。


 時間があるのに全部持ち出されなかったのはそういうことだろう。


「あとは缶切り。アルミ製の皿や食器プレートは色々と使えそうだ。大きめの鍋やお玉はホテルで見つけた奴があるからいいか」


 一通り鞄にねじ込んだところで、箒に跨った。

 姿勢を低くして、帽子を手で押さえて食料庫を脱出。


 そのまま通路を抜けて船の外に飛び出して馬車に戻る。


「これから俺は砂漠へ偵察に向かうけど、缶詰系はいくらあっても良いから、みんなは空いた時間を利用して少しでも多く持ち帰って欲しい。このまま砂漠で朽ちさせるには勿体ない」

「ああ分かった。使えそうなものは持ち出しておこう」


   ◆ ◆ ◆


 モリ君がニコニコ顔で持ち出したスパムの缶詰は、砂漠の高熱の中で放置されていたからか塩分が回りすぎて物凄い味になっていた。


 ただ、ドロシーが出してくれた水に漬け込んでしばらく塩抜きをすると、まあ食べられる味にはなった。

 ほうれん草缶の中身と野草をぶち込んで混ぜた後にトマト缶と一緒に炊き込み煮込みハンバーグっぽい料理へと調理する。


 付け合わせはパスタだ。


 スパムの味が濃いので特に味は付けずにトマトとスパムの塩分とうま味でそのまま煮込む。


「スパムの缶詰をそのままかじるよりはこっちの方が肉料理っぽいだろ」

「おおっ肉って感じですね」

「そんなに肉を食べたかったの?」

「やっぱり肉を食べないと力が。せっかく缶詰でも肉を食べられると思ったのに」

「男の子だねぇ」


 この身体になってから、それほど肉には執着がなくなってしまったが、気持ちは何となく分かる。


 普段から鳥を召喚しまくっているので、鶏肉に何か抵抗があるのもある。


「じゃあ今晩から砂漠の方へ調査に向かうことにします。エリア51の場所を見付けたら、その翌朝から一気に攻略開始しましょう」


 この後、エリア51に運営のものと思われる怪しい建造物を発見したのは捜索開始から2日目のことだった。


 

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