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パトリシアⅡ 8

「パトリシアお嬢様お目覚めになりましたか!」

「パトリシアお嬢様、お体は大丈夫ですか!」

ソフィアとベイリーが同時に声をかけた。


「ここは、どこ……?」

パトリシアお嬢様がゆっくりと目を擦りながら体を起こした。

「今ソフィアとベイリーの声が聞こえたけれど、どこにいるの? なんだか狭い場所だね。それに空に浮いてるみたい……」


パトリシアお嬢様は、まさか自分の体が小さくなっているなんて思ってもいないだろうから、元の大きさであると疑うことなく今の状況の考察をしているのだろう。だから、今自身が乗っている場所がソフィアの手のひらの上であるなんて思ってもいないだろうし、ぼんやりと見ている先にある背景のような白を基調とした景色が、清潔なメイド服であるなんて思ってもいないのだと思う。


パトリシアお嬢様は不安そうに辺りを見回していた。もう少し手の端にでも移動したら状況理解も進むのだろうけれど、今のパトリシアお嬢様には小柄なソフィアの手のひらの上すら落ちたら大怪我をしてしまいそうな高所になる。だから、怖くて手の中心から移動できないのだと思う。


小刻みに手のひらの上で震えているパトリシアお嬢様を早く安心させようと思って、声をかけた。

「パトリシアお嬢様、こちらです」


静かに手のひらの方に顔を動かして、パトリシアお嬢様に視線を近づけて優しく語りかけたつもりなのに、パトリシアお嬢様は、お化けでも見たみたいに、高い叫び声を上げた。

「な、何なの、あなた……!!!」


怯えたような声と視線をソフィアにぶつけた後、静かに、ジッとソフィアの方を見続けていた。

「ねえ、あなたソフィアなの……? ソフィアね、どう見ても。え、でも、じゃあ、なんで……? ソフィアはわたしの鼻先くらいの背丈の小柄な子だったはずだよね……?」


頭の中にはてなマークをたくさん浮かべて、一人で必死に状況を整理しているパトリシアお嬢様の姿が、しっかりとわかった。手のひらに収まるパトリシアお嬢様の姿はソフィアの方からは全てわかってしまって、なんだか申し訳なくなってしまう。説明をしてしまいたいけれど、まずはパトリシアお嬢様が状況の把握をしなければ、説明をしても余計に混乱させてしまうかもしれない。


「ねえ、ソフィア、ベイリーはどこなの? さっき、わたしベイリーといろいろあってから、それで気を失っちゃのだけれど……」

キスをしていた、とは言葉にしていなかった。パトリシアお嬢様はソフィアにキスが見られたことには気づいていないらしい。

「ベイリーもわたしと一緒に小さくなってしまったのだったら、きっと困っているはずだから早く見つけてあげないと……!」


パトリシアお嬢様はこんな自分の大ピンチのときにも使用人の心配をしてあげるなんて、相変わらず優しいな、と思う。とはいえ、その探してあげないいけない相手はパトリシアお嬢様の真後ろで不安そうな瞳で見下ろしているのだけれど。


「あの、パトリシアお嬢様……」

「わっ、またベイリーの声がした!」


驚いてパトリシアお嬢様がキョロキョロと先ほどと同じように周囲を見回してから、「あぁ……」と納得したように小さな声をだしてから、ゆっくりと上を見ていた。ようやくすぐ近くにベイリーがいたことに気がついたらしい。


「ベイリー、そこにいたのね。……つまり、わたしだけ小さくなってしまったってこと……」

普段元気なパトリシアお嬢様が珍しく落胆していた。当たり前だ。訳もわからず小さくなってしまい、使用人2人に見下ろされてしまっているのだから。それでも、パトリシアお嬢様は着丈に上を見て、ニッコリと微笑んだ。


「ねえ、物置からドールハウスを持ってきてもらっても良いかな?」

「え? 良いですけど……。まさか、住むんですか?」

「せっかくこの大きさになったんだもの! ドールハウスに住んでみたいと思わない? 内装も可愛いし、最高じゃない!」


一瞬で気持ちを前向きにさせるパトリシアお嬢様は凄いけれど、次期当主をそんな小さな場所に住まわせても良いのだろうか。

「あの、パトリシアお嬢様……。さすがにドールハウスはお嬢様に似つかわしくないのでは……」

「何言ってるのよ? この大きさよ? ドールハウスはピッタリじゃない!」


楽しそうに言うパトリシアお嬢様の気分を害するわけにもいかず、ソフィアは渋々納得した。

「パトリシアお嬢様がそう言うのなら……」

急いでドールハウスを取ってこようとしたけれど、その前にベイリーが動き出した。


「わ、わたしが急いで取ってきますから!」

「よろしくねー」とパトリシアお嬢様は呑気に言っていた。


(パトリシアお嬢様はすごいですね……。わたしならこんな状況になってすぐに前向きに考えるなんて絶対できないと思います……)

ソフィアは、手のひらの上で微笑んでいるパトリシアお嬢様を見ながらそんなことを考えていた。

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