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パトリシアⅡ 1

〜登場人物〜

ソフィア……真面目なメイド

ベイリー……魔女メイド

パトリシア……お人好しの令嬢

数年前の話。


「レジーナお姉様、エミリア、わたくし次はチーズケーキを食べたいですわ!」

楽しそうにはしゃぎ回るアリシアお嬢様を見ながら、ソフィアはベイリーとパトリシアお嬢様と共にのんびりと後をついて行っていた。


今日は6人でお屋敷の近くで開催されていたスイーツ展に来ていた。国中のスイーツ職人たちが集まってお菓子を作ってくれるイベントの日。


ベイリーは瀕死になっていたところを助けてもらってからは、魔女であることを隠しながら、パトリシアお嬢様の専属メイド仲間として働いている。魔女とともにメイドとして働くなんて体験初めてだから、初めはソフィアも少し緊張していたけれど、今ではすっかり打ち解けていた。まるで、昔からの友達みたいに、お互い仲良くメイド仕事をこなしていた。


長女であり、時期当主のパトリシアお嬢様の専属メイドにはソフィアとベイリーの2人がいて、次女のレジーナお嬢様の専属メイドにはエミリアがいた。三女のアリシアお嬢様に専属のメイドがいないのは、まだ幼いからだ。12歳になってから、自由に屋敷のメイドの中から選ぶことができる。それまでは、ソフィアとベイリーとエミリアが3人一緒に面倒を見ていた。


「アリシアお嬢様もすっかり大きくなられましたね」

ソフィアが優しい目つきで、はしゃぐアリシアお嬢様を見つめていた。


この3姉妹は跡取り争いとか、そういう不仲をもってきそうなものとは無縁だった。2人の妹達が完全にパトリシアお嬢様のことを慕っていたし、メイド衆もみんなパトリシアお嬢様のことを慕っていたのだから、トラブルが起きる土壌がないのだ。誰からも愛されるパトリシアお嬢様の一番傍で働けることがソフィアの誇りだった。


「パトリシアお嬢様はお腹空きませんか? よかったら買ってきますよ」

ベイリーがパトリシアお嬢様に提案をした。


「そうね、ソフィアとベイリーは何が食べたい?」

「いえ、私たちは……」

遠慮がちなソフィアと違い、ベイリーは優しそうな糸目の穏やかな表情のまま、右手を大きく上に掲げて挙手する。


「わたしはチョコレートタルトを食べてみたいです!」

「ちょっと、ベイリーさん、(はした)ないですから! お菓子のリクエストなんてしないでください!」

「でも、わたしお腹空いちゃったわ」

拗ねたような声で言うベイリーを見て、パトリシアお嬢様が笑っていた。


「タルトね。買ってきてあげる」

パトリシアお嬢様が人混みの中を進んで自分で買いに行きそうになったから、ソフィアは手首を持って、慌てて引き止めた。


「パトリシアお嬢様、私が行きますから! ベイリーさんはパトリシアお嬢様から離れないようにしておいてくださいね!」

人混みの中を小さな体をスイスイと進ませながら、ソフィアがタルトの専門店まで向かっていた。


こんな風に普段からのんびりとしたほのぼのとした時間を過ごしていた。間違いなく姉妹もメイドも平和な日々を送っていた。だから、このバランスを本当は崩すわけにいかないことは知っているつもりだった。

「けれど、気持ちはどんどん大きくなっていきますね……」


遠くの方でベイリーに手を引かれて、座る場所を探しているパトリシアお嬢様の姿が目に入った。自分からベイリーに指示をしたにも関わらず、手を繋ぐ2人を見て嫉妬してしまうなんて、自分勝手であることはわかっていた。それでも芽生えた気持ちに嘘はつけない。一メイドである自分がそんな感情を抱いているなんて、本当はいけないこと。


(私はパトリシアお嬢様に恋をしてしまっていますから……)

心の中でソフィアが困ったように呟いたのだった。

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