ベイリーとソフィアの隠しごと 2
「カロリーナちゃんにはとても可哀想なことをしたのはわかっているわ。でも、元の身長の方のわたしを見られてしまったから、忘れさせるのはこうするしかなかったのよ」
「ならさっさと真相を話せばいいのですよ……。伝えてしまえば忘れさせる必要なんてなくなるのですから」
ソフィアが苛立った声で伝える。
「それは無理よ。伝えたらみんな混乱してしまうわ。今はパトリシアお嬢様のために、みんなには少しだけ我慢をしてもらわないといけないのよ」
ベイリーが小さく息を吐いてから、真剣な口調で言う。
「わたしはパトリシアお嬢様を見つけるためならなんだってするつもりだから。それはあなただってわかってるでしょ?」
「その言い方だと、まるでカロリーナさんが大怪我をしたのは、パトリシアお嬢様が悪いみたいですね?」
ソフィアがさらに苛立った声を出すけれど、ベイリーは冷静に答える。
「まさか。悪いのはカロリーナちゃんを踏み潰したわたしよ。あと、パトリシアお嬢様をどこかに隠してしまった意地悪メイドと」
ベイリーはどこか含みのありそうな視線でソフィアのことを見つめた。
「ねえ、ソフィア。あなたはパトリシアお嬢様を連れ攫った意地悪メイドに心当たりはないのかしら?」
「ある訳ないじゃないですか」
努めて冷静に答えたけれど、ソフィアは内心言い淀んでいた。
多分、ベイリーは99%くらいの真実には辿り着いている。それでも、まだ100%の確信がないから、何もしないだけ。普段の糸目とは違う、ジッと見開いた大きな瞳でソフィアのことを見つめ続けているベイリーから、ソフィアがサッと目を逸らした。見続けていると、心の中を見透かされてしまいそうな圧がある。
「なんのつもりですか? 人の心を読む魔法でも使える訳ですか?」
「さあ、どうかしら? 使えると思う?」
ベイリーは、はぐらかすようにまた糸目で微笑んだ。空気の流れる音でも聞こえてきそうなくらいの沈黙が、ソフィアの部屋の中に訪れている。ソフィアが何も言おうとしないのを確認してから、ベイリーは小さくため息を吐いた。
「で、これで話は終わりかしら? わたし、もうこれ以上カロリーナちゃんのことを追求されても何も答えられることはないけれど?」
「もういいですよ。あなたの顔なんてしばらくみたくありませんから、さっさと帰ってください……」
「ええ、そうするわ」
ベイリーが部屋から出て行ったのを確認してから、ソフィアはポケットの中を覗いた。小さなソフィアからみても、とても小さな、きっとアリシアお嬢様がくしゃみをしただけで吹き飛んでしまうような小さなパトリシアお嬢様が怒ったようにソフィアを見上げている。
「ねえ、ソフィア。わたしとベイリーと、そしてあなたソフィアのせいでカロリーナちゃんが酷い目に遭っちゃったよ? もうベイリーに教えてあげなよ。わたしはここにいるって!」
「嫌……、です」
「これは命令よ。早く聞きなさい!」
「パトリシアお嬢様からの命令でも、聞けないです……」
ソフィアが呼吸を荒げながら答えた。
パトリシアお嬢様の命令は絶対だ。そんなことはよく知っている。けれど、この命令だけは聞けない。ベイリーにパトリシアお嬢様の場所なんて絶対に教えたくはない。例えカロリーナが酷い目に遭ったことが可哀想だとしても、それでもなお、ベイリーからパトリシアお嬢様のことは遠ざけたかった。