頼もしい協力者 3
わたしたちは廊下を見回した後、屋敷の外にある庭園にやってきた。椅子と丸テーブルが置いてあり、アリシアお嬢様はそこに座る。2人で向かい合って座れるようになっているけれど、わたしはテーブルの上に立っているし、エミリアは数歩離れたところで立っているから、正しい椅子とテーブルの使い方をしているのはアリシアお嬢様一人だけだった。
"屋敷内には怪しい人はいませんでしたわね"
わたしは一応頷いたけれど、正直アリシアお嬢様の意見に素直には賛同できなかった。怪しい人がいなかったとも言えるし、全員怪しかったとも言える。普段は無害を装っているけれど、本当は裏で小さなメイドを連れてきているという可能性だってあるのだから、見た目だけで判断することは難しかった。
"まだ回れていないお部屋もそこそこありますわ。ごめんですの……"
アリシアお嬢様はエミリアには聞こえない声量で囁く。
"お父様とお母様の部屋は入るのは難しいですわ。ほとんどノーチャンスですの。パトリシアお姉様の昔使っていた部屋はもうチラッと見ましたの。でも、少し見ただけでわかるくらい、何もありませんでしたわ"
そう言ってから、アリシアお嬢様はバスケットについている星のシールを撫でた。
"後は、リスクはありますが、レジーナお姉様のお部屋は何か手がかりが見つかるかもしれませんわ"
わたしのことをバスタブに投げ入れたレジーナお嬢様に近づくのはたしかにリスクはありそうだった。不安気に見上げていると、アリシアお嬢様が続けた。
"かなりリスクがありますので、正直おすすめはできませんわ。ただ、小さなカロリーナなら、うまく忍び込めると思いますの。わたくしがレジーナお姉様にお話があるふりをして外からドアを開けてもらいますの。その間に忍び込んで、怪しそうなものを探したらいいですわ。ただ、バレないように入るとなると、気づかれずに踏み潰されてしまうリスクや、上から座られてしまうリスクもありますの。それでも確認したいのなら、カロリーナを中に入れるために協力致しますわ"
昨日リオナと状況整理をしているときに、わたしが一番怪しんでいたのがレジーナお嬢様だったから、部屋に入るなんて元に戻るヒントを得るための大チャンスに違いない。それならリスクがあっても忍び込むべきだ。どうせどこかでリスクのある選択をしなければ、わたしは元に戻れないわけだし。アリシアお嬢様が協力してくれるのならとても頼もしいと思い、わたしは大きく頷いた。
"くれぐれも無理だけはしないで欲しいですの……"
不安そうな顔でバスケットの中を覗いていたアリシアお嬢様は、一転して元気な声を出した。
「ねえ、カロリーナ。バスケットの端に入っている箱を開けてほしいですの」
アリシアお嬢様は軽い調子で言うけれど、特大の衣装ケースのような大きさの箱を開けるのは難しかった。思いっきり力を入れて蓋を持ち上げようとしたけれど、ダメだった。全然持ち上がる気配もない。
「ごめんですわ。またカロリーナに意地悪をしてしまいましたの。一生懸命重たい蓋を開けようとしてくれている可愛いカロリーナの姿が見たくて、つい頼んでしまいましたわ。わたくしが開けますの」
時々サディスティックな考えをしているアリシアお嬢様を見上げて、わたしは苦笑いをしてしまった。
結局、蓋はアリシアお嬢様が簡単に片手で外してくれた。箱の中には美味しそうなクッキーがいくつも入っている。
「美味しそう……」
思わず涎が垂れてしまいそうな美味しそうなクッキーだけど、大きさはやっぱりクッションみたいに大きい。一つ一つに重みがあったから、アリシアお嬢様がいつものようにわたしの顔の前に持ってきて食べさせてくれる。
硬いクッキーを食べるのに時間がかかるけれど、アリシアお嬢様はのんびりと待ってくれていた。
"これからレジーナお嬢様のお部屋調査という大変な思いをしなければなりませんの。いっぱい食べて、しっかりと栄養をつけてほしいですわ"
小さな声で囁いた後、アリシアお嬢様はエミリアの方に、わたしに向けるよりもほんのり感情の篭っていない声で伝えた。
「エミリアも食べていいですわ」
一つ一つが持てないくらい重たいクッキーの入っている大きな箱も、アリシアお嬢様にとっては手のひらサイズの小さな箱。片手で縁を持って、エミリアの方に向けた。
「いえ、今は仕事中ですので……」
「頭の固いメイドは嫌いだって言ってますの。わたくしが食べなさいと言ってるのだから、ちゃんと口にしないとダメですの」
エミリアは悩んだ後、ほんの少しだけ微笑んだ。少しだけとはいえ、普段のお面みたいなポーカーフェイスが崩れたのは、珍しかった。
「では、お言葉に甘えて。頂きます」
また普段のクールな表情に戻してからメトロノームみたいに一定のテンポでクッキーをサクサクと咀嚼していた。普段よりもほんの少しだけ話しやすそうなエミリアにアリシアお嬢様が尋ねる。




