リティシア家のお嬢様 5
「あの……。ソフィアさんは当時もわたしと同じ大きさでしたよね……?」
「ええ、そりゃ」とソフィアが何事もないように答える。
「でも、わたしあのときは小さくなかったですよ……」
「私も小さくなかったですからね」
「ソフィアさんも誰かに小さくされたんですか……?」
一瞬逡巡してから、小さな声で「ええ」と頷いた。
「それって、誰に……?」
恐る恐る尋ねたけど、ソフィアは首を傾げた。
「残念ながら、覚えていないのですよね」
「そうですか……」
「わたしもすぐに眠ってしまいましたから……」
みんな小さくされる時には眠らされているから、詳しいことはわからないようだ。ソフィアが知っていたら何か前に進めそうだったのに。残念ながら、わたしたちと同じで詳しくは知らないらしい。
「みんな知らないなんて……。どうやって戻ったら良いんですかね……」
落胆しているわたしのことを見て、ソフィアは穏やかに微笑んだ。。
「カロリーナさんは、今の大きさでは不満なのですか?」
「そりゃ……」
大きな不満はないけれど、やっぱり今の大きさには不便がある。少なくとも同じ部屋に意地悪巨大メイドが出入りしている以上、身の危険は感じるわけだし。
「まあ、そうですよね。わたしも、戻る方法は探してるのですが、なかなかうまくいかなくて」
ソフィアも先に戻るために調査はしていたらしい。つまり、ソフィアも同じ悩みを共有できる仲間ということか。とりあえず、仲間ができて安心はしたのだけれど、それと同時に大きく不安にもなった。
「ソフィアさんは結構前から戻る方法を探しているのに、全然見つからないってことですよね……?」
「そうですね、困ったものです」
その表情はあまり困っていなさそうな、優しい微笑みだった。
「ソフィアさんはいつ頃からこの大きさに?」
「さあ、いつ頃だったか……。ただ、結構前ですよ。もうすっかりこの大きさにも慣れましたし」
「わたしも戻るまでにこの大きさに慣れるんですかね」
「どうですかね。わかりませんが、慣れるといいですね」
随分と呑気なソフィアの様子にため息をついた。ソフィアはしっかりものだから仲間になってくれたらとても頼もしいと思ったけれど、案外この重大な問題に対しては無関心なのかもしれない。
「では、そろそろわたしは部屋に戻りますね」
立ち上がって、部屋から出ていくソフィアに軽く手を振った。元に戻るためのヒントは残念ながらまったく得られなかった。ただ、わたしがソフィアやアリシアお嬢様と会っていたという、思いもよらない有益な情報を手に入れてしまった。
アリシアお嬢様には上手くいけば、間接的にわたしが元々アリシアお嬢様と同じサイズだったことを伝えられるかもしれない。希望が見えてきて、元気になってきた。
「よしっ! アリシアお嬢様にわたしのことを思い出させるぞー!」
一人部屋の中で拳を突き上げたのだった。
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カロリーナとの話を終えて、ソフィアは自室に戻った。そして、ポケットの中から聞こえてくる、小さな小さな、とても大切な声に耳を傾けた。
「ねえ、カロリーナちゃんに教えてあげなくて良かったの?」
ソフィアがソッとポケットの中を覗き込みながら、優しい声を出した。
「申し訳ございません。ただ、私はまだ会ったばかりのカロリーナさんのことを深くは信用することができていませんから……。そんな曖昧な回答でもよろしいでしょうか?」
「ソフィアらしくて、わたしはその回答嫌いじゃないよ」
ポケットの中の小さな彼女は相変わらず優しい笑みを浮かべていた。
背丈が75ミリにも満たないソフィアのメイド服に収まってしまうような小さな彼女。アリシアお嬢様のくしゃみにすら吹き飛ばされかねない小さな彼女。ソフィアのポケットの中にいなければ、エミリアが歩くだけで、振動で体を宙に浮かされてしまう彼女。
それでも、彼女の表情を見逃すことは絶対にない。どれだけ小さくったって、大切な彼女のことなら些細な変化にだって気づける自信があった。
彼女をこんなにも小さくしてしまったのは、他でもないソフィアだった。だけど、そんなこと、まだカロリーナには言えない。ソフィアの口から伝えるには、まだどのくらい彼女のことを信用しても良いのかは分からなかった。