リティシア家のお嬢様 4
「記憶は怪しいですけど、かなり昔にわたしのうちで開催されたパーティで、パトリシアっていう人とは会ってますけど、その人のことで良いんですか?」
わたしの家では定期的にパーティーが開かれていて、近隣の名家の人たちを呼んで食事をしたり、ダンスを踊ったりするイベントがあった。パーティーという楽しそうな響きは名ばかりで、目的はあくまでも大人たちがいかに自分の家を優位にしていくかを水面化で探り合うためのもので、幼いわたしは蚊帳の外だった。まあ、成長しても政略結婚が嫌で家を飛び出すような子だから、幼かったことは関係ないかもしれないけれど。
お姉様やお兄様たちは自分の将来のために積極的に他家の人たちと交流していたけれど、末っ子だし、そもそも家の将来のことになんて興味のないわたしは立食パーティーが終わった後のダンスパーティーや交流会はとても退屈だった(立食パーティーだけは普段とは違って偏った食事をしても誰にも怒られないから好きだったけど)。
「カロリーナさんの仰っているパトリシアさんが、パーティーの日に一緒に森の方に遊びにいったパトリシアお嬢様と同一人物なら、わたしが尋ねたかったパトリシアと同一人物ですよ」
間違いなかった。わたしが知っているパトリシアという人物は、わたしのことを森に連れ出してくれた。こちらはわたし1人、そして向こうはパトリシアを含めて3人。当時のわたしからはとてもお姉さんに見えたパトリシアと、わたしと同じくらいの少女と、もう一人は2人の面倒を見ているメイドと名乗っていた、パトリシアと同じ歳くらいのお姉さん。でも、きっと当時のわたしがまだ4歳か5歳くらいだったからお姉さんに見えただけで、パトリシアとメイドも多分10歳前後くらいだったと思う。
「わたしたちの知ってるパトリシアって人が同じ人だというのは分かりますけど、どうしてソフィアさんがその話を……? さっきからわたしのこといっぱい知ってて怖いんですけど……?」
まさか、わたしを小さくした魔女の正体はソフィアなのでは、と頭によぎった。ソフィアはそんなわたしの考えなんて知らず、無邪気な笑顔で微笑んだ。
「どうしても何も、一緒にいたじゃないですか!」
「へ?」
「覚えてませんか? あの日、わたしはメイドとして一緒にいましたのに」
「え……?」
わたしの頭の中にポンポンとはてなマークが増えていく。
「パトリシアお嬢様と、アリシアお嬢様と、そしてわたし。でも、多分あの日名乗ったのはパトリシアお嬢様だけだった気がします」
「???」
わたしの脳内が混乱する。パトリシアお嬢様という人物とソフィアと並んで出てきたアリシアお嬢様の名前。
「すいません、ちょっと状況が……。わたしとソフィアや、アリシアお嬢様はすでに出会っていたということですか?」
ソフィアがゆっくりと頷いた。あの日、退屈なパーティー会場で、ソッと手を伸ばしてきてくれたパトリシアというお姉さん。彼女の周りにいた2人の女の子がアリシアお嬢様とソフィアだったということらしい。
わたしは屋敷から少し離れた(と言っても子どもの足で20分ほどで着くから、そこまで離れていなかったのかも)森の中で4人で一緒に遊んだ。その子たちの顔は正直そこまで覚えていないけれど、森に遊びに行った記憶はしっかりと覚えている。追いかけっこをしたり、お花で冠を作ったり、普段屋敷の中に籠らされているわたしがほとんど見ない綺麗な景色をたくさん見せてもらった。
特に、同じ年くらいの子と遊ぶ経験がほとんどなかったから、アリシアお嬢様らしき子と遊んだ時のことは、今まで何度も何度も夢に出てきた。フワフワとした綺麗なブロンズの髪が綺麗だって褒めたら、アリシアお嬢様と思われる少女が、わたしの真っ黒の髪を撫でてくれて、サラサラだといって褒めてくれた。幼少期のわたしにとっての、数少ない楽しい思い出として残っている。たった数時間だけど、わたしの孤独を癒してくれた大切な子たち。
その子の正体がアリシアお嬢様だとしたら、再開できたことがどれだけ嬉しいことだろうか。贅沢を言えば、こんな小さな大きさじゃなくて、元の大きさで再会したかったのだけれど。
「でもわたし、まったく気づきませんでしたよ……? あの子がアリシアお嬢様だったらきっとすぐに気づくはずじゃ……」
「そりゃ、今のあなたから見てアリシアお嬢様はとても巨大なわけで、当時と同じ視点から顔の確認はできませんから、別人に見えてしまうのも無理はないと思いますよ。それに、5歳くらいの時の見た目と、今の見た目では違う部分も多いと思いますから。わたしも当時と違ってメガネもしてますし、髪型も変えてますからわからなかったのかと」
「そっか……」とわたしは納得した。顔は覚えていないけれど、一緒にいたメイドの髪色が桃みたいに綺麗なピンク色だったことはほんのり思い出せた。納得してから、わたしは目の前のソフィアを見て、疑問に思う。